魔法少女リリカルなのはStrikerS 

『翠の伏龍と蒼の賢者』

第八話 最前線と後方部隊



機動六課司令部 ロングアーチ



「問題の貨物車両、速度70を維持! 以前、進行中です!」



緊迫し、自然とピリピリとした空気に包まれる司令部の中で、通信管制担当の『ルキノ・リリエ』二等陸士が状況を報告する。



「重要貨物室への突入はまだされていないようですがそれも時間の問題です!」



ルキノの報告を引き継ぎ、端末を操作して情報を処理しながらシャーリーは険しい表情をしているグリフィスに伝える。



「ガジェットの動きが思いのほか早い……っ!?」



グリフィスの考察を遮るように司令部に響くアラート。



「アルト、ルキノ! 広域スキャン。サーチャーを空に!!」

「「はい!」」



即座にシャーリーが指示を出し、ルキノと同じく通信管制を担う『アルト・クラエッタ』二等陸士が現場空域の広域探査を行う。



「ガジェット反応、空からです!」

「映像を回してくれッ!」



モニターに暴走するレールウェイに迫る、空戦型と思しきガジェットの群れが映し出された。



「今まで確認されなかった空戦に特化したガジェット……(今までの目撃情報と明らかに編成の規模が違う。これはやはり……相手が本格的に動き出したと見るべきか)」



次々と映し出される情報を上手く整理しながら思考を巡らすグリフィス。

その瞳は鋭く、『敵の全てを見抜かん』という強い意志を宿していた。



「我々がどれだけ敵の情報を入手できるかで戦闘部隊への負担が格段に変わる。便宜上、空戦、航空型と思われるガジェットについては『U型』と呼称する。可能な限り情報を収集し、各員に伝達! 一分一秒も無駄にするなッ!」

「「「了解!!」」」



彼の檄に、綺麗に揃った声が応える。

後方支援部隊『ロングアーチ』による情報との戦いが始まったのだ。





JF704型ヘリ機内



「ヴァイス君、私も先に出るよ! フェイト隊長と一緒に空を抑える!」



フェイトは別件で単独行動をしており、現場で合流する手筈になっている。

なのはは十年来の付き合いから彼女の速さを良く知っており、ヘリの速度と鑑みると合流するよりも先に戦闘に突入する可能性が高い事を理解していた。

初の出動で緊張している新人たちのためにも速やかにフェイトと合流し、空戦型ガジェットの群れへの先制攻撃とレールウェイへの突入という本命への露払いを行うつもりなのだ。



「うっす。なのはさん、お願いします!」



ヘリ端末が操作され、エアハッチが開放される。

真剣な面持ちで眼下に広がる景色を見つめるなのは。



「高町一尉。お気をつけて」



余計な気負いは見せないが、確固たる意志を見せるその双眸を見つめながらシチセイは声をかける。



「私は大丈夫です。シチセイさんも気をつけてくださいね? 実戦は久しぶりなんですから」

「肝に銘じておきます」



端的な返答に満足げに頷くなのは。

彼女の視線は不安を隠しきれない新人たちに向けられる。



「じゃあちょっと出てくるけど……皆も頑張って! ズバッとやっつけちゃおうっ!」

「「「はい!」」」

「は、はい!」



彼女らしい気軽な鼓舞に返事をする四人。

しかし三人に比べて緊張が濃いのかキャロだけが返事を遅らせていた。

当然、なのはがそれに気付かないはずがない。



「キャロ?」

「あ……」



そっと彼女の頬を両手で包み込み、じっとその不安に揺れる瞳を見つめる。



「大丈夫。離れていても皆、通信で繋がってる。一人じゃないからピンチの時は助け合えるし、キャロの魔法は皆を守ってあげられる優しくて強い力なんだから。ね?」



そう言って微笑むなのはにキャロだけではなく三人のフォワードの緊張も緩和させていた。



「……フォワード四名」

「「「「は、はい!」」」」



事態の成り行きを静観していたシチセイに声をかけられ、なのはとリィンフォースを含めた全員の視線が彼に注がれる。



「……今まで訓練で培ってきた経験を信じろ」

「「「「はい!」」」」



フォワードの返事にシチセイは静かに頷くとなのはを促すように視線を向ける。



「それじゃ行って来ます」



開け放たれたエアハッチから飛び出すなのは。

全身で加速していくGを受けながら、彼女は胸元に輝く相棒に声をかけた。



「レイジングハート、セットアップ!」

『All Right』



桃色の光が彼女の身体を包み込み、デバイスが起動する。

次の瞬間、彼女はトレードマークと言えるバリアジャケットを着込み、杖状になったレイジングハートを右手に握り締めていた。



「スターズ1、高町なのは。行きます!!」



凛とした声と共になのはは空を駆け抜けていく。

だがその力強い飛翔が、絶対の物ではない事をシチセイは知っている。



「(かつて墜ちた翼……か)」



思い浮かんだ余計な思考を排除し、エアハッチから眼下を見下ろす。



「司令部へ。『エクストラ1(番外1)』はスターズ1、ライトニング1と共に制空権の確保へ向かいます。その後は上空から現場の状況を逐次報告。そちらで収集した情報も随時、伝達願います」

「了解しました。ご武運を」



通信越しのグリフィスの返答に小さく頷くとシチセイは新人たちに視線を移す。



「リインフォース空曹長。新人たちをお願いします」

「はいです! オウハ三尉も気をつけて行ってきて下さい!」



ニッコリと笑いながら激励する少女に、応えるようにして敬礼する。



「先に行く。全員、無事に帰るぞ」

「「「「はいっ!」」」」



四人のフォワードの緊張を内包した返事を受けて、シチセイは彼らの背中を押すように敬礼を行う。

そしてその姿勢のまま、仰向けに倒れこむようにして中空に身を躍らせた。



「ソウテン、セットアップ」

『承』



瞬時に展開される十数年の付き合いのバリアジャケットを纏い、シチセイもまた戦場へと飛び込んでいった。







『スターズ1、ライトニング1、エンゲージ!』

「さすがに速いな」



送られてくる情報を記憶しながら目前で繰り広げられる戦闘を見つめるシチセイ。



「(俺に攻撃を仕掛けてくる気配がない。単純に距離が離れているからか、それとも敵対行動を取っていないからか……)」



現場に急行しながら、かなりの範囲に展開されているガジェットの分析を行う。

なのはがお得意の射撃魔法で撃ち落とし、フェイトはその驚異的な速度を武器にすれ違い様にデバイスで切り払っていく。

その圧倒的な様子を見つめながら、シチセイはあっけなく落とされていくガジェットたちに同情すると同時に疑問を抱いた。



「(あれだけの数を何体かの分隊に分け、個々の撃破を狙う。戦術は理に適っているが……なら何故、波状攻撃をしない?)」



彼が確認した限り、ガジェットが取っている戦法は散発的で連携が取れていない。

死角を補うように動いている部隊もいるがそれは全体から見ればごく少数の部類だった。



「(単純なプログラムしかされていないのか、あるいは……『敵対する勢力のデータ取り』か?)」



現状で考えられる可能性を一つ一つ挙げていってはマルチタスクを広げていく。

だがどれも所詮は推測に過ぎず、確信に至る事はできない。

そして何より、戦場はもう目と鼻の先まで迫っていた為、彼はそれらの思考を全て頭から弾き出した。



「こちら、エクストラ1。これより戦闘行動に移ります」



彼はいつも通りの仏頂面のまま、桃色と金色の閃光が飛び交う戦場に突入する。

新たなイレギュラーの存在を感知したのか、ガジェットU型の何機かが彼目掛けて突撃してきた。



「ふっ!」



正面に迫ってきたガジェットをさらに上空へ急上昇する事で回避する。

真下を通り過ぎるガジェット群は速度を殺さないように緩やかな弧を描き、敵対者を追撃する為にブースターに火を灯す。

だが。



「遅い」



ボソリと呟かれた彼の言葉に呼応するように上昇すると同時に形成していた拳大の魔法陣から出現したチェーンバインドがガジェットらに何重にも絡みついていく。

加速を行った瞬間に、急制動をかけられたガジェットのボディに魔力鎖が食い込むが強固に組み上げられたバインドはビクともしない。

すかさず身動きの取れなくなった敵に接近。



「破ッ!!」



短い掛け声と共にソウテンの柄尻の鉄球を機械兵器のボディに下から突き上げるように叩き込んだ。



「出来れば爆発するなよ?」



一撃でボディを突き破り、内部構造を抉ると彼は脇目も振らずに次の獲物に鉄球を叩き込む。

ビリビリと不快な電子音を立てて、痙攣するかのように震えていた最初の犠牲者はその数瞬後には完全に機能を停止した。

動きを止める事無く、それを確認したシチセイは即座に通信を開く。



「エクストラ1よりロングアーチ。空戦型ガジェット、通称『U型』を一体、機能停止させた上での捕獲に成功。任務完了後に指定するポイントに回収班を回してください」



言いたい事だけを伝えると彼は即座にその場から飛び去る。



飛行機能も無くなった物言わぬ鉄塊は自分を縛るバインドにその重量を預けていたが、驚くべき事にこの任務が完了し後方部隊の現場検証が始まるまでの間、魔力鎖が解ける事なく構成を維持し続けていた。





「(あらかた片付いたか?)」



周囲を油断なく見渡しながら心中で独白する。

まだ散発的な戦闘は続いているようだが、それも時間の問題。

今のところ、敵の増援が来る事もなくシチセイはその事実にとりあえずホっとしていた。



シチセイはなのはたちに関してはあまり心配していない。

何事にも例外、予想外の事態という物はついてくるがそれを差し引いても今回は大丈夫だと考えていた。

この乱戦に近い状況下にあっても、冷静に対処している彼女らの姿を見れば納得だろう。



「(正直、俺の手なんぞいらないくらいだろうな)」



ならば自分に出来る事とは何か?



「こちら、エクストラ1。スターズ1、ライトニング1による制空権の確保はもうまもなく完了する模様。同時に輸送ヘリの現場への到着も確認」

「こちらでも確認しました」



こちらに突撃してきたガジェットをチェーンバインドで縛り上げながら状況を報告する。

彼の視線の先にはレールウェイに降り立った四人の新人とリインフォースの姿。



「(やっぱりまだ不安だが……あまり過保護になるわけにもいかんか)」



レールウェイ内部から天井を破壊して出現する彼らにとっても馴染みのあるタイプのガジェット『T型』の群れ。

それらに立ち向かう『後輩たち』を尻目に彼はロングアーチに提案した。



「現場一帯の広域探査を行いたいのですが許可をいただけますか?」

「広域探査、ですか? それならば現在、こちらでもリアルタイムで行っていますが……」

「そちらで収集する情報は主に現場周辺、それも部隊員がいる周辺に主眼を置いているはずです。ですがそれでは掴みきれない死角に『何か』がいないとも限りません。勿論、自分の杞憂で済むのならばそれに越した事はありませんが……」



そこまで話した所で彼は会話を止め、すっと目を細めた。

視線の先には何の変哲もない青空が広がっている。

だが彼が戦闘時、常に展開している『エリアサーチ』は僅かな異物の存在を確かに探知していた。



それは例えるならば水面に浮かんだほんの僅かな波紋。

ともすれば気のせいで済ませてしまうようなその程度の違和感。

彼はそれを見逃しはしなかったのだ。



「……チェーンバインド」

「エクストラ1。どないしたんですか?」



いつの間にか、通信の声がグリフィスからはやてに変わっていた。

所用で聖王教会に行っていた彼女がようやく自分の持ち場に戻ってこれたのだろう。

だがシチセイにはそれに応えている余裕はなかった。



自分の右手に魔法陣を展開。

展開した陣から現れる六つの魔力鎖はじっと主の指示を待つ忠犬のように静止する。

自分の眼前に広がる空間を睨みつけながら彼が次の行動を起こそうとした所で、『ソレ』は行動を起こした。



ヴゥンという電子音と共にシチセイが睨んでいた空間が歪む。

まるで周囲の景色から浮かび上がるように、唐突に目の前に姿を現したのは球形をしたガジェット。

それも今までのタイプに比べて二倍はある大きさの巨体を有していた。

ボディに埋め込まれた無機質な三つの瞳が、シチセイを見据えている。



「ロングアーチ! 未確認のガジェットを肉眼で確認!!」



報告と同時にT型と異なる、板を幾重にも繋げ合わせたような触手、いや腕が彼目掛けて振り下ろされる。



「ラウンドシールドッ!」



巨大な腕と展開した魔法陣がぶつかり合い、火花が散る。



「エクストラ1! 状況はッ!?」

「現在、交戦中。高度なステルス機能を有するようで発見が遅れました!」

「うん、こっちでも確認したけど未だにレーダーで探知できひん。ソウテンから送られてくる情報のお蔭で視認は出来るんやけど!」

「なるほど。他の状況はっ、くっ!?」



縦横無尽に振るわれる巨大で長い両腕にたまらず後退する。

しかし自分を見つけた存在を逃がすつもりはないのか、間髪入れずにレーザーを撃ってきた。



「しつこいッ!」



展開させていた右手のバインドを開放。

六条の魔力鎖全てがガジェットに襲い掛かる。



「なにっ!?」



だが敵を捉えるべく迫っていた鎖の波はガジェットが展開したAMFによって構成を解かれてしまった。

同時に身体全体を襲う浮遊感。

ゾクリと背筋が震えた瞬間、彼は飛行魔法を解除され下界へと突き落とされていた。



「くっ!?」



グングンと眼下に広がっていく地面。

このまま叩きつけられれば間違いなく死ぬだろう。



「ソウテン!」

『承』



迫り来る地面に己のデバイスを向け、命じる。

主の意志を受けたデバイスは0コンマ数秒で飛行魔法を展開する。

同時に柄尻の鉄球が蒼く明滅する。



「……さすがに肝を冷やしたな。だがあれだけの距離を置いていても影響を及ぼすほどのAMF。良い情報を拾えた」



頭上を仰ぎ、ガジェットの無機質な三つ目とかち合う。

シチセイはその瞳の向こうにいるだろう『誰か』に対して口元を皮肉げに吊り上げた。



「これ以上、こちらの情報を渡してやる義理はない」



ギシリと音を立て、ガジェットの巨体がその場で硬直する。

さらにプレス機にでもかけられているかのように少しずつその身体が凹み、圧縮されていった。

この場に誰か第三者がいれば気付いたかもしれない。

ガジェットの体がまるで大蛇が獲物に巻きついているかのような形に圧迫されている事に。

それはなのはとの模擬戦で彼が使って見せた不可視のチェーンバインドだった。



「何をされているかわからないまま……消えろ」



踵を返し、未だ戦いが続くレールウェイへと向かった。

背後で起こる爆発を無視して。



「(AMF状況下でも『特殊構成』の魔法なら問題ないな)」



僅かに口元を綻ばせながら空を駆ける。

だが即座にその口元は引き結び、己の高揚感を戒める。



「(とはいえ油断は出来ない、か。なんらかの対応を取ってくる事も考えないとな)」



今回の戦闘で恐らく自分の存在はガジェットの裏側にいる者に警戒されただろうと、どこか他人事のようにシチセイは思う。



「(これでユーノのマークが緩んでくれればいいんだが……)」



現状で最も戦場から遠く、しかし最も敵に近く、最も危険な立場にいる『弟分』の身を案じる。

敵が表立って本格的に動き出した以上、その身に降りかかるだろう危険は今までの比ではないだろうから。



「こちら、エクストラ1。未確認のガジェットを破壊。現在、レールウェイへ急行中」



彼は暗くなりかけた思考を頭から排除し、自分の戦場に意識を集中する。



「ご無事で何よりです。お怪我はありませんか?」



通信機越しにグリフィスの安堵した声が聞こえる。



「こちらは特に問題ありません。欲を言えば未確認も捕獲してしまいたかったのですが……」

「いえ、さすがにそこまでは。こちらでも未確認を確認しましたがそちらはライトニング3、4が撃破しました」

「レリックは?(モンディアルとルシエが? 少しはやるようになったか)」



心中で驚き、その成長を素直に喜びながらも話を進める。



「スターズ3、4及びリインフォース空曹長の手で無事、確保。現在は移送体制に入っています」

「残存する敵勢力は? (リインフォース空曹長のフォローがあるとはいえ、スターズもそれなりの成果を上げたか。初戦としては上々だな)」

「スターズ1、ライトニング1が周辺を調査中。こちらでも広域探査を行っていますが現在まで反応は確認されていません」

「状況は理解しました。エクストラ1は部隊と合流し、周辺の警戒に当たります。またセンサー類に探知されないタイプがいないとも限りませんので」

「了解しました。お気をつけて」



通信を切ると同時に速度を上げる。

目前に迫ったレールウェイの周囲を嬉しそうに飛翔する白い竜と展開されている蒼い線路を視界に納めながら彼は無表情のまま、しかし安堵の感情を乗せて呟いた。



「全員無事で何よりだ」



その言葉は囁きに近く、周囲を吹き荒れる風に流されて誰の耳に届く事もなく消えていった。





???

薄暗いその場所で白衣の男性は目の前の光景に見入っている。

彼が見ているのは、レールウェイでの戦闘の一部始終を幾つも映し出したモニターだ。



「刻印ナンバー『\』、護送体制に入りました」



モニターの端に移るのはウーノと呼ばれた女性。

それに対して「ふむ」と頷くのはドクターと呼ばれている男性だ。



「追撃戦力を送りますか?」

「ふふふ、やめておこう。レリックは惜しいが彼女たちのデータが取れただけで充分だ。まぁ当初の予定を下回るデータではあるが……」



口元を吊り上げながら、ウーノの質問を否と返しモニター画面を切り替える。

彼の見据える先にはなのは、フェイトと初めとした機動六課のメンバーの戦闘の様子が映し出されていた。



「それにしても、この案件はやはり素晴らしい」



食い入るように彼女らの戦い姿に見入る男性の瞳には狂気と紙一重の子供っぽい好奇心に満ちていた。



「私の研究に役立つ興味深い素材が揃っている上に、生きて動いている『プロジェクトF』の残滓である者たちを手に入れるチャンスに恵まれたのだから」



ギラギラと輝く欲望に満ちた瞳。

その瞳の矛先はフェイトと、そしてエリオに向けられていた。



「そして……」



彼はモニターを操作し、あの場にいた最後の人物を映像に出す。

モニターに移っていたウーノの表情が僅かに歪んだ。



「彼とも決着をつけられる。これほど嬉しい事はないよ。ふ、ふふ……ははははははは!!!」



感情を殺した瞳でモニター越しにこちらを見据えるシチセイの姿を見つめながら男性は純粋に、ただ楽しそうに笑う。



「この案件が終わったその時、立っているのは『賢者』である君か、はたまた『愚者』である私か! さぁ始めよう。私の生涯を賭けた勝負を!!!」



彼と横並びになるようにモニターが一つ立ち上がり、さらにユーノが映し出される。

前もって手に入れていた情報とは異なる、予想外の戦闘力を見せた人物。

ドクター、超広域指名手配の次元犯罪者である『ジェイル・スカリエッティ』は己の娘たちの中で最も強い『トーレ』と戦略面で一、二を争う『ドゥーエ』のチームを退けた彼に並々ならぬ興味を抱いているのだ。

そして同時にこう考えていた。



「(私を阻む最も厄介な敵は『彼ら』のような人物なのだろう)」



武力ではなく己の知略を持って戦う人物。

勿論、戦闘になれば武力は戦局を分ける非常に重要なファクターだが、それすらも覆すほどの智謀を備えた者は戦いの要が『情報戦』にある事を知っている。

そしてユーノとシチセイはそれを良く知っていると彼は考えていた。



今回の戦いで当初、想定した四割程度しか彼女らの戦闘能力を測れなかった事がそれを示しているのだから。



「まさか試作品とはいえ『クアットロ』のISを備え、センサー類を無効化した情報収集用の機体を潰されるとは思わなかったよ」



ユーノとシチセイの姿を交互に見つめながら、彼は声を上げて笑った。



「ふふふ、ハハハハハハハハハハハッ!!!!」



その声は薄暗い空間に響き渡る。

まるでこれから巻き起こる短くも、怒涛の日々の幕開けを告げるように。

物語はまだ始まったばかり。







あとがき

約一ヶ月半ぶりほどになります。

紅(あか)です。



さて今回のお話は原作準拠のロングアーチ及びシチセイ視点で話を進めましたがいかがでしたでしょうか?

原作にシチセイを混ぜた事により、少し変更されたこの展開を気に入っていただければ幸いです。

あとデバイス勢のセリフですが今後、固定文言(セットアップ時など)は英語表記。

会話文や魔法の名前は日本語表記で行おうと思います。



さて次のお話は原作六話と『サウンドステージ1』準拠になります。

二話、あるいは三話程度またいで地球の話をしたいと思います。

当然のように原作と異なる展開を予定しており、ユーノにも出番を用意しています。

期待していただければと思います。

それではまた次の機会にお会いしましょう。





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