「フフフ……やっとだ、やっと時が動き出した……クククク」

薄暗い独房の中、ジェイル=スカリエッティは不気味に笑う。
そしてギギギギと独房の重々しい扉が開かれる。


第11話
死の飛翔


「……………」

次元を渡るヴィザードのコクピット内。
フェイトは重々しい表情で考え込んでいた。
ジェレイドが指定した軌道拘置所は自分と因縁が深いジェイル=スカリエッティが投獄されている場所だ。
そんなところに私を連れてきていったい何をするのだろう?。

(Sir reached their destination ―サー、目的地に到着しますー)

コンソールパネルの一角にセットされているバルディシュが知らせる。

「うん、分かった」

次元空間から通常空間へ、眼前には宇宙に浮かぶ青い星とその衛星軌道上にある拘置所が見える。


「どうしたのスバル?」

スバルの通信でみんなが集まった。

「これは……」
「戦闘機人の素体として培養されていたみたいね。まだ処置は受けてないみたいだけど……」

スバルはポットの一つに手を当てる。
その中には赤ん坊が、大きさからしてもちょうど産まれ出てもいい頃だろう。
妙な近親感を感じつつ、とてつもなくやるせない気持ちになる。

「どうしたのスバル?」
「いえ、何でもありません。他のところも見てまわります」


「おかしいわね」

拘置所の中に入ったフェイトは一言呟く。
完全自動制御された所内は少人数の人員で稼動できる。
囚人も独房に入り人の気配が乏しいのは当たり前だが、それにしても気配が無さすぎる。

「ヒドイ……」

スカリエッティの独房に向かう途中。
天井まで届く、一般牢の通路を歩いていると異臭が鼻につき牢の中を覗く。中にいた囚人が殺されていた。
よく見ると上の階の牢からも血のような跡が。
この静けさだ、たぶん所員も含め全員殺されたのだろう。

「待っていたよ。フェイト=テスタロッサ=ハラオウン」

通路を進み広い空間に出た。
何処からか声がし、二人の男が姿を現した。

「ジェレイド=イノーブス、ジェイル=スカリエッティ」
「久しぶりだね、5年ぶりだろうか」
「思い出話をしに来たわけではありません。2人とも逮捕します!」

そう言い、セットアップしていたバルディシュを構える。
同時バリアジャケットが生成される。

「そう早まることもあるまい、これから父娘の感動的な再会があるというのに」

イノーブスがパチンと指を鳴らすと

「ちょっと!、もう少し優しく扱いなさいよね!」

自分の通ってきた通路から聞こえる聞き覚えのある声。
複数の足音が聞こえ、表れたのは

「あなた達!」
「えっ?」
「フェイト=テスタロッサ?」
「やぁ、よく来たね、我が愛しの娘達」

そこに現れたのは数体のロボット、通称ドロイドに連れられたナンバーズの
ウーノ、トーレ、クワットロ、セッテの4人だった。

『ドクター』
「彼女達まで呼んでどういうつもりです?」
「ドクター、その方は?」
「紹介が遅れたね。こいつはジェレイド=イノーブス。30年前作り出した私の派生クローンだよ」

ジェレイドは束ねていた髪を解いた。

『なっ!!』

瓜二つとまではいかないが、その顔立ちはスカリエッティによく似ている。

「30年前、私の計画に邪魔だった管理局を内部から崩壊させるために送り込んだクローンさ。
私の計画は失敗してしまったが、彼が私の計画を継いでくれた。
まさか執務官長にまで上り詰めて管理局の隅々にまで根を張るとは思わなかったよ。
でもこれでやっと私の野望がかなう。混沌が支配する私達の住みやすい世界が、
喜べウーノ、トーレ、クワットロ、セッテ。クククク、アハハハハ…………」

不気味な笑い声が木霊する。
しかし

「!!?」

スカリエッティは感じた。
自分を貫く異物の存在を。

「ドクター!!」
「あっ……どういうことだ…イノーブス……」

見るとスカリエッティの腹から人間の手が生えていた。
そしてその手は彼の後ろにいるイノーブスのものだ。
最初その場にいる者全員、クローンが反旗を翻したものだと思った。
しかし……。

「君の役目はもう終わりだ、私の影としてよく働いてくれた」
「どっ、どういう、ことだっ?」
「君がオリジナルだと思っているようだがそうではない。私が本物のジェイル=スカリエッティだ」
『!!』

唐突な告白に皆驚く。

「私がお前を作り、偽の記憶を植えつけた。私の実験材料としてね。
お前の行動は結局失敗に終わったが数々の結果を残してくれた、感謝してるよ。
最後の手向けだ、ジェイル=スカリエッティの名は君に譲ろう」

手を腹から抜きスカリエッティが倒れ、床に血が広がる。

「お…のれ……」
『ドクター!!』

ウーノ達が駆け寄り様子を見る。
しかし素人にも分かるぐらいの重症だった。

「かして!」

フェイトも近寄りすかさず治療魔法をかける。

「ほう、あれほど嫌悪していたのに助けるか。まぁいい。どの道君達は滅びる運命だ、好きにしたまえ。
……さぁ、今こそ混沌の明日に向かって羽ばたこうじゃないか!。死の飛翔を!!」


同時刻、ジェレイドの旧アジト。

「何?」

ゴゴゴゴゴオオォォ!!と地響きが襲う。
アジトの天井がミシミシと鳴き所々崩れてきた。

「みんな、ひとまず逃げるよ!」
『“はい”』

なのは達も危険を感じ避難しようとするが

「どうしたんですかスバルさん?」
「呼んでる……ゴメン先に行ってて」
「スバルさん!」

スバルは一人、奥へと進む。

「“どうしたの?”」
「“スバルさんが一人で奥に行っちゃいました”」
「えっ!?」
「“何か呼んでると呟いていましたけど”」
「“仕方が無い、私が向かうからことははみんなと一緒に外で待機してて”」
「“分かりました”」

マッハキャリバーが唸りをあげて走る。
誰かが呼んでいる。その声に応じて辿りついた場所は

「君達だったんだね」

さっきの赤ん坊達が入れられたポットの部屋だった。

「スバル!」

そこになのはが追いついてきた。

「どうしたの?」
「なのはさん、この子達が呼んでいたんです、助けてって」
「この子達が?。だけど…………」

相手は10人以上、一気に助けるのは無理に近い。

「危ない!」

それだけではない、脆くなった壁が崩れポットを破壊する。

「そんな……」
「ここももうじき崩れる、急ごう」

行こうとした時、おぎゃぁおぎゃぁと轟音と共にかすかに聞こえる。

「まだ生きてる!」
戦闘機人モードの目で辺りを見渡す。
瓦礫の間に鳴き声を上げる赤ん坊の姿が、先ほどスバルが見ていた赤ん坊だ。
スバルは足早に駆け寄り羽織っていたバリアジャケットの上着を産着代わりに巻いてあげた。

「せめてこの子だけでも!!」
「スバル急いで!」

2人は崩れる岩を避けつつ外に飛び出すと同時に洞窟は崩れた。
外に出ても地響きは収まらず、合流した追跡部隊とみんながただ呆然と同じ方向を見ている。
2人も同じ方向を見ると、驚愕に顔が歪んだ。

「なに、あれ……」

日の出と共に暗闇に光が射す。
しかし近くの山脈から突き出した巨大な物体が光を遮り、再び闇へと戻す。
その物体は地を離れるとそのまま浮上してゆく。
山脈は完全に陥没し、その地形を大きく変える。

「なのはさん」
「ひとまず六課へ帰るよ」

しかし、何処からともなく現れたガジェットの群れがみんなを囲む。

「こんなときに!」

そのときであった。
1発の魔法弾がガジェットを貫いた。

「えっ?」
「なのはさーん、みんなーっ!!」

ローター音と共に現れるストームレイダー。
そして降下ハッチに立つティアナ。

「ティアナ!?」
「ここは俺達が引き受ける、お前達は准将のところへ行け!」
「分かりました」

なのは達は飛び上がりストームレイダーに飛び乗った。


「これは……聖王のゆりかご?」
「そうだ!。無限書庫に保管されていた文献を元に10年の歳月をかけて作り出した私の最高傑作さ!。
永かった、永かったよ!!、何年も善人を装い、来るときのために実験と失敗を繰り返す。でもそれも今日で成就する!!」
「だけど何この大きさ?、前の数倍はあるわよ」
「クワットロくん。単なるコピーではやられるのは目に見えているではないか、
更なる攻撃・防御強化を施さなければ意味は無い。そうだ、折角生まれ変わったんだ、
太陽を食らう者、イクリプスとでも名づけようか。このイクリプスはガイアの技術を取り入れ、
あらゆる物質攻撃、魔法攻撃を無効化し、あらゆる場所をピンポイントで攻撃できる。
もちろん、次元間攻撃も可能だよ。君ら機動六課と君の娘には感謝してるよ。更なる改良に力を注いでくれたのだからな」
「くっ………こんなもののために!!」

フェイトは銀眼で睨み、唇を血が出るぐらい噛み締めた。


「部隊長、不明艦の解析結果が出ました。やはり外見上は聖王のゆりかごと類似しています」
「無限書庫に緊急連絡!、映像から資料を検索してもらって。
それと相手がゆりかごなら二つの月の影響座標に行くはずや、到着までは?」
「現在の速度から換算しておよそ1時間半!」
「チッ、十数キロクラスやのになんちゅう機動性や。なのは隊長とフェイト隊長からの連絡は?」
「フォワードチームはストームレイダーと合流、現在こちらに向かってきています。追跡隊はガジェットと交戦中。
フェイト隊長は未だ連絡とれず」
「地上本部、関係部署・部隊に連絡、首都圏緊急避難要請!」
『はい!』
「“八神准将”」

衛星軌道に待機している艦隊に連絡が入った。

「ちょうど良かった、待機している中隊全員を護衛と避難誘導の手伝いに回して、
艦隊も攻撃準備、いざとなったら発砲も許可する」
「“了解ですけどいいんですか?。管理局や地上本部抜きで勝手に決めて?”」
「何年か前から緊急時には守備隊を避難誘導に専念させる取り決めやったんや。
それにたとえ攻撃部隊を向かわせたところであのスピードに追いつくのは不可能や」
「“了解しました”」
「バックヤード陣は非戦闘員の避難誘導、ロングアーチは指揮系統をアーキに移す、時間が無い、急ぎや!」
『はい!』


「さて、準備は整った。悪夢の再来と行こうか」

イノーブスは立ち去ろうとした。

「待ちなさい!!」
「何かね?、私は忙しいのだが。そうか、君達の処分がまだだったね」

そう言い放つとドロイドが銃口を向けた。

「それではさようなら」
「チッ!。ヴィザード!!」

フェイトが叫ぶと轟音と共に壁を突き破りヴィザードが現れた。
ドロイドのビーム攻撃からスカリエッティ達を守りそのままコクピットに乗り込み飛び立つ。

「フッ、無駄な足掻きを。アインス、やれ」

最後に一言呟き、体が光りその姿を消す。


イクリプスの砲門が開き、1条のビームを放つ。
ビームはしばらく直線に進みそのまま空間に吸い込まれるように消えた。

「ゆりかごから発砲!、砲弾、次元跳躍しました!!」
「ヒメル、追えるか?」
「やってみます」


ヴィザードが拘置所を跳び出したすぐ後の事、突然宇宙空間が揺らめき、
イクリプスが放った砲弾が出現、拘置所に着弾し爆発した。

「何?」
(Its DimensionLeapAttack! ―次元跳躍攻撃です!ー)


「砲弾の着弾位置判明。第9無人世界グリューエン軌道拘置所」
「そこってフェイト隊長が向かった所では?」
「拘置所は大破。……マスター、ヴィザードから通信です」
「繋いで」
「“こちらフェイトです”」
「フェイトちゃん。無事やったか?」
「“何とか”」
「みんなアーキにいるよ、出来るだけ早く戻って来てや、今ちょい大変なんや」
「“あの巨大なゆりかごのことだね”」
「知っとるのか?」
「“あれを作ったのはイノーブスだよ、詳しいことはそっちに行ってから話すよ”」
「分かった。到着し次第作戦会議や」
「“それと、緊急治療の用意も頼める?”」
「怪我したんか?」
「“一緒にいたスカリエッティがね、他のナンバーズも保護したから
そっちのほうで一時保護という形にしてくれないかな?”」
「分かった、そっちの用意もしておく」


「ふ〜っ」

通信が終わり、フェイトは一息つく。

「フェイト=テスタロッサ、なぜです?。あなたはドクターのことを嫌悪していたはず」

ウーノが問う。

「そんなの簡単だよ。傷ついている人が目の前にいれば助けるのが普通じゃない」
「…………」
「うっ!!」
『ドクター!!』
「ふぇっ、フェイト=テスタロッサ。もし私が死んだら……この子達を頼んだよ」
「何を言うんですドクター!」
「なに……最後の…気まぐれな親心さ……」
「あともう少しだからがんばりなさい!!」

ヴィザードは次元空間を出てミッドチルダに現れた。

「ヴィザードが到着しました」
「ヒメル、リィン、なのは隊長達と一緒に出迎えて」
『はい』

ヴィザードは格納庫に入り、スカリエッティ達をゆっくり下ろした。

「フェイト隊長!」

そこになのはとホバーストレッチャーを引いてシャマル達が来た。

「なのは」
「無事でよかった。さぁ、はやてちゃんが待ってるよ」
「うん」
「私とヒメルでスカリエッティのほうを見ますからなのは隊長とリィンちゃんはナンバーズの方達をお願いします」

ストレッチャーに乗せながらシャマルが言い、応急処置をし、急いで処置室に向かった。

「さぁ、あなた達は私についてきて」

ウーノ達はなのは達に連れられ船室に通された。

「しばらくの間、保護という形でここにいてもらいます」
「高町なのは」
「何ですか?」
「ドクターのこと、よろしく頼む、一応私達の親でもある」
「大丈夫ですよ」
「“なのは隊長、リィン二尉、至急ブリッジへ”」
「わかったです。それじゃ大人しくしててくださいね」

ドアが閉まり足音が遠ざかる。


「イノーブス様、申し訳ありません。射損じました」

イクリプス内部、中央ブリッジにイノーブスとアインスの姿があった。

「何、些細なことだ。それより首都攻撃の準備は?」
「整っております」
「では始めたまえ」


「スカリエッティがイノーブスのクローン?。そりゃ驚きやな。それにゆりかごを元に作られた戦艦、イクリプスか……」
「“確かに10年前、イノーブスが無限書庫からゆりかごの文献を借りたという記録が残ってたよ”」

通信でユーノやクロノ、カリムも会議に参加する。

「“急いではいるがなにぶん時間がかかる、何とかそちらの艦隊で防いでくれ”」
「“こちらは準備が整っています、いつでも受け入れられます”」

はやての要請でクロノはクラウディア艦隊で出撃し、カリム達聖王教会も避難民の受け入れや救援物資などを頼まれている。

「2人ともおおきに」
「でもよ、ゆりかごは聖王がいないとだめなんだろ?、
ヴィヴィオはこのとおりユーノ達と無限書庫にいるし、どうなってんだ?」
「多分、ガイア側の技術だと思う。取り入れているって言ってたから」
「あらゆる物質攻撃、魔法攻撃を無効化か、魔法科学と質量科学のあわせ技、厄介だな」
「畜生!、そのためにプレシアは!」
「部隊長、イクリプスが対流圏を越えました!」
「イクリプス発砲!。首都圏方向です!!」

イクリプスから数十条のビームが発射、都市外周部に着弾、爆発と共に炎を上げる。
一つ一つの攻撃は大したこと無いが、波状の面制圧であっという間に焼け野原になる。

「クラガナンの街が」
「あいつ等また焼け野原にする気かよ!」
「ルキノ、進路をクラナガンに向けるんや」
「待ってください、マイスターはやて!」
「リィン?」
「今アーキが行けば首都の防御は出来ますけれど動けなくなってしまいます、
あの巨大戦艦を止めるには1隻でも多くの船が必要です」
「“それではクラナガンが”」
「私がヴィザードで行くです。ヴィザードの絶対防御なら首都全体もカバーできるです」
「……考える余地は無い。頼めるかリィン?」
「任せてください!」

リィンはヴィザードと共に発進した。

「私達もイクリプスを追って宇宙に上がるよ」
「はい」
「マスター、地上本部から通信が入っています」
「こんなときに誰や!」
「“はぁい、私よ”」
『プレシア!!』

通信に出たのはプレシアだった。

「“上が大変そうだけど私がいるということを忘れないでね”」
「……何をする気や?」
「“そうね、今本部の通信室乗っ取って話してるんだけど、このまま本部ごと皆殺しにしちゃおうかな”」
「なんやて!!」
「……プレシア……その容姿、ほんとに……」

真実を知る恐怖に身体を震わせながらアリシアは聞く。

「……ええそうよ。私は闇に落ちた。殺戮と血をこよなく愛す悪魔へとね」
「!!!!」

揺ぎ無い真実を知りアリシアはコンソールシートに崩れるように寄りかかる。







あとがき

Krelos:はい、とうとう現れました。イノーブスのリーサルウェポン、超巨大聖王のゆりかご、通称イクリプス!!。
アリシア:こりゃまたドデカイ物を造ったわねぇ。
Krelos:なんたって推定全長15キロですから。
アリシア:何処の某宇宙スポ根アニメの戦艦?、ほとんど移民船じゃない。
Krelos:確かにエク○リヲ○よりデカイ気はするが、グ○ンラ○ンの最終形態よりは小さいよ。
アリシア:そんな事言ってるんじゃない!。あんなもの出してきてどう収拾つけるのよ!。
Krelos:それは……根性!!。
アリシア:ダメだこりゃ。





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