「…………ここは……」

眼を覚ますとそこは白い空間。
沢山の医療機器が並ぶことから医務室だろう。
でもここはアースラのではない、ここはアースラより設備が整い規模も広かった。


第14話
イノチの選択を


「眼が覚めたようね」
「あね…き…」

声がし、視界に見知った女性が入る。

「俺…どうして…」
「ベルダンディーの影を倒した後急に気絶したのよ。全く、なさけない」
「そう…か…」

意識がはっきりして当時のことを思い出す。
そして、意識が遠のく間際、見た光景を。

「!!、姉貴!!」

ガバッと起き上がり姉に迫る。

「フェイトは、フェイトはどうなった!!」

鬼気迫るとはこういうことなのだろう。
アルトは傷口が開くのもお構いなしといった感じである。

「……こっちよ」

案内された先は

「フェイト……」

ICU、集中治療室と呼ばれる個室。
フェイトはその中央にあるベッドに横たわり、痛々しいまでの包帯、沢山の機器やチューブに囲まれていた。
アルト達はガラスで隔てられた部屋から、悲痛な表情で見ることしか出来ない。

「そんな……畜生!!」

アルトはその場に崩れ座る。
あの時誓ったはずだ。
フェイトを護ると。
だが今の様はなんだ?。
結局、護れずに彼女は死の淵を彷徨っている。

「右眼球破裂、刀剣による左肩から右わき腹までの切り傷。内臓破裂…」

医師が淡々と話している。

「この状態で助かったのは奇跡に近いですよ」
「いや……フェイト自身はもう死んでいる。俺の魔力でアルフと共に微かに生きながらえているだけだ」
「じゃあ。アルトくんが供給を切ったら」
「……永遠の死だ」
「なぁ!、私はどうなってもいいからさぁ、あの子を助けてくれよ!!。あんたら神様なんだろ」

アルフは必死に懇願する。

「アルト……アレを使ってもいいのよ……」

クレロスが口にした瞬間、アルト険しい顔をする。

「なんだいアルト!、なんか手はあるのか!?」
「あるには…あるが……」

雰囲気からしてその手はあまり好ましくないものらしい。

「私はどうなってもいいよ!!。何が必要かい?、血?。それとも生贄?」
「……地獄だ……」
「えっ!?」
「今からやろうとしていることいは、転生の法の応用。アルトの血をフェイトに分け与えて蘇生させるの」
「神族の血はある意味毒だ。飲んだ者の心が弱ければ、血に支配され狂人となる。
運よく克服できたとしても次に待つのは不老不死……」
「フェイトは心が強い、自我を保つと確信している。でもその定めからは逃れることは出来ない」
「それは確かに…地獄だな」

シグナムが静かに答える。

「友が老い、死んでも自分はそのまま、幸せな時もあろうが、人の負の面を見る方が多い。
絶望し疲れ果てたとしても自ら死ぬことも出来ず無限の地獄を見続けなければならない」

不老不死は誰もがユメ見るものだが、実際の体現者、ヴォルケンリッターが言うととても嫌なものに感じてしまう。

「それでも――――、あんたもいいのかい!、せっかく想いが伝わったのにあの子が消えちまうんだよ!!」
「俺だってこのままじゃ嫌だっ!。愛しているんだ、離れたくないんだ!。
だけどあの子には地獄の中で生きて欲しくない!!」

やり場の無い怒りをパンチで壁にぶつける。

「まぁ待って、私達だけで決めてもあの子もかわいそうだわ。全てはフェイトに任せてもいいんじゃない?」
「……そうだな。……みんな最終判断はフェイトに任せる。何があろうと恨みっこなしだ」
『うん』

アルトはICUの中へ入る。

「フェイト……」

枕元に座り髪をかきあげながら優しく呼ぶ。

「……アル…ト……」

酸素マスクを通して聞こえるくもった力ない言葉。

「あれっ……おか…しいな…何も…見えない…よ……」

動脈を斬られ相当の量の血が流れ出たのだろう。
肉体はもうすでに死に、アルトの魔力で引き止めた魂の声を伝える単なる発声器に成り果てている。

「わたし……死んじゃう…の…かな?」
「ああ、君はもう死んでいる。俺の魔力で魂を引き止めているだけだ」
「そう、なんだ」
「フェイト、君には今二つの道がある。……ひとつは安らぎとしての死、そしてもうひとつは苦しみの生」
「苦しみの……生?」
「ああ、そう望めば俺は君に命を分け与える。だけど同時に不老不死になることになる」
「不老…不死……」
「ああ。なのは達が老い死んでも君はそのままの姿で生き続け、時代の波に置いてけぼりになる。
それは孤独でとても辛いことだ。それを覚悟で生を望むか?」
「……そこには…あなたはいる?」
「……生を選べば俺と共に生き、死を選べば俺は君の魂をこの身に取り込む」
「どっちでも…一緒にいるんだ……なら……私は、生き、たい。死んじゃったら、
なんか触れられないようが気が、して……なのは達とはいつか別れは来るから。
でもそれより今は、あなたと触れられないほうが一番辛いよ」
「………わかった」

アルトは立ち上がり

「アクアクリエイト」

水柱がアルトを包み、アルトリアの姿になった。

「クッ!」

近くにあったメスで左腕を切り

「さぁ、飲むんだ」

身体を起こし、血を飲ませる。
ふしぎと味はしなかった。
鉄の味も、独特の匂いもしない。
自分の身体はやはり死んでいるのだとフェイトは改めて自覚した。
どれぐらいの時間が過ぎたのだろう。
フェイトはある衝動に駆られていた。

もっと飲みたい……。

乾いた喉を潤すがごとく、身体が血を求める。
もっと多くの血を――――。
もっと身体の隅々まで――――。
しかし腕から出る血では足らない。
ならば――――。

「あぁぁぁぁぁぁあああ!!」

フェイトは雄叫びをあげアルトリアを抱き寄せ、もっと血を確実大量に摂取できる場所、その細い首筋へとかぶりついた。

「うっ!!」
「フェイト!!」
「待って、正常な反応よ」
「あれの何処が正常な反応なのさ!!」
「いいから黙って見てなさい!!」
「くっ!」

アルトリアも分かっていたらしく、もっと飲めと言わんばかりに身体を引き寄せる。
フェイトはまるで吸血鬼にもなったかのように貪欲に血を吸い続けている。

「……我が炎翼よ!!。我が理を叶える鍵となれっ!!」

翼を開くと同時に炎が羽を走った。
舞い上がった数枚の翼が地に落ちると同時にそれを点に線を結び六芒星を作り部屋全体に魔法陣が広がる。

「前には生。後ろには死。命すなわち燃える炎」

静かに詠唱を始める。
いつもとは違う、炎の熱を帯びた魔力が膨大する。

「我は炎を司る者。よって我、汝の燃え尽きた伽藍に再び強く輝く炎(イノチ)を宿し、
汝に新たな生を与えこれを蘇生の法と成す……」

魔法陣が赤い光を放ち視界一面を包んだ。


「…………」

あれからどれぐらい経ったのだろう。
次にフェイトが眼を覚ましたのは一般病棟の個室だった。

「よぉ、眼を覚ましたか」

視界に人の影が入ってくる。

「アルト……アルフ……」

ベッドから起き上がると、ふと違和感を感じた。
先ほどまで、体は死んでいたはずだ。
それなのに今は何とも無く、むしろ万全な体調だった。
身体も温かく、心臓の鼓動も感じる。
生きていると実感していた。

「まだ起きたらいけないよ」
「大丈夫。……アルト…その眼、どうしたの?」

見るとアルトの右眼に黒い眼帯が掛かっていた。

「…………」

問いにも答えること無く、フェイトの顎を掴み、顔の様子を見る。

「同じ赤だから違和感無いな、神経もちゃんと通っているようだし、よく見えるだろ」
「えっ?」

最初その言葉の意味が分からなかった。
だがそれもすぐに分かった。

「……見える……」

たしか自分の右眼は潰れたはずだ。
しかし現に視界は狭まることなくいつもと同じ視界を維持していた。

「まさか、その眼って……」
「……君には眼帯は似合わないからな。それに、俺はそっちのほうが好きだ」

感謝と申し訳なさが心の奥底から激情として込みあがり、涙がこぼれ泣き出す。

「ごめんなさい!!、ごめんなさい!、ごめんなさい……」

嗚咽とともに毀れる声。
アルトはそんなフェイトを抱きしめ宥める。

「泣くな。いいんだよ、俺が勝手にやったことだし」
「でも、でもっ!…私……アルトからもらってばかりだよ」
「いいんだ。その代わり君はずっと俺の傍にいてくれ。ずっと――――」
「うん――――」
「くすん…アルト!。ほんとにありがとよ。あんたは命の恩人だよ」
「アルフ。お前まで貰い泣きするなよ」
「でっ、でもよ……うえぇぇぇぇええええん!」

その時であった。

「何であなた達がいるの!?」
「ハラオウン提督、そこをどいてください」
「どういうつもりだっ!」
「テスタロッサ・ハラオウン執務官に上層部より出頭命令が出ています」
「なんでまたっ!」

外がなにやら騒がしい。
そして入ってきたのは数人の武装局員。

「何なんだ、お前達?」
「フェイト=T=ハラオウン執務官。アルトリウス=ゼファー。
両名に本局法務評議会に出頭命令が出ている。至急出頭されたし」

局員の一人が電子データの書状を見せる。

「ちょっと待てっ!、フェイトは今目が覚めたばかりだよ!!」
「私達はお二人を拘束する権限を与えられています。どうかご理解を」
「……わかりました。着替える時間をください」
「はい、お急ぎを」

数分後
執務官服に着替えたフェイトと法衣姿のアルトが長い長い通路を歩いていた。

「大丈夫か?」
「うん」

通路の先には巨大な扉。

「フェイト=T=ハラオウン執務官、及びアルトリウス=ゼファー。命令により出頭いたしました」

番兵がIDを確認し、扉横の端末を操作しその扉を開ける。
アルトはリレットを、フェイトはバルディシュを預けると中へ入った。
部屋に入ると少し広い空間の真ん中にU字のテーブル。
そこに男だけ10名ほどの評議員がいた。

「執務官、フェイト=T=ハラオウン。民間協力者、アルトリウス=ゼファー、出頭命令により参上いたしました」

軽く敬礼しフェイトは言う。

「かけたまえ」

目の前にある二脚の椅子にそれぞれ座る。

「それでは、はじめよう」

会議が始まった。

「そんな!、どういうことですか!!」

部屋にこだまこだまするフェイトの怒号。
一方的に話された内容は強引で何とか筋が通るように取り繕ったものだった。
先の戦闘で起きた中規模次元震。
大きな力がぶつかり合った戦闘は、外界と干渉した結界を通り越し、
地球以外の複数の世界をも刺激し小規模であるが被害も出た。
管理外世界にS級ロストロギアを出現させ、他世界をも巻き込む次元震発生のきっかけを作った罪として
アルトには魔力封印の処置の後、氷結世界への永久幽閉が言い渡された。
あまりにも理不尽だと激怒したのはフェイト。
しかし本来反論しなければならないアルトはただ黙っていた。
時空管理局は所詮、多次元の企業が出資する複合組織、法の番人を掲げているが、
その絶対的な力を周りに誇示し続けるために、時には罪人を作り上げる時もある。
どの次元にもあることだった。
しかしアルトは言い渡された罪状をおとなしく受ける気は無かった。
実際、世界を危機に陥れる状況は作ってしまったが最終的には解決。
小規模の被害は出てしまったが、その後に起きる悪夢の連鎖を考えれば感謝こそされるが責められるいわれはない。

「裁判を!。私が弁護人に立ちます」
「これは決定事項だ。逆らうのであればハラオウン執務官、君も犯行補助として処分する」
「なんですって?」

決定に反論がある場合は共犯者として処分か、全くお粗末な話である。

「そんなでっち上げの犯人、すぐに捏造だと分かるぞ」

自分だけ責められるのはかまわない、しかしそこにフェイトを巻き込むことはよろしくない。

「情報操作など、どうにでもなる」
「……フェイト、帰ろう」
「えっ?」
「こいつらはどうあっても俺を罪人にでっち上げるつもりだ、そんな馬鹿げたことに付き合う義理はない」
「……」
「扉を開けてくれないか」
「重罪人をみすみす逃がすと思っているのか?」
「だろうな、ならば抵抗はさせてもらう」
「アルト!!」
「大丈夫だ。死人は出さないよ」

ファイヤーボールを1発、扉に向かって放つ。
しかし扉に当たる前に何かの力で消滅してしまった。

「ありゃ」
「無駄だよ。その扉は対魔力の結界でコーティングされている並大抵の攻撃など全く受け付けん」

評議員達がいやらしく笑う。
そしてその目は"おとなしく罪人になれ"と語っていた。

「どうするの?」
「う〜ん。基本的に俺の魔法のほうが魔力密度も破壊力も上だと思ったから
ファイヤーボール並でもどうにかなると思ったんだけどなぁ」
「それならもっと強力なのを放てば?」
「念には念を入れてドラグ・スレイブで行こうかと思うんだけど、本局吹っ飛ぶぞ」
「そっ、それはダメ!、うん、ゼッタイ!!」
「なら……」

魔力干渉はダメ、ならば物質干渉しかない。
翼を広げると同時に炎が走り炎翼となった。

「フェイト、危ないから少し離れていろ」

フェイトが離れるのを確認して扉に向かって炎翼をふわりと羽ばたかせる。
炎翼から放たれた超高温の熱が空気を伝い、扉を熱する。
表面が水あめのように解け、そして

ドゴゴゴゴオオォォォ!!。

中の電子機器に着火したのか、扉は爆発を起こした。

「なっ、なんだっ!?」

近くにいた番兵が駆け寄る。
白煙に黒い影を確認した途端

「うっ!!」

彼等の意識は遠のいた。

「フェイト」

番兵からリレットとバルディシュを回収しフェイトに渡した。

「ありがとう。バルディシュ、行ける」
(Yes.Sir)
「ダメだぞ、まだ身体の調子が戻ってないんだから」
「大丈夫だよ」

リレットから法衣のマントを取り出しフェイトの頭から被せた。

「それでもダメだ。さぁ、みんなのところへ戻ろう」

アルトはフェイトを姫抱っこしその場を去る。

「あっ……あっ……」
「何をしている!、早く拘束しろ!!」

爆発に驚いた評議員達が正気を取り戻し、あわてて部下に指示を飛ばす。
本局内にこだまするアラート。
武装局員が慌しく動き、アルト達の進行予想通路で待ち構える。

「目標確認!!」

通路の向こう側からアルトがゆっくりと歩くのが見える。

「撃て――っ!!」

隊長の号令で一斉に砲撃が始まる。
だがしかし、対魔力の効果を持った法衣とマントのおかげで二人に当たる前に拡散し消滅する。

「チッ、こうたくさん出てこられると面倒だな」
「急ごうアルト。みんなが心配だ」
「そうだな。しっかり捕まってろよ」
「うん!」

フェイトはアルトの首に掛かる自分の手に力を入れ抱き寄った。

「行くぞ!」

タッと駆ける。その速さ、俊足。
ジャンプして壁を蹴り、誰も傷者を出さずにその場を突破した。


「何かあったのかな?」
「さぁ」

本局の中央広場、そこで二人の帰りを待っていたなのは達がいた。
慌しく動く局員達を見て自分達も動こうとするが

「動くなっ!!」

デバイスを向けた数人の武装局員に囲まれた。

「みんなどういうこと!?」
「すみません、高町教官、ですが、上からの命令なのです」
「上からの命令はゼッタイ、ああっ、悲しき縦社会」
「宿命だぁねぇ」
「クレロスさんカティさん、何暢気に言ってるんですか?。この状況分かってますかぁ?。囲まれてるんやけど……」
「何で慌てる必要がある?」
「豆鉄砲並みの魔法攻撃は法衣が無くても防げる程度だし。私が殺気放てば大抵の人は即倒するし、
そうでなければローカルティ・エターナル・エンドでもぶちかますけど」
「おっ、お願いやからおとなしくしててな」
「どうする姉貴、様子見に行くか?」
「いんや、もうすぐ帰ってくるでしょう」

その時であった。
ふわりと風が吹き、現われたのはフェイトを抱えたアルト。
アルトはジャンプし空中で一捻り、局員の壁を越えクレロスの前に着地した。

「ただいま」
「お帰りなさい。それでこれはどういうこと?」
「それはだな――――」

そこへアルトを追ってきた武装局員達も追いつき、完全に周りを包囲された。

「これはどういうことです?」
「わけを聞かせてくれ」
「両ハラオウン提督、そこをお退きください。そうでなければ職務妨害で拘束せざるを負えません」
「拘束って」

中空に現われたモニター、そこに映し出される法務評議委員達。

「"観念したまえ、アルトリウス=ゼファー"」
「へっ、冗談じゃない。でっち上げの罪を押し付けられてはいそうですかと受け入れる馬鹿はいねぇ」
「"ぬぬ……"」

にらみ合いを続けていると、もう一つモニターが現われた。
そこにはもうずいぶん歳を重ねた老人が映し出されていた。

「局長!!」
「あなたがここの総責任者か?」
「"いかにもそうじゃが"」
「局内をずいぶん騒がせてしまってすまないと思ってる。しかしこれだけは言わせてもらう。
俺に罪をかぶせるのはかまわない、結局踏み倒すがな、しかしフェイトを巻き込むのだけは許せないんだよ。
もし彼女を罪人にしてみろ、管理局を潰すからな」
「"管理局を敵に回すか、しかしそうまでして彼女を庇う理由は何かね?"」
「理由?、理由なんて必要ない。惚れた女を護れずして何が男だっ!。
それに俺達はもう夫婦だ、妻を護るのは夫の務めだろ?」
「ふっ、夫婦!?」
「だそうやよフェイトちゃん、何や知らんけど恋人から妻にレベルアップやね、それで妻の心境としてはどうや?」
「………」

フェイトは頭から被ったマントを目深に被った。
当然そこ顔はトマトのように真っ赤である。

「ハッハッハッ、惚れた女か、妻か、なかなか面白い若者だ。そんなに彼女のことが好きか?」
「おうよ!」

アルトはフェイトを抱き寄せ

「うっ!!」

キスした。

「あっ、あっ、アルト!!」

慌てふためくフェイトを横目にアルトは叫ぶ。

「彼女に脅威を与えるものには俺が全てなぎ払う。例えそれが世界を敵に回すことになってもフェイトを守る!!」
「よくもまぁ、恥ずかしいセリフをペラペラと」
「一緒にいるこっちが恥ずかしい」
「"……………"」

しばしの沈黙。
局長は考え込む。
そのうち、秘書官だろうか、局長の耳元で何かを報告している。

「"わしは君に謝らなくてはいけない、すまなかった"」

次に出た言葉は謝罪の言葉だった。

「"今回の事件のことについては、クロノ=ハラオウン提督から直接報告は受けている。
実はあのロストロギアは元々我々が管理し、20年ほど前にこちらのミスで次元空間の彼方に流れてしまったものなのだよ」
「えっ、そうなの!?」
「僕もあの後再検索で分かったものだけど。そうらしいね」
「君達が今回の功労者ということは明らかだ。しかし評議委員達は私の事知らぬところで
真逆の決断をしてしまったようだな。私は局長として知ることなく、野放しにしてしまった。
これはあってはならないことだ"」

評議員達は苦虫を噛んだような表情だ。

「それじゃアルト君達は」
「"元から罪などは存在せん。……武装局員は速やかに撤収、通常任務に当たれ"」
『了解!!』

まるで蜘蛛の子を散らすように武装局員達が走り去っていく。

「"評議員諸君は後ほど私の元へ出頭されたし"」
「"りっ、了解しました"」

評議員側のモニターが消える。
最後に見た感じ脂汗が止まらなかったようだ。
きっと彼らは後で然るべき処分が下るだろう。

「"さて、諸君等にはずいぶん迷惑をかけた。本当ならば被害者として訴えられても仕方のないことじゃがな"」
「別に、もうすんだことです」
「"フェイト=T=ハラオウン執務官"」
「あっ、はい!」
「"君はほんとにいい伴侶と巡り会った。君を思う彼の心は本物じゃよ。末永く幸せにな"」
「はいっ」

こうしてアルトとフェイトの仲は局長公認、いや、管理局公認の仲となった。
後に今回の事件をロストロギアの名を取り『シャドウ・ドール事件』と名づけられた。
ちなみに後に起きた管理局を騒がせたこの珍事件は末永く局員達の間で語り継がれたという。







あとがき

Krelos:さて、見事にフェイトは復活できました。
リンディ:すごいわねぇ、転生の法って死んだ人間を生き返らせるなんて。
Krelos:でもあれはアルトの血を媒体にした応用で、実際には膨大な魔力だけで執り行うものなんですよ。
それゆえに歴史上で実際執り行ったのは二人しかいません。
リンディ:大変なのね。
Krelos:管理局でのひと騒動なのですが――――。
リンディ:あれは本当に良かったわねぇ、クライドさんとのことを思い出すわぁ。
Krelos:あっ、あの、リンディさん?。
リンディ:彼との出会いはね……。
Krelos:ありゃいかん。完全に自分の世界に入ってるわ。ということで今日はここまで!。
リンディ:えっ、もう終わっちゃうの?。これからがいいところなのに。
Krelos:いえ、もう結構です。






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