「おや、あれはアルト」

正午、シグナムは昼食後の散歩がてらにはやてに頼まれた買い物をしに商店街に来ていた。
そこでシグナムはアルトを見かけた。

「こんなところで何をしているんだ?」

普段なら見かけたで事は収まるのだが、今回はそうは行かなかった。
シグナムは先ほど剣術の稽古に誘ったのだが、やることがあると断れてしまった。
この世界に来てばかりだというのに何をするのか興味を持ったシグナムはアルトを付けることにした。


魔法少女リリカルなのはAs〜FAH外伝
シグナムの秘密特訓


「ここは……」

アルトが入っていったのは最近できた大型のゲームセンター。
シグナムもしばらく時間を置き中へ入っていく。


アルトを探して数分。
騒音にも似たゲーム機の音に苛立ちを覚え始めた頃、その人だかりを見つけた。

「やっぱすげぇよこの兄ちゃん」
「ああ、ノンミスだぜ!」

口々に言いそれを凝視している。

「ダ…ンスダン…ス……?」

頭上にあるゲームのロゴを見るが人の頭で見えずらい。
シグナムも気になり人だかりを覗く。

「なっ!!」

そこにはゲーム機の前で軽やかにダンスするアルトの姿があった。
画面にはダンスを踊るアニメーションが映し出され、上下左右の矢印が下から上へと流れている。
アルトはそれにあわせ足元の十字パットを寸分の狂いも遅れも無く踏んでゆき、高得点をはじき出し、
そのたびに周りの客達が歓声を上げる。

「………」

シグナムもその軽やかなステップに魅入られていた。

「ふぅ〜」

アルトは一息つき観客も引いてゆく。
シグナムも行こうとするが

「もう行っちまうのか?」

突然声を掛けられた。
どうやら付けていたのがバレていたらしい。

「これのお前の言うやることなのか?、いったい何をしている?」
「剣技の鍛錬」
「これの何処がだ?」「いいか、シグナム。技が決まる最大の要因ってなんだか分かるか?」
「ふぅ〜、何を言っている。タイミングの見極めに決まっておろうが」
「そう。でもそのタイミングを掴むためにはリズムが必要だ。あのゲーム機はそれを養うための最高の訓練場なんだ」
「……にわかには信じられないのだが」
「ならやってみるか?。シグナムは騎士だから技のタイミングの取り方もうまいだろう?」
「望むところだ。……あ〜っ、その前に少し待て、主はやてに頼まれたものがある」
「さっきの場所で待っているから早く行って来い」

シグナムはタッと駆け、商店街でお使いの品を買い、家へ、そして疾風のごとく舞い戻ってきた。

「ゼェ、ゼェ。……まっ、待たせたな」
「大丈夫か?」
「問題ない」
「じゃぁ、まずはこれから」

アルトが曲を選びスタートした。

「あの矢印と枠が重なったらパットの同じ方向を踏むんだ。簡単だろ?」
「ああ」

スムーズにパットを踏むアルトに対して、シグナムはぎこちなくワンテンポ遅れて踏んでいる。

「もっと曲を良く聞け、そうすれば体が自然とリズムを刻む」
「わっ、わかった」

しかし、アルトはここら辺ではもう有名らしく、すぐにギャラリーが集まってきてしまう。
人前でステップを踏むだけなのに、当のシグナムは恥ずかしさのあまりぎこちなさが増していった。

「………アッ、アルト……」
「周りなんて気にするな!。目の前のことに集中し自分のペースと掴め」

アルトの叱咤が飛ぶ。
普段、優しい表情ばかりの彼が見せる厳しい一面。
たかが遊びと半信半疑だったシグナムは彼の真剣さに気づき、ただステップを踏む。
しばらく経った後、ぎこちながらも自分のペースを掴み、ゲームの点数を稼いでいる。

「よし、いいぞ。このままこの曲をマスターするまでやり続けるぞ」
「分かった」

二人とも、日が暮れるまで続いた。

「さて、今日はこれまでにしておくか」
「もうこんな時間か」
「"シグナム、何処にいるん?"」

思念通話で聞こえてくるのは、はやての声。

「"主はやて"」
「"こんな時間まで何してるん?、もうすぐご飯やよ"」
「"はい。ただいま戻ります"」
「はやてからか?」
「ああ。夕食の時間だ、もう帰らなければ」
「んじゃ途中まで送っていくよ」

黄昏時、にぎやかな商店街を通り過ぎ家路へと向かう。

「いつから始めているんだ?」
「さっきのゲームか?」
「ああ」
「初めてやったのは俺が5歳のとき、こっちに来てからは1週間ぐらい前から暇を見つけてはやっている」
「よくこんな鍛錬方法を考え付いたな」
「俺が考えたものじゃない。この訓練は、銀河最強と呼ばれる騎士団が生み出したものなんだ」
「銀河最強の騎士団?」
「ああ。フォースとライトセイバーを用いた超高速戦闘を得意とし、その剣技は我らレイと同等」
「なっ!。それはどんな者達だ?」
「今は多くの種族がいるけど、元は1000人程度の人間の子供だったと聞く。
まぁ、開団したのは3代目フィフスだけど」
「人間の子供!?」
「ああ、彼らは厳しい修行を積み銀河の守護者とまで言われるようになった。
あの訓練はそんな彼らが生み出したものだから剣の上達は見込めるな。後は本人のやる気次第だ」
「そうか……なぁ、私にも教えてくれないか?」
「何でだ?」
「なに、少し興味を持っただけだ」
「まぁ、別にいいけど」
「それと……このことは主はやてや皆には内緒にしてもらいたい、特にヴィータには」
「内緒?……はは〜ん、ヴィータにからかわれるのが怖いんだろ?」
「そっ、そんなことあるかっ!。こういうことはリーダーの威厳に関わることなのだ」

シグナムの顔が一気に赤くなった。

「わかったわかった。そういうことにしておくよ」
「あのなっ!!」
「はいはい、それじゃ家はもうそこだろ?、感づかれないように俺はもう帰るよ」
「あっ、ああ。ありがとう」
「そうそう。これやるよ」

投げ渡されたのは小型のMP3プレイヤー。

「あのゲームの曲は全て入っている、毎日のように聞いてリズムを覚えろ」
「分かった」
「それと次までの宿題。好きな音楽をひとつ見つけること」
「音楽を?」
「ああ、Jポップ、洋楽にヘヴィメタ、演歌は…さすがにな。とにかく見つけろ」
「わっ、わかった」

その後、夕食後のこと。

「あの、主はやて」

はやてが一人になるのを見計らって話しかける。

「ん?。何や、シグナム?」
「あっ……いえ、大したことは無いのですが、何か、おっ、おっ、音楽は無いでしょうか?」
「音楽?」
「はい、何かお勧めのがあれば」
「うーん。そうやなぁ」
「はやてぇ!」
「はやてちゃん!!」

そこに運悪くヴィータとリィンが部屋に来た。

「どうしたん、二人とも?。あっ、ごめんシグナム、確かお勧めの音楽やったな?」
「あっ!、いえ!!、何でもありません!!。失礼します、おやすみなさい!!」

甲高い声で叫びつつ逃げるように部屋を出るシグナム。

「?」
「なんだあいつ?」
「なんかおかしいです」
「はぁ〜っ。やはり慣れないことはするものでないな」

アルトからもらった曲を聴きながらベッドにもたれ、徐々に意識が遠のいていった。


「よし、さすがに上達が早いな」

数日後、シグナムはみるみる上達し、中級までは完璧に踊ることが出来ていた。

「シグナムさん、まだ腕上げましたね」

ギャラリーも話をかけてくるようになり、前のような緊張感は無くなりつつあった。

「ああ。すまんな、いつも占領してしまって」
「別にいいっすよ。見ているほうも楽しいし」
「よし、そんじゃ続き始めるぞ、今日から上級だ」
「望むところだ」


その日、聖祥5人娘は久々に遊ぼうということになり、
シグナム達がいるゲームセンターのすぐ近くまで来ていた。

「なぁ、なのはちゃん、フェイトちゃん。この頃シグナムおかしくない?」
「おかしいって?」
「いやな、何か分からんけどもなんかおかしいんや。
この前なんて、あまり聴かない音楽で何かお勧めの音楽を聞きに来たし、
ヴィータ達が来たらそそくさと逃げていったし」
「う〜ん、私が気づいたのは模擬戦のとき技の切れがあがったことかな」
「私の場合は、聞いた話しだけど休憩中にヘットフォンで何か音楽を聴きながらステップを踏んでいたことぐらいだよ」
「音楽を聴きながらステップ?」
「私はCD屋で、声かけたけどそそくさと逃げちゃって」
「私はアルトくんと一緒にいるところを見た」
「アルトくんとステップ……何やろ?。社交ダンスでも始める気かな?」
「それは無いと思う」

ゲームセンターの前まで来ると

「そういえば久々にDDRやらない?」

アリサが言ってきた。

「アリサちゃん、今私達スカートなんだけど……」
「それに人がいっぱいで出来ないよ」
「誰かうまい人でもいるのかしら?」
「どれどれ………あ"っ!!」

見た途端、女の子らしからぬ奇声を上げるはやて。

「どうしたのはやて」

みんなも覗き込むと

『あっ!!』

みんなの眼に映ったのはアルトとシグナム。
彼等のステップはシンクロ率400%といっても過言ではないほど同調。
そしてシグナムは自分達にも見せたことの無い笑顔だった。

「何であの二人が?」
「しかも何気に上級をノンミスしてるし」
「そんなことはどうでもええ、ええ、ええでシグナム!。輝いとるでぇ」

なぜかはやては感涙していた。

「ふ〜っ、今日の出来はどうだろう?」
「まぁ、上出来といったところか。それより……」
「はい、シグナム、タオル」
「ああ、すまない……ってホワツッ!!」

タオルを差し出すはやて、それを受け取るシグナム。
突然の主の登場にシグナムらしからぬ奇声を上げてしまう。

「あっ、主はやて。それにテスタロッサ、高町……」

シグナムは絶望のどん底を味わうがごとく項垂れていた。

「しかしまだ手はある。主はやて、このことは他の皆には内密に、どうか内密に!!」

はやてに縋り懇願するシグナム。

「いやぁ、それはもう遅いんとちゃうか?」

はやての向いた目線を辿ると……

『あっ……』

シグナムと眼が合ったのは、今一番このことを知られたくない人物。
そう。そこにはペロペロキャンディーを持ったヴィータが佇んでいた。

「……終わった……何もかも……」

シグナムは某ボクサーよろしくとばかり、真っ白に燃え尽きていた。


「ギャハハハハハハ!!!」

その夜、八神家ではヴィータの馬鹿笑いが響いていた。

「シグナムったら恥ずかしいからみんなに内緒なんてかわいいわねぇ」
「ですぅ」
「もう、水臭いやんか」
「しかしゼファーも面白い訓練を知っているな」

主や他の騎士達が思い思いに言う中、まだ真っ白なままのシグナムであった。


その後、アルトから訓練の事を聞いたみんなはこれは良いとばかり、DDRがみんなの間でブームとなった。

「なっ、なっ、なぜだっ!!」

ショックから立ち直ったシグナムだが、ヴィータが自分が費やした半分の時間で
自分を超えたことに再びショックを受けるのであった。







あとがき

はい、本編がなかなか進まないので気晴らしに短編に走ってみました。
半年ぐらい前でしょうか友達メンバーとゲーセンに行ったとき一人がDDRをやっていて
足裁きのあまりのすごさに鳥肌が立ちました。
そして思った、これはネタになるっ!、と。

ちなみにシグナムの"ホワツッ!!"は今会社で流行っている驚きの言葉です。

さて、また本編でっ!!。





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