10年後、あなたはどこにいるだろう
 10年後、私はどこで何をしているのだろう
 それは、遠い未来のことじゃない
 今日の先にある時間、きっと必ず来る時間
 10年後、あなたはどこで何をしているのだろう

『時空のクロス・ロード』
著/鷹見一幸より抜粋



『BEYOND ALL SPACE & TIME:Side.C 前編』

 この日、機動六課にはいつもと違う事が一つだけあった……
「あの、ロストロギア。何のためにあったのかな? ティア?」
「私に聞かないでよ! あんたが崖を崩落させたのが始まりなんだから」
 呑気なスバルの言葉に対して吐き棄てるようにティアナは切り返した。

 事の発端は数時間前の訓練だった。より複雑且つ動きのとりづらい場所での戦闘を想定して、山中での模擬戦闘をいつもの4人で行っていたのだが、スバルのガジェットドローンへの攻撃が空発に終わり、崖を一つ崩落させた。
 その崖から前時代の神殿と思わせる機械遺跡が発見されたのだ。
 彼女等の指導に引率していたなのはが、緊急用の通信を使用して専門のチームを呼び出し、神殿内部にあったロストロギアの回収に当たると言う事で、訓練は急遽中止になり4人とも隊舎に帰されたのだ。
「スバルさんは威力の加減が大雑把過ぎますよ」
 エリオの一言が他意はないのだがチクチクと痛い所を突く。
「で、でも……けがした人がいなくて良かったじゃないですか……」
「また同じことが起きたら、その時は怪我人が出るかもしれないけどね」
 キャロは必死にフォローを入れようとしたが、ティアナが即座に皮肉で返す。
 スバルは弁解の余地はなく、小さくなってしまった。
「とにかく、僕は訓練室の方へ行きますね」
「あ、待って。わたしも付き合うよ」
 エリオとキャロは二人並んで訓練室の方へ向かっていった。
「仲良いわね、あの二人……私も、彼氏作ろうかな」
 傍らで落ち込むパートナーを呆れ顔で見てため息を付きながら歩き始めた。
「ティア? どこ行くの?」
「整備班のとこ。《クロスミラージュ》の調整」
「じゃあ、あたしも行くよ〜。水臭いな〜ティアは」
「今のところ、私の周りは脳天お花畑と子供二人のお守りか……」
 スバルには聞こえないほど小声で呟く。
 ティアナ・ランスター16歳、甘い話が転がる気配は無い。無論、同性愛の趣向など持ち合わせていない常識的一般人のつもりである。彼女にとっての春はまだまだ先のことのようだ。
 と言うよりは、執務官と言う目標がある時点で彼女が足を止める事は無い。色恋に割く時間があれば訓練と勉強に時間を費やそうと考えるだろう。なにより、二つの事に同時に打ち込めるほど器用ではないのだから。

‡          ‡          ‡

 数時間後、発見されたロストロギアを解析する為に、無限書庫からユーノが出張してきた。
 形状はいわゆる『懐中時計』に近いのだが、蓋もなければ文字盤も針もなく、画面表示式のようだが全くと言っていいほど反応が無かった。どんな用途で使われていたかも、作動しない以上判断は難しい。
「ほんで、何か解ったか? ユーノ君」
「可能性の高そうな物は幾つかリストアップ出来たけど、やっぱり現物を詳しく調べたいからそっちに出向くよ」
 そこで無限書庫で資料の検索を依頼したところ、こう言うことになり今に至る。

「ユーノ君、わざわざ来んでも輸送は出来るで?」
「事故が起きないって保証も無いだろ? だったら直接来た方がいいかなって、頼まれてた資料も渡したかったしね」
 かつて、ジュエルシードの輸送事故を経験しているからか、妙な説得力を持っていた。
 話しながら階段を下りる2人、この時まだ2人は気付かない。この時彼女たちがこの階段を下りていなければ、この時ヴィータが彼女たちの上から前が見えないほど高く積んだ資料を運んで階段を下りようとしなければ、この時エリオとキャロが自主訓練を終えて彼女たちの目の前を通過しなければ、この先の騒動は起こり得なかった事を……
「あぶねーーーーーーーっ!」
 ヴィータの声が踊り場から聞こえてくる。そう認識した時に2人の眼前にはバランスを崩して取りこぼした大量の資料が飛び散ってくる。
 それを躱そうとしてユーノは階段から足を踏み外してしまう。
 転がり落ちるユーノの手から、例のロストロギアが入ったケースが落ちた衝撃で開き、中の懐中時計が飛んで行ってしまう。そこへちょうどエリオとキャロが前の廊下を通りかかったのだ。
『Sonic Move!』
「うわっ! なんだこれ!?」
 死角から飛んできた懐中時計をキャロに当たらないようにエリオは加速まで使ってキャッチする。
 エリオがそれに触れた瞬間だった。
『Запуск! После начала установления 10 год замещения(起動! 置換開始、設定10年後)』
 それまで反応の無かった懐中時計は突如として動き始めた。眩いばかりの光がエリオを包み込んで行く。
 居合わせた者は誰一人としてまともに直視する事が出来ない。
「エリオくん!」
「キャロ!? 駄目だ! 離れてっ!」
 キャロは何も見えないまま突き飛ばされて、尻餅をついた。
「ああああーーーーーーーっ!」

 ぐおぉっ! と強烈な斥力がエリオを中心に発生し、その直後に何かが強くぶつかったような音が響いた。
 光が止んで、全員の視界が回復していく。ユーノ、はやて、キャロ、ヴィータが一斉に音がした方へと駆け寄った。
 何かが爆発でもしたような煙の中から人の影が見える。影はエリオにしては体躯が違い過ぎる。
「痛ってえな〜〜〜」
 聞いた事の無い男声が煙の中から聞こえてきた。
「エリオ……くん?」
「キャロ?」
 その声の主がキャロの名前を聞き返してくる。4人ともがそれに首を傾げるばかりだ。
 やがて、煙が晴れてくると彼女達全員がそこにいた影の正体を目の当たりにして、呆然としているしかなかった。
「あれ? 何所だここ?」
 燃えるような紅い髪、シグナムさえも超えるだろう長身に細身ながらも鍛え抜かれた体躯、雄々しいと言うよりは凛々しいと例えた方がしっくり来るだろう端正な顔立ちの青年がそこにいた。
 右手には銀色のデジタル式腕時計、そして左手の中指には鳥をあしらったシルバーリングが付けられている。
「あれ? はやてさん!? 何やってるんですか? いくら歳が気になるからって無理に若作りしなくても!?」
 青年ははやてたちを見るや否や、やけに馴れ馴れしい態度で言う。その発言ははやての逆鱗に触れた……
「だ〜れ〜が〜若作りやて〜〜〜〜〜〜〜! これでもウチは19やぁっ! いてもーたるぞゴルアァァッ!!!!」
「はっ! はやて落ち着いて!」
 今にもリミッターを解除してラグナロクかあるいはミストルティンを発動させる勢いのはやてを、ユーノがストラグルバインドを発動させてどうにか静止する。
「ウチのどこがおばさんや! 年増や! 未だに痛々しいデザのBJ着とるなのはちゃんより1000倍マシや!!」
「ヴィータ! キャロ! 止めるの手伝って!」
「はい!」
「おうっ!」
 結局はやてを止めるのにそれぞれ体力と魔力の半分以上を費やした……。

 それからしばらくして、4人は青年を連れて食堂へ場所を移し、各自好みの飲み物を注文した。
「で、君の名前は? まずはそこからや」
 はやては青年に問いただす。そして、ここからが騒動の始まりだった。
「エリオ・モンディアル。20歳、第93武装隊長。階級は空曹、ランクはAA+です」
 それを聞いて、全員が固まった……。もしこの青年エリオ(仮)の言葉が真実だとすれば、彼は未来のエリオと言う事になる。そして、まさかとは思うが先ほどのロストロギアが脳裏に影をかすめる。
「もしかして、今年は新暦75年ですか?」
「おう、そうだぞ」
 ヴィータが答えると青年エリオ(仮)はやっぱりか、と言うような顔をする。
「なるほど。今日だったんですね……。はやてさん、あのロストロギアは対象になった人間の過去と未来を入れ替える能力があるんです。だから、今日から10年後に過去の俺は転移させられているはずです」
「どうしてそう言い切れるんだい?」
「簡単な事です。俺は10年後から来ました。つまり未来の情報を持っています。ユーノさん、あなたがあのロストロギアの能力を既に解明したと言う未来を原体験しているんですよ。だから起こった事が解ってるんです」
 エリオはそう言うとテーブルに届いたコーラを口へ運ぶ。
「じゃ、じゃあエリオくんは無事なんですね!?」
「心配ないよキャロ。今頃はこの時代から言って10年後の君に会っている頃のはずだからね」
 エリオは笑いかけながらキャロの頭を撫でた。
(え……えぇっ! 今わたし、エリオくんになでなでされてるの!? あ、でも大人なエリオくん、なんかかっこいいなぁ)
 キャロは顔を真っ赤にしながら、エリオの愛撫を享受している。見ているとなんか凄く犯罪的な香りがしまくりなシチュエーションなのだが、2人して全く気付いていない……。
「でまぁ、なんや? つまりは10年後のエリオがここにいて、うちらの知ってるエリオは10年後にいるんやな?
 それで、あのロストロギアがその元凶ってわけか? で、どないしたら元に戻るんかな?」
 現状をどうにか受け入れたはやては、現実的な質問を青年エリオ(仮)に振った。
「方法と言うよりは条件ですけど、効果自体は丸一日、24時間強制的に持続します。
 つまり明日の今頃まではこのままと言う事です。本日一晩ここで厄介になりますが、構いませんか?
 年齢的に身分照明が効かないのでホテルとか使えないんです……」
 はやてはこれまで直面した事の無い珍騒動に対してテーブルにぐったりと伏せるしかなかった……
「本当にご迷惑をおかけします」
 エリオの方は本当に申し訳無さそうにしていた……
「もうええわ、こうなったら君の知っとること洗いざらい話してもらうで。未来の事とかな」
「だ、駄目ですよ! 未来の事は可能な限り口にするなって10年前からきつくユーノさんに止められてます!」
 いろいろな意味ではやては壊れかけている状況だった……


続く



 あとがき
 地獄ユーノから打って変わって今回は軽めの中編です。
 やっぱ、はやてはギャグキャラとして一番動かし易いです。時点が黒なのはさんとゾディアック。
 ロストロギアによって某マフィア漫画のバズーカ効果が発動、10年後のエリオきゅんがやって来ました。
 タイトルについてるSide.Cはキャロサイドと言う意味です。
 すなわち、10年後に言っちゃったエリオきゅんが主役のSide.Eもこれが終わったら書く予定です。





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