未来も過去も、心も愛も、幸も不幸も、生贄にされ
 君が言う真実とは何? 君が言う正義とは何?
 ウワサも何も、リアルも嘘も、立場もクソも、ヘッたくれもない
 真実を見極めて、ただ恥を知れ、暇なハイエナにFuck!


 Asche zur Asche

 Case File.4『Mr.Trouble Maker』


 銃声、銃声、銃声、爆音、銃声、閃光、爆音、銃声、銃声、閃光、爆音、爆音、銃声、閃光、閃光、爆音、銃声……

 AMFが展開されているにも関わらず、魔力を帯びた弾丸がGJ(ガジェット・ドローン)の装甲を次々と撃ち砕く。
 自分たちだけでなく、部隊長でさえも曰く『ちょっとコツがいる』と漏らす相手に、いとも簡単に銃弾を命中させるこの人物、ユーノがどんな奇術を使ってGJを撃墜しているのか、スバル自身の貧困な想像力では全く見当が付かない。
 特別な魔法を使っている気配は無い。ただ魔力を込めた銃弾を撃っているだけ。
「スバル! なにボーっとしてるの!? 退くわよ!」
 背後から聞こえたティアナの叫び声にスバルは振り向いて聞き返した。
「ティア! ねえ、増援ってあの人の事!?」
 その言葉に首を傾げたティアナは改めて目の前の状況を見据える。そこには惨劇があった……
 恐ろしい笑みを浮かべながら近くにいたGJに左フックを見舞いつつ、つかみ掛かって膝蹴りを打ち、更に地面に押さえつけて力任せに殴って殴って殴りつける。その背後に忍び寄ってきたGJもまた同じ運命を辿らせた。
 空中を浮遊するGJには、結界が貼ってあるとは言え周囲の建物さえも顧みずに間髪入れず銃撃を加える。
 破壊的な火薬の破裂音と共に閃光をまとった銃弾がGJだけには飽き足らず、近くにあったビルに直撃した流れ弾がコンクリートの壁や窓ガラスの破片をあられの様に撒き散らした。
 そびえ立っていたはずの高層ビルがGJを巻き込みながら朽木のように崩れ落ちて行く。
 自分達が立っている場所以外の建物が根こそぎ倒れたそこは、さながら大震災の震源地であった……。
 それが、たった一人の人間が拳銃を乱射して出来たものだと言う事実が2人にとってはにわかに信じがたい。
『GJの破壊を確認しました』
 彼の持つ拳銃がそう告げると、ユーノは拳銃を下ろして革のジャケットのポケットに突っ込んだ。
「もう終わりか……、物足りないよ。やっぱり、どうせ壊すなら人間を壊す方が面白い。一発や二発の弾丸で簡単には壊れないし、もがいたり苦しんだり叫んだり恐がったりするんだ。ガラクタよりもずっと愉しいよ、きっとね……」
 どれだけGJや建物を破壊しようとも、銃を乱射しようとも、決して癒えることのない『渇き』を訴えるように、ユーノは喉を押さえながら呟いた。
「スクライア司書長、あなたがどうしてこんな所に?」
 危険な空気を漂わす今のユーノに近寄るのは少し躊躇いと恐怖があったが、それらを押し殺してティアナは彼に声をかけた。
「ただの暇つぶしだよ。無限書庫の勤務はもう終わってる。プライベートをどうしようと僕の勝手だろ?」
「嘘です! そんな理由でこの前も今も来れるわけないじゃないですか!」
 食い下がったのはスバルだった。この手の勘に関しては彼女は異常なほどに鋭い。
「君は本当になのはに似てるな……、その強引さとかね。けどすぐ解るだろうよ、フェイトがいる限り君は用無しだ」
「ユーノさん? 何言ってるんですか」
「なのはにとっては僕も君もフェイトとの仲を妨げる邪魔者でしかないって事さ」
 どこまでも曇り濁った、光の宿らない虚ろな眼つきがスバルを、ティアナを冷笑しているのがありありと解った。
「全然違う……なのはさんの話と、全然違う! なのはさん、いつも言ってました。凄く頭が良くて優しくて、自分をこの世界に導いてくれた、大事な友達だって! でも、今のユーノさんは違う!」
 スバルは叫んだ。彼女にとって、高町なのはは絶対的な存在だった。それをよりにもよって彼女自身が慕う友人が否定しようとしている事実が許せなかった……
「ああ、そうさ。あんな弱くて本調べしか能が無い自分でいるのにはもううんざりだ。だから分からせてやるんだよ。僕たちはただの便利屋じゃないってね。その為には司書長の僕が力を見せ付けなきゃいけないんだ……」
 ユーノは微笑(わら)う。口元を歪めた怖気を振るうような笑みだった。
 その瞬間、地響きが走る。3人の背後に、大型のGJ通称『3型』が姿を現した。
「うわあああっ!!!」
「スバルッ!」
 GJの足のように太い管がスバルを縛り上げた。更に自身の前に突き出して来た。
 敵はこちらの行動パターンを認識している。犠牲者を出さないと言う制約の元に動いている彼女等に対し、人質を取る事が最も安全な策だと言うことに気付いているのだ。
「このっ! 放せぇぇっ!!!!」
 スバルは捕らえられながらも、脱出しようと残りの膂力と魔力を振り絞るが、先の戦闘で消耗しきった彼女が抜け出せる道理は存在しない。
 ティアナの方も魔力の残量が乏しい、今のスバルに射撃魔法が直撃すればBJ(バリアジャケット)を貫いてしまう危険性が高い。それ以前に人質ごと銃撃を撃ち込むほど彼女は非情になる事は出来なかった……。
「ふうん……まだ残ってたんだ。じゃあ壊さないとね」
 ユーノは《ホワイトナイト》の弾層(マガジン)を交換し、銃口をGJに向ける。
「消えろよ、ガラクタ」
『Scream von Heiligem(聖者の絶叫)!』
 スバルが人質にとられている。そんな事実など些細な事といわんばかりにトリガーを引き絞り、銃弾がスバルの体を掠めながら背後にいるGJの装甲を貫いた。

「これは……一体何が起きたの?」
 結界内部の惨状を見てフェイトは息を飲んだ。
 こんな大規模な破壊力を持った魔法など、4人の中では誰も使えないはずだ。
「フェイトちゃん……、エリオとキャロは転送して回収してもらったよ」
 一緒に助けに来たなのはが、彼女にとって大事な二人の安全を告げることで心配事は一つ減った。
「2人の話だと、スバルとティアナがまだ残ってるみたい。急ごう」
 フェイトはそれに頷いて、魔力の気配がする方向へと飛んで向かう。そこで2人は信じられない光景を見た。
『ユーノ(君)!?』
 ユーノがスバルを人質にとったGJを人質ごと銃で撃ち壊しているのだ……

「壊れろ……壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!」
 もう、何発撃ったのか、スバルもティアナも、ユーノでさえも分からない。
 延々と銃弾を撃ち続け、虫が柱を食うようにGJの装甲は削られていく。内部の機構が露出した所へと更に銃撃を加える。それを反復して繰り返し繰り返し、ティアナはそれを呆然と見ていることしか出来ない。
 恐ろしかった……流れ弾を喰らう事がではなく、ただひたすら破壊の為に力を振りかざすユーノの事がだ……
「ユーノ! 止めてーーーーーーーっ!!!!」
 3人の誰もが予想し得なかった声があたりに響く。飛び込んできたのは、金色の髪をなびかせる黒の魔導師の姿。
 その瞬間だった。ユーノの銃弾がGJの核の部分に命中した。
 そこに在るのは、かつて自分達が追った事のあるロストロギア《ジュエルシード》。そこへ魔力を打ち込めばどうなるか、以前自分たちは身を以って体験している。
 《時空震》それが、引き起こされれば、いくらこの結界の中でも無事では済まされない。
 強烈な地響きがあたりを揺るがし、その場にいた彼等を引き寄せる重力と言う枷が消える。
 だが、それは前兆でしかなかった。彼等の頭上には巨大な次元のひずみが出来ていたのだ。
 開かれたワームホールの先に何かがいる。ここから確認できたのは鋭い眼光と牙だらけの口……
 その正体をまだ誰もつかめずにいた。


 続く


 あとがき
 時空震発生。そして次元のハザマからなんか出てきました。
 ここから更に地獄ユーノきゅんは大アバレっぷりに拍車がかかります。それではまた





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