白イ…白イ…セカイ……。
ココハ…何処……。

「………ちゃん!!、……ちゃんてば!!」

誰……ワタシヲ呼ブノハ誰?。

「もう、お姉ちゃんてばっ!!」
「はっ!!」


第19話 
Another Line


見渡すとそこは私と双子の妹の部屋。
そこに呆れた顔で制服姿の妹が立っていた。

「やっとお目覚めかしら?」
「ふわ〜っ。今日は日曜だしもうちょっと寝かせてよ。それになんで制服着てるの?」
「相変わらず寝起きはボケ3倍増しね。いい、今日は月曜で学校の日なの!。お分かり?」
「プレシア〜、アリシア起きた〜?。もうすぐ8時よ〜」

下の階から母さんの声が聞こえてくる。

「ほら。母さんも呼んでいるから早く起きた起きた!」
「うわ〜ん。プレシアちゃんそんなに引っ張らないでぇ〜」
「何言ってるの!。私がいないとすぐ二度寝しちゃうでしょ、はい、パジャマ脱いで」

プレシアはまだ寝ぼけ眼のアリシアのパジャマを脱がし制服を着せてゆく。

「まったく、朝は私がいないと何も出来ないんだから!」
「ムフフフ、逆にプレシアちゃんは無鉄砲で私がいないとすぐ暴走しちゃうんだから〜」
「誰が暴走娘よ!!」

アリシアとプレシアの騒動は下にいるアルトとフェイトの耳にも聞こえていた。

「いつもながら朝ぐらい普通に起きられんのかねぇ、ウチの娘らは」
「フフフ、私は朝から賑やかでいいけどな」

そこにドタドタと音を立てながら二人が階段を下りてきた。

「パパ、ママ、おはよう」
「おはよ〜」
「ハイ、おはよう」
「おはよう」
「早くご飯食べちゃいなさい、遅刻するわよ」
『は〜い』
「そうそう、今日私帰りが遅くなるから」
「まだか?」
「うん、今回の案件はちょっと難解でね」
「敏腕弁護士は大忙しだ。でもあんまり無理するんじゃねぇぞ。お前も一人の人間なんだから」
「うん、分かってるよ。アルトもあんまり無理しないでね、ただでさえ警察の特殊部隊は危険が付き物なんだから」
「うん、分かってる」
「はぁ〜っ。相変わらず万年新婚ぶりですね」
「はぁ〜っ。いいなぁ〜」

これも毎朝のことなのかアリシアは呆れ顔で眺め、プレシアは別な意味で眺めていた。


「それじゃ行ってきます」
「行ってきます」
『行ってらっしゃい』

元気よく外に飛び出していく二人。

「プレシアちゃん早く早く、遅れちゃうよ」
「まっ、待ってよお姉えちゃん!」

朝食で全身にエネルギーが満ちたのか、アリシアは陸上部所属のプレシアよりも遥かに高い運動性能を見せる。


私立聖祥大学付属女子中学校。

「おはよ〜」
「みんなおはよう。プレシアちゃん陸上部なのになんで私より遅いの?」
「はぁっ、はぁっ、そんなの私が聞きたいわよ!、万年天然ボケでひ弱そうに見えてスポーツと無縁のお姉ちゃんが
何で私よりハイスペックなのよ!」
「それは暴走娘のプレシアちゃんを影に日向に助けるためよ」

プレシアの顔がカァーっと一気に火照りあがる。

「……まっ、またそんなこっ恥ずかしい事を公衆の面前で言うんじゃないの」
「うふふふ、今日も朝からラブラブですね先輩方」

騒がしい二人に近寄る女の子が一人。

『ことは』
「おはようございます」
『おはよう』
「また朝から痴話喧嘩ですか?」
「聞いてよことは!」

プレシアが話し出し、下駄箱の扉を開いたと同時に、たくさんの手紙が落ちてきた。アリシアの方も同様だ。

「あらら、今朝もこんなに」
「3年になってまたファンが増えましたねぇ」
「もういい加減にして……」

プレシアはウンザリしつつも手紙を丁寧にかき集めひとまとめにしている。

「なんで私達なんかに?」
「何言ってるんですか、欧州系アメリカ人の双子で容姿端麗、才色兼備。おまけにスポーツ万能で頭脳明晰、
仲睦ましく同級・後輩の面倒見も良い。こんな3拍子も4拍子も兼ね備えた人そうはいませんよ。
今やここだけじゃなくて他校から見に来るファンも多いんですから」
「外人の双子でそんな大げさな、そんなこと言うなら日英ハーフのことははどうなのよ?」
「そうそう。小柄で可愛いし」
「私なんて、お母さんの血が濃くて」
「そのおかげで弓道のインターハイ出れたんじゃない、
なのはさんも物を当てることには天才だったって母さんも言ってたし」
「それよりぃ」

プレシアがことはの肩に腕を回す。

「男子校のだいち君とはどうなのよ?」
「そっ、それは……」

ことはは俯き耳まで真っ赤になっている。

「おうおう。ウブよのぉ」
「もう、からかわないでください、そういうプレシアさんはどうなんですかっ?」
「わっ、私!?」
「ダメよ。プレシアちゃんは無鉄砲だから一生私が面倒見るの」
「…………」

プレシアは本日2度目の熱いぐらいの顔の火照りを感じた。

「まったくもう!、私を気にかけてくれるのはうれしいけど公衆の面前で言うんじゃないの!!」

我を忘れるぐらい大声で叫ぶ。

「あのう、先輩……」
「何よ!!」
「そんな発言してしまうと周りのみんなが……」

落ち着き周りを見ると、そこには他の生徒達の好奇な視線が。
なにやら話し合っている、何を言っているかわからないが時折アブない単語が聞こえてくる。

「いっ、行くわよ!!」

ずるずると二人を引きずってゆくプレシア。その顔は終始真っ赤である。


「それじゃぁね」
「また明日」

放課後、挨拶を交わすクラスメイトを見送り、一人残った教室で帰り支度をする。

「さて、今日は母さんは遅くなるし、父さんも宿直だって言ってたから
久々にプレシアちゃんに手料理を振舞ってあげようかなぁ」

プレシアの喜ぶ顔を思い浮かべながら献立を考えていると

―――イツマデ…目ヲ逸ラシテイルノ?―――

「えっ!?」

誰かに問われ、そして気づくと周りの景色がガラリと変わっていた。
教室内は漆黒よりもなお深い陰、窓からさす茜色は鮮血よりもなお鮮やかな赤。
立体的な感覚は無く、まるで2色で塗られた平面の絵の中にいる感覚。

「なっ、なんなのこれ!!」
「……はじめまして」

どこからとも無く聞こえる声。
目の前の黒い壁には1対の濁った赤い瞳。
それを中心に壁から人が浮かび上がってきた。
色あせた金髪に血の気の無い透き通った白い肌。

「えっ……私?」

その姿はアリシアに瓜二つだった。

「えっ、なんで、なんでなんでなんで!!。あぐっ!」

鼓動が早鐘のように早く息苦しい。
状況を理解しようとするが、ワカラナイ、何モ理解デキナイ。
ただ流れ込むのは、絶対的な恐怖、一瞬でも気を抜けば事切れそうなほどのプレッシャーで私の中に流れ込んでいく。

「はぁっ!…はぁぁっ!!」
「ウフフフ……」

必死に意識を保とうとするアリシアの頬に彼女は優しく手を添える。
陶器のように白く氷のように冷たい手が。

「さぁ、すべてを思い出しなさい。そして……絶望なさい」
「はうっ!!」

手を額に置き、その瞬間、何かが流れ込んでくる。

「なにこれ……」

最初は何がなんだか分からなかった。
しかし情報の濁流に晒されていると蘇ってきた。

「はっ、はぁっ。今の私は幻想……、私のそうありたいと思うヴィジョン。
そうホントの私は時空管理局執務官、そしてお前は―――」
「そう、私はお前の陰、哀れな双子が戦い、お前が憎しみを抱いたとき祝福され生まれたもう一人の自分自身……」

光と闇は表裏一体、恐怖、怒り、憎悪、嫉妬、戦神は永い戦、または強烈過ぎるほどの出来事で
それら負の感情に精神を蝕まれ、そして闇へと誘う負の自分自身と対峙する。

「はぁっ、はぁっ……」

相手の正体が分かり、幾分か落ち着きを取り戻してきた。
しかし息苦しいほどのプレッシャーは今も襲い掛かってくる。

「さぁ、気を楽にして私を受け入れなさい」
「そっ、そんなことできるかっ!!」

まかりなりにもアリシアは戦神、神族の血を引く者。
対極である闇に堕ちるわけにはいかない。

「そんな強がり言っても無駄よ。アンタは妹を憎み殺しその手はすでに血塗られている、もう堕ちているのよ」
「確かにプレシアを殺そうとした。だけど憎しみに駆られることは――」
「それは嘘、アンタは両親を殺されたことで確かに憎悪に駆られた。その証拠に私が存在するのよ」
「私はお前を受け入れない。お前の存在を認めない!!」

闇の誘いを受け入れてしまったらプレシアのように闇に堕ち世界を脅かす存在になってしまう。
退くことが出来ても、一度開花した闇は永遠に消えず、永い時間を掛け自身を蝕み、最終的に闇に堕ちるか、
消滅するかのどちらかだ。

「そう、アンタがそこまで言うならそれでもいいわ。現実に戻りその有様を見て絶望してからでも遅くはない」

クスクスと彼女は笑い闇の中へと沈んでいく。
その空間は闇に満ちアリシアの意識も遠のいてゆく。


「はっ!!」

意識が急に呼び覚まされる。
眼前を占めたのは鉛色の空、そこからとめどなく雨が降り注ぐ。
状況を把握するため即座に目を配り周りを見渡す。
空の様子からはどれほどの時間が経過したのかわからない。
周囲の土地はカルデラのように抉れ、所々炎が上がっている。
アリシアは体中を泥と煤と傷にまみれその斜面に力無く寄りかかっていた。

「っ!、がぁぁああああ!!」

危険が無いと分かり、一安心したとたん、まるで全身がバラバラになったかのような激痛が全身を襲う。
あれほど激しい戦闘、そして高高度から衝突したんだ、骨の数本はもちろん内蔵のダメージも当然だろう。

「おねぇ……ちゃん……」
「!!」

雨あしに乗って微かに自分を呼ぶ声がする。
目を凝らしながら再び周りを見渡すと、抉れた中心部に水が溜まり、泥にまみれ蹲る者が一人。

「ぷっ、プレシア!!」

痛む身体に鞭打ち立ち上がりプレシアに歩み寄る。

「くっ!、わっ!」

痛みで一瞬気が遠のき、躓きゴロゴロと一気に斜面を転げ落ちる。
底に転げ落ちた瞬間、ガシャンと何かが割れる音がし新たな痛みが襲う。
水溜りに血が流れ、ぶつけた右肩と右頬が切れている。
水溜りで分からなかったが、カルデラの底は超高温で全体がガラス化してたようだ。

「くっ!」

腰にあまり力が入らず立ち上がることができない。
ガラスで腕を切るのもかまわず力を振り絞り匍匐でプレシアの元へ向かう。

「プレシア……」

身体のほとんどが水没し息も絶え絶え、力を振り絞り身体を起しプレシアを仰向けに抱きあがる。

「おねえ…ちゃん」

四肢が破裂し傷口から血を吐き出す、周りの水溜りは地の池のように真っ赤、
この様子だと身体はもうすぐ息絶えるだろう。
痛みで顔が歪むがその目は雲り無き純粋なもの。

「あなた、まだ……」
「憎しみに塗れ穢れたっ、私を消してっ、ほしかった。……だけど…私は闇寄りの狭間にいただけ。
ゼッドを殺させ憎み、くっ!、パパやママを殺し、かっ、完全に闇に堕ち、敵として消滅させてほしかったけど。
だけどまた完全に…は…おっ、堕ちていなかった、ようね」

堕ちたプレシアを止めるために全力を尽くしたのに、最後にこんなのって……ないよ……。

「お姉ちゃん……遺言…聞いてもらえるかな」
「ん……なに?」

耳を傾けその言葉を聞く。

「そんな……そんなっ!!。わあぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!!!」

最後の言葉を呟きプレシアは息絶えた。
だがその最後の言葉を聞き、私は気がおかしくなりそうだった。
私は呪った、この運命を、世界を。
思いっきり泣きたかった。だが涙は当の昔に枯れ果てていた。
雨あしが激しくなる、まるで泣けないアリシアを代弁するかのように。







あとがき

プレシア:……なにこの本編とは毛色が違う短編は?。
Krelos:前半だけな、ゴホン!、前半部分だけ急に頭に浮かんだんで付け足してみました。次こそエンディングです。





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