「……プレシア……その容姿、ほんとに……」

真実を知る恐怖に身体を震わせながらアリシアは聞く。

「……ええそうよ。私は闇に落ちた。殺戮と血をこよなく愛す悪魔へとね」
「!!!!」

揺ぎ無い真実を知りアリシアはコンソールシートに崩れるように寄りかかる。

「そんな……プレシア!、何で、何でなのっ!」
「“それは自分で確かめに来ることね。ん?。その口調まさかアリシア=テスタロッサの人格なの?。
これは驚きね、とうとう主人格様に見切りをつけて乗っ取ったの?。アッハハハ。笑っちゃうね”」

プレシアの言うことにみんなは理解できず、当のアリシアは身体を怒りで震わせていた。

「…………」
「“何も反論できないようね。それじゃその気になったら私のもとへ来なさい。地上本部で待っているから”」


第12話
プレシアのもとへ


「いくですよヴィザード!」

クラナガン中央の地上本部上空に浮かぶヴィザード。
広げた8枚のウイングが飛び出し、そのウイングもさらに3分割、計24枚のピットが都市の四方へと飛び散る。

「ルミナス・ウォール!」

ピット同士がビームで繋がる。
点は線となり面を形作り都市全体を覆うバリアとなりビームを跳ね返す。

「これでしばらくは安心です」


「イノーブス様」
「構わん、撃ち続けろ」


通信が切れたあと、ブリッジにはしばしの沈黙。

「乗っ取ったか。確かにそう言われてもおかしくないね」

ユラリとアリシアが立ち上がる。

「どういうことなの、アリシア?」
「そのままだよ、フェイト。私の今の人格はあなたの娘のアリシアではない。あなたの姉のアリシアなんだよ」
『!!!!』

その言葉に、皆驚きを隠せない。

「だってお姉ちゃんは――――」
「プロジェクトF.A.T.E。母さんが私を蘇らせるために完成させた記憶転写型クローン生成技術。
私の記憶はフェイトに引き継がれ、あなた中で私の記憶は集合し、あるきっかけで自我が生まれた」
「そうか……転生の法か」
「どういうことアルト?」
「なに、簡単なことさ、お前を生き返らせたついでに記憶の底に眠っていたアリシアの記憶から自我が生まれたということさ」
「何やよう分からんな」
「フェイトの中に生まれた自我は消滅してしまったけれどそのコピーがまだ受精卵だった双子に移ったわ」
「そんなことありえるの?」
「魂が入り自我が形成される前だったらありえない話じゃない」
「それじゃ2人は生まれ出てきたときから自分がアリシアだって知ってたたわけ?」
「自我は別に形成されたわ、歳相応の幼い人格がね。まぁ生まれながらの二重人格者ってことね。
2人とも幼いときから私を認識し時々外にも出してくれたわ」
「時々子供らしからぬ行動をしていたのはお前が表に出てたからか」
「ほんとに時々ね、でも私に影響されて主人格のほうも多少過激なことをしていたようだけど」

クスリとアリシアは笑う。

「それで、何でお前がいつも出るようになったんだ?」
「………アリシアが、泣いていたから」
「やはり5年前か」
「ええ、プレシアの一件があった後、アリシアはずっと泣いていた、そして私に助けを求めてきたの。
家族を、妹を助けるためだったら私はどうなってもいい、人格を交換したって構わないとまで言ってきた。
私も家族を失う痛さは分かる、どうしても助け出したいと思っていたから二人の利害が一致。
以後私が主人格としてこの身体を動かしているの」
「それじゃもう一人のアリシアはどうしちゃったの!?」
「大丈夫、健在よ。最近はプレシアの堕天を受け止められなくてずっと閉じこもっていたけれど、
でもさっきの言葉でやっと決心がついたみたい。私は身体を彼女に還し、そして消滅してゆく。今度こそお別れねフェイト」
「えっ?」

アリシアは目を瞑り、深く呼吸をする。

「……母さん……」

目を開けると先ほどと雰囲気が違う。
きっと人格が入れ替わったのだろう。

「アリシアなの?」
「そう。あなたの娘のアリシアだよ。ごめんね、今まで騙すようなマネをして、でももう決心はついた、
たとえどんなことがあろうとプレシアに会い連れ戻すと。それがかなわなければこの手で……」

そこにアラートが鳴り響いた。

「どないした?」
「六課隊舎に向かう敵影を補足、数およそ3万、ガジェットシリーズとドロイドの混合部隊です」
「3万!?」
「六課を潰しに来たな」
「どうします?、上はイクリプス、下は約3万の部隊ですよ」
「中隊や守備隊は避難誘導で一杯やし………部隊を3隊に分けるしかないか。
一つは私とロングアーチとヒメル、このまま浮上し2個小艦隊と共にイクリプスを止めるよ」『はい!』
「二つ目はアルトくん。フェイトちゃん、アリシアの組や、プレシアのことを止めに行ったり」
「はやて」
「ありがとな」
「3人とも言っておくけど、デバイス・パージは最終手段やよ」
「わかった」
「切り札はとっておく」
「そして最後の班は……隊舎の防衛や。フォワードのみんなすまんな」
「何謝っているのはやて部隊長、みんなの帰るべき場所を守るのは当たり前のことだよ」
「そうですよ、安心してください部隊長!、敵はたった3万です!」
「たったってね、アンタ」
「そう言ってくれると助かるわ。けどな、どうしてもダメなときは逃げてもいいんやよ、戦略的撤退や。
みんな家族や大事な人がいる、その人達を悲しませたらあかん。
隊舎は破壊されても、みんなが生きていればいくらでも立て直せるんやからな」

はやてはその場にいるみんなを含め隊舎にいる全員に語りかける。

「そんじゃ、行こうか!」
『はい!!』

フォワード陣は転送ポットで隊舎へ。
一般職員が街の人達と退避した隊舎にはバックヤード部隊が待機していた。

「アルト隊長、バックヤード部隊、全員戦闘準備整いました」
「お前達いいのか?、俺やフェイトやアリシアが抜ければ戦力はぐんと下がる、正直3万もの敵を食い止められないと思う。
家族が心配な奴もいるだろう。まだ時間がある、今抜けたって誰も責める奴は誰もいないと思うが」
『………』

しかし、抜ける者は誰一人としていなかった。

「……そうか。ここの指揮は高町隊長が執る。なのは、無理だと判断したらすぐ逃げろよ」
「分かっているよ」
「隊長!、来ました!!」

前方の遥か先には地平を埋めるほどの全タイプのガジェットと目の赤いカメラが不気味な人骨の形をしたドロイドが、
ライフルを持ちこちらに向かってきた。

「よりにもよってターミネータドロイドじゃないか、これは骨が折れるぞ」
「骨だけにねぇ」
「スバル、つまらないわよ」
「はいはい。おふざけはこれぐらいで。それじゃ3人はプレシアのところへ行ってあげて」
「ああ」
「なのは」
「どうしたのフェイトちゃん?」

フェイトはなのはを抱きしめ

「今までありがとう。なのはと出会えてよかったよ」
「いっ、嫌だな。フェイトちゃん、それじゃ最後の別れだよ」
「そうだね。だけど大丈夫、プレシアを連れて必ず帰ってくるから」
「うん。ほらほら、速く行かないと」
「うん。それじゃ行ってくるよ」
「テスタロッサ……」

笑みを浮かべ飛び立つ3人。
しかしシグナムはその背を見送り、不安にかられていた。

「高町」「どうしましたシグナムさん?」
「私の思い過ごしかもしれないが……」
「……3人が心配なんだね。いいよ、行ってあげて」
「いいのか?。私が離れれば更なる戦力ダウンは必至だぞ」
「うん。いざとなればここを放棄して非難するし」
「シグナムが行くんだったら私も行くよ」
「アギト」
「行ってやれよ、シグナム」
「……すまない」

シグナムとアギトは3人の後を追って飛び立った。


「あ〜あ、宇宙(うえ)じゃ面白いことをやってんのによ、何で俺達は
地べたにはいつくばって面倒なことをやんなくちゃならねぇんだよ」

敵軍が進軍する中にドライ、フィア、フンフの3人もおり、ドライが愚痴をこぼしていた。

「仕方ないよ、俺達は根っからの白兵戦向きだから」
「宇宙じゃほとんど役に立たねぇってか。ん?。おい、尖兵が来たぜ」

見るとアルト達が上空を通過するところだった。

「よっしゃ、他の奴らはお前にやる、俺達はあいつらをやろうぜ」
「意義なーし!」
「まぁ、こっちは楽できるから好きにして」


「おかしいな、上空を飛んでいるっていうのに攻撃の一つもないなんて」

アルトの言うとおり、ガジェット達はこちらには見向きもしないで行進を続けている。

「テスタロッサ」そこにシグナムが追いついてきた。

「シグナム、アギト、どうして?」
「少し心配になってな、追いかけてきた」
「やっほう!!」

そこにドライとフィアが突っ込んできた。
3人はシグナムに突き飛ばされ突撃を回避できたが、シグナムは直撃し落ちてゆく。

「おっ、あの時のねーちゃんじゃねぇか、今回もまたやられにきたのか?」
「くっ!」

フェイトはあの時の敗北を思い出し歯を食いしばった。

「クッ、不覚!」
「シグナム〜っ!!」
「アギト、いくぞ!」
「おう!」

シグナムとアギトはユニゾインし、体制を整え空を蹴ってジャンプ、フェイト達の前に出た。

「お前達、ここは私に任せて先に行け」
「でも一人じゃ無理だよ!」
「いいから行け!!」
「フェイト、行こう」
「2人共、敵のISに気をつけてね」

フェイトは後ろ髪を引かれつつ先に進んだ。

「おい、待ってくれよ」
「ここからは一歩たりとも通さん!」
「(おうよ!)」

二人が追いかけようとするとシグナムが立ち塞がりカチャリとレヴァンティンを構える。


「向こうも始まったようだし、こっちも始めますか。……IS発動、パラレル・コマンダー」

フンフのISが発動、今まで規則正しく進軍していたガジェットとドロイドが個々に移動、
小数混合部隊を編成しふたたび進軍する。

「さぁ、どう攻め立ててやろうか」

フンフにS気が漂い、唇をペロリと舐める。

「シールドを展開しつつ両翼に展開!、殺傷指定、一斉射撃はじめ!!」

シールド魔法を展開しつつ一斉掃射、敵軍もビームを放ち詰め寄ってくる。


「大気圏を脱出しました。前方、イクリプスです」
「フォワード陣、戦闘開始」
「只今戻りましたマスター」

ブリッジにヒメルが現れた。

「スカリエッティの容態はどうや?」
「何とか峠を越えました。フェイト隊長の回復魔法が功をなしました。2、3ヶ月安静にしていれば元通りになります」
「そか。……ヒメル、マスター認証、全武装ロック解除、フルアクティブ」
「よろしいのですか?」
「ああ」

はやては現れた仮想スキャナーに手を乗せる。
スキャナーははやての手をスキャンし青く光った。

「……マスター認証確認、全武装ロックを解除、FCSオンライン、
エネルギーライン、リアクターに接続、ランニングチャージ」
「うっ!」

ガンナーコンソールに灯りが灯り、同時、はやてにプレッシャーが圧し掛かる。

「サイ・コンバータのグレードアップしても一人はやっぱりキツイわ」

「FCSオールグリーン、全武装フルアクティブ」
「マスター。艦隊指揮官より通信です」
「繋いでや」
「“おいはやて、軽く奴をスキャンしてみたんだけどよ、OCSの情報見てみろよ”」

はやてはネットワークから情報を引き出し確認した。

「はぁ〜っ」

そしてため息一つ。

「フェイトちゃんがガイアの技術って言ってたからもしやと思ったけど、ホンマにそうやったとは」
「“ああ、推定でも6基、天然でも人工でも、どちらにしろこれはやばいぞ。どうする?”」
「………各艦聞こえてるか?」
『“はい”』
「イクリプスの能力はOCSで流したとおりや。ちょい厄介やけど、アレを落とさんと世界が終わってしまうんよ。
だからなんとしてても止めるんや!!」
『おう!!』
「砲撃をブリッジ部に集中、間違ってもエンジン部に当てるんやないよ、気休めでもいい、地上から目をそらすんや。
一斉攻撃開始!」

艦隊も攻撃を開始した。


「………」

プレシアは瓦礫の上に座り、シールドに覆われた空にビームが反射するのを頬杖をしながらただ見ていた。
周りを見ると、本部施設の一部が破壊され、瓦礫の山がその一部だったと伺える。
その他にも瓦礫のあちらこちらに破壊時の巻き添えを食らった局員達が無残な姿で横たわっていた。

「プレシア」

そこに男の声が

「ゼッド……」

ゼッドがプレシアの横に座ると、プレシアは彼の肩に頭を預ける。

「地上本部のほうはいいのか?」
「うん?。住人の避難でほとんどすっからかん、お偉さん方は弱いし、
弱い奴のさらに弱い奴を相手にしてもつまらない、飽きる」
「そうか」
「ゼッドはなぜここへ?。イノーブスのところじゃなかったの?」
「お前がこっちにいるから来た。これからお前はどうするんだ?」
「どうもしない。ただあなたやあの子がいてくれるだけでいい……でも、姉はきっと私を殺しに来るわね」
「大丈夫だ。俺がお前を守る」
「うん……」

無機質な瞳に嬉々とした色が浮かぶ。
空爆音は遠く、二人だけの時間と世界がその場を支配してゆく。
日は昇ったばかり、これから永い、とても永い1日が始まる。







あとがき

Krelos:何とかここまでこぎつけました。次からは決戦6部作です。
アリシア:ながっ!。
Krelos:だってクライマックスだもん。ああっ、また文章力が穴だらけなんだろうなぁ……。
アリシア:ところでさ、私達の中にアリシアさんの人格がある設定、なんか意味あるの?。
Krelos:それがですね、最初の段階でお前達を時々大人の雰囲気を漂わせてちょっと陰がある
ミステリアス・ガール(英語発音)にしようかと思っていたんだけどうまく表現しきれてなかったようだね。
アリシア:ふっ、未熟者。
Krelos:そこまで言わんでも!!。あっ、そうそう。プレシア側のアリシアの人格は堕天したと同時期に
消滅した設定になってます。
アリシア:あららかわいそうに。とにかくがんばってハッピーエンドにすることね。
Krelos:いや、それは無理。





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