突如現れた大量のガジェット、不審者の侵入、「攻撃力が最大になる」という結界。その全てが地上本部を着々と壊滅へ追い込んでいた。
「非常にまずい状況やね・・・。」
八神はやては険しい表情でそうつぶやいた。本来ならこういう大多数のガジェット相手ならば自分も相手をすべきなのだ。少し前の市街地での戦いでそうであったように。しかし、今はそれができないでいた。はやての広域魔法は大変制御が難しい。4年前の空港火災でも味方を巻き込んでしまったように周囲にも影響を及ぼしてしまうことが多い。リインとのユニゾンやロングアーチとの連携によって、まともに制御できるのだ。だが、今この結界内では攻撃力は全て無限大となってしまう。そうなるとリインがいても制御できるかどうかは未知数だ。はっきり言って抑え切れる自信がない。そんなものをこの地上本部のすぐそばで、ましてや、味方が多数いるこの状況では下手には撃てない。撃てば巻き込む可能性が高い。何とかしたいが何もできない、そんなジレンマを抱えながらもはやては周りに指示を出していた。
現在、状況はこちらが圧倒的に不利だ。味方にデバイスが壊れて攻撃不能になる者、ガジェットにやられた者などが続出して被害は拡大する一方だ。六課メンバーはまだ踏ん張ってくれているが非常にまずい状況だ。はやては現状をあらためて把握するためにまずは内部のギンガに連絡を取った。今ギンガとスバルは中の不審者の追跡の助っ人に行っている。
「こちらロングアーチ0、八神はやて、ギンガ中の状況は?」
「こちらギンガ、えっと、現在私とスバルは・・・・・・です。」
「え・・・?」
その報告をはやては一瞬理解できなかった。


魔法少女リリカルなのは The Ending Chronicle 第2話「無限の戦い」


その少し前、スバルとギンガは侵入者を追って地下へと降りていった。そして、地下の広場のような場所に出たところで、
「ティア?」
なぜか外でガジェットと戦闘中のはずのティアナと遭遇した。
「ティア?こんなところで何してるの?外は?」とスバルはティアナに問いかけた。だが、ティアナは質問に答えずに
「後ろ、敵よ!!」とティアナは驚いたスバルとギンガが振り返って構える間にヴァリアブルシュートを放った。
クロスミラージュが破損するのも構わずに、こんなところで撃てば本部に甚大なダメージを与える可能性があるにも関わらずに、ティアナはそれを放った。

スバルに対して、それを放った―――。


はやてはギンガの報告を数回脳内で再生していた。その内容がとても信じられるものではなかったからである。
「現在・・・ティアナと交戦中・・・?」

その言葉通り、地上本部地下広場では戦いが繰り広げられていた。といっても一方的な戦いではあったが。
「攻撃してこないの?つまらないわね!」
と言いながらどんどんクロスファイアーシュート(CFS)を放っているのはティアナである。すでにクロスミラージュは最初のヴァリアブルシュートで破損し、使用不能状態となり、その辺に捨てられている。だが彼女はそれに構う気配すら見せず、そのままデバイスなしで撃てるCFSを放ってくる。
「ほらほら、当たったら即死よ!」
ティアナは楽しむ様子を見せながらこちらを攻撃してくる。ティアナに対して、スバルとギンガはひたすら逃げ回っていた。なにしろこの結界内で無限大の威力になった攻撃をガードするという馬鹿な行為などできない。ガードしても100%破られ、自身も重傷、下手すれば死んでしまう。だからウイングロードと各々のキャリバーを駆使して必死に逃げるしかなかった。もちろんティアナに対する攻撃など即決で却下だ。やればティアナがただでは済まない。そんな2人の葛藤など素知らぬ顔で、ティアナは攻撃を続行する。
「さあ、逃げてばっかりじゃどうにもならないわよ!攻撃してきたらどう?」
スバルは光球をギリギリでかわす。
「ティアやめて!一体どうしちゃったの?」
「どうもこうもないわよ、見てのとおりよ!」
言いながらまたCFSを放ってくる。ギンガもこれをどうにかかわす。
「ティアナ、理由を説明して!何か理由があるんでしょ!?誰かに脅されているとか。」
「そんなものないわよ!ただやりたいからやるのよ!」
スバルとギンガは何とかノーダメージではあったが代わりに地上本部はCFSの流れ弾により、さらに被害を拡大させていた。これ以上戦闘を長引かせるわけにはいかない。早く何とかしなければ・・・と2人の焦りが頂点に達した、まさにその時
『2人とも聞こえる?』と誰かが念話で話しかけてきた。ギンガはすぐに答えた。なぜならその相手とは
『ティアナ・・・?』
今戦っているティアナであったからだ。
『ティア、一体どうしたの?』と、スバルは迷うことなく問いかけた。今自分たちに話しかけているのは間違いなくいつものティアナだという確信に近いものを持ってそう問いかけた。
『それが、さっき突然体の言うことが全くきかなくなって、どうしたのかと思ってたら体が勝手に動き出したの。なんか誰かに操られてるみたいで。』
『操られてる!?』
『というよりも誰かに支配されてるって感じね。私にはどうしようもないの。さっきから何とか体の自由を取り返そうとしてるんだけど、全然ダメ。それで、そいつが私の体を使って地上本部を内部から破壊していってるの。それで、地下に降りたら』
『私たちと遭遇したということね?』
『はい。』
ギンガはその言葉に納得していた。確かに、今のティアナは
「あっははははは。楽しいわね!」
戦闘中に笑顔を浮かべてさえいる。これは明らかにいつものティアナではない。亡くなった兄の想いを受け継いで戦うティアナの姿ではない。
『なら、なんとかしないと。でも一体どうしたらいいの・・・?』
ギンガは考え込んだ。CFSがさらに迫り、これをなんとかかわす。
このままでは自分たちがやられるか、ティアナを倒すかのどちらかしかなくなってしまう。だが、この結界内ではそれは死を意味するも同然だ。ならどうすれば・・・とギンガが厳しい表情で考えながら光球を必死でかわしていると
『私のことはいいわ、とりあえず2人ともここから逃げて!このままじゃ2人ともやられちゃうわよ!』
ティアナはそう告げた。確かにここは1度撤退して何か策を講じるしかないとギンガも思った。しかし、
『でもティアをこのままにしていくなんてイヤだ!』
スバルは反論した。
『そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!』
『でも、』
『逃げなさいって言ってるのよ!』
『イヤだ!』
『今はどうしようもないのよ!?なんでそれがわからないの!』
『イヤだ!!』
スバルが首を振り、拒否する。パートナーへの想いがそうさせるのだろう。だが、
「スバル!!」
ギンガの声でスバルはようやく自分が戦闘中にもかかわらず念話に夢中になりすぎていたことに気づいた。今自分のすぐ目の前にはティアナが不敵な笑みを浮かべて立っている。手を伸ばせば届く距離だ。
「戦闘中に余裕ね。敵を忘れるなんて。」
「あ・・・」
スバルは気づいた。今撃たれたら絶対に回避不可能であるということに。またスバルは1つだけ自分が助かる手段があることにも気づいていた。だが、それは実行不可能なこともすぐにわかった。なぜならそれは「撃たれる前にティアナを倒すこと」なのだから―――。スバルは自分にはそれは絶対にできない、そう迷っていると、
「じゃあ」
ティアナのCFSが目の前の標的、すなわちスバルに向けて、
『スバル!!!』ティアナが念話で叫び、自分をなんとか止めようとする。
「スバル!!!」ギンガも叫び、妹をなんとか助けようと思い近づく。
しかし
「さよならね。」ティアナのこれ以上ないまでに冷酷な声と共に
「!!!!!」
放たれた。
そして、それは無限大の威力を伴って



スバルに直撃した。

「『スバル!!!!』」
2人の叫びが地下広場に響き渡った。


CFSが命中したことで爆発が起きていた。ギンガはそれを愕然とした表情で見ることしかできなかった。ティアナはまだ笑みを浮かべている。

やがて煙が晴れてきた。そこにあるのはどんな姿になったスバルだろうかとティアナは楽しみに眺めていた。すると光が見えてきた。それは水色の魔力光を伴った魔法陣だった。どうやら命中する前に反射的に出したプロテクションのようだ。無意味だったろうに・・・いや、ちょっと待て。なぜそれが今も強く輝いている?なぜスバルの魔法が今も発動中なのだ?最大の攻撃力を持つこの結界内で直撃して無事でいられるわけがない。即死のはずだ。よくて、重傷だ。今もプロテクションを出し続けられるわけがない。
だが、煙が晴れた今確かにプロテクションを発動中のスバルの姿がそこにはあった。CFSが命中した様子は全く感じ取れない。
「な、なんで・・・?」スバル自身信じられないといった顔をしている。
「ありえない・・・、どうして?」それはティアナも同様だ。
だが目の前にある事実から得られる結論はただ1つだけ、それは
「スバルはプロテクションで全てガードした」しか有り得なかった。
時が止まったかのように固まる2人。だが時間は常に動き続ける。今この瞬間も。時が止まったかのようなこの空間でただ1つだけ動く風があった。それは紫色を伴った風、ギンガであった。彼女はスバルがガードしたという事実に驚き、一瞬彼女も動きを止めていたが、気づいてすぐに動き出したのだ。今彼女はある可能性に望みを託し、賭けに出ていた。今あのやっかいな結界が何らかの理由で効力を失っているという可能性に賭けて、ティアナに対して一直線に向かう。ティアナがやや遅れてそれに気づき、構える。
だが、「ティアナ、ごめん!」
ギンガが自らの左腕の一撃を叩き込む方が早かった。
「あうっ!」
結界が発動中ならばティアナの体は完全に破壊されているはずの一撃だった。だが、ギンガの攻撃は彼女を気絶させるだけに留めていた。
「よかった、やっぱり発動してなかった・・・。」
ギンガはほっとした表情でそうつぶやいた。

「ギン姉、ティアは大丈夫なの!?」
「大丈夫よ、気絶しただけよ。」
2人はティアナの介抱に当たっていた。
「そう、良かった・・・。」
「安心するのはまだ早いわ。目覚めたらまた攻撃してくる可能性もあるから。誰かに支配されてる感じだってティアナは言ったわよね。そっちはまだ解決してないわよ。」
「あ、うん、わかった。・・・ねえ、そういえば私あの時何であれをガードできたんだろ?」
『結界が解かれていたからでしょう。』
とギンガよりも先にマッハキャリバーがスバルに答えた。
「そうなの、相棒?」
『はい、今結界らしき物は確認できません。あの時の彼女の攻撃は威力が低いものでした。おそらく最大になるからと高を括って適当に放った攻撃だったのでしょう。』
「たぶんそうでしょうね。とりあえずスバル、ティアナとクロスミラージュをお願いできる?安全な場所に運んで、それから八神部隊長に報告して、次の指示を仰ぎましょう。」
「うん、わかった。」

準備を終え再び動き出した2人だったが、1つだけ疑問が残っていた。それは
「「(何で急に結界が解かれたんだろう・・・?)」」


時は少し前に戻る。まだスバルとギンガがティアナと交戦中だった時―――

地上本部から少し離れた上空に2つの影があった。
「お前は何者だ?」
そう誰かに問いかけているのは機動六課ライトニング分隊副隊長、烈火の将シグナムである。少し前に離れた場所にいるアンノウンを偵察部隊が発見し、それを受けた警備部隊の数名が向かっていった。だが間もなく味方の反応が途絶えたと報告が入った。それを聞いたはやてはシグナムにそこへ向かうように指示を出した。そして彼女は今アンノウンと対峙している。背丈はシグナムとほぼ同じ、セミロングの髪、険しい目つきをした女性だ。
「私はシェリル。『ストライクフォース』をその身に宿した戦闘機人。主の願いを叶えるために働く戦闘機人。」
「ストライクフォース?この結界のことか?」
「その通りだと答えておきましょう。」
「では主とは何者だ?」
「答える理由はありません。敵に情報を与えるのはあまりよくありません。それに今から死ぬ人に何を語ろうと意味はありません。」
「ほう・・・、随分な自信だな。ならば試してみるか。私は先ほどの魔導師とは違って甘くはないぞ。」
「確かにあなたは強いでしょう。だから私も武器を使わせてもらいます。」
そう言ってシェリルは剣を取り出した。どこも変わったところが見られない、ごくごく普通の剣だ。威圧感などは何もない。むしろ弱そうな雰囲気さえシグナムには感じられた。
「そんな物で私のレヴァンティンを止められるとでも思っているのか?」
「これの名は無幻。攻撃力はほぼ皆無でよく折れる実に弱い武器です。普通ならあなたの剣は止められないでしょう。しかし、この結界内ならば話は別です。」
「なるほど、そういうことか。それもレヴァンティンもここでの攻撃力は等しく最大ということか。」
納得して笑みを浮かべるシグナム。剣士としての血が騒ぐのだろう。だが、シェリルは淡々と言葉を続ける。
「そして、この剣は弱いが故に無限の再生能力を有しています。」
「何・・・?」
シグナムはその意味をすぐに察した。それは無限大の攻撃力がシェリル自身を止めない限り無限に襲ってくるということを・・・!
シグナムが額に冷や汗を浮かべると同時に
「それでは始めましょう。」
「!!!」
シェリルがシグナムへ向かっていった。


続く


あとがき
本当はもう少し先まで進める予定だったのですが今回はここで終わりとしました。終わクロの概念や武器をほぼそのまま使用しております。ティアナはこういう役割になってしまいましたが。ギンガさんも野球ではあれなのにこっちでは頑張ってます。次回はシグナムさんの激闘?を書こうかと。あとそろそろ司書長も新オリキャラも登場予定です。もし期待していただける方がいたら楽しみにしていて下さい。あ、間違っても佐山とかは出ませんよ。
ああ、それにしても僕の文章下手だなあ・・・。





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