「クロノ、なぜ残っているの?」 部屋に残ったのはナイジャとリンディ、そしてクロノだった。 「今後の打ち合わせだろ?。僕が担当するかもしれないしな」 「そうですか。……先ほどは私達も協力すると言いましたが、正直乗り気ではない。 特にアルトには戦ってほしくありません」 「……今頃怖気づいたのか?」 「いや。彼は不安定すぎるのよ。クロノ、あなたも見たでしょ固有結界内でのアルトの暴走」 クロノは結界内でのアルトの変貌を思い出した。 「ああ、あれは確かに凄まじいものだ」 「16にもなって未だに一人前じゃないからね」 「一人前とそうでないものとはそんなに関係があるのか?」 「大有りよ。私達の成人の定義はね、15歳の誕生日を迎えた日にマテリアルファクトを生み出している事なの」 第7話 アルトの過去。そして居候 「マテリアルファクト?」 「簡単に言ってしまえばその者の信念を具現化した武器ね。 魔力の大半をその身に宿し、自分の信念のもと振るうもう一人の自分。 それがマテリアルファクト。一族の誰もが持っているものよ」 「自分の信念が具現化した武器か……」 「クロノは見たでしょ。アルトが胸から引き抜いていた剣の形をした光を」 「ああ」 「あれがマテリアルファクト。でもただ形だけで中身が空っぽなモノ。 今のアルトは強大な力を持った子供がその危険性を知らないのと同じ状態」 「それは危険ですね」 「家族や恋人。大切なものを守る。自分の正義を貫く。どんな小さなことでもかまわない。 私達の旅もね、そのきっかけを探すのが目的だったの」 「それで目的は達成できたのですか」 「いいえ。やはり昔のことを引きずっているのね」 「昔のこと?」 「なに。彼、ちょっとしたトラウマを持っていてね」 「もしよかったら話してくれない?」 「…………」 ナイジャは話していいものかと考える。 「もしかしたら何か力になれるかもしれないから」 「……私が母様から聞いた話だと、あれは12年前。アルトが4歳のときのことだった」 そして意を決し、喋りだす。 「その日ナウシズ、アルトのお母さんとアルト達3兄弟は出先の星でたくさんの他の人達と一緒に人質されたのよ。 普段ならナウシズの相手にもならない雑魚だったんだけどね、運の悪いことにナウシズが“あの日”で役に立たなかったわけよ」 「あの日?」 「クロノ、それ以上聞くと舌切るわよ」 「………」 「あいつらはそれをいいことになぶり殺しにしようとしたわ。その時恐怖に駆られたアルトの力が暴走した」 「あの凄まじい力がか?」 「犯人達や人質は死にアルト達だけ生き残った。そして目の前にはその余波に巻き込まれ瓦礫と化した都市。 人の死体の山。その都市だけじゃない近隣の都市も巻き込んだ大災害になった」 『…………』 「それがきっかけとなり、アルトは一人でいることが多くなった。 自分の近くにいれば殺してしまう、何かのトラブルに巻き込んで不幸にしてしまうことを恐れているの。それ故信念も持てず未だ半人前」 「彼の雰囲気からはとてもそうは見えないけど」 「母様と父様のおかげでなんとか人と知り合うまでは回復できたの。でも親友や恋人といったより親密な関係はまだ激しく拒絶するの」 「都市を巻き込む魔力量。ほんとに君達は僕達と違いすぎるな」 「アルトはね、特別な一族なの。俗に銀眼の一族と呼ばれている神族でも規格外の一族」 「僕やシグナムさえも手玉に取られていたからな」 「ほんと!?、なのはさん達以来の逸材ねぇ、ねぇ、管理局で働いてみる気はない?。福利厚生、各種保険もバッチリよ!!」 目をキラキラさせて勧誘してきた。 クロノは思った。もうすぐ4つ目の大台になろう我が母の異様な変わり様に、年を考えろと。 その前に場の雰囲気を読め。 「クロノ。今とても失礼なことを考えなかった?」 「……いっ、いや……」 「誘ってくれるのはうれしいのですが、まだ修行中の身で……。それにあなた達の組織は私達にとって窮屈すぎる。 沢山の者の中で秀でた我らをうまく活用できるのか?、非殺傷指定魔法なんていうあまちゃんな妙技もできない我らを?」 ナイジャの雰囲気がだんだん重圧を帯びたものに変わってきたのを二人は感じた。 「我らの法にできるのは敵を殺すのみ……数多の戦場の中で敵を殺し殺し殺し!!……」 顔に手をやった指間から見覚えのある眼が現れた。 そう、結界内で見せた狂気を帯びた銀色の瞳……。 「そして最後に闇に堕ち、母様や父様に殺されるの……。フフフフ、アハハハ……」 狂気を帯びた笑い。放つ重圧で息苦しく今にも押しつぶされそうだ。 「ククク……クッ!」 突然ナイジャの体中に赤い複雑な魔法陣が浮かび上がった。 「どうした!?」 「どうやら、母様から制限を受けたみたい。後は…任せ…た…」 倒れざまに言い地に伏せる頃には元の大剣に戻った。 「ナイジャ?」 「ナイジャさん?」 二人が声をかけるがナイジャは一言も声を発しない。 「仕方ないわね、私達だけで決めるしかないわね」 「はい。ナイジャは後で僕がアルトに届けます」 「助かるわ」 「ふふっ。かわいい寝顔だなぁ」 フェイトはスヤスヤと眠るアルトの寝顔を見ながら通路を進んでいた。 実際、ちびアルトをもっとも愛玩しまくっていたのはフェイトである。 「むにゅむにゅ…兄貴、その肉は俺のだ……」 何か夢を見ているのか、小さな手を仰いでいる。その姿がとても愛くるしい。 「はい、とうちゃ〜く」 彼らの仮住まいである医務室に到着した瞬間。 「あっ、わっ!!」 医療機器のケーブルに躓き前のめりに倒れ、お約束のとおりにアルトの唇にキス。 まるでどこかの漫画のシュチュエーションのようなドジっぶりである。 『………』 その上、運が悪いことにフェイトの目の前にはパチクリと開いたアルトの瞳。 躓きよろめいた拍子に眼を覚ましたのである。 「あっ……」 口を離すと二人を繋ぐ半透明の糸。 「……フェイト…いくら見た目かわいいからって眠っている幼児を襲うこと無いだろ?」 「ちっ、違うよ!!、これは…そう事故、ケーブルに躓いちゃって……ゼッ…絶対事故だからね!!。それじゃまたっ」 パニックになりながら部屋を飛び出した。 「なんなんだ?」 タッタッタと通路を駆ける。それもだんだんとゆっくりになり、徒歩、そして足が止まった。 「………」 フェイトは唇に手を当てる。 「……キス…しちゃったんだよね……」 相手が本当の幼児なら遊びでキスぐらいはする。しかしアルトは、今は幼児の姿をしているが、本当は自分よりひとつ年上の少年。 「……」 それを思い出し顔がトマトみたいに真っ赤になる。 「なんでこんなに熱くなるんだろう?」 彼のことを考えると胸が熱くなり苦しくなる。 これは恋?。 いや、アルトとはついこの前出会ったばかりだ、恋とは長期にわたって芽生えるもの。 しかし一目惚れというものもある、確かに彼の第一印象は綺麗な人だと感じたけど。 フェイトの中で色々な思考が渦巻く、今の状態がどういうことか必死に答えを導き出す。 しかし答えは出ずまた思考する。 困惑する中、無意識に笑みをこぼしていた。 「何だったんだ?」 首を傾げていると、ビリーセストを持ったクロノが来た。 「どうしたんだ?」 「ナイジャを運びに」 「何かあったのか?。いや、言わなくても見当はつく」 「彼女から、君の事を聞いた」 「・・・・・・べつに、俺にとって隠すようなことでもないし。どうせ俺はもうすぐ死ぬ運命だ」 「どういうことだ?」 「旅に出て1年。その1年でどうにかできなければ、姉貴と兄貴が俺を殺す」 「殺すって・・・どうしてだ!!」 「予防策だよ。このまま生き続けて、いつか自らの力に溺れ闇に堕ちることのないようにと」 クロノは思った。あのような暴走を引き起こさないためにかと 「ナイジャもそうなのか?」 「あいつは魂の生成時に事故に逢ってな、明るく振舞っているが、精神が不安定なんだ。 逆に妹のほうは精神は安定していても表情が乏しい。二人がいてはじめて均等が取れる。 殺すところまでは行っていない。死ぬのは俺だけでいい」 そして、人生を半ば諦めている言いっぷりに 「婆ちゃんの時だって大変だった。ただ血を浴びたいがために関係ない人達を殺し、子である親父達をもこの手にかけ。 最後は爺ちゃんと相打ちになった」 クロノはひどく腹を立てた。 「ふざけるなよ!!。この世にはな、悲しい状況にあっても強く生き抜いている人だっているんだ!!」 勢いに任せてアルトの胸倉を掴む。 苦しんでいる子を、自分が傷ついてなお、全力で助けようとした。 母親に“人形”と言われても、対等に接してくれる親友が出来、強く生きることを決意した。 過去に犯した魔道書の罪を受け入れ、共に強く生きようとした。 そんな強い娘達をクロノは見続けてきた。 「軽々しく死ぬなんて言うな!、最後まで足掻き続けろ!!」 「ならお前は見たことがあるのか!。何の罪もない人達が、ただそこにいただけなのに沢山、沢山死んだ!!。 俺の、俺のせいで・・・・・・。俺が死ぬより、俺のせいで誰かが死ぬのが、怖い。怖いよ・・・・・・」 クロノの胸中から嗚咽が聞こえる。 (・・・・・・) その様子をビリーはただ黙って見ていた。 そして内心驚いていた。 この1年間、一度も感情的になったことはなかった。 どの世界にいても人との接触を極力避けてきた。 だがこの世界では違う、そう確信付けるのはアルトから“あの言葉”が出たからである。 ビリーセストは願った、悲運を切り開き幸福を掴めますようにと――――。 アースラが本局に停泊して二日目。 アースラの整備作業が窓から見えるレストルームにアースラのブリッジクルーやなのは達が集まっていた。 そして皆の前にクロノが現れる。 「皆も知ってのとおり、今回我がアースラはロストロギア回収を担当することになった」 皆に緊張が走った。 「闇の書事件以来のS級ロストロギア、いやそれ以上の危険な代物らしい。 みんな、気を引き締めるように」 『はい!』 「メンバーは我々の他に高町教導官、八神捜査官とヴォルケンリッター。そして民間協力者としてアルトリウス、ナイジャも加わる」 「宜しくお願いします」 「今後の行動についてだが、ロストロギアがアルトリウスを狙っていることが判明したため、アルトを囮に現れるのをひたすら待つことになる。 本人の希望もあり海鳴の駐屯地を作戦本部とする」 『了解』 「それでは各自準備にあたってくれ」 「へぇ、ここが駐屯地か。結構いい部屋だな」 アルトはリンディ達に連れられ海鳴の家に来た。 「自分の家だと思っていいのよ。必要なものはこっちで買い揃えるから」 「大丈夫ですよ、旅の荷物ならフルで持っていますから」 「でも、持っていた荷物は少なかったよ?」 アルトは小さいバックから何かを取り出した。 それは薄い布製の白の手袋、手甲に赤い宝石が埋め込まれそれを中心に金の線模様が走る。 それを右手に装着する、第2間接から指が露出したファイブフィンガーグローブのようだ。 「……」 アルトは方膝立ちになり右手を床に近づける。 宝石が淡く光り光の塊を吐き出す。知れは床に着くと形を成し、登山用の大きなリュックになった。 「これはリレットと言って、この宝石の中は四次元構造になっていている。 生物以外だったら物も魔力も何でも格納できるアイテムだ」 「へぇ〜。便利だな」 「どれ、晩飯の買出しでもしてくるかな」 外を見るともう夕方だった。 「その夕食なのだがな、ささやかな歓迎パーティを開かせてもらった」 「パーティ?」 「ええ、ついこの前会ったばかりとはいえ私達はチームよ、それで親睦を深めてもらおうと思って」 「親睦……」 アルトの顔が一瞬暗くなった。 (いいですね、私は賛成です) そこに壁に立てかけてあったナイジャが声をかけた。 「お前、今食えねぇだろ?、人間形体になる魔力もねぇのに」 (何を言う、食物摂取で魔力を回復するの) 「まさかその姿で食うとかいわんよな?」 「何を馬鹿な、ちゃんと人の姿になってです」 「魔力は?」 「母様からこれ以上取るとお体に障りますので、あなたからです」 「!!」 アルトは喪失感に襲われ方膝を付いた、赤い髪の色が気持ちばかり薄くなっている。 同時にビリーセストが輝き、人の姿になった。 「いきなりだな」 「さて、行きましょうか」 「人の話聞けよ……」 みんなが来たのは駅前にある翠屋という喫茶店。 「閉まってますね」 ナイジャの言うとおり扉にはClousの下げ看板が。 「まぁ、入ってくれ」 そんなことは気にせずクロノは入っていく、案の定店内は薄暗く、閉店したと感じられる。 パン!!。パン!!。 アルトとナイジャが入ると突然クラッカーの鳴る音が聞こえ、店内が明るくなる 。 『ようこそ、翠屋へ!!』 そこにはなのは達の他に色々な人達が来ていた。 「さぁ、二人とも真ん中に来て」 エイミィが二人をみんなの前に誘導する。 「あの、エイミィさん?」 「大丈夫だよ、ここにいるみんな管理局のこと知ってる人達だから」 「そういうことだったら、いいか。はじめましてアルトリウス=ゼファーです」 「同じくビリーセスト・キャリバー=ナイジャです」 その後、パーティが行われた。 「さぁ、どうぞ一杯食べてくださいね」 栗毛色の髪の女性がにっこりと笑う、雰囲気がなのはに似ている。 「ありがとうございます。え〜と」 「桃子、高町桃子よ、よろしくね」 「はい」 そこに大勢連れてなのはが来た。 「アルトさん、ナイジャさん。ここで私の家族と友達を紹介します」 「おっ、おう」 みんな良い人そうだが、一人二人、こっちの世界の人もいる様子。 「え〜と、まず、お父さんお母さんの高町士郎さんと桃子さん。お兄ちゃんの月村恭也さん。 お姉ちゃんの高町美由紀さん、恭也さんの奥さんの月村忍さんに妹で私の親友の月村すずかちゃん。 すずかちゃん家のメイドさんでノエルさんとファリンちゃん」 「そして私達の親友のアリサ=バニングスだよ」 皆はそれぞれ挨拶した。 「いやぁ、大家族ですねぇ」 「こちらこそ聞いていますよ、まだ16歳なのに旅をしているなんて」 「いやぁ、単なる武者修行です」 「なのはから聞いたんだが相当強いらしいな」 話してきたのは兄の恭也さん。 「そちらも、気配からして相当な腕ですね」 「やはり分かるか」 「ええ。士郎さんに美由紀さん、それに奥さんの忍さんやノエルさんとファリンちゃんも 一般人じゃないですね」 「裏を返せば桃子さんとアリサちゃん以外全員何かあるわけか」 「そういうこと」 「どうだ、一手合わせしてみないか?」 「止めておきます、せっかくなので今はこの料理を堪能することにします」 「ふっ、そうか」 「ん?」 料理を食べようとすると、不意にズボンが引張られる感覚が、 下を見るとまだ5,6歳ぐらいの赤い髪の幼児がいた。 「お前誰だ?」 フェイトが近づき。 「ほら、エリオ。ご挨拶は?」 「えりお=もんでぃある、6歳です」 「フェイトの子供か?」 「半分当たり、私はこの子の保護責任者なの」 「へぇ〜」 「なにやってるのアルト、私が全部食べちゃうわよ」 「うぉらぁ!!、この肉は私のだぁぁ!!」 一部争奪戦が起きたが楽しい親睦会になったことは間違いない。 あとがき Krelos:う〜ん。シリアスは書きにくいよぉ。 クロノ:全くもって遺憾だ。何を好き好んで男に胸を貸さなきゃならんのだ。 Krelos:おや、君はなのはSS界で(極一部)ヘタレと呼ばれているクロノ提督。 クロノ:誰がヘタレだ、誰が!!。 Krelos:俺が言ってるわけじゃないシィ。それにいいじゃないですか、年上の男として頼られているってことで。 クロノ:まぁいい。それで、アルトの過去のことなのだが。 Krelos:まぁ、力を持ちすぎた人にはいろいろあるってことで。 クロノ:はぁ、俺もいろいろあったなぁ。 Krelos:あっ、ちなみに言っておきますけれど、本作品では本編の「いろいろあってな」とはまた別の 「いろいろあってな」が展開されます。 クロノ:えっ!?。どういうことだ?。 Krelos:それはまた言えません。 クロノ:をい!!。 Krelos:次回はちょっとしたお遊び、ある意味新キャラ登場!!。 クロノ:教えてくれ〜〜!!。 |