最初はもしもシリーズのつもりで投稿していたのですが、
 話が予想以上に長く、もしもは基本的に読みきりで終わらせるのがポリシーなので
 タイトル変えて改めて中編としてお送りします。意味はドイツ語で『灰は灰に』です。




 それは純粋な想いでした……
 そして、私は初めて思いました……
 こんなはずじゃなかった、と……


 Asche zur Asche


 Case File.1『MYCLOUD』


 バーチャルなインターフェイス越しの日常で……
 大切なモノがオモチャのように壊れてくよ……
 救いの手をただ待ち続けて……
 跪いたまま、消えちまうぐらいなら……


『ガジェットドローン確認! 総数36機!』
「フォーメーションを組んでいつも通りにお願い。私もすぐに急行します」
『了解!』

 今日もまた夜の街に脅威が迫る。
 意思を持たず、ただ与えられた命令に従う無機質な脅威の名は《ガジェットドローン》。
 何者が放ったのかはまだ解らない……今の自分たちに出来るのは、可能な限り捕縛してデータを解析し、出所を探る事ぐらいであった。
 訓練の甲斐があって、新人四人もようやくまともに戦えるようになって来た事で、作戦の展開も幾分楽になっては来ている。無論それだけでなく。ひいては、無限書庫の情報もあっての事だ。
 このまま行けば、はやて達ロングアーチの面々がレリックの方をあぶり出してくれるまで時間の問題だろう。
 そう、全てが順調に進んでいる。しかし、そう思っていても現実は思わぬところで揺り返しを生み出し、波を元に戻してしまう物だ。彼女達機動六課の面々とて、最高のエースとて一人の人間である。
 彼等のように無機質であることなど出来はしない……

 総勢12機のガジェットドローンがスターズ部隊の四人に迫る。
 フロントに出たスバルとヴィータが物理攻撃でガジェットドローンをけん制あるいは遊撃し、ティアナとなのはが遠距離からの狙撃で仕留める。敵の数が半数まで減り、戦闘の流れをつかんだと誰もが確信した時、それは起こった。

 がちゃっ! ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっ!

 無気味な異音が戦闘空間に響く。それは、アスファルトの道路に歪な金属がこすれる音だった。ブーツに取り付けられたスパー(拍車)が火花を散らす。その音の主を確認するや、状況の不自然さに唖然としていた。
 彼女等の元に歩み寄る人物……、普通よりも若干短めに切られた杏色の髪が闇夜には目立つ。
 翡翠色の眼は何処か虚ろで、そして隠す事が困難なほどの敵意をむき出しにしている。
 ボロボロに擦り切れたジーンズの腰から垂らしたチェーンが歩くたびにジャリジャリと敵を威嚇するように鳴っている。
 首に弾丸を模したシルバーのペンダントを下げ、赤黒いレザージャケットが攻撃性を更に増しているように見えた。
 いつも着けている眼鏡は、ジャケットのポケットからフレームが見えるだけで、久々に見る裸眼の顔は新鮮だった。
「オイ……あれって」
「ユーノ君?」
 かろうじて解ったのは曲がりなりにも10年の付き合いがあったからだが、最後に会ったのは数ヶ月前。
 その時は昔と変わらない柔和で優しげな青年だったはずだ……。
 何がどうなればここまで激変した空気を放つようになるのか? なのはにはそれが解らないでいた……
 そんな彼女等の事情など知らんと言わんばかりにガジェットドローンがユーノに向かっていく。
 拙い、と誰もが思った。ユーノは結界魔法と捕縛魔法しか行使出来ないはずだ。
「ユーノ君! 危ないっ!」
 なのはがとっさに飛び込もうとしたその時、誰もがこの直後の光景に眼を疑う。

 どがっ!

 ユーノはGD(ガジェットドローン)を力任せに蹴り飛ばし、ビルの外壁に貼り付けて足に力を込めていく。

 ミシミシ……べきっばきゃっ!

 まるで段ボール箱を潰すように、GDの装甲はひしゃげて大穴がこじ開けられ活動を停止する……
 更に襲い来るGDをユーノは力任せに蹴たぐっていく。敵は物理攻撃も射撃魔法も遮断する障壁を持っているにも関わらず、ユーノはそれを意にも介さずに次々とGDを粉砕していく。
「つまらないよ……。それとも僕をバカにしているのかな? 君たちはどう思う?」
 ユーノは感情のこもらない空虚な声で4人に尋ねる。無論、答えなど返ってこないし返せないのは、ユーノ自身分かり切っているだろう。
 硬直した空気の中、スバルがユーノの背後を見て顔色を変える。だが、彼女が反応するよりも早く、ユーノは気配を消してゆっくりと接近していたGDを左フックで殴り飛ばしていた。
 一瞬、ユーノの拳に緑色の光が見えた。それは纏われた魔力の光だった。
「結界の事なんか百も承知だよこっちは。同質の結界をぶつけて相殺すれば、こんなのただのスクラップだ」
 だが、それだけで終わりではなかった。別の場所にひきつけていた残りのGDがユーノの元へと集まってきたのだ。
「こいつのテストにはちょうどいい……」
 ユーノが首から下げていた銀の弾丸が魔力を与えられて形を変えていく。無骨なフォルムを持ったL字型の筒。
 そいつは、地球で言うオートマチック拳銃だ。しかも、ティアナのように単発で弾丸を込めたり、アンカーを射出できるような多機能の物ではない。グリップの下部から装弾数20発のマガジンを装填し、ただ純粋に標的を文字通りに射殺するために作られている代物だ。地球での呼称は『ベレッタM93R』、機関拳銃とも呼ばれるセミオートと3点バースト射撃の両方を可能とする珍しいタイプの銃器であった。
「行くぞ。《ホワイトナイト》」
『Ja.Mein slinger!』
 ユーノが手にしている拳銃が答える。どうやら応答からしてベルカ式のカートリッジを搭載している《アームドデバイス》のようだ。確かにある意味銃と言うのはシステムが攻撃に最も直結している武器であるかも知れない。
 淡い緑色の光、本来ならば人の心を癒すその色が、今、破壊の力として振りかざされる……
 通常の自動拳銃とは明らかに違う派手な炸裂音とマズルフラッシュが視界を焼き払いながら、カートリッジに込められた魔力によって増幅された弾丸が、GDを3点バースト射撃の餌食にせんと高速かつ一直線に飛ぶ。
 ずどん! ずどん! と重火器で砲撃でもしているのではないかと思える発射音とGDのレーザー射撃、そして弾丸が命中したGDが無残にも爆散していく狂気の三重奏。ユーノはこの場においてマエストロであった。
 爆炎が闇夜を紅く染める中で、ユーノの唇が微妙につり上がったように見える。それは新しい玩具をもらった子供のように無邪気で……、積み重ねた努力が成就した達成感に満ち足りて見えた……。

「なのは! 何があったの!?」
 フェイトをはじめとするライトニング部隊の面子もこちらに集まって来たようだ。
 なのはは無言でユーノへと目線を向けた。残ったガジェットドローンの残骸から色々と部品をかき集めている。
「ユーノ。どうしてここに?」
「こいつの部品を回収しに来ただけだよ。回されて来る分だけじゃ解析に足りないものがあったからね」
 フェイトには目も合わせずに返答する。口調も態度も何処か無愛想でつっけんどんだ。
「あの、ユーノ君……怪我は無い?」
「僕ごときよりもさ、愛しのフェイトを心配したら? どうせ、今夜も同じベッドで抱き合って寝るんだろ?」
 部品を回収し終わったユーノはすれ違いざまに、なのはを冷めた目で見返しながら言う。
 痛烈な嫌味と皮肉……、なのはは、いまここにいるのが本当にあのユーノなのかと本気で疑った。
 ふと、なのははアスファルトの上に落ちたものを見つける。いつもユーノがかけている眼鏡だ。
「ユーノ君待って。これ、落としたよ」
 なのはから手渡された眼鏡と彼女の顔を交互に見る。そしてユーノは……

 からん……ぱきぃんっ……! じゃりっ、がりっ、べきっ!

 再び地面に落とし、粉々に踏み砕いた……。
「え……」
 余りにも彼らしくない行動に、なのはは驚きを隠せず、傍線とユーノを見る。
「こんな物、もう僕には必要ない……。じゃあ、調べたデータは数日中に送るから」
 冷ややかな言葉を残して、ユーノは転移する。
 初めて会った時のクロノなんかとは違う、冷酷、あるいは冷淡と言うべきだった。

 誰一人として、まともに反応できなかった……
 なのはは一人、砕かれた眼鏡の欠片を拾い集め始める。
「最近、よく見えなくなってて。眼が疲れるみたいなんだ」
 思い返せば、ユーノの12歳の誕生日にみんなで代金を出しあって買ったものだ。
 あの頃はあんなに喜んでいたのに、それを何の躊躇いもなく自分の手で壊した……
「なんで……どうして……? なにがあったの……ユーノくん……」
 その問いに答えられる者は誰もいなかった……。


 続く



 あとがき
 投稿しようと思ってたのは別の短編SSだったのですが、
 いきなりネタが思いついてしまったので大急ぎで書いてみました。
 別タイトル『地獄青年やさぐれユーノ』です。
 ユーノきゅんが本編でおもいっきし存在を抹消されてる状態なので
 それこそ聖痕さんとこの、ユノなの長編が一部再現されてしまった勢いです
 それを逆手にとって拙者お得意のあのネタで上げてみました。
 ちなみに、これユーノ×なのはのハッピーエンドで終わらす気はありません。
 だからと言ってなのフェイの背徳エンドでもありません。
 どんなエンドかは次回のお楽しみです。それではまた





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