魔法少女リリカルなのはStrikerS
『翠の伏龍と蒼の賢者』
プロローグ 始まりの鐘は静かに鳴り響く


『P・T事件』
 稀代の天才魔導師『プレシア・テスタロッサ』が引き起こしたとされる事件。
 当時、ようやく年齢が二桁に届こうと言う幼い少女が中心になって解決したという余りにも有名な事件である。


『闇の書事件』
 闇の書と呼ばれていたロストロギアとその主を巡って『守護騎士ヴォルケンリッター』が巻き起こした魔力の蒐集活動。
 時空管理局にも死者こそ出さなかったものの甚大な被害を与えた事件だ。
 過去に幾多の悲劇の引き金になった『闇の書』という存在が消滅、生まれ変わった事件でもある。
 そしてこの事件にもまた少女たちの尽力が在った。

 そして彼女たちは年月を越え……己の未来を見据え今を精一杯に生きている。

 いやはやまったく大した美談です。
 私がこんな事を言うのはなんですが、彼女たちの力はとても強くそしてその心根はとても貴重だ。
 だからこそこの二つの事件と関わりを持っていた時空管理局関係者は彼女らの管理局入りを推薦したわけですが。

 果たしてそれが良かった事なのかという所はそれなりの月日が流れた今でも疑問に思っています。

 もしも魔法になど出会わなければ。
 彼女らはごく普通に己の知る限りの世界で己の幸せだけを望む事が出来たはずなのですから。

 ええ、IFの話に意味が無い事はよくわかっています。
 その意味の無さも、その必要性の無さもね。

 実際、彼女たちが管理局に入った後、管理局全体の力は比喩ではなく増加したという事実がある以上は尚の事この仮説には意味がないでしょう。
 彼女たち個人の卓越した力という物も勿論あります。
 ですがそれ以上に彼女たちのような年若い少年少女が現場にいるという事実が魔導師を志す者たちにとっては適度な刺激になったようで。
 優秀である、そうでないに関わらず以降の入局希望者が増加したんですよねぇ。

 まったく笑ってしまう話です。
 意図せずして我々、時空管理局は彼女らをアイドルに仕立て上げさらに体のいいプロパガンダとして利用したのですから。

 しかもそれを知っていても尚、続けているという事実にはため息すら出てこない。
 彼女らが目立った活躍をする度に、その頻度は増加していくのだからもう呆れて物も言えない。

 世界の秩序を護る為にと謳い、才能ある若者たちの未来を狭め、時に食いつぶす組織。
 実に矛盾した話だとは思いませんか?

 しかもただでさえそんな馬鹿な事をしているというのに。
 組織と言う物の性質か、どうしても私利私欲に走る者たちがいるのです。

 そしてそういう輩に限って狡猾で抜け目が無い。
 自己保身のための手段を幾つも保有し、またその為になら自分以外のどのような物でも斬り捨ててしまう。

 こう考えていると外来の違法魔導師などよりもむしろ管理局内の方が危険ですね。
 ココまで来るともう笑うしかありません。

 ですがそれももう終わりにしようと思います。
 ろくでなしどものために、才能ある純粋な若者たちが人知れず不遇な目に合うこの状況を。

 例えその結果、世間から何と言われようとも。
 例えこの身が朽ち果てようとも。

 幸いな事に、私がいなくなっても上手くやってくれるだろう『頼れる人材』はいますし。
 最初で最後の『戦争』を始めるとしましょう。

 決して世間に知られる事の無い、組織の闇を相手取った戦争を。
 正義と悪という概念ではない、私自身の意思に準じて。

 全ては未来を見据えて現在を生きる『彼ら、彼女らのような者たち』の為に。

 ああ、一人で盛り上がってしまいましたね。申し訳ありません。
 いやそれなりに長く生きているとこうして腹を割って話せる相手という物がなかなかいませんのでつい熱が篭もってしまいました。

 え? 今の話は本当なのか、ですって?
 ふふふ、さてどうでしょうか?

 戦争が起こるにせよ、起こらないにせよ目に見えた変化がいきなり起こる事はないと思いますよ?

 どういう意味か、ですか?
 それを考えてみるのも面白いと思いますよ。
 貴方はまだお若いんですから。

 そうそう先ほどのお話で私が言った『才能ある純粋な若者たち』には当然、貴方も入っていますから。
 ソコのところはお忘れなく。

 ハハハ、そんなにご謙遜されないでください。
 才能と言う物は得てして己では気づき難い物です。
 望んだ物が手に入るとも限りませんしね。
 私からすれば貴方も立派な才能をお持ちの若者ですよ。

 ふふふ、では私はこれで。
 楽しい話をしていたせいでつい時間を忘れてしまいました。
 これでも忙しいんですよ、残念ながら。

 え? 私の名前ですか?
 これは申し訳ない。話に夢中でつい失念していました。
 では改めて名乗らせていただきます。

「私は時空管理局現局長『コートルット・メイ・イクナード』と申します」

 ではまたどこかでお会いしましょう。
 立派な才能をお持ちの貴方。

 これは後に起こる『J・S事件』と連動して引き起こされた事件。

 首謀者は不明。
 だがこの時、管理局内において不正を働いていたとされる上級将校及び上級士官が軒並み検挙され、さらに最高評議会のメンバーが全員死亡という異例の結末を迎えた

 一般には公表されず『J・S事件』の裏に消えていった管理局内部の一斉摘発事件。
 この事件をある者が第九十七管理外世界の知識を元にこう名付けた

『伏龍事件』
なんの前触れもなく現れ、誰にも悟られること無く姿を晦ませた名も姿も見せなかった事件の首謀者を『龍』に例えたなんとも洒落の効いた名前だった。

 それを聞いたその頃の『時空管理局長』が笑いながらその名を採用したという。
 事件の首謀者が『コートルット・メイ・イクナード』であったかどうかは定かではない。

 この事件の真相を知る者は二人だけ。
 一人は名も知られずに幻のように消えた首謀者。
 そしてもう一人は首謀者と争うように、また競い合うように管理局に対して行動を起こした男『ジェイル・スカリエッティ』その人である。

 ある程度の事実を知る者はそれなりにいるだろう。
 だがこの事件の全容を知る者はこの二人だけである。

 偶然にしては出来すぎた時期に起こった二つの事件について首謀者たちに接点があったのではと考える人間は多く、監獄へ入れられたスカリエッティに幾度と無く言及されたが彼は口を割る事はなかったという。

 ただ一度だけ。
 無限書庫司書長との面会の際にのみ、彼は事件の事をこんな風に言った。

「楽しい勝負だった。元々、勝ち負けに拘る性分ではないが負けても尚、楽しいと思えたのは初めての経験だったよ」

 実に有意義だったとまるで子供のように笑っていたと司書長は語る
 そんな一幕のせいでその後の追及がさらにヒートアップしたのだがやはり彼は取り合う事はなかった。

 こうして『隠れ伏した龍』と名付けられた事件は、管理局内に新しい風と混乱と招き入れて幕を閉じたのである。
 しかし以降、まことしとやかに局内に噂が広がる事になる。

 法を司る者たちが悪事を働くほどに堕ちた時、眠れる龍が目を覚ます。
 管理局内での悪事は伏龍によって暴かれる。
 という根も葉もない、しかし事件を知る者たちからすれば決して笑い事では済まされない話が。

 後の世に噂となってまで影響を残したこの物語の主役は三人。

 一人は若干二十歳にして無限書庫を束ねる青年。
 一人は数多の部隊をそれこそ陸海問わずに転々とし、様々な経験をしてきた男。
 そして無限の欲望などと名付けられた、創られし次元犯罪者。

 彼らを取り巻く全てを巻き込み、しかし『J・S事件』の影に隠れた物語が始まる。

 あとがき
 初めまして。
 しがない二次創作作家の紅(あか)と申します。
 本日よりこちらでお世話になる事になりました。
 皆様方、よろしくお願い致します。

 私が手掛けるこのお話はストライカーズを軸にした原作改変物になります。
 改変と言いましても誰かが圧倒的に強くなるというわけではありませんし、それほど多くオリジナルキャラを出す予定もありません。

 物語に関わるオリジナルキャラがかなり出ますが主役はユーノ・スクライアとオリキャラ一名になります。
 私は基本的にユーノが好きなので原作と異なり、彼の出番はかなり増えます。
 それに付随して彼と親交が深いオリジナルキャラが出てくるという形にする予定です。

 まだまだ未熟の身ではありますが読みやすく、面白くをモットーに頑張りたいと思いますのでよろしくお願いいたします。


 H23.1.11 加筆修正





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