それは多忙なる日々が続く中で数少ない平和な日の夕方のことであった。

「う〜ん。書類整理終わったぁ〜〜」
「久々のデスクワークは骨身に染みるわね」
「う〜っ、よぉ〜、二人ともお疲れ〜」
「ずっ、ずいぶんお疲れのようですねヴィータ副隊長?」
「夜勤明けに続き慣れねぇ書類仕事するといつもこうだ」
「はぁ、副隊長は肉体派ですからねぇ」
「うるさいぞスバル。とにかく仮眠とって来るわ」
『はい、お疲れ様です』

ヴィータが自動ドアを開くと

「ヴィーーーーーーータァーーーーーーーー!!!」
「のわっ!!」

雄叫びを上げ高速で走るアルトリアにさらわれていった。


魔法少女リリカルなのはAs〜FAH外伝3
アルトリアの恋!?


「……ティア、今の何!?」
「……ゼファー隊長じゃないの?」
「なんか面白そう!」
「あっ!、ちょっと待ってスバル!!」


「うおっ、おいどっどうしたんだよっ!」

ヴィータの途切れ途切れの言葉は聞こえずリアはただ走るのみ。

「はっ!」

運がいいことに打ち合わせ中の隊長陣に出くわした。

「はやてたすけー―――――」
『ん?』

だがスピードが速く言い終わる前に通り過ぎてしまった。
それだけではない、あまりにもスピードが出すぎたため曲がり角を曲がりきれずに壁に激突して二人共ノビてしまった。

「ちょっとリア大丈夫?」
「ヴィータ!」

気絶している二人を抱き起こし最初にヴィータが気がついた。

「はっ、はやて……うわ〜〜〜ん、怖かったよ〜〜〜〜〜!!」

起きたとたん泣きながらはやてに抱きついた。

「一体何があったんや?」
「ワタシにもわからないよ、部屋を出たら急に連れ去られたんだ」

そこにスバルとティアナが追いついてきた。
それだけじゃない、その他の分隊メンバーや隊員達も騒ぎを聞きつけ集まってきた。

「はっ!!」

そんな中、リアが気づき飛び起きてヴィータを見た。

「ひぃぃぃぃ!!」

怯えるヴィータの肩をガシリと掴み。

「グーラーフアイゼンで私の頭をブッ叩いて!!」
「………へっ?」
「だからアイゼンで私の頭を叩いて!、ギガントでもいいから!!」

沈黙が満ちる。
ここにいる誰もが“この女、何考えているんだ”的な生暖かい目でリアを見ている。

「そうだ!、スバルのリボルバーナックルでもいい!」
「えっ、うぇぇ!!」
「お願いよ。思いっきり殴って!」
「そうは言われましてもぉ……」
「よっしゃ!、そこまで言うなら望みを叶えてやろうじゃないか」
「よし来い!!」

ヴィータがアイゼンを大きく振りかざす。

「わわっ!、ちょっと待ったぁ!!」

慌ててヴィータを抑えるはやてとフェイト。
いくら神族でもまともに食らえばただではすまないしこんなところでスプラッタはごめんだ。

「だめだよ、いくら本人がいいとは言ってもほんとにやっちゃ」
「そうや」

だが、リアはアイゼンを奪い自分で殴ろうとしている。

「わわわっ!!」

慌てて止めに入る。

「離して〜」
「いったいどうしたっていうの?」
「今すぐこの忌まわしい記憶と感情を消し去るために〜〜〜」
「どういうことよ?」

こうなった原因を聞こうとするがリアは一向に喋らずただ自分を傷つけようとしている。
仕方が無いのでバインドで拘束し椅子に座らせた。

「うぅぅぅうぅぅぅ!!」

通常のバインドではすぐに破られてしまうので、数人がかりでまるでミイラのようにグルグル巻きにされている。

「さて、何でこんなことをしようと思ったかわけを聞かせてもらおうか」

皆仕事そっちのけで集まり法廷のような雰囲気をかもし出している。

「……………」
「黙秘かいな」
「ねぇ、おねがい、一体何があったか教えてくれない?」

フェイトが問うと急におとなしくなり、目をそらしながら

「……しちゃったの」
「ん?」
「だから恋しちゃったみたいなの!!」
『………………』

またも満ちる沈黙。

「えっ、えっ?」
『えええぇぇぇぇぇぇぇぇええええ!!!!!』

驚きが一気に爆発する。

「恋したって誰に!?」
「………ヴァ、ヴァイス………」
「何でよりにもよって!!」
「ちょっと待て、リアさんってアルトさんと同一人物だよな?、ということは浮気!?」
「その前に場合によっちゃ男同士だぞ」
「うわ〜っ、修羅場に出くわしちゃったよ」「うわ〜〜〜〜ん、お父さんが不倫した〜、家庭崩壊の危機だぁ〜〜」
「落ち着いてプレシアちゃん!!」
「うわうわうわっ、アルトが浮気…浮気……」

あちらこちらで大騒ぎ、フェイトも混乱し思考がショートしかかっている。

「ちょっと待って。リア達は浮気とかそういうの無いはずじゃ?」
「あっ、でも多妻制ですよね?」
「その前に実際夫婦なのはアルトさんとだから、リアさんはフリーじゃ?」
「そんなんじゃないわよっ!。確かに別人格のところもあるけど私とアルトは精神同一体。
当然私もフェイトを愛している。彼女のためだったら純潔も体も髪の毛の1本から血の一滴、ううん、
それだけじゃない。心も魂も喜んで捧げよう。
彼女を傷付ける外敵をなぎ払い、世界が敵と認識しようとも私は味方となり守り続ける!」

周りから見ると引かれそうな言葉を連ねるが、しかし当のリアは真剣な表情で語っている。
その言葉を聴いて嬉しかったのか、フェイトの瞳が潤み今にも涙が零れ落ちそうだった。

「なのに……なのに……誰かを好きになるなんて……うぇ〜〜ん、これじゃ裏切りだぁ、
背信行為だぁ。誰かこの忌まわしい記憶を消して………」
「うぇ〜〜ん。リア、リアありがとう。リアがそんなに私のこと思ってくれているなんて、
私次元世界一の幸せ者だよぉ。大丈夫、私が忘れさせてあげるから!!」

感極まって泣き出したフェイトがリアに抱きついた。

「はいはい。ちびっ子もいるんだから続きは夜仕事終わってからにしてな」
「しかし、恋の相手がヴァイスとは」
「一目惚れかな、どんなきっかけだったんだろうね?」
「だぶんあれじゃないかな?」
「あれって?」
「さっきなんですけどトレーニングが終わっってヴァイスさんが声かけてきたんです」
「あいつ仕事サボって何やってんだ」
「最初は何気なく話してましたけど、夕焼けを背景にしたヴァイスさんの横顔を見たとたん、
急に顔を真っ赤にして走り去っていっちゃったんです」
「なるほど、それであの暴走か」
「何でヴァイス曹長なんですか……私が狙ってたのに」
「ティア、なんか言った?」
「なんでもないわよ!」

みんなが話していると

「あれぇ、みんなどうしたんですか?」

渦中の人、ヴァイスが暢気に現れた。

「………はっ!」

ヴァイスを見たとたんリアは表情を綻びさせ、そしていけないと思ったのか首を激しく振り正気に戻した。

「あれ?、リアさん何してるんですか?」
「…………やはりこの感情を消すためには元から絶たないとね」
『えっ!?』

リアは何重にも巻かれたバインドを軽々解き、
シャキッと両手に装備させたグロウ・グラスプから3本の鉤爪を引き出す。

「ヴァイス曹長、私の今後の幸せのため死んでっ!!」
「うえっ!?、いきなりなんですかっ!!」
「そうだよって、うわっ!!」
「グウルル……」

リアは、獣が獲物を狙うときに見せる低い前傾姿勢。
いつの間にか牙や獣耳も生え完全に半獣化している。

「はっ、半獣化してるし!!」
「よっぽど自分が許せなかったんだろうね」
「ヴァイス、逃げたほうが良いぞ」
「ヴァイス、覚悟っ!!」
「言われなくたってそうします!!」

ヴァイスは一目散に逃げリアが後を追う。

「どれ、私達も追いかけましょうか」
「そうやな、下手に騒いで隊舎壊されたらたまらへん。シグナム、アギト、殿頼めるか?」
「はい」
「おう!」


「ひぃ!、ひぃ!」

ヴァイスは力の限りは知る。このままいけば身の覚えの無いことで殺されたしまう。
嫁さんももらっていないのに殺されてたまるか。
幸いあっちはタイトスカート、全力疾走するズボンには勝てない。
そう思いヴァイスは後ろを確認したが

「おりゃぁぁぁああ!」

リアは半四足歩行をし時折壁走り三角飛びをしながら確実に近づいている。
スカートでここまでも機動性能は不可能、よく見るとスカートには結構深くまでスリットが入り、
太ももはおろかインナーウェアまで見えそうな勢い、おまけにちゃんと尻尾用の穴まで空けられていた。
上も動きやすいように上着とシャッツのボタンが引きちぎられていた。
ヴァイスは思った、信念のためなら女は女を捨てられるんだなと。

「ヴァイス!!」

リアの爪がヴァイスを捉えようとした瞬間、ユニゾンシグナムが割り込み鍔迫り合いが起きる。

「シグナム、どいて頂戴!」
「リア、少しは落ち着け!」
(くっ、それにしても相変わらずのこの時はバカ力だなっ!)
「泣き言を言うな!」
「そこをどけぇっ!」
「きゃっ!」

力負けしたシグナムはそのまま壁に叩きつけられリアは追跡を再開した。
間もなくほかのメンバーが追いつく。

「みんな先に行って」
『はい』
「大丈夫かシグナム、アギト」
「ううっ。主はやて……」
(いててて)


「はぁ、はぁ……、シグナム姐さんのおかげで何とかまけたな」

ヴァイスは壁に手をつき一息ついていた。

「にしてもリアの姐さん、何で俺に敵意見せるんだ?。俺が何やったっていうんだ?」

歩き出そうとしたとたん、横から誰かに襲われた。

「げっ、姐さん!」
「ヴァイス…覚悟!」

リアはマウントポジションを取り鉤爪がヴァイスに襲い掛かる。
リアの両手首を掴み、何とか抵抗するヴァイス。

「くっ!。何でですか、何で俺を襲うんですか!?」
「あんたに恋しちゃったからよ!、だが本来この身も心もフェイトのもの、あんたに靡いちゃいけないのよ!」
「だから存在を消すんですか!、好かれているのはうれしいですけれどだからって殺されちゃたまったもんじゃない!」

純粋な力勝負。

「はぁ、はぁ……」

ヴァイスがすぐ近くにいるせいなのか、リアの顔は上気し息も荒げ、力もだんだん抜けていっている。
この機を逃すかとばかりにヴァイスは体をよじらせリアを引き剥がそうとする。
そのおり、懐から何かが零れ落ちた。

「!!。はぁぁぁぁあああああああ!!!」

間もおかず、リアは色っぽい悲鳴を上げその場に倒れた。

「リア!!」

みんなが追いつきフェイトはリアを抱き上げた。
リアはただ恍惚の表情を浮かべ体をピクピクと震わせ“気持ちいい”と呟いていた。

「リア大丈夫!?、ヴァイスになんか変なことされなかった?」
「フェイトさん、被害者は俺なのですが……」
「いったい何があったの?」
「いや、これが懐からこぼれ落ちたとたん悲鳴を上げて倒れちゃったんですよ」

そう言いヴァイスが見せたのは何かの果実。
フェイトは手にとって見てみたが

「はう……」

リアと同じく急に倒れ硬骨な表情を浮かべていた。

「フェイトちゃん!?」
「どないしたん?」
「ヴァイス、それは何だ?」
「何ってマタタビですよ」
『マタタビ!!』

それを聞いてこの場にいる全員なぜリアが恋をしたのかを理解した。


事のあらましはいたって簡単、猫科であるリアが、ヴァイスがおやつ用に持っていたマタタビの実のにおいに反応し、
それを恋したと勘違いしただけのこと。
その後、リアははやてやフェイト達にお説教をくらい、なぜか被害者であるヴァイスも餌食にされていた。


「はぁ、勘違いだったのね……よかった……」
「何がよかったのティア?」
「なっ、なんでもないわよ!!」

これは多忙なる日々が続く中で数少ない平和な一日の出来事。







あとがき

Krelos:はい、突拍子に思いついた短編だったので何一つひねりが無いオチが付きました。
ちなみに調べたら、一説ではマタタビとは疲れた旅人が実を食しまた旅ができる体力を得たことから
又旅、マタタビと名づけられたとあります。(Wiki調べ)





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