「う〜ん、気持ち悪い〜」

夕暮れのシティ、はやてとケーニッヒは重い足取りでフラフラになりながら宿舎への道のりを進んでいた。

「はぁ〜っ、さすがに無重力下のガンダム運用は辛いわ」

今日の訓練は宇宙空間でのガンダムの操作訓練、無重力下の慣れない操作ではあったが、
皆それなりの成果を出していた。

「みんな何で酔わへんのかなぁ?」
「あんた途中で気失って大気圏に危ない角度で突入しかけたもんね。
こっちも酔ってたから助けるのが大変だったわよ」
「ははっ、ありがとう。ケーちゃんは命の恩人や」
「どういたしまして」
「あ〜っ、この憂鬱な気分を吹き飛ばすためクロノくんと愛の語らいしたいわ、早く通信機器とどかへんかなぁ」
「ミットチルダにいる愛しの旦那様との特別ホットラインでしょ?、はぁ〜っ、アツイアツイ。ん?」
「いやぁ、それほどでもってどないしたん?」

ケーニッヒが呆然と見つめる先には自分達の部屋。
その一角でみんなが集まっていた。


第5話 
雀荘・ラーナ


「ほれっ、これでどうだ!」
「何やってるん?」
「あっ、はやて、ケーニッヒ」

はやてが覗き込むと、みんなが取り囲む中心には見慣れたものが。
緑の雀卓にその上にいくつも並べられた白い牌。

「マージャン?」
「そう。訓練の合間の暇つぶしにって持ってきたものなんだけど、
時間が無くてね最近やっと日の目を見るようになったわけ」
「へぇ〜」
「ロン!」
「うわっ!」
「まけたぁ〜」
「面白そう、ウチもやらせて」
「はやて分かるの?」
「というかあんた宇宙酔いは大丈夫なの?」
「フフフ、ウチを甘く見ては困るで」

はやては幼少の理由から家にいることが多く、暇つぶしはもっぱら読書。
文学小説はもちろんその中には囲碁や将棋などのテーブルゲームの指南書もあり、マージャンも含まれていた。

「何やってるの?」

突然後方からの声、振り返ると入り口のところにクレナイとユウリィ、そして見知らぬ女性の姿が。

「おっ、マージャンじゃねぇか」
「いいねぇ、早速やろう」
「クレナイさんに総司令官殿。どうなさいました?」
「あっ、そうだった。はいこれ」

クレナイがはやてに渡したのは多目的PDAと同じような小さな四角い装置。

「はい、お待ちかねの通信ユニット」
「わぁ、ありがとうございます!」
「家族の方にはアニスが渡しに行っている。緑のボタンを押すと仮想ディスプレイが立ち上がるから
それで通信が出来るよ。超時空通信ブースターも内蔵しているから大抵の場所から通信できるよ。
なんと!、双方の時刻も分かるデジタルクロック付きよ」
「総司令はどうしてここに?」
「俺は一応ここの総責任者だからな。いいか八神訓練兵、通信は許可したが――」
「分かっております、軍には機密事項があり、いくら家族であろうと話すことは禁止されている」
「よろしい、お前達が学ぶ中には最重要機密技術も含まれている、
いくら多次元世界とは言っても漏出は許されないからな。それ以外だったら話の内容は制限しない」
「了解しました!」
「さて、伝達事項も伝えたし、さて早速やるぞ」

それまで話題に触れなかった見知らぬ女性は雀卓の一角に座り言った。

「それはともかくあなた誰ですか?」
「誰って、ああ、この姿でこっちに来るのは初めてだな。中嶋ホウだ、よろしく」

それを聞いて、誰も驚く者はおらず、“ああ、これが噂の”とか“結構美人ね”と声が聞こえる。

「何だ、リアクションが薄いな、八神あたりは結構驚くと思ったのに」
「結構有名な話なんで」
「私も身近に同じような人がいるんで」
「そうか、アルトと知り合いだったな」
「それはともかくよいものをお持ちで……」

はやてはホウの胸を見て手をワキワキさせている。

「また悪い病気が出てるよ……」
「それはさておき諸君、賭けといこうか。この3人誰でもいい、
1人でも点数を上まった奴はクレナイ手製豪華フルコースを食す権利を与えよう」
『クレナイさん手製の――』
『豪華フルコース………』

その言葉にその場にいた全員色めき立つ。
ただでさえ取得困難な食料を独り占め、しかもフルコース。
それだけでも十分魅力的なのにクレナイが作ったとあらばその価値もグッと上がる。
数日前に一度クレナイが気まぐれに厨房に立ちみんなに料理を振舞った。
その日はいつもの3倍増しの激しい争奪戦が繰り広げられたという。
もちろんはやてもその料理を運良く食べられた。
食べた瞬間、好評があった自分の料理がまるでオママゴトのようだとショックを受けあっさり負けを認めたほどだ。

「もちろんお前達が最下位になった場合はスペシャルトレーニングが待っているがな」

みんながゴクリと生唾を飲み込む。
負けたときのペナルティは嫌だが、それ以上にフルコースは魅力的だ。
とそこへ「待った」の声が、見ると入り口にはどこから聞きつけたのか男子はおろか正規兵達までいた。

「なに、あんた達も参加したいの?、いいわよ」

こうしてシティ全体でクレナイの料理を賭けた一大マージャントーナメントが開催された。
ルールは時間短縮のため半荘東風戦、終局時一番点数を稼いだ者が勝ち抜ける。
どこから持ち込まれたのか、シティのいたるところから雀卓やら牌が集められた。
各所で壮絶な戦いが繰り広げられ、強者は勝ち、弱者は涙を飲んでゆく。

「“久しぶりだなはやて、元気そうで何よりだ”」
「“お久しぶりです、主はやて”」
「ホンマに久しぶりやなぁ」

はやては余裕からか、熱戦を横に家族達と久々の会話を楽しんでいた。

「“訓練のほうはどうだ?”」
「うん、大変やけど何とかがんばってるよ、仲間も出来たし」
「“そうか、それはそうと、何で白熱してるんだ?”」

クロノははやての後ろで繰り広げられている異様な雰囲気に触れた。

「あははは。ちょっとしたイベントや」
「なぁに、はやて、ずいぶん余裕じゃない」

ギャラリーの一部がはやての周りに集まってきた。

「おっ、まさかこの人がはやてのダンナ?。結構いい男じゃないかい」
「年上の男性だぁ〜」
「いややわぁ、まだフィアンセ止まりや」
「フィアンセだったらダンナと同義じゃん。いいな〜こんなかっこいい人がいて」
「えへへ、そんなに言わんといて〜」

みんなにはやし立てられ嬉しさと恥ずかしさがこみ上げてくるが、それをいつまでも味あわせてくれる人達ではない。

「ねぇ、こんなチビタヌキなんかほっといてさアタシのモノにならない?」
「あ〜ずるい〜、それだったら私も略奪愛やっちゃおうかな〜」
「“いやはや。参ったなぁ”」

はやてと同年代とは思えぬ魅力すぎる色香を振りまき競うようにクロノをオトそうとしている。
当のクロノは言い寄る女子達にただ苦笑するのみ。
ここではっきりはやて一筋といえば甲斐性無しやヘタレとは呼ばれなかっただろうに。

「あははは…は…は…………」

そんなのをはやてはいつまでも許せるわけなく。
スパン!スパン!スパン!とリズム良くハリセンの音が響く。

「あんたら、人のダンナ略奪しようなんていい度胸やないか」

満面の笑みにハリセンと負のオーラは装備済み、クロノを誘惑した子達は見事撃沈されている。

「まったくもう」
『ごめんなさ〜い』
「はやて〜、あんたの出番よ」
「は〜い。ほな、またな」
「“あっ、ああ、またな”」
「……さて、お仕置きの続きや、フフフ……」

不適な笑みを浮かべながらボキボキと指を鳴らした。
その後、部屋のみんなは絶対的差を持ちはやてに負けていったという。


トーナメントが始まって1週間。訓練の合間にゲームをし続け、ついに決勝戦が開始された。
510万人の中から選ばれたのはシード権を持つクレナイ、
ラーナ総司令のユイリィ、古株の女性兵士と、そしてはやて。
談話室の一角で行われるそれは、真近での観戦するギャラリーはもちろん、
仮想ディスプレイでシティのいたるところで見られていた。

「それにしてもホウさんが負けるとは思いませんでした。
俺達の誰か一人に勝てたらとか言ってたのに、総司令にあっさりと」

映像を見ながらケーニッヒは隣にいるホウに言った。

「俺は人並みには強いけどユウリィはプロの雀士並、クレナイなんて論外だ」
「クレナイさんってそんなに強いんですか?」
「純粋な強さは俺とほとんど変わらないんだが、奴のバックには最強が付いているんだ」
「最強?」
「……幸運の女神だよ」
「!………はぁ……何なんですかそれ?、言ってて恥ずかしくないですか」

ケーニッヒは最初驚いたが、その臭すぎるセリフにため息が出た。

「いやホントだって、クレナイと勝負するとどんな凄腕ギャンブラーでも必ず負けちまう、どんなにやってもだ。
おまけにカジノに行けば軽く億単位で稼いじまうし、宝くじでも高額当選しちまう。
一時期騎士団の稼ぎのほとんどクレナイだったときもあるなぁ。俺は男としてちょっと挫けちまったよ……」
「そりゃ、ご愁傷様……」
「今回も出来レースみたくなるんじゃねぇかなぁ」

そんなホウの心配をよそに4人は静かに激しく戦っていた。

「“う〜ん、これでいいのかな?”」
「“ちっ、もうそろそろカタ付けねぇと負けちまう、アレが来れば上がれるのに!”」
「“……………”」
「“槓になれば、槓になればぁ!”」

ゲームはすでに東四局目、前三局を通し、4人の点数はそう離れていない。
そして決着の時が来た。

「“よっしゃきたぁ”」

ツモハイを見た瞬間、はやては歓喜に沸いた。

「槓!」
『!!!!』

嶺上牌から牌を引き、それは成った。

「ツモ、嶺上開花!、清一色、ドラドラ。私の勝ちや」
『なぬっ!!』

その場にいるみんなが声を上げて驚いた。

「ウソだろ!。クレナイが負けるなんて」

クレナイが勝つと思っていたホウもびっくりしていた。

「私、最下位……」
「これでクレナイさんの料理は私のモンや」
「フッ、面白い、クレナイ以来の好敵手が現れるなんて」
「あ〜あ、あと一巡すれば私の勝ちだったかもしれないのになぁ」

そう言いクレナイの倒した牌を見ると

『緑一色………』

緑一色一歩手前、本当にあと一巡すれば揃っていたかもしれない。
クレナイが親だけにもしアガがっていたら圧倒的な差で負けていた。
緑一色なんて上手く連続で牌が揃うわけない。
はやてはクレナイの強運の強さと、それをも上まった自分の強運が逆に怖くなり嫌な汗をだらだら流れていた。

かくして1週間にも及ぶトーナメントは終わりクレナイの絶品料理ははやてが食することになった。

「あんたたち!、やめなさい!!」
「やめろと言われて止めるわけねえだろ!」
「いい子だから一口よこしなさい」
「友達のよしみで〜〜」

案の定、料理に群がる輩が現れ

「はぁ〜っ、しょうがないなぁ」

結局フルコースはみんなに振舞われることになった。







あとがき

Krelos:はやての中の人関係でこのネタ考えたのはいいけど……全然理解できねぇ。
Wiki見てもSAKI見てもダメ……。
間違っているかも知れないですから、そこは突っ込まない方向で。





BACK

inserted by FC2 system