「だめ、おにいちゃん……そんなところ汚い……」 戸惑いが細波となって空気を揺らし、熱っぽい眼差しがクロノを見据えた。 肉付きの薄い白い肩が、押し殺した息遣いにか細く震える。 金髪の隙間からのぞく朱色のうなじ。 薄っすらと濡れた肌は光を弾き、わななく皮膚の瑞々しさに、クロノは硬く凝固した咽喉から滑らせた。 「フェイト……」 ソファーの上に身を横たえた無防備な少女――フェイトは、その声に小さく身じろぎした。 フェイトが身にまとっているのは、今にも細い肩がむき出しになるような白いワンピース。 ようやく第二次性徴を迎えたばかりの、まだ青い曲線のラインを浮き彫りにするように、薄い布地が汗ばんだ身体に貼りついている。 スカートの丈は短く、太腿のほとんどが露出していた。 異性との接触がほとんどなかったフェイトの、罪のない無自覚さに、クロノは目眩にも似た感情を覚えた。 ギシリと、ソファーのスプリングが軋んだ。 「……大丈夫だ。さっきシャワーを浴びたばかりだろ?」 「うん……でも………」 「それにだ」 フェイトの言葉を遮るように、クロノはそっと手を伸ばす。 壊れ物を扱うように、そっと――そっと―――。 内心の、ドッと噴き出す大量の汗を隠すように、そっと―――。 「フェイトのは……その、だ。汚くなんか、ない」 「あっ……。う、うん。ありがとう、おにいちゃん……」 戸惑いと、歓喜の混じった声だった。 頬を朱色に染めたフェイトは、紅玉のような瞳を細めて照れたように首をすくめた。 瞬間、どくんとクロノの中でソレは脈打った。 どくん、どくんと、自分でも抑えきれない野太い音は、クロノの心臓が熱くなった血液を全身に巡らせる音だった。 ――この感覚は、なんだ!? 下腹部から螺旋となってせり上がってくる未知の感覚に、クロノは怯えるように自問した。 答は出てこなかった。 いや、違う。 答は最初からわかっていた。ただ、それを認めるのが怖いだけなのだ。 ――臆病者め。 若干、十四歳で時空管理局の執務官にまで登った少年は、自分に向かって侮蔑するような冷やかな声を投げつけた。 どのような現場であっても、クロノは一度たりとも怯えたことなどなかった。 プレシア・テスタロッサの前に立ちはだかった時に、暴走した闇の書の防御プログラムの前に立った時すらも。 厳格で鋼のような精神力をもった執務官の姿は、しかし今はそこにはなかった。 同時に、それは十四歳の少年の姿でもなかった。 「……じゃあ、始めるよ」 「うん……。けど、あの……いたくしないでね?」 「大丈夫だ」 いいながら、クロノは指先でフェイトのそこに触れた。 途端にぴくんと、フェイトの細い肩が跳ね上がる。 産毛すらまばらなフェイトのソコは柔らかく、クロノの期待通りに濡れていた。 そしてきらきらと蜜のように濡れ光る肉の中心には、小指よりも細く狭い孔がクロノを待っていた。 「こんなにも濡れている」 からからに渇いた喉で、クロノは言った。 まるで言葉にすることが、自らの使命であるかのように。 「そ、それはシャワーを浴びたばかりだから―――」 恥らうようにいいわけをするフェイトが、クロノの鼓動を激しく加速させる。 それは不快な感覚ではなかった。 不快ではないが――自己嫌悪を自覚せずにはいられなかった。 何故ならこの時、クロノはフェイトの困った顔をもっと見てみたいと思ったのだから……。 限界だった。 クロノは震える指先でソレを取り出した。 何気ない仕草で、普段となんら変わらない動作――の、つもりでありながら、その動きは滑稽なほどぎこちない。 焦る必要もない焦りが指を硬くし、額から汗を噴き出させる。 ――こんなことで、上手くできるのか? 失敗してしまった時の、不様な自分の姿にクロノは震えた。 或いは、引き返すなら今なのかもしれない。 正直に話せばいい。自分は、今まで誰かにこんなことをした経験はない。そしてそれは十四歳という年齢を考えれば、それほど不思議な話ではない……。 「おにいちゃん……」 と、不意にフェイトの左手が、おずおずとクロノの指先に触れた。 「優しく……して………」 フェイトは言った。 微笑んだ瞳に奥に、ほんの一握りの不安を精一杯隠しながら―――。 フェイトは――しかしそれでも、クロノを信頼していた。 疑わず、真っ直ぐなその心で、義兄の手に自分自身を委ねようとしてくれているのだ。 それは一体、どれほどの勇気が必要なのであろうか? 家族の温もりを知らずに育ったフェイト――フェイト・テスタロッサ。 その温もりを与えることでフェイトが、フェイト・T・ハラオウンであることを感じられるというのなら、何を躊躇う必要があるだろうか? 自分は――クロノ・ハラオウンは、彼女の『 「っ―――」 意識した瞬間、目眩にもにた情感が全身を貫いた。 夢だろうかと、クロノは疑った。 夢というならそれでも構わない。 例え夢の中であったとしても、フェイトに少しでも幸せを分け与えることができるなら、これはきっと『義兄』の務めだ。 少なくともコレは二人にとって、悪夢ではないのだから……。 クロノはカメの頭のように括れたソレを、フェイトの孔にあてがった。 「んっ……」 先端を押し込まれ、甘い吐息がフェイトのからこぼれた。 苦痛に耐える声ではない。 もっと違う種類の――滴る蜜がこぼれるような、悦びの声―――。 「ん……はぁ………」 押し込まれた先端が、肉壁に当ってぬるりと滑る。 奥へ――もっと奥へ―――。 煽動するような黒い感情を押さえ込み、クロノはゆっくりと先を掻き分け―――。 コツンと、何かにぶつかった。 「ひぅ――」 瞬間、フェイトの身体が強張った。 「フェイト!?」 ――まさか、もう クロノは蒼ざめた。 まだ、そんなに奥にまで突き入れたつもりではなかった。 だが、クロノとてその部分の構造を全て理解しているわけではない。 人体の急所――打撃術や関節の切り方は骨の髄まで叩き込まれているが、ソレ以外に関しては無知も等しい。 だから――だから、周辺だけで済ますつもりだったのだ。 膜を傷つけたり、ましてや破ったりするような行為だけは、当たり前だが赦されるものではない。 それなのに―――。 「だ…いじょうぶ……おにいちゃん……。わたしなら大丈夫だよ……」 「フェイト……?」 「ごめん、おにいちゃん。ちょっとびっくりしちゃっただけだから……」 その声に、クロノの頭から急激に熱が引いてゆく。 狂ったように暴れていた心臓が納まり、秩序正しい定期的なリズムを取り戻す。 冷めたのではなく、醒めたのだろう。 もしくは、思い出したのか―――。 今、自分の下になって無防備な肢体を横たえているのは、大切な義妹なのだと。 「……続けるぞ、フェイト」 ぶっきらぼうに言い放つ。 「うん……おにいちゃん………ふあっ…」 ゆっくりと、窪んだ孔の淵を撫でるように円を描くと、フェイトの鼻が甘く鳴った。 切なげに眉間の間にしわを寄せて、長い睫毛が震えるようにきゅっと揺れる。 と、そんなフェイトの頬を、クロノは静かに手の甲でそっと撫でた。 「んっ……」 フェイトの背がわずかに弓そり、眉を寄せていた面持ちが安堵に浸る。 「おにいちゃん……」 硬くなっていた身体から力が抜ける。 クロノは繊細な結合部分の感触を縁取りながら、慎重に先へと進む。 「おにいちゃん……おにいちゃん………!」 細い肉穴を掻き分けるのではなく、そっと愛撫するように―――。 増してゆく愛しさを伝えるように―――。 ツインテールの金髪がはたりソファーからこぼれ、クロノは夢見心地なフェイトを眺めて優しい笑みを口元に浮かべた。 ………。 ………………。 ………………………。 「よし。右の耳が終わった。次は左耳を出して」 クロノはフェイトの耳からめん棒を取り出した。 「うん。ありがとうおにいちゃん」 「どうってことはない。それよりも本当に、鼓膜は大丈夫なのか?」 「大丈夫だよ。おにいちゃん、少し心配性?」 クスリとフェイトは笑う。 「そんなことはないと思うのだが……。しかし、なるほど。お風呂上りは確かに耳掃除をしやすい」 「うん。リニスがよくしてくれたの。お風呂上りは耳が湿ってよく濡れているから、掃除がしやすくなるんですよ、って」 「そうか」 「でもね……」 と、不意にフェイトの顔が曇った。 「なんだかおにいちゃんに耳掃除をしてもらっている時、どこからか荒い鼻息聴こえたような気がするの……」 「まさか。僕には何も聴こえなかったが。それに耳掃除を見て鼻息を荒くするような人間が居るわけがない。居るならそれは、変態だ」 「うん。そうだよね。それじゃあ――はい」 フェイトはゴロンと身体を回し、左の耳をクロノに差し出した。 「これが終わったら、次はわたしがおにいちゃんの耳を掃除するね」 「や、そ、それはなんていうか……」 「嫌? おにいちゃん?」 「………わかった。楽しみにしている」 クロノは首から上を赤くして、義妹の提案を受け入れた。 |