「うをぉぉぉぉぉおおお!!」
「てりゃぁぁぁぁあああ!!」

場所はクレロスの固有結界内。
あれから2時間ほど、マテリアルファクトを生み出したアルトは、
もう何も怖いものは無いと生き生きとした感じで戦っていた。

「なっ、長いわねぇ……」

双子であり基本同スペックの二人の戦闘は決着が着かず続いている。

「何時まで続けんの?」
「これって決着つけへんとちゃうか?」
「付くわよ。アルトにはね、カティには無い経験があるわよ。あなた達と出会った経験がね」

何時決着が着くのかと思いながら大人しく見ていると

「クッ!!」

突然クロレスが苦しみだす。

「どうしたの?」
「誰かが結界を侵食して侵入してきた」

メビウスがクレロスの代わりに言う。


第16話
小さな迎え


「どうした?」

異変に気づき二人も駆け寄ってきた。

「侵入者だって」
「侵入者って、同じ術者?」

クレロスが見つめる先には砂塵の疾風。
その向こうに揺らめく白い影。
その影がこちらに歩み寄りながらフードを脱ぐ。
現れたのは、年のころ7,8歳と言った赤と青のメッシュが入った金髪の幼女。

『げっ、アニス!!』

思わず叫ぶゼファー姉弟。
彼女は白い瞳をガッと見開き、手には刃のない十字剣。

「やばい!、カティ、行って!!」

言うと同時にタッと駆け出す両者。
そして――――

『光よっ!!』

生み出される光刃。
触れ合った瞬間、閃光のドームが生まれる。
なのは達はナイジャ達のシールドで守られているが、
そのシールドも侵食する勢いの力のぶつかり合いが
ドームの中心で起こっていた。

「くっ、いきなり襲い掛かることはねぇだろうに」
「誰なの?。あの超絶幼女は?」
「アニス=フェリア=ノクターン、前言った俺が仕えているところの一人娘だよ。
今や次期天帝候補最有力、ガイア三強女神、破壊の幼女、瞬炎の女神の異名を持ち、
姉貴に次ぐ世界の最もおっかない女ベスト3に入るとんでもない幼女だよ」

閃光が晴れるとアニスとカティの激しい剣戟が繰り広げられていた。
紙一重で交わされる光刃、両者とも相手を殺す気で戦っていた。

「それにしてもアニスのヤツ、何であんなに怒り心頭なんだ?」

アルト達には分かるのか、なのは達が見てもアニスの表情は能面のような表情で感情が読み取れない。

「当たり前です」

そしてまたもや現れる謎の少女。
赤い髪にミニのエプロンドレスを着ている。

「ラサティ戦線で三日間、飲まず食わず寝なずの一人で制圧任務。空腹に睡眠不足、
その後に彩さんから3人の様子を見てきてくれと頼まれ直行。完全に殺意が芽生えても仕方のないことです」

淡々と語る少女。

「休ませてから来いよ!」
「はぁ、しかし私も妙にテンションが上がったアニスを止められなくて」
「あの〜、お取り込み中すみませんが。どなたでしょう?」
「これは失礼しました。私、アニスのヴァルキリー、ミレニアム=ヴァン=ファルフィードと申します。
ミリィとお呼びください」
『ヴァルキリー?』
「まぁ、詳しいことは後で。まずはアニスをどうにかしましょ」
「大丈夫です、もうしばらくすれば力尽きますから」
「うあぁぁぁぁ!!」

アニスはカティに馬乗になり肩に光刃を突き刺した。
短剣を投影し狙いを定める。

「アッ!、アルト手伝え!!」
「おっ、おう!」

カティに呼ばれアルトも光刃を出し参戦する。
アルトの気配に気づいたアニスはその場を離れ体制を整える。
2対1、だがアニスは顔色変えず二人を相手している。

「力尽きないわよ?」
「う〜ん、思ったよりまだ体力が残ってたんですね」

アニスは両肩から掛かる西部劇のライフル弾のホルダーによく似たものを剥ぎ取り、
それに収めてある沢山の棒状ものを空中に散布した。

『げっ、やばい!!』
「あ〜らら」
「全てを駆逐しろ。舞え!。ガンパレードマーチ!!」

号令と共に棒状の両端から光刃が生え不規則に飛び回りビームを発射し二人に襲い掛かる。
その光景は前、アルトがビームと発射するボールと訓練しているのと変わらなかった。
しかし、今度は違う、100近い発射機から倍のビームが二人に襲い掛かるのだから。

「何なんだあれは?」
「120個のライトナイフを精神を分散させて操作、ピットのように飛ばして遠距離攻撃や近距離攻撃をする技よ」

それは究極のマルチタスク。
ナイフ一本一本に精神を集中、それぞれ不規則、規則の動きをさせ攻撃。
天賦の強靭な精神力と空間認識能力がないと出来ない芸当である。

「はっ!!」

おまけに操作者自身も戦闘に加わる。
120個ものナイフを遠隔操作しながらの超高速戦闘、つくずく恐ろしい。

「くっ!」
「これはさすがにきついな」

アニスの一撃をかわしてもビームの波状攻撃。
双方に気を配る戦いは確実に二人の精神を削っていった。

「やはりもうそろそろでしょうか?」

激しい剣戟を繰り返す中、アニスが片足を踏み出した途端
ザザザッ!!
そのまま倒れ見事なヘッドスライディング。
顔からモロに行ったので傍目から見てもかなり痛そうである。

「のわっ!!」
「ちょっと!」

二人も突然のことでバランスを崩し倒れた。

「をい、大丈夫なのか?」
「ただ眠っただけですよ」

スヤスヤと眠るアニス。
その寝顔は年相応の愛らしさを感じる。
結界が解け、元のマンションに風景が変わる。

「ベッドを貸していただけませんか?」
「はい、私のでよければ」

アニスを抱いたミリィがフェイトに連れられ部屋を出た。

「全く、彩さんもアニスを寄こさなくてもいいのに」
「眼が覚めたら機嫌直ってるといいわね」
「切に願うよ。そうじゃなかったら皆殺し決定だからな」

3人はブルブルと震えた。

「"クロノ艦長、エミリッタ通信司令"」

そこにランディから通信が来た。

「"どうしたんですか。何度も通信入れたんですよ"」
「すまない、いろいろ取り込んでてな」
「それでどうしたの?」
「"あっ、そうだ。当て逃げですよ、アースラが当て逃げされたんですよ!!"」
「当て逃げ?」

クロノ達は耳を疑った。
艦船の衝突は沈没しかねない大事故になるからだ。
当て逃げなんて聞いたことも見たこともない。

「それで被害と犯人の艦船は?」
「"被害は右舷上部第1装甲板とシールドジェネレーターのオーバーヒートだけで済みました。
クルーも無事です。ですが残念なことに艦船はロスト犯人は……"」

そこにフェイト達が帰ってきた。

「"あっ!、あの時の当て逃げ犯!!"」

ランディはミリィを指差し叫んだ。

「あら、さっきの船のオペレーターさん。って当て逃げ犯とは聞き捨てなりませんね。
私はあの時、親切に教えたのに」
「……どういうこと?」


話は約15分前に遡る。
静止衛星軌道上、アースラ内

「事件は終わったというのに、何で一向に忙しいんだ?」
「ぼやくな、口動かしてる間に手動かせ」

ランディ達が話していると、突然メインモニターに少女の姿が

「なんだ?」
「うわぁ、かわいい子だな」
「"突然のことで失礼いたします。貴艦の停泊している座標と我が艦がゲートアウトの後、
惰性航行する経路の座標が重なっていまして、このままだと衝突してしまいます。
我が艦は進路変更できませんので貴艦が左舷方向に5キロほど移動してはもらえないでしょうか?"」
「突然何言ってんだこの子?」
「ランディ、どうやらその子が言ってることは本当らしいぜ」
「なに!?」
「レーダー確認!、異空間から通常空間へ出現する影あり!、想定700Mクラス、
出現予定ポイントは本艦後方約1000!!」
「なにぃ!?」
「"ゲートアウトまであと20秒ほどです。お急ぎを"」

少女はそれを伝えると通信を切った。

「操舵、急げ!」
「急いでやってるが、間に合うかどうか!」

艦内に警報が鳴り響く。
アースラはサイドスラスターを使い移動を開始している。
そして、しばらく経ち

「来ます!!」

後方の空間が揺らめき、一瞬の閃光の後に巨大な戦艦が現れた。

「シールド展開!、対ショック体制!!」

2艦がすれ違い、ギギギ!!というシールドの摩擦するいやな音が響いてくる。

「だめです!、シールド持ちません!!」

アースラ側のシールドが破られ、今度はシールドと装甲板の摩擦する音。

「このままだと装甲版も!」

運のいいことに装甲版が融解する前に戦艦のシールド範囲圏から離脱することが出来た。
戦艦は地球に近づくと、底部からシャトルを切り離し、その船体が風景に溶け込むように消えた。

「ってて、被害は?」
「ちょっと待て……右舷上部第1装甲板の大破とシールドジェネレーターがオーバーヒートしている」
「アンノウンはロスト」
「修理を頼む。俺は艦長に報告をする」
「了解」


「ということがあったんですよ」
「なるほど」
「ひでぇ、お前、シールドぐらいは解除してやれよ」
「イヤです、私の玉のお肌に傷でもついたらどうするんですか?」
「玉の肌ぁ、ガンダリュウム合金の鋼鉄の肌の間違いだろ?」

ぼそりと言うと

「ふにゃっ!!」

ミリィの鋭いカカト落しがアルトの脳天を貫いた。

「何か言いましたぁ?」
「いえ、何も」
「何であろうと、戦闘以外の些細な物事で私の体が傷つくのはイヤなんです」
「おい、事故があって被害はそんなにたいしたことはないのは分かったけど、
それと彼女の体が傷つくのはどんな関係があるんだ?」
「簡単よ。アースラとニアミス事故起こした戦艦、ファルコンの意思がミリィってことよ」
「さっき言ったヴァルキリーとは、戦艦のA・Iを総称して言うんだ」
「そうです。私はアニスをマスターとする誇り高きノーブル・マシン・ヴァルキリーズの一人です」

ミリィがエッヘンと胸を張った。

「ちなみにヴァルキリーは一つの種として人権があるからA・Iとか、
機械とか差別的用語を使ったら訴えられるから気をつけてね」
「おっと、すまねぇミリィ」
「いいえ、分かりやすい説明のためですもの、仕方ありません。
ともあれそちらの船にも損害は出てしまったので謝ります。ごめんなさい」

深々と頭を下げるミリィ。

「いや、こちらの被害も軽症で済んだ。修理もすぐ済む、それほど気にすることでもない」
「そういえばミリィに紹介してなかったな。こちらは、さっきお前が接触事故を起こした――――」
「あーいいの、アルト、彼等のことはさっき調べたから」
「調べたって、あなたまたハッキングを!?」
「えへへ。衝突の間際にちょっと」

ミリィは茶目っ気たっぷりに舌を出し誤魔化した。

「ハッキングって、まさかアースラをか!?」
「いいえ、アースラを反して本局だっけか?。そこのホストに。
見たことも無いコードだったんで少し時間はかかりましたけれど。
あっでも安心して、調べたって言っても名前と顔写真ぐらいだから」
「はぁ〜、これはアニスに報告ね」
「いや、指示したのはアニス本人だから、悠長に自己紹介なんてしてられないって」

しかし、ゼファー姉弟は背筋も凍る別の目的を考えていた。

「う〜んと、あっ、あなたがフェイトね」
「あっ、はい」
「マスターの代わりに言わせてもらうわ、おめでとう。これから大変かも知れないけど、がんばってね」
「はい、ありがとうございます」
「うう〜っ」

そこに、眠気眼を擦りながらアニスが現れた。

「あら、アニス、もう起きたの?」
「お腹空いたぁ」
「よかったぁ、殺気は消えている」

アルトがこっそりと言い胸を撫で下ろす。

「そういえば何も食べていなかったわね。何が食べたいの?」
「カレェ〜」
「う〜んと。ちょうど食料の在庫があるから船へ戻りましょ」
「ファルコンに戻るの面倒〜」
「困ったわねぇ」
「カレーならこの家で作ったらいいじゃないか」
「いや、この子食べるときは特別寸胴サイズだから、一般家庭のコンロだと収まんないかも」
「なら翠屋に行く?」

なのはが言った。

「いいのか?。今営業中だろ?」
「お父さんとお母さん、午後から用事あるみたいで昼過ぎにはもうお店閉めちゃうんだって、
その後ならたぶん大丈夫だよ」
「なら、私達は食材と鍋を持ってくるから、なのは、頼んだわよ」
「はいはい」

みんなは二手に分かれてマンションを出た。
翠屋のほうはすんなりと了承が取れ、後は食材を待つだけだった。

『うわ〜〜〜〜〜っ』

持ってきた寸胴は、一般的に使う寸胴の2〜3回り大きく、持ってきた食材も尋常ではない。
アルトが持ってきた姿を見て"サンタクロース?"とみんな思ったに違いない。

「さて、作ろうか」
「ちょっと待って」

作ろうとするアニスを後ろからミリィが止めた。

「何で止めるの?」
「ここはファルコンのキッチンじゃないの、
だからむやみに料理を爆発させるあなたは作っちゃだめ、私が作ります」
「でもぉ……」
「だめ!、厨房壊しちゃだめぇ!!」

なのはが慌てて止めに入る。

「はいはい、なのはさんのご迷惑になりますからマスターは大人しく座っててください。
言うこと聞かないと食料庫にロックかけますよ」
「……分かった……」

神族の中では食は強しなのか、アニスは大人しく席に座った。

「ふんふんふ〜♪」

鼻歌交じりに調理が進んでいき、おいしそうな匂いが辺りを包む。

「おいしそうな匂いやね」
「私が作りたかったのに……」

アニスはまだ根に持っているのか、頬を膨らませ拗ねていた。

「確かにおいしいんだけどあの爆発が無ければねぇ」
「ほんとに爆発するの?」
「ああ。母親譲りでな。味は宇宙一で下手な高級料理店なんざ足元にも及ばん」
「でもなぁ、軽量カップを溶解させたりフライパンに穴が開いたりするのはどうかと思うぞ。
ある意味宇宙の七不思議だ」
『どんな料理ですか?』

ゼファー姉弟の会話に、みんなは突っ込まずにはいられなかった。

「できたわよ〜」

そんなことをしている間にカレーが出来上がった。
カレーもそうだが、ご飯の量もとんでもない量だった。

「皆さんも食べますか?」

時計を見るともう12時を過ぎている。

「もらうぜ」
「いただきます」
「私達もいいですか?」

人数分の皿を出し、なのは達は普通盛り、ゼファー姉弟は超特盛り、
そしてアニスは寸胴に残りのご飯を全部入れ食べる。

「おいしい!」
「ほんとだわ!」

ミリィのカレーは好評だった。

「ありがとうございます。マスターの厳しい指導のおかげです」

ふと横を見る、寸胴を抱え込むように持ち、ものすごいスピードで中身を減らしてゆくアニス。
相当空腹だったのか、みんなの視線にも気づかない。

「なんか、コアラみたいだね」

自分と大体同じ高さの寸胴に手足を絡め食べている姿はとても愛らしいものだ。

「だけど食べてる量は尋常じゃあらへんけどな」
「まぁ、飲まず食わずだって言うし」

その後、アニスは10分足らずで特製寸胴の中身を空にした。

「あぁ〜、満足〜」

満面の笑みを浮かべその場に転がり込む。

「こら、アニス。お行儀が悪いですよ」
「今回は許してぇ〜〜〜」
「まったくもう。…………ん?。アニス。12民族大長ベルファートから通信が来ています」
「叔母さんから?」
「繋いで」

首をかしげるゼファー姉弟。
起き上がったアニスの前の中空にモニターが現われ、赤い髪の女性を映し出す。

「"久しぶりです、アニス、元気にしてますか?"」
「はい、大体は」
「"それとごめんなさい。私が彩様に3人の事話してしまったせいで"」
「別に気にしていない」
『殺されかけたけどな』

通信中のアニスの後ろでアルトとカティがポツリと呟いた。

「"早速ですがアルトリウスと話させてもらえます?"」
「わかった」

人差し指でちょいとモニターを突くと、ツツツとモニターが移動してアルトの前で止まった。

「お久しぶりです、叔母さん」
「"ええ。その様子だと無事マテリアルファクトを生み出せることが出来たようね。おめでとう"」
「ありがとうございます。羽陽曲折がありましたが何とか成人になることが出来ました」
「"お話聞きたいなぁ。ねぇ、いつ戻ってくるの?"」
「いえ、報告はしますけれど、今じゃダメですか?」
「つれないなぁ、せっかく久々に会えると思ったのに」
「自分も色々と報告することも――――」
「"あっ、ごめん、スクルド伯母さんが呼んでいるからそれじゃ!"」
「あるから……ってうえっ!!。ちょっと伯母さん、伯母さん!!」

無常にも通信が切れた。

「切れちまったよ……」
「ありゃ、完全に戻ってくると思ってるな」
「アルト、一度戻った方がいいわ。相手は叔母と言っても大長よ」
「そうだな、一度帰ってこれからのこと話さないとな」
「えっ、帰っちゃうの……」

フェイトが不安そうにアルトを見つめる。

「大丈夫だ。叔母さんに会ってこれまでのこと、これからのこと、こっちの世界で暮らすことを報告しに行くだけだから。
こっちの時間軸で1ヶ月ぐらいしたら帰ってくるよ」
「でも……」
「…………」

フェイトの様子を見てアニスは

「ファルコンへの搭乗は許可する。明日早朝、日の出と共に出発。
搭乗員はそれまで自由行動とする……なのはさん、厨房ありがとう」
「えっ、はい」
「ミリィ、行こう」
「はい。アニス」

アニスは寸胴を背負いミリィと共に去っていった。

「……りっ、了解しました……」
「気を利かせてくれたのかな?」
「寸胴洗ってねぇぞ」
「ちゃんと洗わないとダメですよ〜」

「う〜ん、出発まで12時間近くあるな。どうする?」
「……デート……」
「ん?」
「イヴのときのデートの続き……したい――――」
「そっ、そうだな……」

二人はぎこちなく手を握り合う。

「それじゃ、俺達は出かけてくるから」
「いっ、行ってきます」

二人が出かけた後

「ゆっ、ユーノくっ、くん!!」
「はっ、はい!。なっ、何なのは?」
「わっ、私もおっ、お話があるの。ちょっといいかな?」
「?……いいよ」
「ほんと!?」
「ああ、行こうか」

なのはとユーノのペアも出かけていった。

「なのはちゃんも勇気出しおったなぁ。どれ私も。クロノくん、一緒にお話せぇへん?」
「すまんな、これからアースラに行って被害状況のチェックなんだ。またな」

そう言うとそそくさと店を出た。

「んもぉ。つれないなぁ」
「気にするな、はやてには私等がいる」
「そういうわけじゃあらへんのやけれどなぁ」


街に出ると、クリスマスの気配はもう無く、年越しの準備一色になっていた。

「そういえば、あの決戦から何日か経ってるんだよな」
「二人とも直後に病院送りだったものね。もうすぐ次の年になるね」
「ああ。……ごめんな、ずっと一緒にいるって言ったのに」
「ううん。やっぱり、目上の人に報告するんだから直接会ったほうがいいと私も思うし」
「帰ってきたら、仕事を探して、君と暮らすための家をさがして――――」
「ふふっ、気が早いね。でもアルトまだ16歳でしょ」
「そうだった、この世界ってこの歳で仕事探すのは難しいんだよなぁ」
「私ね、中学を卒業したら本格的に管理局に携わるの」
「それじゃミットチルダに?」
「そうなるのかな」
「それじゃ俺もそっちに移住か、向こうは俺の歳でも仕事は見つかるというし」
「ねぇ……今はそんなことより。私の我侭…聞いてほしいな」

フェイトは自ら腕をアルトの腕に絡め指を絡める。

「……そうだな。時間はまだまだたっぷりあるし。行こうか」
「うん!!」

二人はデートが中断された遊園地へと足を運んだ。
しかしながら今日は奇しくも12月31日の大晦日。
新年を祝う恋人や家族で混雑していた。
でも二人には苦にはならなかった。
二人でいること自体、幸せなことなのだから

『5!、4!、3!、2!』

楽しい時はあっというに過ぎ新年へのカウントダウン。
大きな時計塔がある広場に集まった客達が時が変わるのを待つ。

『1!、0!。ハッピーニューイヤー!!』

花火の打ち上げと共に歓声が沸き立つ。

「おめでとう、フェイト」
「おめでとう、アルト。あっ!!」

他の客に押されアルトの胸の中へと飛び込んだ。

「おっと、大丈夫か?」
「うっ、うん……」

急に恥ずかしくなったのか、二人は言葉を失う。

「ひっ、人のいないところに行こうか」
「そっ、そうだね」

人ごみを掻き分け歩き回る。
気づくと二人は、決戦の舞台、あの公園に来ていた。
辺りには人の気配はぜず、遠くに花火の音と人々の歓声が聞こえる。

「くっしゅん!!」
「大丈夫か?」
「うん。ちょっと冷えるね」
「……ほら」

フェイトを優しく抱きかかえる。

「暖かい……」
「そりゃぁ、炎の化身だからな」
「もぉ……雰囲気出ないなぁ」
「あっ、あんまり期待しないでください」
「ねぇ……管理局で言ったこと本当?」
「ん?」
「世界を敵に回してもってやつ」
「ああ、本気だ。たとえ世界を敵に回そうとも、俺はお前を守る」
「なんだ、うまくできるじゃない……ありがとう」

時間の過ぎるのは早いもので出発まであと1時間をきっていた。
二人、暗い夜道を歩く。

「もう少しでお別れだね」
「ああ、しばらくのお別れだ」
「ねぇ、アルト」
「ん?……!!」

振り向くと至近距離にフェイトの顔、そのままフェイトが近づき唇が触れる。
唇を離すと、アルトは狐につままれたような顔をしていた。

「ふふっ、驚いた?」
「ああ、驚いた。今日はまたずいぶんと積極的だな」
「クレロス義姉さんが言っていたでしょ。自分には正直にって、だからあなたに対してちょっと我侭言ってみたの」
「そうか。なら俺からもお返し」

再び触れる唇。

「うん…ん……」
「はぁっ…ん…うん……」

今度は数秒ではなく、とても永い抱擁。
首と腰に腕を絡め、まるで常夏のビーチの熱さように情熱的に相手を求め合う。

「うん…はあっ……ん……」
「はっ……ん……」

二人を取り巻く熱のせいだろうか、段々と意識が溶け合い同時に心身がシビレる感覚に陥った。

「ううんっ……はぁっ……あっ、アルト……」

熱い吐息と共に漏れ出す艶を帯びた声。

「だ〜め、もっと」
「うん……ん……」

再び熱く唇を重ねる。
二人は時間の許す限りいつまでもその感覚を楽しんだ。


午前6時50分、桜台。
林道の開けた場所には白いシャトルの姿が。
その周りに人影、これから帰路につくアニス達とそれを見送りにきたなのは達である。
なぜか高町家の面々もそこにいた。

「あっ、来た来た」

その一団に向かって、アルトとフェイトが手を繋ぎ丘を登る。

「お別れはすんだ?」
「ああ、たっぷりとしてきた」
「なんかもうすっかりバカップルやね」
「もう、はやてってば」

辺りに柔らかい笑い声が広がる。

「それでは。長い間お世話になりました。また1ヵ月後お会いしましょう」
「次、会った時は模擬戦の再戦を」
「おうよ、今度は負けないぜ!!」
「それまでに鍛えておけよ」
「アニスちゃん、また来てくれよ」
「次は負けないからな」
「恭也さん達とアニスってなんかあったの?」
「アニスちゃんがお礼に来たときにお父さんと恭ちゃんが試合を申し込んでね、あっという間にやられちゃったの」
「クッ!、我が御神が7歳児に負けるとは……」
「久しぶりに山篭りでもするか」
「いや、いくらやっても無駄だと思うんですけどね」
「……時間です。出発します」
「アルト、いってらっしゃい」
「ああ、いってきます」

7人はシャトルに乗り込み、シャトルが浮上した。
ある程度浮上するとその姿を消し、そして轟音を響かせ飛び去っていった。

「アルト……また会おうね」

頬をつたい一筋の涙がこぼれる。
ホントは寂しかった。
今はひと時も離れるなんて耐えられなかった。
しかし一度でもそういう素振りを見せれば彼は帰れなくなってしまうことは分かっていた。
だからこれが最後、自分の感情を押し殺して笑顔でアルトを送り出すと決めたから。

「……さぁ、みんな行こうか」

フェイトは歩き出した。
1ヵ月後の再開を夢見て――――――。

To be continue for second chapter………







あとがき

Krelos:第1部完結お疲れ様でした〜。
アル&ナイ:お疲れ様でした〜。おめでと〜
Krelos:あざーす!!。
ナイジャ:いろいろありましたねぇ。
アルト:そうだなぁ、でもこれでゆっくり出来るな。なっ、作者。
Krelos:そうもいかないのだよ。脇役のナイジャはともかくアルトはフェイトと再会しなくちゃいけないし、
第2部、第3部と活躍してもらわなくちゃならないし。
ナイジャ:さらりと酷いこと言うなぁ。
Krelos:それじゃ皆さん!。また第2部で!。






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