はやてが入隊してから1ヶ月が経過した。 その1ヶ月は壮絶なものだった。 基礎体力の底上げと言う名目で毎日、身体を苛めて苛めて苛めぬき、夜は死んだように眠る。 もちろん疲労から、食料争奪戦に参加できない者もおり、酷い筋肉痛で夜中にうめき声を発する者、 中には心身ともに追い詰められかけている者までいた。 教官に相談しても“そういう時こそ仲間同士の助け合いだろ”と言うだけ。 しかし、これはまだ序の口にすぎない。 第3話 痛快!、2匹が行く 「これがこれから貴方達の乗ることになる軍の主力戦闘機、インコムT−75、通称Xs(エクス)−グラスパーよ」 モニターに戦闘機の図面が表示され教官が説明をはじめる。 「前主力機、Xウイングとの大きな違いは、ツインGSドライブエンジンによるスピード及びパワーアップ。 3次元可変エンジンノズルによる滑らかな旋回性。まぁ、大体こんなところね。 当然ながら従来型の2次元可変ノズルより操作性は若干難しくなってるわね、下手すれば真っ逆さま。 さて、その操作だが――――」 男女別々に分かれ、早朝と午前中は軽い運動とU・Fの保有する兵器の取扱・操縦、それと戦闘に関する知識、 午後は実務訓練とカリキュラムが組まれ徹底的に叩き込まれる。 「はぁ〜。先月と比べればまるで天国やわ〜」 だが、最初の体力増強訓練よりは楽らしく、朝の疲れと午前中の暖かな陽気にウトウトとする者も少なくなかった。 はやてもその内の一人であり、睡魔に意識を持って行かれそうになったその時、自分を呼ぶ声。 「はやて、はやて」 「ううん。もうちょい寝かせてぇな」 「はやて!、はやて!!……起きんかいボケぇぇぇええええ!!!!」 「はっ!!」 突然の大声に意識が引き戻される。 狭いキャノピー、ぐるぐると回る景色、機内に鳴り響く警報。 そこは先ほどまでいた教室とは違う。 「おきろおおお!!」 「ケーちゃん?。おはよう」 後ろを見るとGアーマー姿のケーニッヒが必死に叫んでいた。 「おはようじゃない!!。いいから機首をあげろぉぉぉおおお!!」 「えっ?。はっ!」 そう、今の二人が置かれている状況、Xs−グラスパーに乗り、キリモミ状態で落下中。 「のわぁぁぁあぁああああ!!」 状況を理解したはやては、咄嗟に機首を起こすためピッチを起こしフットレバーでエンジンノズルを動かし噴射角度をずらす。 地面すれすれで何とか機体を起こし地面とのディープキスを回避することに成功した。 「っはぁはぁ、しっ、死ぬかと思った」 「それはこっちのセリフや!、ドアホ!!」 「“やがみ〜ぃ”」 「すみません!!、教官」 「“はぁ、別に寝るなとは言わないけど実務訓練の時は止めといたほうがいいわよ。 それにバディを道連れにするのはどうかと思うなぁ。脱出装置はあるけど下手したら2人とも魂抜けるよ?”」 軽い言い方なのにその言葉が重く圧し掛かる。 「はい!、ゴメン、ケーちゃん」 「まぁ、結果オーライということで良しとしましょう」 「“それじゃ各機、私のところに集合”」 『了解』 ホバリングする教官機編隊の周りにみんなが集まり大編隊を形作る。 「フライトはまだ十数時間だけど基本操作のほうは慣れた?」 『“はい!!”』 「まぁ、Gアーマーのナノマシンサポートで操作が簡略化されてるし。いきなり曲芸した人もいるしね」 「“アハハハ、面目ないです”」 「いい、第2次訓練は模擬戦や曲芸飛行もやるからここでしっかり基礎を叩き込むんだよ。 いつまでもナノマシンのサポートに頼るんじゃないわよ」 『はい!!』 「私ら戦闘機チームに恥をかかせないでよね」 『はい!!』 「それじゃ今日はこれまで、シティに帰った後、機体整備レポートを提出した組から解散とする」 『“了解”』 「新人教官達もレポートを早めに出しなさいよね。今日はハイシーズに呑みに行くんだから」 「“あの星の地酒っておいしいですからねぇ”」 「“誘ってくれると私らもやる気出るんですけど”」 「“もちろんリーダーのおごりで”」 「仕方ないわねぇ、クレナイさんには私から言っとくから、その代わり1時間以内に提出だからね」 『”了解しました〜”』 基地に戻り、次々と着陸しハンガーに収容されていく。 「管制塔からのOK出たで、って大丈夫か?」 「大丈夫、多分……」 垂直着陸なので降下速度と逆噴射の加減に気をつければいいだけの話だが、はやてにとってはまだ至難の業である。 ガクン!と大きな揺れが起き、何とか着陸することが出来た。 「ふ〜っ」 「安心してないでさっさとハンガーに移す、後がつかえてるで」 「ふぁ〜い」 機体をハンガーに移動させ、チェックリスト通りに整備を終わらせ、教官に提出、これで今日の訓練は終わりである。 「終わった終わったぁ」 「もう汗だく、早くお風呂に入りたい」 「はやて、それはまだ早い、その前に食料確保せなアカン」 「そうやった。あ〜っ、でもまだ疲れるの嫌や」 「あんたも魔法だっけか、使えるんやろ?。非殺傷やけど聞くと何や便利そうなのもあるし」 「それは私も考えたけど、やっていいのかぁと思って」 「いいんやないの?。あそこはもう無法地帯と化してるから。それに体力つけないとアカンよ」 「そうやね。それじゃがんばって確保しようか」 その後、はやては食堂でディアボリック・エミッションを繰り出した。 結果は上々、しかし案の定、みんなからこっぴどく怒られ禁止令が言い渡された。 だが、はやてはメゲなかった。ホウが“面白そからそれもあり!!”と言ってくれたから。 他の兵士からの抗議は続いたが、結果、兵士達は認めないものの、 軽傷程度のマップ攻撃使用可のおふれが武道派の女料理長によって下された。 ちなみに料理長は司令官すら頭が上がらないシティの裏の支配者であり、なおかつ三人いる彼の妹の長女兼嫁である。 「今日から白兵戦の訓練を始める。その前に配布するものがある、神族は赤、その他の種族は青いテントに集まって」 教官に言われそれぞれのテントに集まる。 テントでは教官が言っていたとおり、銀色の筒を配布していた。 はやてはそれは何かは知っていたがその他にも数十センチの黒い帯を渡された。 「ねぇケーちゃん、こっちはライトセイバーだということは分かるんやけど、こっちの黒い帯って何?」 「えっ?。さぁ、私はもらわなかったけどね」 「行き渡ったかい?。それじゃまず黒い帯をもらった人達は頭、胴、腕、脚、何処でもいいから身体に巻きつけて、 取れるといけないからなるべく地肌に巻きつけてね」 言われたとおりみんなは身体に巻きつけ、はやても頭に巻きつけた。 「教官、これって何なんですか?」 「サイ・コンバータよ。今は科学が発達してナノマシン大の装置を布地に織り込めるようになったのよ」 「便利な世の中になったものねぇ」 クレナイがポツリと呟く。 「そしてこっちの銀色の筒がライトセイバー、軍の接近戦用対人武器よ。 みんなも知っていると思うが神族以外の者はライトセイバーの光刃を形成させる前に サイ・エネルギーを使い果たしてしまうのでサイ・コンバータと常にセットで所持するように。 もしコンバータ無しでセイバーを使ったらあっという間にあの世行きだからね」 「それじゃまず光刃を形成しろ。やり方は簡単だ、柄部分を力を込めるように握ってみろ」 ブウゥン!、とあちらこちらで青い光刃が形成される。 「重さが握り部分しかないから扱いには気をつけてね。訓練用に調節されているとはいえ本物なんだからね。 胴体でもスパッと切れるわよ」 「それじゃ早速バディ同士で模擬戦でもやってもらいましょうか」 『え〜〜〜〜〜っ!!』 「そんな、いきなり模擬戦なんて」 「セイバーは電磁刃モードにしてある、当たってもビリビリ痺れるだけよ、まぁ、当たり所が悪ければ気絶ぐらいするけどね」 「さっさと始めろ!、それとも私達相手の真剣勝負でもするか?」 一人の教官の睨みで全員震え上がり、みんなは模擬戦を始めた。 しばらくして、教官達が見て回りレクチャーやアドバイスなども言っている。 「きゃっ!!」 「はやて、ほんとに接近戦弱いわね」 「だって私、広域後方支援型やもん、接近戦は不得意や」 「どう、調子は?」 はやてとケーニッヒのところにはアニスが見に来た。 「あっ、アニスちゃん」 「ダメダメですよ。はやては後方支援型って言うし」 「そう、まぁ頑張って」 「はい」 「後方支援型で接近戦はまるっきりダメか……何とかしないとね」 ブツブツと何かを呟きながらその場を後にする。 「何やのあれ?」 「さぁ……」 はやてはまだ知らない。 卒業した後、降りかかる地獄をも生易しい訓練が待っているとは。 「う〜ん、難しいなぁ」 ポジトロンビームライフル。 軍の白兵戦用小型陽電子銃、陽電子と電子を対消滅させて得たエネルギーをビームに変換して撃ち出す兵器。 チャージ式、速射式、ライフル型、ガトリング型などバリエーションも豊富だ。 ちなみに銀河に普及している携帯用熱線銃“ブラスター”は違うものである。 「よっしゃぁ出来たぁ!」 本日の午前授業はそのポジトロンライフルの原理解説や分解整備組立の一連の作業を行っていた。 「早っ!、ケーちゃん早いよ!!」 「さすがだね、ケーニッヒ、今回の訓練生でトップのタイムだよ」 「銃の扱いなら任せておき!!」 「そうかい、ならワンステップアップしてこれの分解整備組立をしてもらおうか」 ケーニッヒの机の上に置かれたのはガトリング式のポジトロンライフル。 「教官、いくらなんでもこれはいきなり殺生やわ」 「冗談だ」 「ありゃっ」 その場にコケるケーニッヒ。 「ケーちゃん。こっち」 Gアーマーに身を包み、ポジトロンライフルを持ったはやてが物陰に隠れ、後方にいる同じ格好をしたケーニッヒを誘導する。 午後の訓練は屋外での銃撃戦。建物のセットを使い、2対2で戦い互いの陣地の旗を取り合うというものだ。 ちなみに持っているライフルは殺傷ではなく、当たれば痺れるパラライスに設定されている。 「まったく、コイントスで決めたとはいえこれはツライで」 相手の陣地は小高い丘の上、逆にはやて達の陣地はその下にある広場、嫌でも動きが筒抜けになってしまう。 「ここまで来たはいいけど、この先400メートルはなだらかな丘、おまけに障害物は無し、 向こうはプラス丁だもんなぁ。 さて、どうする?」 相手の組は腕が二組ある異星人、ポジトロンライフルのほかにブラスターライフルも構えていた。 物陰に隠れ、相手の出方を見ていると、その後ろではやてが夜天の書を捲っている。 「何してるん?」 「ちょっと、何かいい魔法ないかなと思って」 「魔法を使う気なん?」 「そうや。教官達は自分の持てる全ての力を使えと言った。ただその一言だけを。 逆に言えば禁止事項は何も設けられてないわけや」 「そうか、何でもやり放題なんだ!!」 「そいうこと、だからあっちもブラスターを装備してるし」 「そうやったんだ。それで何かいいものあった?」 「う〜ん、幻術系を使って沢山のダミーで困惑させその隙にケーちゃんに旗を取ってもらおうと思うんやけど」 「なるほど、それって私の分身も造れるん?」 「いいや、術者だけや、それに私の魔力じゃせいぜい5〜6人、それで2分持てばいいほうや」 「5〜6人か、かく乱させるにはちと足りんな。ん?。ねぇ、魔力さえあればもっと造れるんか?」 「そりゃまぁ、膨大な魔力さえ――――」 言い終わる前に、ケーニッヒははやての顎を上げ唇を重ね、すぐに離した。 「!!。……なっ、何やってんねん!!」 「何ってライン引きの簡易儀式。これで2〜3日は私の魔力を使えるよ」 「だからって、せめて一言言ってほしかった……クロノくん、私。穢れちゃったよ。もうクロノくんのお嫁さんになれへん……」 よよよと泣き崩れるはやて。 「うが〜〜!!、生娘でもあるまいし、いちいち落ち込むんやない!、今のはノーカンや」 「でもぉ……」 はやての頭に拳骨一発。 「これ以上引っ張るとブツよ」 「もっ、もうブタれてます……」 「さて、即興コントはこれぐらいにして、時間も無いし一気に行くで」 「了解」 はやての足元にベルカの魔法陣が展開される。 「ダイアナ、もうそろそろ決着をつけるわよ」 「そうね。旗は任せたってあれ?」 見ると、物陰から離れ近づいてくる者が一人。 バイザーとマスクを装着しているのでどちらかは判断できない。 「囮!?。別なヤツは何処に!」 「センサーに影はないわ、多分まだ後方にいる」 「と言っても何かあるわ。気をつけてね」 「ええ」 2人はライフルを構え襲撃に備える。 その間にも相手は黙々と近づく。 その後ろにもう一人の人物が現れる。 そしてもう一人、もう一人、もう一人……。2人の表情が驚きに歪む。 『なっ、なっ、なんなのよあれ――――!!』 二人が驚くのも無理は無い。 現れたのは有に100人を超える軍勢、そして一斉に走り出しドドドドォォ!!と地響きを響き渡らせる。 「とにかく応戦よ、一人も通すんじゃないわよ!!」 「わかってる!」 ポジトロンとブラスターによるビームの嵐。 しかし当たらずすり抜ける。 「フォログラム!?」 「でもこの中に紛れているのは確かよ、撃って撃って撃ちまくるのよ!!」 弾幕と言っていいほどに撃ちまくるが、軍勢の勢いは止まらない。 それどころか、その迫力に負けた二人は腰を抜かしてしまった。 軍勢はすぐ目の前に来るとスゥーッと消えていく。 「とったど〜〜!!」 後ろから聞こえる雄叫び。 振り返るとケーニッヒが高々と旗を挙げていた。 『ケーニッヒ!?』 「いえ〜い、うち等の勝ち!」 そして建物の物陰から走ってくるはやて。 「ゴメンな2人とも」 『はやて』 「まさかあのフォログラムははやてが?」 「ちょいちがう、あれは魔法で幻影を出しただけや」 「どっちみち同じ!」 「別に、ズルしたわけや無いもん」 「そりゃそうだけど……」 「なんか納得いかない」 「“はいはい、次の組がつかえてるからさっさとどいた”」 『はぁ〜い』 「いくら禁止事項が無いとはいえ魔法を使ってくるとは」 「相手の組もその盲点に気づいていましたけど、余計な先入観を持ったのがいけなかったわね」 「あの子達、関西人ということもあり面白いわね」 「いや、それは関係ないかと」 一連の様子を少し離れた高台から教官達が見ていた。 「う〜ん、あの2人を分隊長候補に入れちゃおうかなぁ」 「お婆ちゃん。それは私に対して贔屓目で見た結論?」 教官達の中にはアニスの姿もあった。 「んなわけないでしょ。私の長年の経験とカン、独断と偏見でチョイスしています。 それとアニス、私のことはお婆ちゃんじゃなくてお姉さん」 未来の血縁者であってもやはり二十歳の身の上でお婆ちゃんとは呼んで欲しくないのか優しく注意する、 もちろん怒りのオーラは装備済みだ。 「わっ、わかった。クレナイお姉さん」 「うん、分かればよろしい」 「う〜ん、やっぱ幻術はしんどい〜」 食堂の食料争奪戦を眺めながら、はやてはテーブルに伏せっていた。 「はいよ。ちゃんと食べて体力つける!」 そこに大盛りの料理が乗ったトレイを置くケーニッヒ。 自分の分のトレイを置き対面に座る。 「ありがとう」 「こっちこそ、ありがとな、あんたがいなかったら今回の模擬戦は勝てなかったから」 「こっちこそ、魔力供給が無かったらどうなっていたことか」 「案外うち等ベストパートナーかもな」 「えへへ、そうかな?」 「これからも公私ともにヨロシクや、はやて」 「こちらこそ、ケーちゃん」 二人は固い握手を交わした。 あとがき Krelos:本編が行き詰ったのでこっちを仕上げる。今回は何にもネタがない……そんじゃまた次回。 はやて&ケーニッヒ:え〜〜〜〜っ!。 はやて:もっと何か話してよ〜。 ケーニッヒ:何か話さんとあとがきにならへんで、もっと話しさせろや。 Krelos:だったら何話せばいいの?。 はやて&ケーニッヒ:それは……………。 はやて:あかん、何も思いつかん。 ケーニッヒ:ウチもや。 Krelos:だろ?、そういうわけでまた今度!。 |