注意 抑えましたがグロテスクな表炎が含まれています。


「のわあわわわわわああああ!!!」
「もういやぁぁぁぁあああああ!!」
「ほらほら、どうしたの?。早く走らないと食われるわよ」

ジャングルの中を力の限り全速力で走るケーニッヒとはやて。
その横を軽やかなステップで跳ぶクレナイ。
後ろを見ると、彼女らの十数倍もあろう巨大蜘蛛が樹をなぎ倒しながら彼女らに襲い掛かってくる。


第8話
巨大昆虫の星


事の起こりは五日前。
赤色灯だけが照らす窓も無い空間に、第1、第2分隊、教官陣の面々が寿司詰め状態。
制服がないU・Fには珍しく、皆迷彩カラーの野戦服を着込んでいる。
今彼らは大型シャトルである惑星に大気圏降下中、降下中は激しい揺れに見舞われるものだが、
彼らの感じるのは心地よい揺れ。

「それではこれからサバイバル訓練を始めるわよ」

上方にいるクレナイが叫ぶ。しかしいつも一緒にいるホウの姿は見当たらなかった。

「チーフ、サバイバル訓練は訓練初期にイヤと言うほどやったのですが」

一人の訓練生が質問する。しかしクレナイは鼻で笑い、話を続ける。

「あんな安全に管理されたママゴト、サバイバルでも何でもないわよ。
いい、これからが本当のサバイバル、一瞬でも気を抜けば即死する命がけのサバイバルよ」

クレナイは不適に微笑む。

「それじゃ、諸君達がこれから1週間、暮らす場所を紹介しよう」

言うのと同時に、壁に均等の四角い亀裂が入り壁がせり上がり窓が現れた。
みんなが外を見ると下はジャングルが広がっていた。

「なんだ、普通のジャングルじゃねぇか」
「こんなところでやるんじゃ訓練シティの近くの森でやるのと変わらねぇじゃんかよ」

男子達が笑っていると窓の外を影が横切った。
トンボのような羽を生やした長く平べったいテカテカした巨大な何かが。

「なっ、何すか今の?」
「何ってオオトビムカデよ」
「ねっ、ねぇ、下を見てみて……」

女の子達の一人が声を震わせて言う。
森の切れ間には何か巨大なものが蠢いていた。

「あれはオオドクセアカグモよ」
『オオドクセアカグモ!!』

その名称はよっぽど有名なのか、ほぼ全員が驚きの声を発した。

「と言うことは、ここはインセクト星系の……」
「そう!!、ここはインセクト星系第3惑星、
凶暴な巨大昆虫が闊歩し、その蟲達が食物連鎖の頂点に立つ生存率数%の星よ」

嬉々として言うクレナイに皆は戦慄を覚えた。

「ちっ、ちょっと待ってください、こんなところに1週間?。いくら俺達でも死にますって!!」
「そうね、目の前の危険を回避して、気を抜いた瞬間後ろからグサリ!、
寝ていたらなおさら危険ね、目が覚めたら蟲の腹の中か三途の川かのどちらだもん」

クレナイの説明にみんなの顔色が変わる。

「使用できる武器はサバイバルナイフとセイバーのみ、Gアーマーも使用禁止、身一つで1週間生き残りなさい、
誰かと組んでもいいし、班・分隊規模で行動したっていいわ。まぁ、一人で行動してもいいけどお勧めしないわね。
骨は拾ってやれないけど軍葬ぐらいは挙げてやるわよ」
「あんなところをライフルもなしで?」
「まぁ、がんばれよ」
「1週間後迎えに来てやるから」
「何言ってんの、あんたたちも行くのよ」
『はあっ!?』

クレナイの言葉に教官陣が一斉に驚く。

「まさかマスターチーフである私達も行くのにあんたたちは行かないなんて言わないわよねぇ?」

プレッシャーに教官陣はNoとは言えなかった。

「でもマスターチーフ達も行くって言っているけどホウさんはどこにいるんですか?」
「何言ってるの、目の前にいるじゃない」

そう言い指差すのは自分の体。よく見ると紐で固定された3歳ぐらいの子供が、
頭はクレナイの豊満な胸の谷間に埋もれ見えないが、赤いお下げ髪には見覚えがある。

「クレナイさん、まさかその子って」
「ホウよ」

言い、子供の体勢を反転させる。幼児化はしているが、その容姿は紛れもないホウがスヤスヤと寝息を立てている。

「ホウってグロテスクなものとか怪談関係の話が気絶するほど苦手なのよ。
この演習も最初は断固拒否していたんだけど私が一緒にいるって言うことで渋々了承したのよ」
「それで離れないようにそんな状態なんですか?」
「うん、生気を吸い出して幼児化させたの。どぉ、かわいいでしょ?、さすが私達のだんな様よねぇ」

クレナイが絶賛していると

「クッ、フハハハハ」
「あの大戦の英雄が蟲が苦手だってよ、女がいねぇとダメだってよ」
「なっさけねぇ、とんだ英雄様だよ」

数人の男子が大声で笑っていると、数発の銃声が鳴り響いた。

『うえっ!』

弾は男子達の手前の床にめり込んでおり、無表情でクレナイが両手に銃を構えていた。

「あんた達、それ以上言うと降ろす前にあの世に行ってもらうわよ」
「はっ、はい。すっ、すみません」

男子達はもちろん他の子達も無表情のプレッシャーにガタガタ震えてる。

「おいおい、穴を開けないでくれよ。それと降下地点に到着したぜ」

シャトルは地上十数メートルをホバリングし後部ハッチを開き十数本のロープを垂れ下ろす。

「わかっている。蟲の中には危険なものもいるからアーシナルのライブラリで一折り見ておくのよ。
それじゃ諸君、有意義な1週間を満喫してね」
「というか危険種ばっかり……」
「グズグズしないでさっさと行けっ!」

はやて達はリベリング降下し草原に降り立ち一息もしないうちに森へ足を進める。
最後に教官達も降下し、シャトルは飛び去っていった。

1日目夕方

「逢いたかったでケーちゃん!!」
「はやて〜!!」

鬱蒼とした森を歩き回り副官に再会し感激のあまり抱き合って喜んだり。

2日目

「うぎゃぁぁぁぁあああ!!」
「さすがに気持ち悪いわあぁぁぁあああ!!」
数千もの巨大だんご蟲の大群に追われ。

3日目

「ねっ、眠い」
「私も……」
『……ふぬっ!!』

ゴキッ!。
夜行性の蟲の襲撃に備え寝ないために互いに殴り合い。

4日目

『クサ……ウマ……』

極度の緊張、疲労と睡魔のせいで思考能力が低下し、そこらへんの草をおいしそうに食べていた。
そして5日目、体も心もボロボロのところに、楽しそうにオオグモを引き連れたクレナイが現れた。

「なっ、なんでぇぇぇぇええええ!!」

はやてとケーニッヒは巻き込まれ追いかけられる羽目になった。

「なっ!、何やってくれてるんですかっ!!」
「だって、普通に1週間過ぎちゃったら面白くないじゃない、日々スリリングな体験をしないと」

クレナイの余計すぎるおせっかいに二人は返す言葉も無い。
ホウは相変わらずクレナイの豊満な胸の谷間に顔を埋めている。
ピクリとも動かない、生きているのか気になるところだ。

「あっ!」
「はやてっ!!」

木の根にはやてが躓き、オオグモの鋭い足が突き刺さろうとしたところ

『はぁぁぁああああっ!!』

流星のようなものがクモに突っ込み、クモは木をなぎ倒しながら遥か彼方に吹き飛んでいった。

「たっ、助かったぁ」
「いっ、いったい何!?」
「大丈夫かい?、分隊長殿」
『レア!、刹那!』

警戒する二人、砂煙を払い現れたのは、班でも分隊でも頼れる、二人の部下だった。

「あんた達、女の子のピンチを颯爽と助けるなんて結構粋なことするじゃない」
「まぁ、狙ったわけじゃないんですけどね」
「それより……ホウさんが先ほどから動いていないようだけど……」
「ああ、基本的にご飯食べるとき以外は寝かせているから」
「私はてっきりクレナイさんの乳圧がすごくて窒息してるのかと思った」
「はやて、そんなのばっか考えるから躓いたりとかするのよ」
「あはは、ごめんごめん」
「そんじゃ、頼もしいナイトも来た事だし、私は他の子を見てくるわ」

クレナイは木々を跳び行ってしまった。

「……また次なる犠牲者を求めに行った……」
『…………』

数分も経たないうちに森の何処からか絶叫とともに木々の倒れる音が、4人は手を合わせただただ合掌。

「さて、俺達もこんなことしている場合じゃない、どうするはやて?」
「そやな……」

はやては木に登り空を見る。
まだ空は青いが、方位磁石で調べた西を見ると、微かにオレンジ色が混ざっていた。

「もうすぐ夜や、今日はもう動き回らずに寝床の確保と対夜行性昆虫の準備や、
各自周囲を警戒しつつ前進、寝床を探すよ」
『了解!』

4人は森の中をはやてを先頭に進み歩き出した。
数時間後、蟲達をかいくぐり、空が茜一色に染まった頃、森の中にぽっかりと広がる湖のほとりに出た。

「今日はここで野宿する。レアと刹那は火をおこして、その間に私とケーちゃんで周囲警戒をするから」
「りょーかい、二人とも、ちゃんと護ってくれよ」
「まかせとき」

レアと刹那は木を使い原始的な火の起こし方を始めた。

「おりゃぁぁぁぁぁあああああ!!」

刹那は一生懸命木を回転させ火を起こすがなかなか上手くいかずとうとう日が落ちてしまった。

「はぁ、はぁ、畜生、なかなか火が起きねぇ。原始人は良くこんなんで火起こせたな」
「もう日が落ちたぞ、早くしないと蟲共が来る」
「はいはい、んじゃもう一踏ん張り!」
「なぁ、セイバーの熱で火起こしたらどうや?」
『………………』

はやての言葉にみんな沈黙した。

「……私なんかマズイ事言った?」
「ある意味KYなことを……」

結局はやての言うとおりセイバーの熱を使い火を起こした。

「さて、ご飯も食べたし、時間が余っているからなんか暴露してみようか」
『はぁ!?』

火を囲み、簡単な食事を取ったあと、突然ケーニッヒが言った。

「突然何を言いだすんだお前は!!」
「いいじゃない、まともに寝れない、気は常に張っている、こんな環境じゃ他に楽しみもないし、
ないなら話題を作るしかないじゃない」
「それはそうだけどいきなり暴露話っていうのも、せめて将来の夢とかにしない?」
「え〜暴露話いいのに、特にはやてのが」
「……分隊長命令でその話題は却下します。将来の夢で決定」
『意義な〜し』
「……………」
「んで誰からだ?」
「そりゃ言いだしっぺのケーちゃんからじゃない?」
「私?。それじゃぁ、私はやっぱり教導隊入りかな」
「そのきっかけは?、やっぱり誰かへの憧れ?」
「う〜ん、そうね。私小さい頃、紛争に巻き込まれてね、そのとき助けてくれたのが教導隊の人だったの。
その時の記憶が強烈でね、その人のように強くなって私も戦乱や何かで困っている人を助けようと思ったの」
「へぇ〜」
「……それって教導軍じゃなくっても叶ったんじゃないか?」
「あのね!、I・E・S・T以外じゃ教導軍は軍でも最強クラスなの!、そんな部隊の一員になれれば強さの証明になるじゃない」
「レア君、そのツッコミはNGや!」
「そんなこというレアは何で教導隊入りを目指すのよ!、私と同じ教導隊入りするのは何で?」
「………あの時お前を守れなかったから、お前を守る力が欲しかったんだ………」
「ん?何だって?」

レアは蚊の鳴くような声で言った。
当然その言葉を聞き取れる者はいないが、その雰囲気を見てはやては感づきにんまりと微笑んだ。

「まぁまぁケーちゃん。それぐらいにして、それで刹那君の夢は何なの?」
「俺か?、俺は技術者だな」
『技術者?』
「おう、俺の家は代々技術者でな、夢は俺が作ったガンダムを軍の制式機にすることだ」
『へぇ〜』
「実はな、前からちょくちょく機体の設計図はひいていてな、もうすぐ完成しそうなんだ。
機体が完成すれば俺の持ちうる知識、技術を注ぎ込んだ最新鋭機になる予定だ」
「へぇ〜」
「時にはやてよ。聞いた話なんだが、お前が使う魔法だっけかな、
それは魔力を論理式に当てはめて発動させてるものだよな?」
「まぁ、簡単に言うとそうなるかな」
「ならその理論を教えてくれ!」
「なっ、なんで!?」
「技術者としての好奇心だ!」

刹那はずずいとはやてに寄る。
その目はまるで少年のようにキラキラと光っていた。

「まっ、まぁ、私の知りうる限りでなら」
「それではやて、次はあんたの番よ」
「さぁ、話してみぃ」
「う〜ん、ケーちゃんには最初話したけど。私は自分の部隊を持ちたい」
「自分の部隊?」
「うん。うちが所属する時空管理局は一部隊を動かすのにも一々時間をかけて上の許可が必要になってくる、
そんなことしてたら起こった事故・事件が悪化ししまいには取り返しのつかない事態にまでなってしまう。
そうならないために事件が起こってもすぐに対処できる少数精鋭の部隊を造りたいと思った。
それで知り合いの伝で試験的に部隊を作る事になったんや」
「それで何でここに?」
「いくら精鋭といってもそれを率いる部隊長がアカンやったらその部隊もダメになってしまう。
それで知り合ったばかりのアニス将軍に相談した結果ここに来ることになったんや」
「へぇ〜」
「確かにどこの組織も事を成すためには一々上の許可とらないとダメだもんねぇ。
うち等だけだよ部隊が勝手に動き回れる軍は」
「確かにそうやね、だから私はこの軍が理想的とまでは言わへんがすばらしい軍だと思う」
「まぁ、そんなに過大評価してもらえるのはうれしいけど。軍も昔と違って今は他種族がいるから黒い部分もあるし」
「でも大丈夫だろ、はやてならきっといい指揮官になれる。そんな未来を感じる、うん!」

刹那は力強く頷く。

「またまたそんな未来を感じるって神族やジェダイみたく言っちゃって」
「あれ?、言ってなかったっけ、俺先天的にフォースが強いんだ、
ジェダイとまではいかない程度だけどな、未来視も多少できる」
「へぇ〜」

話が弾み、しばらく経った頃。

「動くなよ、はやて」
「えっ、刹那くん?」

いきなり真剣な表情の刹那がはやてに迫る。

「なっ、なんや刹那くん、いきなりなんて!、ケーちゃんやレア君もいるし、それに私には心に決めた人が!」

それを愛の告白か何かと勘違いしたはやては激しく焦る、実際前にあったわけだし。
しかし現実はそんなものじゃなかった。

「刹那くん?。わっ!」
「あぶないっ!!」

はやてを突き飛ばし、今まではやてがいたところに大ムカデがいきなり現れた。
どうやら暗闇からはやてを狙っていたようだ。

「いったぁ〜い、もうなんやの?」
「さっさとセイバーを構えろ、蟲が集まりだしてきたぞ!」

カサカサと草が揺れる音がする。
暗闇に赤い点がいくつも浮かぶ、一つや二つじゃない相当数の蟲が周りを囲んでいるだろう。

『…………』

4人に緊張が走る。
今は焚き火があるから滅多に襲い掛かってこないが、それでも気は抜けられない。

「まったくもう、分隊長が襲われてどうするの」
「あははは、もしかしてみんな気づいてた?」
「ああ」
「フォースを使わなくても、ちょっと周りに気を配ればわかる」
「あははは。……ゴメン……」
「来るぞ!!」

暗闇からムカデが飛び出しそれを皮切りに四方から蟲達が飛び出してくる。

「うわっ、きもっ!」
「いやや〜、こっちくんな!!」

ムカデはもちろん、だんご蟲、台所に出てくる黒ヤツ、仕舞にはトイレにいそうなCPUモドキな見たことのないような
蟲まで襲い掛かってきた。おまけにそれらは人と同寸大かそれ以上だからタチが悪い。
ケーニッヒやレアは種族柄その洗練された技でセイバーを操り蟲をなぎ払う、
刹那やはやても何とか自分の身を守れるぐらいはできている。


「あっ、アカン、眠気が襲ってきたわ」
「このっ!。寝るなっ!、寝たら食われるぞっ!」

もう何時間たっただろう、限界が近いのか、急な眠気に襲われる。
しかし刹那が言うように寝たらあっという間に集り食われる。
あのウニョウニョした口で食われるのは真っ平ごめんだ。

「いやや〜!!、あのウニョウニョした口で食われるのはいやや〜!!」

想像してしまい眠気が一気に吹き飛ぶ。

それから数時間、気づけば東の空が明るくなり朝を迎えた。
蟲達は日差しを避けるように森の奥に引いていく。

「やっ、やっと終わった……」
「もっ、もうだめ、眠たい。今日は寝て明日集合場所に向かおう」

瞼が重い、男二人はそうでもないがはやてとケーニッヒは気を抜けばそのまま深い眠りに陥りそうだった。

「それはいいけどさぁ。……こんなところで寝るの?。私はいやだなぁ」
「あははは……確かに……」

ケーニッヒの言うとおり周りを見渡せば一面蟲の死骸だらけ。
相当神経が図太い日度でなければこんなところでは寝れないだろう。

「それじゃ場所を移動して交代して寝よか」

はやてはとぼとぼと歩き出した。
眠気のせいか、とぼとぼと緊張感のない足取り、それがマズかった。

「!!、はやてっ!」

何かに気づいた刹那が叫び走り出す。
はやての近くの死骸群がガサゴソと蠢く、どうやら生き残った蟲がいたようだ、ムクリと蟲が起き上がる。

「!!」

はやても気づき離れようとするが、時すでに遅し、蟲が吐き出した粘液が左手にかかる。

「うぎぃぃぃ!!!!」
「はやて!!」

瞬間、眠気も吹っ飛ぶような激痛と熱いような感覚。
腕を見ると皮膚が段々と爛れ溶けていき肉が露になる、その時、かけられた液体が強い酸性のものだと気づく。
液体を振り払ったというのに傷は広がり肉を冒していく。

「そんな、いやや……」

自分の手が溶ける。
気が動転そそうにになるはやてを刹那が押し倒し、自らの腕を猿轡のように口に押し込む、そして呟いた。

「俺の腕を食いちぎってもいい、だけど耐えろ!」

何を言っているのかわからなかった。
刹那は光刃を出し、はやての腕にあてがう。

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「くっ!」

瞬間、先ほどよりも耐え難い激痛。刹那の腕を食いちぎんばかりに噛み、鈴口から血が垂れる。
あまりの痛さに気が遠くなりそうだ。刹那も痛みで顔を歪めるが、間入れず行動をとる。

「ケーニッヒ!、はやてに応急手当を!。レア、ほかに生き残りがいないか探れ!」

気が途切れる間際、刹那の叫び声が響き、骨になってもなお溶け続ける自分の手を見た。


「…………ううっ……」

次にはやてが気づくと、大きな背中が見えた。どうやら刹那におんぶされているようだ。

「おっ、気づいたか」
「私……っぅ!」

痛みを覚え、その原因に目を向ける。
右手は前腕の半分から先が無く、包帯が巻かれていた。
瞬間、フラッシュバックのように先ほどの出来事を思い出す。

「そうか……そうやったな……」

刹那はパニックを起こすと思ったが背中から聞こえてくるのはすすり泣く声。
はやての心を満たしたのは悲しみと悔しさ。

「だっ、大丈夫だよはやて。U・Fの医療にかかればクローニングで手なんて元通りになるさ」
「ううん、ちやうの。私分隊長なのにみんなに迷惑ばかりかけて……」
「別に迷惑とは思ってないさ、仲間を助けた。ただそれだけだ」
「そうだ。迷惑とはこいつのようなことを言うんだ」

レアの背中にはケーニッヒが負ぶさりスヤスヤと寝ている。
雰囲気的には無理やり負んぶして眠っているのだろう。

「でも……」
「あのな、人間はじめから完璧なヤツなんていねぇんだ。誰しも失敗して経験していくもんだ。
部隊ができてまだ日が浅い、失敗して助けて助けてもらって経験を積んでいけばいい、みんなと一緒にな」

刹那の言葉にはやてはそのとおりだと思い、気が楽になったような気がした。

「……なんや、刹那君の言葉は温かいなぁ」
「そせやい、技術者はほとんどチームで組むからな、代々その家系だった俺達の家訓みたいなものだ」
「………もうそろそろ着くぞ」
「そういえばどこに向かっているの?」
「合流ポイントだ。明日、シャトルが迎えに来るからもう合流ポイントに行ってるヤツがいると思ってな、
人数が多ければ陣営を立てて夜の対応もしやすいからな」

森を抜けると草原に出た。その広大な一角に数多くの人の姿が見える。

「結構集まってるな」
「こりゃ夜は楽できそうだな」

二人は歩き、みんなと合流した。

「よぉ、お疲れさん」
「意外と集まってるな」
「まぁな、負傷者もそれなりに出たし、みんなで固まって他方が楽だろ」

どうやらみんな考えることが一緒らしい。
見ると、重傷ほどではないが、血だらけの者やはやてと同じ四肢の一部が無いものがいた。

「誰か死んだ人いる?」
「いや、その報告は聞いてない。部隊長達をはじめほとんどが負傷ですんでいる」
『部隊長達?』
「よぉ、はやて、お前もやられたか」

振り返ると、そこには右手が無い第二分隊長、アルバートがいた。

「アルくんもか」
「まぁな。疲労で気が抜けたところをな。でも今夜が最後だ、最後の一踏ん張りしようぜ」
「うん」

その後、日が暮れるにつれて合流する子らが増えてきた。
皆どこか負傷しているものの、その命は健在。教官陣も合流し、クレナイとホウを除く部隊全員が終結した。
蟲の襲撃に備えるため陣地の周りに火を放ち炎陣を作る。

「そういえばクレナイさん達どないしたんだろ?」
「あの人達のことだ、置いてきぼり食らってものほほんとここで生活してそうだ」
「ありえる話だから笑えんな」

その時だった。

「なっ、何だ!?」

ゴォォォオオオ!!!と地が鳴り揺れる。みんなが辺りを警戒していると

「ひゃっほう!!。最後の夜楽しんでる〜?」

暗闇からクレナイが飛び出してきた。
………巨大昆虫の大群を引き連れて……。

『アンタってヒトはぁぁぁあああ!!』

みんなそれぞれツッコミたいことはいろいろあるが今はそれどころではない。

「なっ、何じゃあれ!?」
「デケェ!」

大群の中には初日に見たオオドクセアカグモの姿も何匹か、その大きさは二階建ての家ぐらいはあるだろう。

「来るぞっ!!」
「軽症者は一緒に戦えっ!。重症者を囲み守り抜くよ!!」
『おう!!』

サバイバル訓練最終前夜。長くて最も激しい一夜が始まった。


「さて。ひよっ子共は生き延びたかな」
「あのサバイバル訓練はやる度に必ず数人の犠牲者は出てたからな」

シャトルのパイロットが話しているとその視界に合流地点が見えてきた。
そこは戦場だった。
大量の蟲の死骸が草原を覆う。
もう日も昇ったというのに蟲共は逃げず、みんなに襲い掛かり対抗するみんなも勢いが衰えることが無い。

「シャトルが来たぞ!」

エンジン音を聞き誰かが叫ぶ。

「”よぉ、ひよっ子共、生き残ったご褒美だ”」

シャトルは低空飛行しバルカンを蟲の群に撃ち込み、蟲が引いていく。

「今や!、全員撤退!!、負傷者が先や!」

その隙をつき、着陸したシャトルにみんな乗り込みその星を後にした。


「………」

ラーナ訓練シティ。
昼下がりの食堂、はやてはその一角で自分の左手を見ていた。
クローニング技術と精密外科手術。最高峰の医療技術によりはやては手を取り戻した。
違和感も無い、酸で溶かされ切った事が嘘と思うぐらいに元通りに戻っていた。

「腕の具合はどうだ?」

そこに刹那が現れた。

「何も問題ない、あんなことがあったのがうそ見たいや」
「そうか。……ゴメンな、いきなりだったんで切ることしか思いつかなかった」
「何も謝ることあらへん。あのままだったらもっとひどいことになってたかもしれへんしな。
刹那君は命の恩人や。そや何かお礼させて」
「別にいいよ、って!!」

はやての顔が近づきいきなりキス。
といっても頬になのだが

「それじゃまた午後な」
「……………………」

刹那にとってその破壊力は絶大だった。
はやてが行った後も眉も動かさず固まっていた。







あとがき

Krekos:最後のオチに迷っていましたが、いきなり頭に浮かんだものを書いてみました。
あんまりいきなりだったんで文章が多少変かも。
はやて:ううっ、あんさんは私が嫌いなんかっ!。
Krekos:いや。嫌いというわけじゃないですが……心が病んでいるせいかな?。
はやて:まだ不幸道中が続くのかなぁ?。
Krekos:続くよ。前半部分で最大のが。
はやて:え”っ!!。
Krekos:ほら、本編第2部ラストでシグナム達が言っていた――――。
はやて:いやや〜〜!。






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