朝、ホウに会うと、いつも傍にいるロストの姿がない、きっと昨日の事件のあとすぐ帰されたのだろう。
事件のせいか、はやてはホウと顔を合わせるのに戸惑いを感じていた。
そんな中、第2次訓練の幕が下ろされた。

「諸君等に集まってもらったのは他でもない。これより第1、第2分隊の隊分けと分隊長を発表する」

ホウの説明に昨日の事件を知らない皆からどよめきが立つ。

「静かに!、では第1分隊から――――――」


第7話
第2次訓練開始


はやてはチラッとホウとクレナイを見る。二人とも昨日の事件がまるで無かったかのようにいつもどおりに振舞っていた。

「それでは各分隊の分隊長を発表する」

シーンと静まり返り、ごくりと生唾を飲み込む音が聞こえてきそうだ。

「第1分隊、八神はやて。第2分隊アルバート=エイシス。以上」
「えっ!?」

自分の名前が呼ばれ、はやては一瞬パニックに陥った。
ここに来た理由は指揮官技能の更なる向上のためだったが、こんなりあっさりと分隊長になってもいいものかと。

「やったじゃん!はやて」
「あっ、うん……」
「これは3ヶ月間の皆の動向を観察し、人間関係はもちろん、コミュニケーション、技能、
その他諸々を総評させて選出されたものである。これはこの訓練隊だけではなく軍上層部を含めた決定事項のため
本人またはその他の者からの異論があっても変更されることはない。
2名は我々と共に今日の訓練を視察、その後本日午前0時までに分隊構成表を俺かクレナイ宛に提出するように、
手渡しでもメールでもかまわない。いいな?」
「はい!」
「………」
「ん?。八神どうした。何か異論でもあるのか?」
「いえ、何もありません。午前0時までに構成表を提出します」
「うん。では本日の訓練を始める」

分隊長に任命された者はまず初めに大きな仕事がある。
それは分隊構成員を機甲砲撃兵5名、通信兵2名、衛生兵2名、班長1名、計10人規模の班に分け
自分も含め10人の班長を選出することだ。選出期限はホウの言うとおり本日午前0時、
みんなそれぞれの兵科の訓練は一通り叩き込まれたので誰がどの兵科になっても編成可能だ。
構成表を提出した後は、兵曾から分隊長級である大兵曾へ三階級昇進、
分隊もラーナ訓練シティ付戦技教導軍訓練隊第1、第2分隊として正規登録される。

「う〜ん」

訓練開始前に支給されたアーシナル・ネットワークのパーソナル・バーチャル・オフィス。
訓練の後、構成が出来上がった後すぐに提出できるようにはやてはずっとそこで人員リストとにらめっこしていた。

「?」

そこにケーニッヒからの呼び出しのメールがあり、一度ログアウトする。

「はやて、まだ決められないの?」
「うん。どうも難しくてな……」
「………なんか元気ないね。まぁ、昨日の今日だから仕方ないけど」
「うん、昨日のことであの二人のことがちょっと怖くなっちゃって……」

昨日の惨劇を思い出しただけで手が震える。

「あんな悲惨な状況を気にするなと言ってもそうはいかないわね、うん。実際私も生まれてこの方あんな恐怖を味わったことないしな。
だけどあの二人は表裏無くみんなに接している。いつもの優しく可笑しい一面もあれば、あんな残酷なのも二人の一面なんや」
「うん、分かっている。怖い思いしたからっていちいち挫けてちゃこの先やっていけないからね。覚悟は一応してきた、つもりやった……」

自分に言い聞かせるように言う。
だがまだ心の何処かで納得していないのか強く握った拳が震えるのをケーニッヒは見逃していなかった。

「そうや!!。こんなところでめげるわけにはいかん!!。あんなもん唯の夫婦のヒステリーや別に気に留めることもあらへん」

元気付けていると

「八神はやて」

急に名前を呼ばれ振り向くと二人の男が

「レア、どうしたの?」

一人はケーニッヒが知っているようだ、だが

「え〜っと、誰やったっけ?」

もう一人は全然記憶に無い。

「木羽刹那だ。はぁ、フラれたとはいえプロポーズした男の名前ぐらい覚えてくれよ」
「ごっ、ごめんな」
「そしてこっちはレア=セイト。私の知り合いで同じメイの種族よ」
「よろしく……」

刹那はともかくレアは相当寡黙な人物らしい。

「ほうほう、幼馴染って奴ですかい?」
「まぁそんなところ。それでどうしたの?」
「我等が分隊長様に挨拶を、それと分隊構成が気になってな」
「そうそう、それでどうなの?」
「う〜ん、やっぱり難しいなぁ」
「そう、それじゃ邪魔しちゃ悪いから私達は退散しましょう」
「ちょい、ちょっと手伝ってぇな!」
「人員編成は分隊長の最初の仕事」
「そういうことで頑張ってな」

ケーニッヒが言い三人は食堂を出た。

「フフフ、そうかい、それなら……」

その後、構成表を無事提出し、総司令と教導軍団長、教官陣が集まる中、分隊長任命式が執り行われた。

「それじゃこれが第2次訓練の大まかな予定表だ。会議は毎朝午前8時からだ、着任早々遅れるなよ」
『はい!』

訓練部隊といえども軍に正規登録された部隊。
部隊運営指揮はもちろん、今後の訓練方針の会議出席、部隊内でのいざこざの解決も隊長の大事な仕事である。

「それでは解散!!」
『了解!』

二人が行こうとすると

「八神、ちょっといいか?」

ホウがはやてを呼び止めた。

「何ですかホウさん?」
「あ〜、あのな、昨日の夜お前もいたそうだな」
「………それが何か?」
「いや、外の世界から来たお前は昨日のことでショックを受けてやしないかとおもってな……、さすがに俺もクレナイも行き過ぎた気が……」

クレナイも気にしているのか、後ろでばつが悪そうにしている。
昨日はあれほど残酷だったのに、今は15歳の少女の心配をしている。
そのギャップの差に可笑しさがこみ上げてくる。

「クスッ」
「おっ、おい?」

ホウはクスリと笑うはやてに慌てふためいていた。
はやてはそれを見てまた笑いがこみ上げてくる。素でこんな面白い人なんだと思うと悩んでたことが馬鹿らしくなってくる。

「大丈夫です。私はそんなに柔じゃありませんから」
「……そっ、そうか。それなら良かった」
「それじゃ失礼します」
「おっ、おう」


「うぇっ、嘘!?」

翌日、ネットワークに流れていた分隊構成表を見てケーニッヒは驚いた。
自分の名前が書かれていた役職は、八神分隊第1班機甲砲撃要員“兼分隊長補佐”と表示されていた、つまり八神分隊ナンバー2。
わざわざ“”括りで太字で書かれている。その他に刹那の名前やレアの名前も第1班に含まれていた。

「ふわあぁぁっ、朝から会議はキツイなぁ」

そこにちょうどはやてが通りかかり、ケーニッヒは飛びついた。

「図ったなはやてぇぇ!!」
「さっ、さぁ、何のことかなぁ」

はやては目を合わせようとはせずそっぽを向きながらニヤケている。

「分隊構成でバディは一度リセットされたんだからわざわざ私を補佐にしなくてもいいじゃない!」
「うっ、訓練じゃそうだけど寮の中はそのままだもん。
ううっ…、それに何か、私とケーちゃんのバディとしての仲はそんな薄っぺらいものだったんか……」

そう言いいきなり泣き出した。ケーニッヒは周りの視線を感じ困り果てたが、もう大丈夫だと思い安堵した。

「ああっ、ああっ、誰もそこまで言ってないじゃない。わかった、私が悪かった。だから泣き止んでよ……」

その言葉を聞きはやてはしてやったりと舌をペロッと出した。
回りのみんなははやてが嘘泣きしていることが分かっていた。
そしてその仕草を見たときは、これから上官のせいで気苦労が絶えなくなるだろとケーニッヒに同情したのである。


「さて諸君、集まったか?」

分隊編成初日、いつものように第3訓練場に集められ各部隊ごとに整列していた。

「今日から第2次訓練を本格的に始めるわけだが、俺達教官陣は何も教えん。お前ら好きにしろ」

ホウの突き放すような言葉にどよめきが走りなぜだと疑問を投げかける者もいた。

「はいはい騒ぐな。いつまでも手取り足取りで教えてもらえると思うなよ。話は通してある、あとはお前らのボスにでも聞いてくれ。行くぞ」
『はい』

他の教官陣も何事もないようにホウの後に続いていった。

「みんな集まって」

見えなくなったところではやてが招集をかけた。
アルバートのほうも分隊を集めている。

「すぐに戦闘準備や、すぐにに敵が来るよ」
『えっ!?』

はやての言葉にみんなは耳を疑った。

「でもよ、教官達何も教えないって」
「ええ、口じゃなく体に叩き込ませる」
「それじゃ教官部隊との模擬戦?」
「ああ。今朝の会議で言っとった。教官陣から10人を選んでアグレッサー部隊を作るって。
地球にはな百聞は一見にしかずって言葉があるんや」
「ただ聞き教えてもらうんじゃなくて実際見て体験して技術や戦略を盗み経験を積めってことや」

ケーニッヒの補足にみんなは納得した。

「あっ、そうや、挨拶が遅れてしもうたけどこの部隊の分隊長を勤めさせてもらう八神はやてです。不束者ですがよろしくお願いします」
「いまさら何言ってんの」
「いや一応挨拶はせないかんと思って」
「そうね。これから私達のお母さんになるんだから」
「おいおい、ケーニッヒ、恋人はともかくお母さんはないだろ」
「みたいなものよ。私達の部隊はまだ出来たばかりだけど苦楽と共にした仲間は家族も当然」
「ふっ、なるほどそれを統率する者は父親、母親も同然ってわけか」
「ええ。短い期間だけど私達は苦楽を共にしてきた、そしてこれからも」
「でもいきなり教官達と模擬戦とは」
「あのマスターチーフだ、絶対一筋縄じゃいかないでしょうね」
「でも仲間と一緒なら乗り切れられる!」
「そうだな、今までも励ましあって乗り越えられたんだ!」
「それじゃ分隊になって初めての模擬戦や教官達をがっかりさせんように気張っていくよ!」
『おう!!』

そして始まる模擬戦。結論からいうと、これでもかというぐらいにこてんぱんにされた。


分隊長になった者は自動的に寮部屋の部屋長になるため部屋内もみなくてはならない。
しかし男部屋、女部屋と区切られ互いに半分の人員を預けている状態なので両隊長は密に情報交換をしなくてはならない。

「うわぁ、汚〜い」

はやてとケーニッヒはアルバートとの打ち合わせのために男子部屋に来ていた。
男子部屋は女子部屋と違い、あちらこちらにモノが散乱している。

「片付ける暇がなかったんだ」
「……あっ、エロ本発見」
「……仲間達の微かな楽しみだ。見なかったことにしてくれ」
『うっ、うん……』
「さて、始めるか。それとも別の場所にするか?」
「ううん、ここでいい」
「なんか他にもお宝が出てきそうだから」
「…………まぁいい、さてミーティングを始めるぞ」
『は〜い』

情報交換も済み、今度はアグレッサー部隊をどう倒すかという話になった。

「う〜ん、実際相手は10人なんやから人数で攻めればこっちが勝つんやけどなぁ」
「でもあっちは歴戦の英雄をはじめとした選りすぐりの10人だ、たとえ力を封印していたとしても勝てるかどうか……」
「実際コテンパンにされたもんねぇ」
「人を分けて個別撃破はどうだろうか?」
「1対20か、案としては悪くないんやけど一部押さえ切れない人達が」
「そう、ホウさんとクレナイさんがネックなんだよなぁ」
「う〜ん……」

しばらく考えるがなんも浮かばない。

「アカン、何も浮かばへん」
「この際他は無視して二人に一斉攻撃してみようか?」

提案したのはケーニッヒ。

『えっ!?』
「だから1対200」
「他はどうすんだよ?」
「そうや他が黙ってるわけないやん」
「まぁ、そこんところは私に任せなさい」
『?』

不適な笑みを残しケーニッヒは去ってゆく。


翌日、再びアグレッサーとの戦闘。

「ケーちゃん、あんな作戦で本当に大丈夫なんか?」
「裏工作が上手くいってればね。大丈夫、はやてはみんなを引き連れてホウさんに突撃すればいいの」
「そうか、なら行こうか!」
『おう!!』

2分隊はアグレッサー部隊に突っ込んでいく。


「まぁよくも懲りずに突っ込んでくるなぁ。よっぽど仲がいいのかそれとも……」
「それじゃホウ、あと頼んだ」
「がんばってね」

突然、教官達が次々と抜けていく。

「えっ、どういうことだよ!?」
「そういうことだ」
「まぁ、俺達がいなくてもお前は大丈夫だろ」
「おい、クレナイ?」
「ごめんね〜」

申し訳なさそうに謝りながらクレナイもまた抜けそこにはホウひとりだけとなった。

「ウソだろ?」


「よし!、ホウ一人だけになった!!」
「全軍いけぇぇぇぇええええ!!」

こうして1対200の戦闘となった。


「……はぁ〜っ」

時は経ち、広大な地平に日が沈む。
ため息ばかり出そうな圧倒的な大パノラマの中、ホウが一人物思いにふけっていた。

「なぁ、二人とも見てみろよ。きれいな夕日だなぁ」
「そうですねぇ〜」
「なんや自分なんてちっぽけに見えてきますねぇ」

答えるのは二人の分隊長。
しかし、二人の目に映る夕暮れは空と地が逆である。

「貴方達、いつまでそうしているの?」

呆れる様にクレナイが問う。

「ああ。はぁ〜、でもまさか全員買収されてたとはな。よりにもよってお前まで……」
「えへへ。肉料理200人分2週間で心が揺れちゃった」

クレナイはテへっと舌を出す。

「まぁ、買収も勝負に勝つ戦略だと認めてやろう。しかし、しかしな……」
「う〜、アカン、もう何もでぇへん……」
「つっ、強い……」
「200人がかりで俺一人押さえ込めないってどうよ!?」

ホウの尻の下には文字通り人の山が出来ていた。
みんな精根尽きた様子だ。

「う〜っ、格闘なら勝てると思ったのに〜!!」
「強すぎるぜ……」
「にしてもケーニッヒの奴、俺達の楽しみを交渉材料にしやがってしかも2週間……」
「俺2週間も肉無しなんて耐えられねぇ」
「あははは、……ゴメン……」
「たっ、たしか白兵戦だけじゃなく戦闘機やガンダムでの戦闘もあるんだよな」
「なんか勝てる気しねぇ……」
「う〜、こうなったら意地や!、何でもええ!、次こそ勝ってやる〜〜〜〜〜!!!!!」
「うわっ!、暴れんなっ!!」

はやての叫びが空しく黄昏に響き、人山のシルエットが崩れてゆく。







あとがき

Krelos:はい、第7話目ですけど全然執筆のスピードが上がらない……。
はやて:それはいいとして私立ち直り早くない?。前回あんな怖い目にあったのに。
Krelos:怖い目にあったって言ったって当事者じゃなく傍観してただけでしょ、まぁ下手すればトラウマモノだけど。
はやて:それはそうやけど。
Krelos:この先、もっと辛いことがあるけどね(ぼそっ)。
はやて:なんか言った?。
Krelos:いや、なんでもない。






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