注:この作品には一部グロテスクな表現が含まれております、お気をつけください。
とうとうラスト!、それではどうぞ!!。


「わあぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!!!」

悲しみと絶望がアリシアを染め上げる。

“…………クスッ……”
「!!」

再び闇の自分が浮かび上がる。

“……………”
「……………」

彼女は甘い囁きでアリシアに語りかける。
絶望のどん底にいようが誘いに乗るわけにはいかない、
しかしソレは今のアリシアにとっては蜜のように甘いものだった。

「………」

プレシアを見つめる。
葛藤が続く、土砂降りの雨も止んだころ、アリシアは静かに目を伏せた。

――その提案乗ろう、しかし、私はまだ完全には堕ちない――。

その回答に彼女は薄い笑みを浮かべ、アリシアは静かにプレシアのその白い首筋に牙を立てた。


「アリシア三佐!」

鉛色の雲が晴れ、茜色の陽が差す。
その場に最初に到着したのは、ことは。
しかし彼女が呼んでも、アリシアは振り返らず一心不乱に何かをしていた。

「アリシアさん……ひいっ!!」

斜面を降り近寄ったことはが見たものは、戦慄の光景だった。

「はむっ!。くちゃくちゃ……」

辺りに漂うむせ返るような血臭。血の池、その中心、狂気に彩られた眼でアリシアは食事を始めていた。

「ちょっと!、何やってるの!!」
「うるさい!!。私とこの子はひとつになるの。そう、もともとひとつだったんだもん、
還るだけ…フフフフ……この子は私の中で生き続ける……フフフフ……」

殺気を漂わせ再び食事を始める。
ことはは怯え、ただ見ているしかできなかった。


「アリシア!、ことは!」

アリシアの食事が終わった頃だろう、機動六課の面々が集まってきた。

「何があったんだ、いったい?」

その光景は異様だとすぐに分かった。
アリシアは血溜まりの中で不気味に笑い。
ことはは膝を抱えただ怯えていた。

「………みんな……私ね、プレシアとひとつになったんだ。これでずっと一緒にいられるんだよ」

最初、その言葉の意味が分からなかった。
しかし、アリシアの周りに転がる残骸を見て理解した。

「アリシア……」

だいちは一歩出て、言う。

「アリシア=テスタロッサ=ハラオウン=ゼファー。君を第一級犯罪者として逮捕する」


第20話 トゥルーエンディング
Owing to you


こうして世界の命運を賭けた事件が終わった。
しかし私達はかけがえのない仲間を失った。
彼女の使い魔たるアルフも消えた。
それがその確実性を物語っている。

「フェイトちゃん、フェイトちゃん!!……」
「なんでや!、なんでや!!」

泣き崩れるなのはとはやて。
フェイト達の死を知らされ2人は泣いた。
年齢が二桁も行っていない頃からの親友、その親友の死に打ちひしがれるだろう。
だがそれも一時のこと、きっと2人は立ち直るだろう。
その強い心を以って。


ジェイル=スカリエッティ一味の旧アジト。
薄暗い通路を私は歩く、プレシアとの約束を守るために。
裁判中ということもあり、二人の監視役が付いているがそんなの関係ない。

「………」

ここでもプレシアは監禁され凌辱され闇に堕ちて……
やるせない気持ちが苛立ちを募らせる。

「………ゃぁ…………ぎゃぁ」
「!?」

微かだが赤ん坊の泣き声が聞こえる。
その泣き声のする方に向かい走る。監視役も後に続く。
段々と泣き声が大きくなり、辿り着いたのは寝室らしき部屋だった。
部屋は荒れ、壁中に血の跡や焼き焦げた跡が見られる。
その部屋の真ん中にあるベッドだけが綺麗に整えられ、そこに白い産着に包まれた赤ん坊がいた。
すぐ近くにはナニードロイドだろうか、赤ん坊をあやすためのおもちゃを持ったドロイドがうつ伏せで倒れていた。
機能は完全に停止している。

「この子が……」

火のついたように泣く赤ん坊を優しく抱き上げた。

「この子がプレシアの最後の子……」

抱きかかえると、今まで泣いていたのが嘘のように泣き止んだ。
人の温もりを感じて泣き止んだのだろう。その曇りなき眼でこちらをジッと見ている。
私に母親の面影を見ているのか、それとも私の内にある母親を感じ取っているのか、
どちらにしても、この子の父親と母親はもういない。
父親は父さんが殺し、母親は私が……食べてしまったから…………。

「……ごめんなさい……ごめんなさい……」

涙が毀れ赤ん坊を抱きしめ泣く。
私はこの子から全てを奪ってしまった。
両親も、これから訪れるであろう幸せも、何もかも。
だから決めた、この子を護っていこうと。

しかし……それは叶わなかった――――――。

「ゴメンね………」

裁判での判決は、禁固一ヶ月の後、管理局側による無期執行猶予、つまり永久従使である。
まぁ、罪状とか、考慮とか、いろいろあったが良く覚えていない、罪人になってまでまだ私の力を欲するか。
それより、あの子から私がいなくなるのがとてつもなく心配で、そしてとても痛かった。

「ごめんね……」
「そう落ち込まないで」
「私達もいるんだからさ」

私は今、はやてさんとアニスさんと一緒にいる。
法廷から留置場への輸送の際、提督、少将権限で少しの間時間をもらったのだという。

「私がいなくなったらあの子が独りぼっちになっちゃう……」
「そんなに心配しないであの子の面倒は私達が見るから、出てきたらまた一緒に暮らせるんだから」
「そうよ、私も力を貸すわ」

その後、アニスはアリシアの再審を届け出た。
アニスの呼びかけに神族の面々も行動に移した。
仲間を思う心に火をつけて。
しかし判決は覆らなかった。


「ゴメン、はやてさん」
「いいんや、一族で決まったことなんやし」

臨海公園で佇む二人。
その後、管理局の一部が今回の事件はガイア側にも責任があると訳の分らない主張を出し、
ユニバーサル・フォースに対しての罪状も加罪してきた。
かつてアルトを助けたあの心優しい局長は今回の件で解任され、暴走を止める者はいない。
話はU・F軍上層部にも行きわたり、あっさりと見切りを付け管理局加盟国から全面撤退する形となった。
目の前の空を覆う艦隊、U・Fのものである。
ほとんどの者は軍に戻り、一部の者は家庭や事情のため残ったが、
管理局を辞め、ミッドの市民権を取得し働いていた。

「これで管理局も昔の人手不足の時代に戻ってしまうんやな」
「本当にごめんなさい」
「いいんや、下手したらU・Fとの全面戦争や。
それは無いと思うけど1個分艦隊が相手でも管理局は滅ぶしかあらへん」
「12隻も?。単なる弱い者いじめになっちゃうよ」
「そやな、その半分で十分滅ぼせる」
「だけど総司令曰く、100歳にも満たないガキ共の戯言を真に受けるほど大人気なくは無いだって」
「光さんには大感謝やな」
「はやてさんはこれからどうなさるんですか?」
「そやね、六課をだいちに預けて私はこの子の面倒でも見ながら隠居生活しようかな」

はやての腕の中にはすやすやと眠るプレシアの子が。
禁固刑に処される際、アリシアははやてにこの子を託したのだ。
アリシアが赤ん坊に言った最後の言葉が“さようなら”だった。

「せやけど、なんでアニスちゃんでなくウチなんや?」
「私達が預かるときっとこの子を戦場へ招いてしまうわ。この子には幸せに暮らして欲しいと思ったんでしょ。
それにきっと他の意味もあるんじゃないかな…………」
「?」
「ところで、その子の名前まだ聞いてないんだけど、なんていうの?」
「発見されて1ヶ月ちょっとなんやけど……」
「仕方ないじゃない、いろいろ忙しかったんだから」
「まぁ、ええ。この子の名はな。ファミリア。ファミリア=テスタロッサ」
「ファミリア?、それってアリシアが?」
「産着の裾に縫い付けてあったみたいよ」
「そうか。ファミリアか………」

それはきっと闇に堕ち、死を悟った際、プレシアの最後の善の心が、
この子に家族と呼べる仲間が出来るようにと願いを込めて名づけたのだろう。

「テスタロッサって――――」
「フェイトちゃんの旧姓や。多分この子を犯罪者の家族にさせないためやと思うけど。自分達の縁の者と感じさせず、
さりげなく家族の証を受け継いだ名前ということでテスタロッサに決まったんや。
あっ、でも私達の養子になるんだからテスタロッサ・ハラオウンやね」
「ふっ、自分達との縁を忘れてほしい、でも家族である証をか。矛盾してるわね」
「せやね、でもそれでもいいんじゃないかな?」
「それじゃ、私ももうそろそろ行きますから」
「そうか。寂しくなるね」
「アーキならひとっ飛びですよ」
「せやな、アーキが直ったら時々みんなでそっちに行かせてもらうさかいよろしくな」
「ええ」

アニスはその場から去ってゆく。
彼女と顔を合わせたのはこれが最後だった。


この後、イノーブスによりばら撒かれた質量兵器の設計図により世界は混迷の時代を迎え、
実際核が使われ滅びた世界もある。
かつてのエース達は次代を生きる者に技術と意思を託し前線から離れていった。
そんな中、混迷の時代をわずか5年で終局させた若きエースがいた。
金の髪に赤い瞳。そして卓越した戦闘力、判断力。
その容姿から、ウミのエースの再来だと言われ、金色の死神と恐れられた。
実質、娘なのだから当たり前である。
それもいく年月を重ねれば静まり、アリシアも表舞台から姿を消した。


時は流れ、第二次クラナガン・クライシスから14年後――――。
新暦100年4月。

「それでは父さん。母さん、行ってきます」

家の前に金髪紅眼の少女が立ち、彼女の父母が見送りに出る。

「ほんとに行くのかい?」
「ええ、もう決めたことだし、曲げられない」
「そうか……だいちに会ったらよろしく伝えてくれ」
「父さん。兄さんは六課長だよ、訓練生の私が顔を合わせるわけないじゃない」
「まぁ、それはそうだが」
「それじゃ行ってきます」

走り行く娘の姿をはやてとクロノはいつまでも見ていた。

「運命の悪戯か、はたまた別の何かか、結局ファミリアは管理局に入ってしまったな」
「そうやね。アリシアが現れたら顔向けできへんね……」

15歳になるファミリアは急に管理局に入ると言い出し、今日、陸士訓練校に入学となった。


「え〜と、32号室、32号室と……」

入学式が終わった後、自分の部屋となる寮に向かう。
寮は二人部屋で同じ部屋になった子が訓練校でのパートナーとなる。
どんなパートナーか、ファミリアは期待と不安を隠しきれないでいた。

「あった!」

目的の部屋を見つけ中に入ると

「あっ……」

扉を開けるとそこには女の子がいた。
ピンクの髪にファミリアと同い年ぐらいだろうか、幼い顔立ちである。

「あなたもここ?」
「はい!。パレット=モンディアル、14歳です!!、よろしくお願いします!!」

緊張してるのか少し大声になっている。

「私、ファミリア=テスタロッサ=ハラオウン、15歳、これからよろしくね」
「はい。……ファミリアと呼んでもいい…ですか?」
「それじゃ、私もパレットと、これからよろしくね」
「こちらこそ」

その後、二人は必要なものだけを荷物から出し、訓練のために更衣室へ。

「そういえばパレットの術式は?」
「私はミッドチルダ式。でも戦闘力が弱いからもっぱら補助魔法、特にブースト系かな、お母さんに習ったの。
ファミリアは?」
「私は古代ベルカ式」
「それはまたコアだね」
「師匠達が古代ベルカだったからね、だからデバイスも持ち込み」

そうして見せたのは剣型のデバイス。

「私の相棒、グラムよ」
「実は私のデバイスも持ち込み。ブーストデバイス、ヘルメスです」

パレットの両腕には一対のグローブが

「パレット。準備できた?」

そこに現れたのは、亜麻色の髪をツインテールにした女の子と青いショートの女の子。
どちらも私達より年上に見える。

「あっ、デュアさん、プレオさん」
「ん?。この子ってパレットのルームメイト?」
「うん、ファミリア=テスタロッサ=ハラオウンちゃん」
「ファミリアです。年は15歳です」
「こっちの二人は家族ぐるみのお付き合いでディアリスさんとプレオさん」
「デュアリス=グランセニックよ、年は15で術式は変則ミッドチルダ式」
「プレオ=ナカジマだよ、年は14で術式は近代ベルカ式」
「よろしくね」
「よろしくお願いします」

その後、4人は持ち込みデバイス組ということもあり、訓練やプライベートでも絡むようになった。


1ヵ月後

「ん?」

届いたのは宛先も何も書いていない封筒。

「何ですかそれ?」
「さぁ、なんだろう?」

封筒を開けると手紙と紙切れが入っていた。

「?。!!!!」

その紙切れを見てパレットは驚いた。

「ふぁっ、ふぁっ、ファミリア!!、これってこっ、小切手!!」

ファミリアもそれを見て驚いた。
そこには今の自分達には十分すぎるほどの額が書き込まれていた。

「そっ、そっちの紙には?」
「えっ、え〜と。わずかではありますが、困った時に使ってください。
私はいつまでも見守っています。……すっ、ストーカー?」
「こういう場合って“アシナガオジサン”って言うんじゃない」
「“アシナガオジサン”?」
「うん、第97管理外世界にね、名前も伝えずに援助する人をそう呼ぶんだって」
「へぇ〜」

ファミリアは久々の家族への連絡がてら、はやてにそのことを聞いてみることにした。

「“そんな御伽噺みたいなことがあったんか?”」
「うん、パレット…私のルームメイトが第97管理外世界がそういう呼び方するって言ったから
母さんなんか知らないかなと思って」
「う〜ん……!!」
「(他にも別な意味があるんじゃないかな)」

アニスが言った言葉をはやては今理解した。

「なんや…素直に会いに来ればいいやろに……」
「“どうしたの母さん?”」
「ううん、なんでもあらへんよ。そのお金はありがたく受け取っておき、無駄使いしたらあかんよ」
「“うん、わかってる。それじゃあね”」
「ほな」

通信が切れた後

「主はやて……」

現れたのは変わらぬ若さを持ったシグナム。

「シグナムか」
「すみません。立ち聞きするつもりは無かったのですが」
「いいんや。それにしてもアリシアは何処に行ってしもうたんやろな?」
「管理局での永久従使ですから探せばいるんでしょうけど」
「向うが隠れてしまうんやね。……あの子にもいつかは話さなかあかんね」
「そうですね……」


それから何ヶ月か経った日のこと。
休日を利用して仲良し4人組はミッド中央のショッピングモールに来ていた。

「動くなっ!!」

しかし、運が悪いことにロストロギアが絡む事件に巻き込まれてしまったのである。

「いい加減あきらめて出てきなさい!」

事件発生から5時間。
外では近くに偶然居合わせた執務官ティアナ=グランセニックが交渉に出ていた。

「うるせぇババァ!!」
「ババァとはなによ!!。私はまだ41歳だっ!!」
「まぁ、まぁティアナさん落ち着いて」

執務官補佐の女の子が必死で宥めている。

「大丈夫だからね、すぐに私のお母さんが助けてくれるから」
「すぐに?」
「うん、あそこにいるのがそう。時空管理局の執務官なんだよ」

デュアリスに励まされ子供が泣き止む。

「ん?。お前あのババァの娘か、へっ、丁度いい来い!」
「ちょっと放しなさいよ!!」
「うるせぇ。おいババァ!、娘の命がほしかったら黙ってろ!!」
「デュアリス!?。何であんなところに?。そういえば行くって言ってたわね」
「どうします?」
「……私が行く」

現れたのは白いフードを被った女性。

「あんた!、今まで何処に!?」
「いいから、私が突入するからフォローをお願い」

一瞬にして場の空気が変わる。
彼女が放った殺気に犯人グループが怯みだす。

「なっ、何なんだよテメェ!!」
「単なる通りすがりの執務官よ」
「フッ、ふざけてるのかっ、とっ止まれっ!!」

犯人達は銃型のデバイスを向けるが、怯まず歩み寄ってゆく。
双方に漂う息をも呑む緊張感。
そしてその緊張感を破ったのは犯人グループだった。
絶えられなくなった犯人の一人が発砲したのが合図となった。

「シェドザード!」
(SaberForn!!)

犯人の放った魔法弾をあっさりと避け建物の下の階へと潜り込む。

「?。!!!」

轟音と共に二階部分の一部が崩れた。

「あの子、柱を壊しちゃって!」
「わっ、わっ、わっ!!」

犯人と人質がいるフロアはそのまま一階へと落ちてきた。

「チッ!、あのアマ、やりやがったな!」

閃光が走り、犯人達を次々と気絶させ捕らえてゆく。

「すっ、すごい……」

素早く、なおかつ正確に事を成す姿に4人はただ呆然と見ていた。

「……大丈夫?」

全員を捕らえると、アリシアは腰が抜け、立てないファミリアに手を差し伸べた。

「あっ、はい。ありがとうございます」

経たせてもらうと、そこにティアナ達が駆けつけた。

「母さん」
「あなた達、大丈夫?」
「はい。大丈夫です」
「ティアナさん……あと頼みます」
「待ちなさい。あんた今まで何処にいたの?」

アリシアは答えず、行こうとしたが

「待ってください!。お名前を聞かせてくれますか?」

ファミリアに言い止められ、アリシアは驚き迷うが

「アリシア……執務官、アリシア=テスタロッサ=ハラオウン=ゼファー」

と言い残し、去っていった。

「まったく、あの子ったら」
「テスタロッサ=ハラオウン……ティアナさん!。あの人とお知り合いなんですか?」
「ん?」

ファミリアに聞かれるが、ティアナも当時の事件を知っているのではぐらかすことにした。

「まぁ、機動六課時代の後輩よ。そんじゃ私は後始末があるから、あんた達も気をつけなさいよ」


「“そりゃ災難だったなぁ”」

その日の夜、いつものようにはやてと喋っていると

「ねぇ、母さん。母さんって機動六課の創設者で初代部隊長だったんだよね?」
「“ん。そうだけど、それがどないしたんや?”」
「……アリシア=テスタロッサ=ハラオウン=ゼファーって女の人知らない?」

その名前を聞き、はやての顔が一瞬こわばった。

「そっ、その名前を何処で?」
「私達を助けてくれた執務官が言っていたの。一目合ったら、なんか他人のようには見えなくて、
逆に懐かしいって思って。ハラオウンって家のファミリーネームだよね?。
でもそんな名前の親戚、私会った事ないよ?」
「“…………………”」

はやては頭をポリポリとかき

「“いつかは話さんと思っていたけど、まさか今日になるとはなぁ”」
「何か知ってるの?」
「“ここからは酷な話になるんやけど……覚悟して聞きや”」
「うっ、うん……」
「“率直に言うとな、あんたは私が産んだ子じゃないんよ”」
「!!」

ファミリアは頭を鈍器で殴られたような感覚に襲われた。
同時に“直球すぎる!”と心のツッコミも入れた。
確かに自分の髪や目の色は他の家族と違うけど、これは直球すぎる!。と

「“これを見いや”」

モニターの小枠に映し出されたのは、1枚の写真。
赤い髪の男性と金髪の女性、そしてその髪の色を受け継ぐ幼い少女達。

「“これはな、うちの親友だった家族の写真や。もう19年ぐらい前のものや。
金髪の女の子があんたが言っていたアリシア=テスタロッサ=ハラオウン=ゼファー。
そして赤い髪の女の子がプレシア=テスタロッサ=ハラオウン=ゼファー、あんたの産みの親や”」
「私の本当のお母さん?」
「“14年前の第2次クラナガン・クライシスって分かるやろ?”」
「うん。授業で習った」
「“私ら当時の機動六課が中心になって解決したんだけれど、
その時とある理由であんたを預かることになって今まで育ててきたんや”」
「理由って……どんな?」

はやては静かに首を横に振った。

「“それは私から話す事はできひん。私の口からは……”」

はやての様子から、相当辛いことがあったんだろうと、ファミリアは思った。

「その人、何処にいるの?」
「“管理局内にいることは確かや。でもな、向こうが隠れてしまうねん。
運よく仕事で一緒になればいいけど、陸士では難しいなぁ”」

「そう……分かった。母さん。私決めた」
「“えっ?”」
「私、執務官になる!。執務官になってアリシアさんに会う」
「“執務官になるって、ちょっと、わかってるんか?。年に2回の難関な試験をパスしなくちゃならんよ?”」
「分かってる、でも彼女と会うためには同じ土台に立つのが一番いいと思うの」
「“………さすがアルトくんの血筋や。分かった。私はもう何も言わん。あんたの好きにせい”」
「母さん」
「“でもね、一度決めたら絶対諦めたらアカンよ”」
「わかってる」


その後、ファミリアは陸士学校を卒業するまでを準備期間とし、訓練の合間に執務官になるため猛勉強をした。

「う〜っ……」

ファミリアは目の下にクマを作り、霊鬼のように歩っていた。

「ファミリア大丈夫?」
「あんた、執務官目指すって言ってからほとんど寝てないじゃない」
「ダメだよ、早く寝なきゃ」
「大丈夫だって、私、体力だけは自信があるの」

しかし、口ではそう言うものの、身体は限界に来ていた。
だが、アリシアに会うため、その気力だけで何とか耐えてきた。

「だいじょう…ぶ……」

急に眩暈がしてファミリアは倒れた。

「ファミリア!」
「ちょっと!」
「言ってるそばから!」


「…………」

ファミリアが次に気づいたのは医務室のベッドの上だった。

「ここは……」
「目が覚めた?」

視界に入ってきたのは、医務室の先生。

「あなた過労で倒れたのよ。運んできた子達から事情は聞いたわ。
執務官を目指すのはいいけど、もう少し体調管理をしっかりしなきゃね、
あなたぐらいの歳で無理しちゃうと後々怖いことになるからね。
教官には私から言っておくから今日はゆっくり休みなさい」
「でも……」
「いい、これは医務官命令よ」
「はい……」

先生が去っていき、ファミリアはそのまま深い眠りに落ちた。


「ううっ……」

目が覚めるとあたりはもう真っ暗。
どうやら夜まで寝てしまったらしい。
人の気配は無い、完全に静の空間だった。

「!?」

だが、その静の空間に一陣の風が吹き、部屋を照らす月明かりも遮られた。

「誰!?」

振り向くと窓辺に座る人影。
人影は立ちこちらに近づく、その細いラインから女性だろうか。

「なぜ執務官になりたいの?」
「えっ?」

その声には聞き覚えがあった。
目が暗闇に慣れ、微かな月明かりがその姿を照らす。

「アッ、アリシアさん……」

姿を見せたのは、アリシア本人だった。

「こんなにまでなって、なぜ、執務官になりたいの?」

酷く哀しい表情と声で問うアリシア。

「それは……あなたに会って、14年前の事を聞くためです」
「14年前?」
「はい、なぜ本当の母さんが今の母さんに私を預けたか、その時何が起こったのか、全てを聞き知るためです」
「そう、はやてさんは喋ってしまったのね。……でも今はダメ、
今話したらきっとあなたの心は私みたいに壊れてしまう……」
「それってどういう――――」
「今は真実を受け止めるだけの心を養いなさい。行き急ぐように私の元に行こうとしないで」
「でもそれじゃいつまでたっても」
「私達は永遠の中に生きる者、時が来れば私は再びあなたの前に現れ、あなたは全てを知るでしょう。
その時まで今のような無理はしないで。それじゃ……さようなら」

アリシアは座っていた窓に戻り、足をかけ、身を乗り出した。

「ちょっとここ二階!!」

ファミリアは慌てて窓から身を乗り出すが、何処にもいない。
空を飛んだ形跡もないし、下にも人の気配は無い。

「不思議な人……でも、永遠の中を生きるって、どういうこと?。今度はいつ会えるって言うのよ!」

ファミリアは少し腹立たしい気持ちでベッドに潜り込んだ。

「…………」

アリシアは訓練校の一番高い屋根の上に佇んでいた。

「真実を受け止めるだけの心を養いなさい……か。ううん。心の準備が出来ていないのはきっと私ね。
あの子に真実を伝えるのが怖くて……」

アリシアは自らを抱きしめ、背から翼を広げる。
方翼の半分を漆黒に変色させた白き翼を。

「あの子が真実に辿り着くのが先か、私が消滅するのが先か………」


その後、ファミリアは教官達にこっぴどく叱られ、無理をしない程度に訓練と勉強を両立させていく。
卒業後、陸士部隊に属しながら、本格的勉強を開始した。
2年後、執務官試験を一発合格し、さらに数年後ファミリアはだいちが指揮する機動六課、
ライトニング分隊分隊長に就任、だいちとことはの子供で子供の頃から一緒にいたヒカリ=ハラオウンと
ミライ=ハラオウンに再開する。
今2人は、スターズ分隊、ストライク分隊を率いている。


それからまた時は過ぎる、永い永い時が。
デュアリスもフレオもパレットも、みんな自分の夢を叶えそして老いてファミリアを置いて逝ってしまった。
今、古くから彼女を知る者はもうこの世にはいない。
不死であるヴォルケンリッターも最後の夜天の主と決めたはやてと共に安らかな眠りを選んだ。
はやては死の間際、ファミリアに不老不死のことを伝えた。
ファミリアを襲ったのは深い孤独感。
だが今はもう寂しくない。

「先生、何処行ってたんですか?」
「ん?、ちょっと散歩にね」

今、ファミリアは執務官長の立場にいる。
週に数回、若い執務官や補佐官を集め教室を開いている。
皆、自分を先生と言い慕ってくれる良い生徒達だ、何が寂しいわけあるか。

「そういえば先生、あの噂って知ってますか?」
「噂?」
「管理局で時々目撃されるゴーストです」
「ゴースト?」
「はい、女の姿で制服から執務官らしいんですけど登録名簿にも載っていなくて、
その姿もほとんど現さないことから局員達の噂になっているんです」
「現場での目撃談もありまして、Sクラスのドラゴンを一人で倒したつわものらしいですよ」
「げっ!、何だよそれ、昔の神族みたいじゃんかよ」
「俺の仕入れた情報だと200年ぐらい前の執務官名簿に記録があったらしいぞ。
データはほとんど壊れて名前ぐらいしか分からなかったみたいだけど」
「それじゃ本当に幽霊か神族のどちらじゃんかよ」
「その名前ってなんだか分かる?」
「え〜と、たしか、アリシアとかって言ってたな」

その名前を聞きファミリアは驚き同時に安堵した。

「そうか、またいてくれてたんだ……」
「先生、なんか知ってるんですか?」
「その人はね、私の目標なの」
『目標?』
「ええ。私が神族だってみんな知ってるわね?」
「はい」
「ぶっちゃけ言うとね、不老不死って母さんから聞かされた時はものすごい孤独感に襲われてね、
仲間達が老いて死んでも私はそのままの姿で行き続けなくてはならない。正直死にたいって時もあったわ。
でもね。あの人がいたから生きて行こうって思えた。あの人に会って真実を聞き出すまでは生きようって。
私は今、あの人に会うために生き続けているとになるの」
「…………」
「まぁ、今はあなた達もいるしね」
「俺達はついでですか〜?」
「まぁ、そう不貞腐れない。さぁ、授業を始めるわよ」
『は〜い』


薄暗い一室。
その部屋の主であるアリシアはベッドに横たわっていた。

「ハァ!、ハァ!……ゴホッ!、ゴホッ!」

荒い呼吸をし、顔も少し窶れ気味だ。

「ハッ!、ハッ!。どっ、どうやらっ、私が先に消滅するみたいねッ……」

呟くように喋る言葉を唯一聞いているのは、ベッドの横で見守っている2人の男女。

「結局……私の口から話す勇気は持てなかったわね……ウッ!。わっ、私はもうそろそろ逝くわ。
お願いわっ、わたしの代わりにあの子に真実を伝えて、そして力になってあげて」

200年前、あの時の決断のツケをアリシアは今背負おうとしていた。
光に生きる神族にとって、対極に位置する闇は劇薬も同然。
強靭な精神により闇への誘いを断ち切ったとしても、心の闇は残り永い年月をかけその身体を蝕んでゆく。
アリシアは今まさにその状態、身体はほとんど蝕まれ、いつ消滅してもおかしくなかった。

「そして最後に……ごめんなさいと……頼んだ…わ…よ…、アルヴァレスタ…シェドザード………」

最後の言葉を残し、アリシアの身体は黒い霧となり散っていった。

『承知しました……どうか安らかな眠りを永久に……』

2人は空になったベットに向かい静かに言う。


外に出ると穏やかな風がいつもと変わらず吹いていた。
2人はファミリアの元へ向かう。
彼女に真実を話し、彼女の力になるために――――――。

Fin







あとがき

Krelos:トゥルーエンディング!、これで本編は終了で〜す!!。
アリシア:いやぁ〜長かったわねぇ〜。
Krelos:ここで補足を二つほど、一つ目はファミリアとパレット、デュアリス、プレオとの出会いのシーンなのですが、
あの事件以来機動六課が解散になり隊員達もバラバラになったので
ハラオウン家の人々との交流は仕事以外無い設定なのでまったく知らないことになってます。
二つ目はアリシアが持つシェドザードですがプレシアのものです。
本来マテリアルファクトは創り出した本人以外触れられないので回収は不可能ですが、
プレシアを食ったことによりある程度は触れるようになり回収しデバイスに再封印したものを使っています。
ラストシーンでアルヴァレスタと共に人間化していましたがそれはファミリアを助けるためにアリシアが創造した姿です。
プレシア:補足はいいんだけどさ、これほんとにトゥルーエンド?。私食われてるし……。
Krelos:一部バットエンドテイストな部分がありますがこれが自分の描いたこの物語の終焉です。
サブタイトルの“Owing to you”これは訳すと”あなたのために“という意味があります。
アリシア:この物語では誰かのために戦い、守り、生きていくことが描かれていたってこと。
プレシア:まぁ文才が乏しくてうまく伝えられたかわからないけど。
Krelos:それを言われると頭が痛い……。ともあれここまで読んでくださってありがとうございました。
この後は外伝短編をひとつ出し、外伝長編の着工に取り組みたいと思います。
アリ&プレ:それでは皆さんさようなら〜〜〜〜!!。





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