突如空間にいくつもの孔が開き、黒塗りの戦艦群、クラウディア艦隊がその姿を現す。

「クロノくん、全艦通常空間に出たよ。前方U・F艦隊、情報があった戦艦と交戦中」
「エミリッタ通信長、今は作戦行動中だぞ」


第16話
決死の突入 〜ロングアーチとヒメルラフェン〜


クロノはメインスクリーンで戦闘を確認し同時、疑問に思った。
あれほど巨大な戦艦でも、能力が高いU・F艦にとって倒すのは赤子の手を捻るより容易い、
まして艦隊規模なら数分でカタをつけられるだろう。
現に、はやてやヒメルはそう豪語していた。
しかし、艦隊は一気にカタをつけようとはせず、気を引くように砲撃を繰り返している。

「我が艦隊はU・F艦隊と合流、アーキリュミエールに通信を繋いでくれ」
「了解」


「やっぱりシールドが硬いな」
「マスター、クラウディア艦隊到着、旗艦クラウディアより通信です」
「やっと来たな、繋いで」

サブ空間モニターが立ち上がりクロノを映す。

「“確か君はこの規模の戦艦、アーキなら一捻りだと言っていたのだが?”」
「かわいい奥さんが苦労してるのになんちゅう皮肉や。このぐらいの戦艦、普通なら軽々倒してるわ、
だけどあのイクリプスは違う。最低でも6基、主機関にGSドライブが使われている」
「”なんだと!?”」

U・F艦の最強たる所以は、ガイア原産の永久エネルギー鉱石“Gストーン”を核とする機関、
GSドライブを使っているからである。
Gストーンは精神力に反応し、超高エネルギーを発散させる性質がある。
その石1つで、地球やミッドチルダの文明レベルなら星全体のエネルギーを永久に賄い、なおかつお釣りが来るほどだ。
GSドライブはU・Fの艦船のみ搭載された機関、クラスによって違うが平均4〜5つのGストーンを使って稼動している。
そのパワーゆえU・F艦を倒せる艦船は知られている次元世界でも現時点で存在しない。

「”だがその石はU・Fによって厳重管理されてるんだろ?”」
「はい、人工的に石を作ろうにも生成はインビンシブルでしかできません」
「そっちの詮索は後や、今はどうやってイクリプスを止めるかや」
「主砲の一斉掃射で沈黙させられないんですか?」
「アルト、それが出来ないからこうして気をそらせているだけなんだ」
「そうや、Gストーンは超高エネルギー鉱石や、もし爆発でもしたら、爆心地から半径1000光年は全て消滅する」
「“アルカンジェルを使おうにも消滅する前にエネルギーが反発し押し返すだろうな”」
「ええ、だから不用意に手出しも出来ない」
「“どうするよ?、地上はちっちゃい嬢ちゃんが何とか頑張ってくれてるけどよ、それも長くは持たないぜ”」
「その、リィン姉様の事なんですが」
「どないしたんやヒメル?」
「首都上空で爆発を確認しました」
「何やて!」
「すみません、全センサーがイクリプスに向けられていたので気づくのが遅れました」
「それでリィンは?」
「部隊長、リィン二尉から通信です」
「“マイスターはやて”」
「リィン大丈夫か!?」
「“敵を倒すのに少し苦労しましたが、何とか無事です。それでエネルギーの使いすぎで出力が低下してきています。
このままじゃルミナス・ウォールが維持できません。マイクロウェーブ送信をお願いします”」
「分かった。ヒメル」
「サテライトシステム起動します」

ブリッジの真下に位置する外部装甲が二つに開き、中からパラボラアンテナが迫り出す。
中心部分のレーザー照射機からレーザーが伸びヴィザードの胸のクリスタルに溶け込む。


「イノーブス様、敵の動きが変わりました。如何なさいますか?」
「あれは確かサテライトシステムの………そろそろチマチマ続けるのにも飽きてきたところだ。
主砲発射準備。目標は、あのレーザーの先だ」
「了解。増幅チップ射出、エネルギーチャージ」

6つのピットが線を結び六芒星を形作りエネルギーが増大する。


「マスター!、イクリプスが砲撃を中止、内部に高エネルギー反応!」
「あの陣形、主砲を撃つ気か!、MW照射までは?」
「あと4.03秒!」
「間に合うか……」
「マスター、ヴィザードがサテライトキャノン発射体制に!」
「艦の主砲を打ち消すつもり?。無茶や、威力が違いすぎる、止めるんや!」

マイクロウェーブが照射されその数秒後、イクリプスの主砲が発射される。
巨大な光の帯が首都に延びる、向かいから伸びる4つの光、ヴィザードのサテライトキャノンから発射されたものだ。
互いは空中で衝突。大爆発を起こし広がった閃光と熱はヴィザードを飲み込み
地上本部タワーの中層階まで達し衝撃は地表に達した。

「リィン!!」

はやては何度も呼びかけるが、爆発による電波障害で繋がらない。

「“……大丈夫です。リィンは…大丈夫です。ですが…ヴィザードが…ボロボロです、
パワーが足りなかったので…Gストーンをエネルギー変換したんですけど…それでも足らなかったようですね”」

ノイズと共に声だけがモニターから流れてくる。

「よかった、リィンが生きてて良かった」
「“安心するのは早いですよ、ルミナス・ウォールもなくなりましたし”」
「そうやな、あとは私達が何とかする、リィンは安全なところに避難してゆっくりお休み」
「“そうさせて…もらうです。…もう限界です………”」

耳を劈くようなノイズが走りプツリと突然通信が切れる。

「リィン!」
「大丈夫です、ヴィザードは健在です」

そこに味方から通信が入る。

「“感傷に浸っているところわりぃが、それでどうするんだ?。このままってわけにもいかねぇぞ”」
「……艦を維持する最低人員を残した場合、何人集まる?」
「ざっと考えて250前後だ。ってまさか!」
「……こうなればごちゃごちゃ考えてる猶予はない。イクリプスに乗り込みGストーンを消滅させる、
同時イノーブスも抑える!、必要人員を集め白兵戦用意!。突入艦を4隻に限定、速やかに準備せよ!」
「“へっ、そうこなくちゃ、久々に暴れられるぜ!”」
「クロノくん、艦隊指揮任したよ。グリフィス君、アーキの指揮を一任する、あとよろしく」
「“ちょっと待てはやて!”」
「部隊長も突入部隊と同行するんですか?」
「当たり前や」
「ですがマスター、シールドはどうするんですか?。リープ・レールガンの空間転移でも30秒、
孔を開けるのがやっとだったじゃないですか!」
「30秒あれば十分、ヒメル、ちょっと手荒なことをするけど堪忍な」
「マスター……、了解しました。ご武運を」

ヒメルは意図を理解したのか、それ以上何も言わなかった。

「グリフィス君、アルト、スカリエッティ達をブリッジに連れてきて」
「いいんですか!?」
「ああ、ここが今一番安全な場所や」

艦からシャトルが発進し選ばれた4隻の突入艦に突入隊が集まる。

「“マスター、準備整いました。スカリエッティの固定も十分です”」
「ドクターまだ絶対安静です。一体どうするつもりですか?」
「“これから行う作戦はな、ブリッジが一番安全なんよ。さぁ、いくで!。
これより、敵艦への突入を開始する、総員対ショック体勢!”」
「ちょっと!、本気!」
「腹を決めろクワットロ。どの道逃げ場なんてない」
「突入を援護するぞ!、撃ちまくれ!」
『“おう!!”』
「いきます!!」

ブリッジにいる全員シートベルトを装着しルキノがコントロールレバーを握り、
厚い砲撃の中、4隻が艦隊を抜けイクリプスに近づく。


「イノーブス様!」
「決死の突入作戦というわけか。こちらも砲撃を強化しろ」
「ハッ!」

激しい弾幕の中、アーキをはじめとする4隻が進む。

「射撃管制同調、リープ・レールガン発射準備、電磁レール展開!」

双頭艦首付け根の発射口が開き、2本のレールが延びる。
艦内には接近警報が響き、全員に緊張が走る。

「着弾箇所固定、全弾発射!!」

勢いよく発射される12個の小型転移装置を発射、シールドに当たった瞬間、
黒いドームが生まれその直径分シールドを抉る。

「ダメ!、孔が小さすぎる!」

シールドの修復速度が速く、その直径を縮めてゆく。

「艦首にシールド集中、突っ込め!!」
「うぉおおぉぉぉ!!」
「うっ!!」

艦首シールドを展開しエンジン全開、小さくなった孔に艦首を無理矢理ねじ込み、
シールドの接地面からバチバチ!!とプラズマが激しく踊り艦内に異常振動が走る。

「うっ!、押される!」
「俺も手伝う!、ヒメル、操艦の一部を俺のほうに回してくれ」

シールドに押され、ルキノの握るコントロールレバーも押し戻されてゆく。
コマンダーコンソールに一部コントロールを移し、グリフィスとルキノ、二人で押し返す。

「現在、船外温度8万度!。装甲被弾、損害20%。
主幹システム異常なし、シールドジェネレイター異常過負荷!、展開限界まであと30秒!」
「うっ!、艦首さえ入ればいい、オーバーブーストを!」
「そうしたらヒメル、あなたも危ないのよ!」
「構わないわ!、オーバーブーストを!」

ルキノがガラスで覆われた赤いボタンを押す。
出力系表示がフルゲージ、眩いエンジン光を放つ。

「ダメ、出力が上がらない!」
「お願い、通ってぇ!!」
「いっけえぇぇぇええ!!」

みんなの願いが叶ったのか、Gストーンが眩い光を放ち、エンジン光がなおも眩き光り尾が長く伸びる。
少しずつ孔が広がり、やっと艦首が入った。
敵艦のシールドの過負荷のためか、他の3隻も艦首を入れることに成功した。

「ヒメル!!」
「ファランクス発射!!」

自艦が傷つくのも構わず、これでもかというほどのビームを撃ち込む。
装甲が爆発し、大きな孔がぽっかりと口を開けるが修復機能が働き、その孔を塞いでゆく。

「いくよみんな!!」
『おう!』

シールドを解除、はやて達を乗せたシャトルは装甲が塞がる前に進入することが出来た。

「やったぁ!。わっ!」

安心したのも束の間、シールドが消失した所為でこじ開けていた相手シールドが再生を始め双頭艦首を両断、
4隻はその反動で吹き飛ばされる。

「敵砲塔群、本艦をロックオン!」
「ダメ!。シールド出力があがらない!!」

イクリプスの砲がアーキリュミエールの船体を何度も貫き大爆破を起こす。


「敵旗艦大破、しかし申し訳ありません、進入を許してしまいました」
「どの道奴等の目的は分かっている。動力室に全艦内機を配備し近づくものは排除しろ。
私は行くところがある、後は任せたぞ」
「了解しました」

イノーブスはブリッジを後にした。

「各員、動力部に向かいGストーンを消滅処理。行く手を阻む者は何者であろうと排除せよ」
『了解!』

Gスーツを着た兵士達がイクリプス内を駆け回る。
早いところではもう敵機と戦闘を開始している。


「皆さん、大丈夫ですか?」
「ううっ、何とか。あなた達は?」
「こちらも特に怪我は無いわ」
「なんなのこれ、身体に力が入らない」
「だるいよ〜」

グリフィス、シャーリー、ルキノ、アルトはコンソールにぐったりと伏せっている。

「マスターに禁止されてましたが、独自の判断で一時的ですが皆さんをサイ・システムとリンクさせました。
その疲れはシステムによるものです。しばらくすれば回復します」
「こんなに疲れるものものたったとはね、これを部隊長は一人でやってるんだから、やっぱりすごいわ」
「ちょっと待って!。確か私達は被弾して爆発したはずじゃ!」
『そうだ!!』
「ブリッジ部とGストーンのあるエンジン部だけは爆発に巻き込まれる前にパージしたんです」

外を見ると、ブリッジ部に翼が生えた状態で飛行し、周りにはエンジン部であろうか
ロケットのように細長い物体が寄り添っていた。

「あとは救助が来るか、それかプログラムされている地点に残存パーツが集まり自己修復で元通りになるか。
でもブリッジとエンジン以外大破ですからねぇ、最低でも5年はかかります、
マスター達を送り届けた代償としてはまぁ安いものです。私達の役目は終わりました。あとはマスター達に任せましょう」


「うおおぉぉぉおお!!」

マシンと人の攻防。
圧倒的な敵の数にも関わらず、突入部隊は着々と目的地に近づいている。

「お前達、先に行け!」
「あいよ!」

乱戦の中、数人の兵士が動力室に突入する。

「思った通り、システム構造自体はこちらと変わりねぇ。まっ、ほぼ完成された機関とシステムだからな。
ブリッジからの回線を全て切れ」

兵士の一人が端末にコードを繋ぎ、Gスーツのパネルで作業を始める。
Gストーンからエネルギーを抽出する端末機GSライドには緊急時に石を自己消滅させるシステムが組み込まれている。
石の構造体の一部を破壊し、その構造を保てず自己崩壊させる原理だ。
U・Fの兵士は原理やその処理方法は知らされているが、実際どの機構が行っているかは最高機密とされ、
ドライブの開発チームしか知らない。
開発チームが言うにはその機構は普段は別な役割を果たし、もし取り外すことが出来たとしても
ドライブが正常に稼動することは無いという。

「よし、処理終了、完全消滅まで10分といったところか」
「あと10分、死守するぞ!」
『おう!!』


「八神総隊長、第2、第4部隊、動力室に到着、処理を開始。第3.第5部隊はてこずっているようです」
「第2、第4部隊に処理が終了し次第動力室を破壊、2部隊の応援に向かわせて」
「了解」
「さぁ、こっちも気合入れていくよ!!」
『おう!!』

しばらく進んでいると、目の前の通路に白衣姿のイノーブスが現れた。
アインスもガジェットもドロイドも護衛につけていない、完全に一人だ。

「総隊長……」
「ここは私に任せて。他のみんなは動力室に急いで」
「分かりました」

兵士達はイノーブスをすり抜け、はやては残りイノーブスと対峙する。
Gスーツを解除し騎士甲冑を纏う。
軍人ではなく時空管理局員としてイノーブスを逮捕する気だろうか。

「“こちら第2部隊、石の消滅を確認。動力室を破壊し応援に向かう”」
「“第4部隊も同様だ”」

遠くに爆発音が響き、微かな振動を感じる。

「聞いてのとおり、イノーブス、堪忍しいや。あんたを第一級次元犯罪者として逮捕する」
「生憎、私は諦めが悪いほうでね、これくらいは何とも無いのだよ八神部隊長」

イノーブスは慌てる素振りも無く、いつものようにクールに振舞っている。

「想定済みというわけか」
「アインス。少し早いがお前の命、この船に捧げてもらおうか」
「“了解しました”」
「命を捧げる?。まさか!?」

イクリプスの中央ブリッジ。
壁から植物のツルが伸びるように大小幾つものケーブルが延び、中央にいるアインスに絡みつく。
ドクン!と何かが脈打ち、艦が貪欲にアインスの精神力を吸い取りシステムが活性化していく。


「艦内に超高エネルギー反応!!」
「シールド全開、管理局艦を護れ!」

イクリプスの砲撃が急に激しくなる。


「“チッ!、システムを取り返しやがった!、第1部隊作戦失敗!!”」
「体制を整え再アタック!。……仲間の命を食わせるなんて!」
「アインスは元よりその目的で作られた身だ」
「せやけど、いくら戦闘機人とはいえ人の精神力は限りがある。もう5分と持たないはず――――」
「プロジェクト、サンズ・オブ・テラー。こう言えば理解してもらえるかね、
もとより君はその完成体の部下だったと聞く」
「くっ!、アニスちゃんのことか……」

サンズ・オブ・テラー。
恐るべき子供達と名付けられたそれは、ガイアの犯罪組織が様々な方法で回収した神族の遺伝子を組み合わせ、
派生クローンを作り、生後処置で精神力を極限にまで高め、その後も洗脳や戦闘殺人術やサバイバル、
操船技術を学ばせながら、低い精神力の者を振るいにかけ最強の戦闘マシンを作り出そうとした恐るべきプロジェクト。
だが計画はU・F超将軍により水泡に帰し、唯一残った完成体が製造コードR20、アニスなのである。

「あの技術は人間にも応用が利く。彼女とまでいかなくても、この艦を長時間動かせる精神力を身につけさせることも出来る」
「神をも恐れない所業やな……何で、何でアンタはそこまでして世界を滅茶苦茶にしょうとするんや!」
「そう造られたから、だがそう造られていなくても私はきっと同じことをしただろう。
この世界、いやこの宇宙は弛みきっている、何処も平和に満ち溢れ刺激がどこにもない。
執務官長時代もそうだった、いつも量だけでどれも質の悪い生温い事件ばかり。
私は刺激がほしいんだよ、飛び切り上等な刺激が!!」
「それだけのために今回もこんな事件を!」
「ああ。……そうそう、君達には特にフェイト君には戦力評価の他にも感謝しなくてはならないな、
ガイアとの国交を開いてくれただけではなく、その繋がりをも強めてくれた。私も何度か渡ったが、
あの世界は素晴らしい、上辺だけの平和を保ちその下では常に力で支配し戦乱が絶えない世界。
そんな理想郷を世界に広める決意を固めさせてくれたんだからな!」
「チィ!。捕らえよ、凍てつく足枷!!」

イノーブスの足元に絡みつく氷の魔法、彼はスカリエッティも使っていた手袋状のデバイスを装着しており
指先からビームの糸が伸び氷を切断する。

「魔法の作用点がズレているぞ。やはり融合騎がいないとまともに狙いも定まらないのかね?」
「うるさい!!」

イノーブスはビームを爪状にし、タッ!と駆けはやてに襲い掛かる。
初手は何とか見切り避けることができ、もう片方の腕が襲い掛かるがシュベルトクロイツで何とか防いだ。
イノーブスの攻撃は続く、腐っても鯛。伊達に執務官長の地位にいたわけでもなくその実力は目を見張るものがあった。

「どうした?。私が一方的に攻め立てたのでは面白くないじゃないか」
「くっ!」

涼しい顔で言うが、その爪は速くはやても避けるのに精一杯、騎士甲冑のおかげでダメージは少ないが魔法を撃ち込む隙もない。

「アインスの集めた情報は正しかったみたいだな。オーバーレンジからの後方支援・広域魔法を得意とするも
ミドルレンジ以下の小規模・接近戦魔法は不得意、アニス=フェリア=ノクターンから従事されていた剣術が
唯一の接近戦闘術。闇の書、いや、他人の魔法に頼りすぎて魔法開発を怠ったのが運の尽きだな!」

イノーブスの言葉がはやてを苛立たせる。
確かにはやての保有する魔法は今まで蒐集されたものがほとんどを占めているが、
しかし全く魔法開発していなかったわけでもなく、接近戦魔法もいくつか完成させていた。
反撃しないのはただイノーブスの攻撃が魔法発動の隙を与えないぐらい激しいだけだ。

「くっ!。あああぁぁぁああああ!!!」

何度目かの攻防だろうか、一瞬の隙をついたイノーブスの爪がはやての右肩を貫き、もう片方が顔に狙いを定める。

「鋼よ!、我が四肢に宿れ!。パンツァーフィスト!!」
「グハッ!!」

魔力を纏った左ストレートがイノーブスの左頬に入り吹き飛ばされる。
何とか踏みとどまったが追撃とばかりに魔力を纏ったはやての蹴りが炸裂、一気に形勢逆転となった。

「クッ、まさか格闘技もマスターしているとはな、どうやら情報不足だったようだな」

両腕で足技のラッシュを防ぎつつイノーブスは考える。

「訓練生時代、いつの間にか覚えていたからな、どんなに調べても出てこないでっ!!」

間合いを一気に詰め、アッパーが綺麗に入りイノーブスが倒れる。

「はぁっ、はぁっ、もう堪忍しいやイノーブス……」

息が少し苦しい。
肩を貫かれおまけにあんな激しい格闘戦を繰り広げたせいでいつもより出血の量が多い。
傷は体内のナノマシンが治療してくれる、しかし流れ出た血は元には戻らず貧血寸前の状態だ。

「”そこまでだ、八神はやて“」

アインスの突然の声、壁から伸びるビームの糸がはやての動きを制する。

「クッ、しまったっ!、同化してもまだ意識があったんか!」
「よくやったアインス……」

イノーブスが一言呟き鈴口から垂れた血をぬぐいながら立ち上がり止めをさそうと近づく。

「なっ、なんだ!?」

そこにゴオオオォォォオオオ!!!と地震のような地響きが鳴る。
ここは宇宙空間、地震のような揺れが起こるわけない。
然るにたどり着く結論は一つ。

「“イノーブス様、大規模次元震発生の兆候が出ています”」
「やはりあの娘共か、少し早いがまぁいい。モニターに出せ」

巨大なスクリーンが映し出したのは、漆黒の空間と青い星。
そこに白と黒の閃光が横切り、接触し反発しあう。
よく見るとその閃光は白い甲冑姿のアリシアと黒い甲冑姿のプレシア、
互い長剣を振るい目にも留まらぬ速さで激しい戦闘を繰り広げる。

「なっ、何であの二人が戦ってるんや……、アルトくんやフェイトちゃんは……」

嫌な予感がよぎる。
見るに二人は封環を外しフルパワー状態、それは互いを殺す覚悟で戦っているとしか見えなかった。

「“あの二人が発する波動でこの世界はおろか近隣の世界にまで影響が出始めています”」
「早急にアレの準備をしろ」
「“はい”」

遠くから微かに爆発音が響き、違う揺れを感じる。

「なんだっ!?」
「“大変です!、強力な精神干渉によりGストーンが暴走!、シッ、システム制御できません!!”」
「そんなばかなっ!!」

イノーブスの先ほどの口ぶりからアリシアとプレシアの戦いで次元震が起こることは予測が付き
その対処法も用意していたのだろう。
しかし、強すぎる力がイクリプスにまで影響を及ぼすとは予測していなかったのか、顔に焦りの色が現れる。
異常なまでに眩く輝くGストーン。エネルギーを糧とするシステム群はその過剰な力に耐えられず自ら爆発を起こす。
あちらこちらで遊爆を引き起こし、だんだん大きな爆発に発展する。

「だっ、だめだっ!、ラインを閉じられない!。うわぁぁあぁあああ!!!!」

船の頭脳ともいえるブリッジが爆発、アインスはそれに巻き込まれた。


「次元震の次はイクリプスの爆発、いったいどうしたんだ?」
「艦長、UF艦が次々と機能停止しています」
「機能停止?、おい!、大丈夫か?」
「“あの嬢ちゃん達の精神波動に影響されGストーンが暴走してるのさ。幸い敵さんも同じらしい。
主機関から副機関へ移行したから心配はいらねぇけど、機動・防御共に下がるぞ”」
「暴走だと!?、じゃ突入隊は……」
「“そう慌てるな提督さんよ、突入隊を信じろよ”」
「それはそうだが……」


「くっ!、うわっ!」
「イノーブス!!」

亀裂が走り崩れ落ちる通路と共にイノーブスが落ちかけ、咄嗟にはやては亀裂に身を乗り出し腕を掴む。
下の階はすでに崩れ落ち底が見えず、落ちたらひとたまりもない。

「クッ!、右手だけじゃ支えきれん!。イノーブス!、もう片方の手も出すんや!」
「フッ、混沌へと続く道は私をも滅ぼすか。だが破滅の種は十分にばら撒かれた。少々未練もあるがそれも良かろう」
「何を言ってるんや!、早く手を出し!、もう耐えられへん!」

傷がまた癒えていないのか、掴んだ右腕に力が入らず腕がずり落ちていく。
とうとう腕が耐え切れずに手を離してしまう。

「私の勝ちだ!。アハハハハ………!!」

イノーブスは高笑いと共に亀裂の底へと落ちていった。

「クッ!。何でこうなるんやっ!」

犯人を生かして逮捕できなかった悔しさのあまり叫ぶ。
しかし、悔しがる暇はない、その間にもイクリプスは崩壊し続けている。
はやてはGスーツを纏い飛び立つ。

「“こちら第1部隊、最後のGストーンの消滅に成功。第2〜第5部隊はすでに脱出を完了。残すは我々だけです”」
「よくやった。シャトルに集まっとる時間はない。各員自力で脱出や」
『“了解!”』

それぞれ一直線に外を目指す。
内蔵レーザーで邪魔な瓦礫を破壊し、炎の中だろうが真空だろうが構わずただ外を目指す。

「嘘やろぉ!!」

後ろをチラリと振り返ると凄まじい炎の渦が迫ってくる。
Gスーツのガードシステムで外傷はないが、飲み込まれたら最後、ショックで精神的に逝ってしまう。
はやては追いつかれまいと必死に飛び続ける。

「わっ!!」

最後の一人、はやてが脱出したとたん大きな爆発があった。

「ふ〜っ、間一髪やった」
「“はやて聞こえるか?”」
「クロノくんか?。Gストーン消滅に成功したで、しかし……イノーブスは死亡や……」
「“そうか……詳しい報告はまた後でいい、今は早くクラウディアに入ってくれ。
アルカンシェルでイクリプスを完全消滅させる”」
「クラウディアって、そういえばヒメル達はどないしたんや!?」
「アーキリュミエール本体は爆沈、しかしみんなは脱出している」
「“そうか、良かった”」

その後、クラウディア艦隊によるアルカンシェル一斉掃射でイクリプスは完全に消滅した。

「これでこっちは一段落ついたな」
「“お前の部下の嬢ちゃん達と連絡が取れた。今こっち見向かっているってさ、
パーツのプログラムも変えたって言ってたから合流してすぐ自己再生が始まると思う”」
「そうか。あとはアリシアとプレシアだけど……」
「あの二人ならまた地上だ。しかしご覧のとおり影響で次元震が発生してしまっている。
有人世界にはシールドのおかげで影響はほとんどないが無人世界ではすでに崩壊してしまったところもある」
「二人の戦い、何とかして止められへんのかなぁ……」
「こっちも次元震を最小限に留めるのに精一杯だ。それに……俺達じゃ何人集まっても止めることは出来ないだろう」
「“ああ、それこそ天帝かフィフス・カイザークラスが止めないと。
俺達が出来ることは全てやった。あとはあの嬢ちゃん達次第だ”」

漆黒の宇宙に浮かぶ青い星。
今そこでは世界の運命を握る二人の少女が殺し合いをしていた。







あとがき

Krelos:はい、決戦4戦目はイノーブス&アインス組vsロングアーチ&管理局・UF軍組でした。
はやて:なんや、無駄に長い気もするけれど………。
Krelos:お願い、そこには触れないで。これでも絞ったんだから。
はやて:まぁええ、これ以上言ってヘコまれたらかなわんしな。
それにしても途中でアニスちゃんの素性をサラッと出してたけどいいの?。
Krelos:そのことに関しましては長編外伝でちゃんと語ります。
さて次回の対戦カードは、時間を少し巻き戻しましてアルト&フェイトvsゼッドです。
プレシアの空白の5年間も語られる予定です!。





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