初めて好きになった人には、もう好きな人がいました…… 好きな人が好きな人は、私にとって無二の親友でした…… Asche zur Asche Case File.3『オモイデハオクセンマン』 ただあの頃を振り返る…… 無邪気に笑えた汚れも知らないままに…… でも今じゃそんな事も忘れて…… 何かから逃げるように 毎日生きてる…… 「はぁ……」 フェイトは自分の執務室で盛大なため息を付いた。原因は他でもない、ユーノの事だ。 ユーノは完全に自分となのはが同性愛者で、互いに愛し合っていると思ってしまっている…… きっと、自分がユーノの相談に乗っていた事も、心の中で嘲笑って楽しんでいたように感じているはずだ。 「違うんだよ……ユーノ」 そう、違う。決して自分は同性愛者ではないし、好きな相手は他にいるのだ。 でも、その想いを伝えてしまう訳には行かなかった。それが自分の中では最も卑劣な裏切りだったから…… 襲い来るのは感情を持たない鉄の悪魔。 ただただ、インプットされた指令をこなすためだけに動く彼等を見てフェイトはふと思う。 人間は機械のようにはなれない。様々な物事を他人と共に喜び、笑い、泣く事が出来る。そこには希望や未来があるだろう。しかし同時に、怒り、憎み、怨み、嘆き、蔑み、裏切り、その先には絶望が待っている。 絶望の底に突き落とされた人間と、何も感じる事の無い機械では、果たしてどちらが幸福なのだろうか? 「リボルバーシュートッ!」 「ライトニングブレイバーッ!」 前衛2人の一撃がGJ(ガジェット・ドローン)を貫き、砕く。 「バリアブルシュートッ!」 「ブラストフレアーッ!」 それに乗じて後衛2人が遠距離にいるGJを射抜き、吹き飛ばす。 敵の狙いは輸送中のレリックだが、街中で仕掛けてくると言うのは予想外であった。 結界魔法を貼れば敵を空間に閉じ込めておくのは容易いが、外部から大量に増援が送り込まれてくることを考えれば、相当な広範囲に結界を展開しなければならず、それに比例して結界を安定させる為に必要な魔力は増えてくる。 そうなれば周囲の被害を全くのゼロにする事は非常に困難だ。故に周辺の住民にはシェルターへの避難誘導を、別部隊が行ってくれているが、犠牲者が出る事を覚悟しなければならない これまでに遭遇したことの無い、一つのミスが人命に関わる可能性を孕んだ事態に直面している新人4人にかかるプレッシャーはこれまでの比ではなかった。 なのは、フェイト、シグナム、ヴィータは結界の外で増援を相手に戦っている。 しかし、フェイトだけはどこか上の空で、シグナムが声をかけても返答する反応が遅く、心ここに在らずだった……。 そんな彼女の些細な変化に気付けたのは心の奥底まで互いによく知ったシグナムだからと言うのもある。 『テスタロッサ……、ユーノが気にかかるのは解る。だが、お前が負傷してしまっては元も子もない』 シグナムは周囲に悟られないように念話の回線を脳に繋ぎ、フェイトを諭す。 『ごめんね、こんな頼りない隊長で……』 『案ずるな。エース・オブ・エースと言えど、一人の女だ。それにもっと私を頼って使え。戦闘ぐらいなら幾らでも力になってやるんだ。なんでも自分一人で背負うな』 「キリが無いわね!」 ティアナはわらわらと蟲のように際限なく出現し続けるGJに、銃撃を浴びせながら愚痴を吐き散らす。 山吹色の魔力によって徹甲弾(バリアブルシュート)が生成されるが、魔力自体は有限であり、限界に近づけば弾切れ同然なのだ。魔法だろうが、実弾だろうが、拳銃と言う武器は『弾丸』が無ければその攻撃力を維持する事が出来ない。長期戦、持久戦に持ち込まれれば、銃器と言う物は近接武器よりも顕著に脆さを露呈してしまう。 キャロの補助魔法でサポートを受けられるが、それでもリミットを先延ばしにできるくらいである。 眼前ではスバルとエリオがGJを迎撃しているが、彼等も彼等でスタミナと魔力が切れ掛かっているのが動きで容易に見て取れた。特に体が完成していないエリオの方はこれ以上の戦闘を強いるのは危険だ。 『エリオ! あんたはもういい! 下がんなさい!』 脳に念話の回線を繋いでエリオに呼びかける。 『でも、そうしたらスバルさんが一人に!』 『今のあんたじゃかえって邪魔よ! 外の隊長たちに増援を頼むからキャロのとこで休んでなさい!』 4人の中で誰がリーダーか? そもそもそんな概念はなかったが、近接戦に意識が反らされがちなスバルや、精神的にも肉体的にも不安定になり易い子供2人に重荷を背負わせるわけにも行かない。 状況的に4人だけで戦闘を行えば、自然とティアナが戦闘の指揮をとるようになっていた。 かと言ってティアナ一人がスバル達を駒のように動かすのではない。ただ、前衛の2人は放って置けば引き際を見誤ってしまう確立が異常なほどに高い。二人ともが『護る』と言う事を意識しすぎてしまう。 一種の強迫観念的な自己暗示をかけてしまっているのだ。故に敵を深追いし、重傷を負ってしまう。 だから、ティアナは前衛2人の手綱を握る役目を任されたのだった。 「すいません。ティアナさん」 戻って来たエリオが謝罪してくるが、ティアナはそれに声を荒げて返す。 「あんたもスバルも本ッ当にバカね。人間一人に出来る事なんて限られてるのよ。少しは周りを見なさい! 私等のことが、そんなに信じられない? そんなに弱く見える? 自惚れんじゃないわよ。いい?」 「は、はいっ!」 「キャロ。エリオをお願い。それから2人で外の隊長たちに連絡、『戦闘続行困難至急増援を要請』ってね。 もう一人のバカを引きずってくるから、集まりしだい撤退するわ!」 手足がだんだんと重くなってきた……。いくらなぎ倒してもなぎ倒しても敵の数が減る事は無い。 どうやら本格的に自分たちを障害と認識したようだ。おそらく外にいるのはなのは達の意識を反らす為のデコイに過ぎないだろう。本当の目的は自分達4人をこの場で潰しておく事なのだ。 だとしたら、退くわけには行かない。ここで退いてしまえば、自分たちだけでなく、機動六課全体が敵に敗北を認めたことになる。そうなれば、ここまで築き上げてきた全員の思いが水泡に帰してしまう。 効いていない。傷など負っていない。そう言い聞かせてスバルは立ち上がる。 「……はああぁぁぁぁぁぁぁっ!」 スバルの周囲にあるあらゆる存在に宿った気を練り上げて集める『発勁』の動作。そしてそれに自分の魔力を込める。今の自分が出来る最大の一撃。 「行っくぞおおおぉぉぉぉぉぉっ! ディバイイイイィィィィィン……バスタアアアァァァァァァァッ!!!!!!!!!」 練り上げた魔力の塊に懇親の一撃を叩き込む奔流が目の前の敵を蹂躙していく。 「まぁだまだあああああぁぁぁぁぁっ!!」 更にもう一度発勁の動作、ディバインバスターの連続放射を浴びせかけようとしたその時だった。 ばぁんっ! 一発の銃声と共に一機のGJが音を立てて粉々に砕け飛んだ…… 「ティア?」 そう呟いて、スバルは即座に違うと思い直した。自分が何年も見てきた射撃魔法とは構成も発動も明らかに違う。 「誰?」 スバルが見たのはティアナとは全く違う、背の高い男性のシルエット。淡い琥珀色の髪、蛇革のジャケットに革パン、シルバーアクセで飾ったパンクな衣装。そして、その右手に握られているのは自動式拳銃《ベレッタM93R》。 この間現れた人物、確かなのは達の知り合いで無限書庫の司書長。 「楽しそうだね……僕も混ぜてもらうよ」 人差し指をトリガーに通したままユーノは器用にクルクルと拳銃を回す。 「お前らみんな、ガラクタの粗大ゴミにしてやるよ……」 ユーノの笑みは、眼を合わせたスバルの背筋を震え上がらせるには充分な狂気と威圧感を秘めたものだった…… 続く あとがき と言うわけで、灰は灰に第3話完全版をお送りいたしました。 とは言っても続きの意味を勘違いされてしまい。次が4話だと思われてるので大変複雑です。 量的には、残り半分を上げましたって感じですがね。 地獄ユーノが「ここかぁ……祭りの場所はァ!」と言わんばかりに現れました。 次回は地獄ユーノきゅん大暴れ&三角関係大暴走の兆しが見え始めます。ではまた。 |