新暦72年4月中旬
ミッドチルダ首都クラナガン。

「おはようございます」

品性な住宅地の一角の家の前に立つ二人の少女。
一人、アニス=フェリア=ノクターン。
一人、ミレニアム=ヴァン=ファルフィード。
ピンポーンとチャイムを鳴らし

「はぁ〜い」

ドアを開けると出迎えたのは八神はやて。


第1話
理想(ゆめ)のために


「お引越しの手伝いに来ました」
「これ引っ越し祝いです」

差し出す手には蕎麦の束。

「おおきに、さぁ、入って」
『お邪魔します』

家に入ると、引越し独特の散らかり様だ。

「あら、アニスちゃんにミリィちゃん」
「こんちわ〜」

中に入るとヴォルケンリッターが荷物の整理をしていた。

「おはようございま〜す」

後方から複数の声、振り返るとなのはをはじめみんなの姿が
仕事でも全員揃うのが難しいのに、引越しの手伝いに皆来ている。

「みんな、忙しい中おおきに」
「ちょうど空いてたんでな」
「これも日ごろの行いがいいから神様がみんなに暇を作ってくれたんやろか」
「そんなことないだろ」
「あっ、クロノくん真っ向から否定せんでもいいやろ?」
「そんなことはない」
「はぁ〜っ、夫婦喧嘩はほっといてさっさと始めるぞ」
『うん』

中に入ると引越しのダンボールは散乱してるが、前の八神家より広いことが伺える。

「いいところだな」
「そやろそやろ?。ここが将来、私とクロノくんの愛の巣になるんよ」
「おっ、おい」

後ろから腕を組んだはやてとクロノが来た。

「おアツイねぇ」
「ちゃ、茶化すなエイミィ!」
「見るからにバカップルだな」
「君とフェイトだってしばらくはそうだったさ」
「お前となのはもな」

笑い合っていると

「和んだところでそろそろ手を動かしてもらおうか」

機嫌の悪いヴィータがそこにいた。

「おう、わるいわるい。それじゃ始めるぞ」

男性陣はタンス等の家具を動かし。女性陣は食器や洋服などの小物を、
はやての指揮の元、着々と片付けていき夕方ごろには住める環境が整った。

『いただきまーす』

夕食は、アニスの持ってきた引越し蕎麦。

「それにしてもいい所見つけましたね」
「そうやろ、交通はちと不便やけど、粘った甲斐があったわ」
「鳴海の家はどうするの?」
「そうやなぁ、ほっとくわけにもいかんし、どないしよ?」
「まぁ、何かしらに使えるだろう」


食後、みんなは団欒を楽しんでいた。

「ところではやて、昨日の通信だと何か私に用があるみたいだけど?」
「そうやった。アニスちゃん、実は頼みたいことがあるんやけど、いい?」
「聞ける範囲だったら」

はやての顔がまじめな顔になり

「私に指揮官としての心得を教えてください。いえ私を弟子にしてください!!」
「…………」
『ハァ!?』

その言葉にみんな眼が点になり、思わずハモってしまった。

「どういうこと?」
「実はな、わたし部隊を作ることにしたんよ」
「そういえばなんかそんな事言ってたな」
「今、クロノくんやリンディさん、あと聖王協会のカリムって人の4人で準備を進めているんやけど」
「私とどう繋がるの?」
「今度の部隊は対ロストロギア専門部隊や、部隊員の危険度がぐっと増す。
正直、指揮官特性があるといわれてもまだ不安なんや、今後、大きな犯罪組織なども関わってくる恐れもあるし」
「なるほど、もっといろいろな経験を積みたいと?」
「平たく言えばそうや。アニスちゃんはこの前の海賊艦隊襲撃のとき、指揮官と部隊のあり方について論いたやろ。
私も実際そうやと思った。そうなりたいと思った。だけど、今の管理局ではそれはでけへん。
だからアニスちゃんの下で学びたいんや。お願いします」
「おい、はやて本気か?」
「私は本気や」
「どうします?」
「………ダメ、私じゃダメなの、知識や概念は上塗りできてもその元となる部分は間逆だから。
どうしても学びたいんだったらU・F入隊の登竜門、登軍訓練に参加することね」
「それって私でも参加できるんか?」
「U・F大佐以上の推薦さえ取れれば、外部組織からでも研修として参加できるけど、でもその前に理解してる?。
軍は管理局と違って基本的に殺しを教えるところよ?」
「それは重々承知しています。何とか推薦してもらえないでしょうか?」

アニスは考える。
はやてを見ると真剣な眼差し、どうやら決意は固いらしい。

「5月になるまで待って、確認してみるから」

はやての顔がパッと明るくなり

「おおきに!!」
「わっ!」

アニスに抱きついた。

「ただし、ひとつ条件がある」
「条件?」
「私は中途半端が大嫌い、私に頼むんだったら中途半端は許さない、最後まで徹底的にやる。
例えば、この家を離れるかもしれない、例えば、実戦やシティ防衛戦で大怪我を負うかもしれない、
誰かを殺すかもしれない。それでも諦めずに最後までやり通す覚悟はある?」
「……あります」

それを聞き少しうろたえるが、やがて意を決しゆっくりうなずく。

「それなら、また5月に。私達はそろそろお暇します」
「あっ、はい」

みんなは玄関に集まった。

「それじゃはやてさんまた今度」
「はい、よろしくお願いします」

アニスが帰った後、しばらく沈黙が満ちた。
そしてはやては振り向きみんなに頭を下げた。

「みんなごめん。誘った本人がこんなんで、正直自信ない、せやけど、初めて自分が持つ部隊なんや。
もっと経験を積みたい、ちゃんと運営できるようにしたい。私のわがままやけどどうか、待っててほしい」

また訪れる沈黙、そしてなのはが口を開く。

「誰も責めてないよ、はやてちゃん」
「うん、むしろ当然の事だと思うな」
「なのはちゃんフェイトちゃん」
「主はやて、私達のことはどうかかまわずに」
「いつまでも待ってるからさ」
「はい」
「あまり無理はするなよ」
「クロノ君寂しいんでしょ?。かわいい奥さんとますます会いずらくなって?」
「だから茶化すな!」
「みんな、……おおきに」

皆の温かい言葉にはやては泣いてしまった。


時は経って5月

「う〜ん、お仕事終わり」
「お疲れ様です、はやてちゃん、一段落しましょです」

リィンがお茶を持ってきた。

「ありがとな、リィン。ん?」

お茶に口を付けようとしたとき、空間モニターが現れた。

「なんやろ。辞令?」
「辞令ですか?」
「八神はやて一尉、本日を持って時空管理局の全職務を一時休職、ユニバーサル・フォースへの1年間の研修を命ずる?。
しかも局長と人事課長の署名付き」
「何でしょうねこれは?」
「見てのまんまだけど?」

声と共に部屋に入ってきたのはアニスとミリィだった。

「アニスちゃん、ミリィさん」
「はやて、仕事が一段落したなら家に帰って、ヴォルケンズも集まってる。話はそれから」
「あっ、はい」

はやてとリィンフォースは帰り支度を整え家に帰った。

「お帰りなさい、はやてちゃん」
「お帰りなさい、主はやて」

家に帰るとヴォルケンズの面々が出迎えてくれた。

「それでははじめましょうか」
「カティウスさん?」

アニスと一緒に来たのはアルトの兄、カティウス。
みんなは居間に集まり、クロノもモニターで参加していた。

「まず、はやてからの申出だけど、管理局のほうもすんなり通ったわ」
「ありがとうございます」
「整理するとラーナ訓練シティで半年間、教導軍主催の登軍訓練をし、その後の半年間は私の下に直接付く。
計1年が軍事研修になるの」
「ラーナ訓練シティと言えば、アルトくんが地獄の業火も生温いような厳しい訓練をすると言っていたところですよね?」
「否定はしない。これまでに何百人も病院送りになってるし、今回は全滅かもしれない」

カティがボソリと不吉なことを呟いた。

「なんか言うたか?」
「ううん!。しかし参加する価値はある。傾向として自然と部隊の役割が出来てくるし。教官達はアドバイスはするけど、
基本はただこれをやれと命令するだけ、実際考え動くのは訓練生達、いやおうなしに経験が積まれていく」
「私も学校が終わり次第、訓練に動向する。これが私達の考えたプランよ」
「アニスからも言われたと思うがもう一度確認する。お前が踏み入れ学ぼうとしている所は、非殺傷魔法なんてない、
常に命の危険と隣り合っているところだ。演習中に敵が襲ってきてそのまま攻防戦になるということも珍しくない。
よってその性格上、同意書や遺書も書いてもらう」
「どうする?。止めるなら今のうちよ?」
「いいえ、よろしくお願いします」
「ゼファー、ノクターン。どうか主のことをよろしくお願いします」
「わかった。それではこれを」

アニスは1着の白いジャケットをテーブルに置いた。

「これは?」
「外部参加者の場合、訓練終了後は推薦者の直属の部下として軍に組み込まれるから。
だからはやては推薦者であるこの私、統合作戦部直下、独立艦隊所属、独立エクセリオン特殊部隊第2機動艦隊所属、
アニス=フェリア=ノクターン超将軍の部下と言うことになるから」
「はい」
「それでねU・Fは軍服といったものはないの」
「行ったときもみんな服装は自由だったでしょ?」
「そう言えばそうやね」
「でも皆、色違いのジャケットを着てたが?」
「そう。軍服がない代わりに各軍のイメージカラーと同じジャケットを着てワッペンで部隊名、階級を表しているの。
訓練生でも同じ種族の軍と同じジャケットを支給されるわ。私達の部隊は白いジャケット、そしてこれがワッペンよ」

ジャケットの上に置かれたワッペンは金色で米警察のワッペンのような形に上段にI・E・S・T、
中段に5匹の獣のエンブレム、下段にdrillと書かれていた。

「訓練生でも軍にいるときは必ずジャケットとワッペンを着用、下はどんなものでもいいけど、
もし着ていなかったら、どんな高官でも即逮捕、独房行きよ」
「分かりました」
「今日はこれくらいにして、あとの装備品とか諸手続きとかは明日移動中とレクリエーションにやるわ。
何か準備するものがあればこれからして」
「分かりました」

二人は立ち上がり、家を後にした。

「さて、用意せんとな」
「手伝います」


翌日
新臨海空港
その一角にファルコンの姿があった。

「それじゃ、みんな1年後にまた会おうな」
「行ってらっしゃいませ」
「お気をつけて」
「こっちのことは任せてくれよ」
「病気や怪我等には気をつけてくださいね」
「ううっ、やっぱり寂しいです〜」

ターミナルにヴォルケンリッターの面々が集まっていた。
さすがになのは達は仕事の都合が付かないようだ。

「寂しがらなくてもいいで、慣れてくれば通信で話できるし」
「ううっ、分かりました。その日を楽しみにしています」
「はやて、もうそろそろ行くよ」
「あっ、はい。それじゃみんな、行ってきます」

二人はエスカレーターに乗り、段々と姿を消していった。

「さて、我々も行こうか」
「おう」

ヴォルケンリッターの面々も空港を後にした。


「ハイパースペース航行中、システムオールグリーン」

ファルコンは幾何学模様の超空間内を進んでいた。

「さて、装備品といっても、必要なものはレクリエーションの時に支給されるし、私からはこれかな」

それは補聴器のような形をしたもの。
先日、ガイアに行った際、渡された翻訳機だ。

「これさえ付けてればまぁ、何とかなるでしょう」
「そういえば、そっちって何か特殊な敬礼の仕方とかある?」
「えっ?」
「ほら、こっちではサーイエッサー!とか」
「ああっ、それは大丈夫、うちの軍ってそういう堅苦しいものないから」
「無いって?」
「創設者の光が堅苦しいのが嫌いでみんな和気藹々状態、他種族の入隊もありそういうのは少し厳しくなったけど、
ほかの軍ほどではない」
「まぁ、目上の人に対する礼儀とかちゃんとできてれば大丈夫ですよ」
「そんなんでよく運営できたなぁ」
「まぁ、私達は強者への尊敬と団結力で軍を運営してるから」

ファルコンはゲートアウトし、惑星に降りていった。

「うわ〜っ、あれほど酷かったのにもう直ったんか?」

先の教育隊の戦闘でボロボロになった正門前はすっかり改築されていた。

「まぁ、あれから2週間近く経ってるしね」

そこにカティが顔を見せた。

「ところで今日は何日?」
「AS暦43年5月1日午前8時。AS暦って言うのはね西暦2000年に制定された暦で、言い直すと2043年ね」
「俺は仕事があるからこれで。入隊は中央ビルエントランスで受付してるから行ってこい」
「そういえばクレロスさんはどないしたん?」
「育児休暇だ」
「それじゃ、私も学校があるんで。がんばってね」
「はい、行ってきます」

はやては白いジャケットを着て門を潜り、巡回するカーゴチェイサーに乗り、中央ビルのエントランスに向かった。

「すみません、登軍訓練に参加する八神はやてですが」

黒いジャケットを着た受付嬢に話しかける。
年恰好ははやてと同じぐらいだろう。

「お待ちください、只今確認します」

受付嬢はキーボードを操作しスクリーンに情報を表示する。

「八神はやて訓練生、登録リスト確認。
アニス超将軍の推薦でユウリィ=ユウナ、シティ総司令の認証済み……確認取れました。
最終確認を執り行いますのでこの書類にサインを」

差し出された電子書類に目を通す。
内容は、私生活、訓練時、戦闘時のいかなる行動においても全て自己責任であり、
たとえ負傷・死亡の危険があっても入隊するという様な同意書だった。
はやては迷わずサインした。

「こちらをどうぞ」

黄色いジャケットを着たもう一人の受付嬢が四角い物体を渡した。

「耳に付けて緑のボタンを押してください」

言われたとおりに耳に引っ掛け中央の緑のボタンを押す。

「わぉ!!」

右目に緑のモニターが構築され、地図が表示された。

「すごいなぁ、でもなんや、これ昔どっかのアニメであったような。
何やったかなぁ、確か戦闘力を測る機械だったようなぁ」

というかまんまである。

「八神訓練生?」
「あっ、はい」
「どうかなされました?」
「いっ、いえ」
「そこに映し出されているのはこのシティのマップです。青いマーカーが自分の位置で、
赤いマーカーがこれから半年間生活する共同部屋です」
「分かりました」
「10時からレクリエーションが始まりますので、お急ぎください」
「ありがとうございます」

カーゴチェイサーに乗りマップの示す隊舎寮へと向かう。
隊舎寮の部屋に入るとそこは大部屋、50近くはあるのではないかと思う二段ベッドがあっても余裕があるぐらいだ。
神族をはじめそこにはヒューマノイド型の他種族も数多くいた。
その誰もが女性で和気藹々と喋っている。

「えーと、20−2、20−2と」

モニターに指示されたベッドの番号を探す。
入り口から降順に並んでいるらしく、すぐに寝床は見つかった。

「よいしょっと」

二段ベッドの下段に荷物を置く。

「今日から……ここで暮らすんやね」
「わっ!!」

突然後ろから大きな声を出され、ベッドに倒れこんだ。

「だっ、誰や!」
「あははは、ごめんごめん、ボケーっとしてるからつい」

そこにいたのは黒髪の少女。
外見からも分かるようにメイの一族の出である。

「ウチはケーニッヒ、ケーニッヒ=ケイティや、よろしく」

手を差し伸べ、はやてを起こす。

「どうも、八神はやてです」
「なんや、あんた地球の関西の出か?」
「まぁ、京都寄りですけど、そういえばケーニッヒさんもほとんど同じ喋り方しますね」
「ウチのことはケーニッヒでええ。ウチはなメイの一族やけど、大阪出身や、まぁ、これからバディになるさかいよろしく」
「バディ?」
「あんたのベッドはここやろ?、うちはこの上。まぁチームメイトや」
「そうですか。よろしくお願いします」
「そんなにかしこまらなくても、あんた15,6やろ?」
「はい、15です」
「私も15や、もっと仲ようしようや、はやて」
「それじゃケーちゃん。よろしくな」
「おう!」

その時、アナウンスがあった。

「"只今より、登軍訓練のレクリエーションを行います。訓練生は速やかに第3訓練場に集合してください。
繰り返します。只今より、登軍訓練のレクリエーションを行います。訓練生は速やかに第3訓練場に集合してください"」
「ほな行こうか」
「うん」







あとがき

はやてメインの長編外伝です。亀の歩みで進行していきます。





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