「“こちら1−6、異常ありません”」
「“5−12も同様です”」
「そうか、引き続き頼むで」
『“了解”』

はやては衛星軌道上で待機中であった1個中隊のうち5個分隊を班単位に分けローテーションで首都の見回りをさせていた。

「ごめんな、こんなこともやらせてしもうて」
「“いえ、これもお仕事ですから”」
「“それに待機中は観光とかもできるしな”」
「先日も被害者が出てしもうたからな、早く見つけんと」
「“こちら2−8!、ターゲットを発見!、追跡中”」


第10話
堕天使


「よし!、すぐそっちに人を送る。見失わないようにな」
「“了解!”」

はやてが申請した分隊の捜査協力は許可が下りたが、逮捕権。交戦権は許可が下りなかった。
よって犯人を見つけても追跡のみで正当防衛以外の武器の使用も許されていない。

「各班、見失わないように気をつけろよ」
『“了解”』

建物の屋根を伝い跳びする隊員達。


「それで、また被害者が出たんですか?」
「いいや、犯行間際で気づかれて今再開発区画方面へ逃走中だ」

追跡班に追いつくべく夜空を飛ぶストライク分隊。

「良かったね、これで犯人が捕まればプレシアちゃんの手がかりがつかめるかもしれないね」
「うっ、うん………」

しかしアリシアは言いようが無い不安にかられていた。

明かりが疎らになり、瓦礫と化したビル群が横たわる地区へと入った。
首都西外延部にある再開発予定地区だ。

「いたぞ!」

前方には追跡班の姿が

「おっ、やっと来たか」
「ここからは俺達に任せてもらおう。各班は集合し周囲を包囲。再逃走に備えてくれ」
「了解」
「アリシア、電気ショックで生け捕りにするぞ、だいちとことはは中距離後方支援、みんな行くぞ!」
『はい!』


「ストライク分隊、追跡隊と合流しました」
「戦力は十分や、さて、その素顔見せてもらうで」

隊舎に待機していたメンバーも現場のリアルタイム通信映像に注目する。


「?」


黒ずくめの女が後ろを見ると、しつこいまでに追いかけてきた追跡隊が引いていく。
一瞬疑問に思うも構わずに逃走を続ける。

「!!」

真上から鋭いぐらいの風の流れ、身体をそらした瞬間、電撃を帯びたアックスが掠る。

「ハッ!」

同時、別方向から同じく電撃を帯びたダークスラッシュが襲い掛かる。

「くっ!」

避けきれないと悟ったのか、振り下ろされる刃を素手で掴み、電撃が体中を貫き意識が飛びそうになる。

「うおぉぉぉぉおお!!」
「わっ!」

手が切れるのも構わず、女はアルトごとダークスラッシュを投げ飛ばした。

「ブレイブハート!」
「フラガラック!」
(Accel Shooter!)
(Stinger Blade!)
『シュート!』

数個のアクセルシューターとスティンガーブレイドが女を襲う。
しかし、女は大剣を横一線、全てを消し去る。

「対魔力!?」
「それなら!」
(Lance Form!)

アルヴァレスタをランスフォームにしアリシアは女に突進して行く。

「はっ!」

カキン!、と魔力刃と金属のぶつかり合う音が響く、ランスの矛先が大剣の腹で防がれている。
しかし、アリシアはすかさず身を振り、遠心力の力でランスの柄をぶつけにかかった。
しかし相手もダテではない、楯代わりに使った大剣を半回転し柄を弾き、
アリシアに強烈なハイキックを食らわせるが、アリシアは右腕で防いだ。
この間、わずか数秒。

「くっ!、やるわね」

互いに扱いにくい武器なのに自分の一部のように使っている。
アリシアは相手の実力を再認識した。
同時、ある不安が鎌首を擡げようとしている。

「隊長!、こいつできるよ」
「だいち、ことは、お前等は待機だ!。アリシア、近接戦で一気に行くぞ!」
「はい!」

アルトとアリシアはデバイスを構え直しかかってゆく。
親娘だからだろうか、それとも訓練の賜物だろうか、
互いに繰り出す攻撃を邪魔することなく一糸乱れぬ攻撃で相手に迫る。

「フッ」

しかし相手はそんな二人の攻撃を難なくかわし、斬撃を繰り出す。

「すっ、すごい」

攻撃しては守りそして攻撃、繰り替えすシーソーゲームにだいちとことはは息を呑む。
しかしアリシアの先ほど感じた不安が剣戟を繰り返すたび鎌首を擡げ、その腕を鈍らせてゆく。

「アリシア!」
「父さん!、剣を斬って!!」
「はぁっ!」

ダークスラッシュの斜め一線、手ごたえを感じ二人は一旦離れる。

「どうしたんだよ一体!?」
「だって…だって……あの剣筋は……」

不安がどんどん膨れ上がってゆく。
女のフードに切れ目が入り、そして大剣の刃が真っ二つに折れた。

「……やはり少し混ぜ合わせただけでは能力は続かず強度も上がらないか。シェドザード」
(Purge is Blade & Exterior,SiedzardForm Rebuilding ―ブレイドと外装をパージ、シェドザードフォーム再構築―)

聞いた事のある声と無機質なコマンド音声。
大剣の刃と鍔部分の外装が外れ、新たに魔力刃の通った大剣へと姿を買える。
それは誰もが見覚えがあるデバイス、シェドザード。
そして女はフードを取りその素顔をさらす。

『!!!』

その場にいる者、モニターを見ている者、皆驚愕した。

「プレ…シア……」

黒味を帯びた赤い髪に生気の無いくすんだ赤い瞳。
その瞳がこちらを睨む。
少々容姿は変わったもののそれは紛れも無くプレシアだった。

「そ…んな……」
「ちくしょう……」

あれほど無事を望んでいた二人には再会の喜びどころか、安堵感も無い。
連続殺人犯の犯人という驚きでもない。
プレシアの変貌の意味を理解し、絶望感が支配している。

「プレシア、どうして……」
(Ma'am One's senses!!, Comeing!!―マム、気をしっかり!!、来ます!!―)
「はっ!」

プレシアの突撃、アリシアは腕でガードするも蹴りが炸裂、耐え切れずにビルに衝突、轟音と共に粉塵があがる。

「げほっ!、げほっ!!」
(Comeing!! ―来ます!!―)

シェドザードを構え再び突撃するプレシア。
アリシアは無意識に近い感覚で防ぎそのまま押し返す。

「プレシア、どうして、どうしてなの!!」
(Why Siedzard!, Straighten out Master Mistakes Your Place!
―どういうことですシェドザード!、主の間違いを正すのもあなたの役目のはず!―)
「(………)」

アリシアとアルヴァレスタは叫ぶように言うが、プレシアとシェドザードは答えない。

「何で答えないの!」
(Ma'am Siedzard is Dispense MindControl ーマム、シェドザードも精神コントロールを施されていますー)

「ライティング!!」

突然の閃光、同時にプレシアは飛び立つ。
近くにいたほとんどの者が目をやられ後退する。

「待機部隊!、再追跡だ!」
「行くぞ!」

離れた場所に待機していた部隊がプレシアの後を追った。

「くっ、目が見えねぇ!」
「“……アルト隊長、一旦帰ってきてくれへんか”」
「待てはやて!、追わせてくれ!!」
「“今は無理や!、戻れ!……それにな、もう一度会って剣を振るう覚悟が出来ているんか!”」
『…………』

はっきり言って、二人にはその覚悟は無い。
今度また会えば再び絶望に苛まれ、動きが鈍るだろう。

「くっ!、ストライク分隊、今から帰島する」


「了解や」
「なんで……なんで……」
「フェイトちゃん……」

フェイトはショックのあまりその場に崩れる。
みんなは何も言えることが無く、なのははただ抱きしめる事しか出来なかった。


闇の中をプレシアが駆ける。

「“やぁ、プレシア、大変そうだね”」

そこにイノーブスからの通信が

「後ろの奴等がうるさい、誰かよこして」
「“その必要は無いよ。そのまま戻ってくれたまえ”」
「いいの?」
「“ああ、もうあの場所は必要なくなった。もうみんなも別な場所に移動している。
君もあの子を拾ったあと合流してくれ”」
「分かった」


六課に帰ってきたストライク分隊をみんなが出迎えた。

「母さん…………」

アリシアは無いも言わずフェイトに抱きつきフェイトも無言で抱きしめる。
アルトもショックからかその場に座り俯く。

「どうして……」
「プレシアちゃん、どうしちゃったの?」
「堕天したんや」
「堕天?」
「神が悪魔になったと同じや、その力を私利私欲に使い不幸を喜び殺戮を楽しみ血を求む、
最強の敵、今プレシアはそんな状態や」

昔入れた知識からか、答えられない3人に代わりはやてが答える。

「そんな……」
「プレシアちゃんは戻れるんですか?」
「心が何処まで闇に染まったかで正気に戻る場合もあるけれど――――」
「待てはやて、ここからは俺達の問題だ」
「そうやったな。一族から闇に堕ちた者を出してしまったら最初にその血縁者が手を下す掟やったな」
「ああ、プレシアは俺達の手で殺す」
「ダメだよ父さん!、最初から殺すなんて!!。きっとプレシアにだってなんか事情があるんだよ!」
「そうだよ、アルト、頭ごなしに決め付けちゃダメだよ」
「しかし……」

そこにはやて宛の通信が入った。

「はい。………そうか分かった。すぐ人をよこすから待機してや」

通信を切り

「追跡部隊がアジトらしき場所を特定したらしい。スターズ分隊。ライトニング02〜04は現地に急行。
調査に当たれ、敵の罠もあるかもしれんから十分気をつけてな」
『了解』
「アルト君達は待機や、少し休んだらええ」
「おい、そこにはプレシアもいるんだぞ!」
「もうおらへんよ。向こうも付けられていることも分かっていたし、わざわざアジトを発見されるようなヘマもせえへん。
必要なものだけを回収し放棄したと考えるほうが妥当や」
「………」
「今は休んで心の整理をするんや。それじゃみんな頼んだで」
『はい!』


「やぁ、随分遅かったね」
「あの子を移してドロイドの設定をしていたからね」

モニターや計器類が並ぶ部屋でジェレイドとプレシアは話す。

「私とアインスは上るが、君も来ないか?」
「私は下でいい、これ以上アンタといるなんて真っ平ゴメンよ」
「随分嫌われたようだね」
「私の人生をめちゃくちゃにした張本人だからね。死のうが生きようが私にはもう関係ない。
唯一感謝しているところは、あの人に引き合わせたところかな。
それじゃさようなら。汝に永久の苦しみが降りかかるように」

「ふっ、最初はあんなに泣き喚いてかわいかったものの、今じゃあんなんだ。………さてアインス」
「はい。準備のほうは整っております。いつでも命令を実行できます」
「よろしい。それでははじめてくれ」

アインスはコンソールのキーを叩き命令を実行する。
彼の見つめるモニターには膨大なコードが下から上へと目にも留まらぬ速さで流れている。

「さて、私は客人を招待する準備をしよう」


「……………」
「こんなところにいると風邪引くで」

中庭の草原で月を見ているアルトにはやては言った。

「はやてか、でもこの状態じゃ動けないんだよな」

目線を下に移すと、彼の両膝を枕代わりに死んだように眠るフェイトとアリシアの姿が。

「俺が傍にいないと不安で眠れないんだってさ」
「ありゃりゃ、相当まいったんやね」
「仲間から闇に堕ちた者が出るなんてこの二人にとっては初めてだからな、
掟や本能で分かっていても心がそれをせき止めるんだろう。………俺は親失格だ、
どんな事情があろうとまず親である俺が何とか光に引き戻してやろうと考えなくちゃいけないのに、
それを最初から殺すなんて…………」
「そんなことあらへんよ、アルトくんは立派にお父さんしとったやないか、うちのクロノくんよりはマシや」
「ふっ、アイツは比較対象にしちゃいかんだろ」
「まぁ、仕事柄仕方ないしな」
「八神部隊長!!」

そこに慌てて走り寄って来るルキノ。

「どないしたんや、そんな慌てて?」
「はっ、はっ!、だっ、大変です!。ネットワーク上に奇妙なものが!」
「?」

はやてはロングアーチに急いだ。
アルトも二人を起こし後を追った。

「部隊長、これなんですが」

シャーリーがメインスクリーンに出したのは、文字と数字の羅列。

「何やこれ?」
「調べてみたところ、ミッドチルダや別世界で一般的に使われている
エンコーダーでエンコードされたデータと分かりました」
「それでデコードしてみたのか?」
「はい、デコードした結果がこれです」

作業し、デコードしてみると、1枚の図面とそれに連なる何かの情報が表示された。

「図面からロケットだと分かるんですが、そのほかの計算式や情報がさっぱり分からなくて」
「どれどれ、………」

アルトは読み進めていくと段々表情がこわばり冷や汗が滲み出てきた。

「何か分かりました?」
「ああ、あの数式は核分裂反応計算式、そのほかにも核分裂やロケット推進に関する説明が………」
「ということは……」
「ああ、これは核搭載ミサイルの設計図だ」
『!!』
「おい!、この情報はいつから?」
「ログから1時間前にネット上にばら撒かれています」
「やばいぞ。もう次元世界中にばら撒かれている。
もしこれが理解できる悪人の手に渡ったらとんでもないことになるぞ!」
「“それだけではありません”」
「ヒメル?」
「“こちらでもいくつか拾いました、中身を見ると携帯重火器から大量破壊兵器まで、
ありとあらゆる兵器が公開されています、もう質量兵器のオンパレードです”」
「畜生、こんなことする奴は一人しかいねぇ!」
「部隊長、通信が入っていますが」
「繋いでや」

メインモニターに映し出されたのはジェレイド=イノーブスの姿。

「“やぁ、ご機嫌いかがかな?”」
「イノーブス、これはどういうことや?」
「“なに、ちょっとした手土産だよ、これから混沌へと堕ちてゆく世界へのね。おっと今日は長話の暇は無くてね”」

イノーブスが指差したのは

「“フェイト=ハラオウン君、君を招待しよう”」
「招待ですって?」
「私の古くからの知り合いに会いに行こうじゃないか、きっと君も懐かしく思うよ」
「誰が行くものですか!。それよりプレシアは何処にいるの!」
「“彼女は気まぐれでね、先ほどふらりと何処かに行ってしまったよ。
しかし、執務官がそんなことを言っては、犯人を捕まえる絶好のチャンスだろ?”」
「………分かりました」
「“よろしい。だが招待したのは彼女だけだ。他の者が付いてきたならば直ちに始末されると思ってくれよ。
では1時間後、第9無人世界グリューエン軌道拘置所で待ってるよ”」

通信が切れる。

「グリューエン軌道拘置所ってスカリエッティがいるところだよね?」
「ああ。行くのか?」
「ええ、せっかくのご指名だもの、運がよければ捕まえられるし」
「念のためや、ヴィザードに乗ってって、ちょうど次元間移動できるように改造したし、
転送ポット乗り継いでいくよりは早く着けるはずや」
「ありがとうはやて、それじゃ用意もあるから10分後正面玄関で」
「うん、それまでに用意しとく」

フェイトは用意をしに部屋に戻った。

「ヒメル」
「“了解しました”」


「状況はどうですか」

その頃、なのは達フォワード陣は待機していた追跡部隊と合流していた。

「未だ動きなしです。衛星艦隊の分析では熱量と多くの生命反応が見られますが爆発物反応は皆無です」
「入り口は?」
「アレです」

指差した先には小柄な洞窟が口を開けていた。

「入り口付近にもトラップ類は感知できません」
「分かりました。ありがとう。皆さんは周辺の探索をお願いします」
「わかりました、お気をつけて」
「ありがとうございます。それじゃみんな行くよ」
『はい!』

フォワード陣は警戒しつつ洞窟内部へと進んでいった。

「みんな、2、3人に分かれて散開、何かあったらすぐ知らせて」
『はい』

洞窟を抜けるとドーム状の広い空間に出てそこから道が分かれている。
みんなはグループに別れそれぞれ先を進む。

「こっちは何だろう」

スバルとことはが進んだ先には

「これは……赤ちゃん?」

広い部屋に天井に届くぐらいの大量の生体ポット、そのいくつか稼動している中には人間の赤ん坊が入っていた。


「シャーリー、みんなからの連絡は?」
「ありません」

そこにプシューとドアの開く音が。
そこにいる者みんな注目した。

「あのぅ」
『ティアナ!?』
「部隊復帰しようと来て見たんですが、外に誰もいなかったのでこっちに来てみたんですけど」
「どうしているねん?。デュアリスは大丈夫なん?」
「はい、一応、アニス提督経由で遊牧12民族のほうで預かってもらってます、夫も承知済みです。
アニス提督も急いで紛争を片付け駆けつけるそうです。私の部隊復帰を許可願います」
「そっ、そか、戦力は多いに越したことは無い、許可するで、でも無理は禁物や」
「はい、それでフォワードのみんなは?」
「アルトくん、フェイトちゃん、そしてアリシア以外は発見された敵アジトに向かってる。応援頼めるか?」
「はい!、ティアナ=グランセニック、フォワード部隊の応援に向かいます!」

敬礼し復唱した。







あとがき

Krelos:とりあえず……こんな展開になりました。





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