変わることを恐れないで…… 明日の自分を見失うだけ…… 『BEYOND ALL SPACE & TIME:Side.C 後編』 「さーてとっ! お嬢ちゃん! 俺と一緒に世界最速のドラーイヴに行こうか?」 「いいんですか? 本当に……」 エリオとキャロは隊舎の隣にある車両倉庫にいる。 そこには作戦時に使う事になる大型ジープや、フェイトが主に使用する覆面パトカーが置いてあった。 2人はその中でも最小の乗り物である自動二輪車、即ちオートバイの前にいた。 「大丈夫だって、10年後のツケにして許可貰ったから」 「そっちじゃなくて免許です!」 エリオは相槌を打って答えた。 「大型まで持ってるよ。それにちゃーんとはやてさんに日付を偽造してもらったから♪」 今のエリオからは想像できないぐらいの図太さとアバウトっぷりにキャロは辟易する……。ある意味こんな未来は変えてしまったほうがいいのではないのかと思うぐらいに…… エリオは備品倉庫から2人分のヘルメットを持ってきて片方をキャロに手渡す。 駆動系に異常がない事を確かめてからシートにまたがり、キャロをタンデムシートに乗せた。 そして、エンジンスイッチに待機状態のストラーダをかざすとローギアの状態でエンジンが起動する。 あとはクラッチとキックペダルを操作してギアを切り替え、鋼鉄の機動馬が唸りを上げて走り出した。 「ハラオウン艦長。艦長宛にデータが届いております」 クロノ・ハラオウンはオペレーターからの連絡に首をかしげる。自分宛に何のデータが届くと言うのか? ここしばらくはレリック関連を除けば無限書庫に検索を依頼した覚えは無かった。誰が何の目的で送って来たかも心当たりがない。安易に開くのは気が引けたのだが…… 「差出人はフェイト・T・ハラオウン執務官と八神はやて二等陸佐となっています」 「わかった、こっちに転送してくれ」 クロノが送られて来たデータに眼を通すと、そこにはとても信じられない事が記されていた……。 デートと言うから何をするのかと思えば、指定された巡回路を回りながら、途中色々なスポットで休憩を取るぐらいであった。キャロは今公園のベンチでエリオを待っている。 本人曰く「隊の備品使ってるんだからパトロール込みでなら大丈夫だろ?」と言う事らしいが完全に公私を混同していることに突っ込まずにはいられないキャロであった…… 「お待たせ! チョコバナナとイチゴがあるけどどっちがいい?」 両手にクレープを持ってエリオが戻って来た。 「じゃあ、いちごの方で」 「りょーかい」 2人でベンチに座ってクレープを頬張る。苺と生クリームの程よい甘さがキャロの口の中に広がった。 「キャロ、ちょっとこっち向いて」 「え?」 エリオの声に振り向いたと思ったら、口の端をぺろっと舐められる。 「ひゃうっ! な、なにするんですか!?」 「クリーム付いてたよ♪」 あまりの突発的な出来事に心臓が跳ね上がったように鼓動を強くする。上気した頬は茹で蛸のように真っ赤だ。 「やっぱりキャロは今も昔も可愛いな〜♪」 「は、はうあうあうぅ〜」 キャロの思考回路はオーバーヒート状態に陥りそうになる。 ただでさえ、気になる男の子がかなりカッコイイお兄さんになって現れて、成り行きだったがデートする事になりと、立て続けに起こった事態だけでもドキドキしているというのに、ここまでされたらキャロはどうすればいいのか解らなくなってしまいそうだった……。 近くにあった水飲み場までダッシュして蛇口を捻り、出てきた冷水をがぶ飲みしてようやく火照りは治まってくれる。 「エリオさん……まさかロリコンなんですか?」 キャロは疑心に満ちたジト目でエリオを睨み付けた。 「まさか、小さい女の子が可愛いんじゃなくて、キャロが可愛いんだよ。俺にとってはね♪」 「エリオさん。聞いてもいいですか?」 ひとまず落ち着いて、再びクレープを食べながらキャロはエリオに問う。 「何を?」 キャロの方へエリオは顔を向ける。 「やらなきゃいけないことって、何ですか?」 エリオはそれを聞いて顔色を変える。その目付きは任務の時に見せる現在のエリオと全く同じ種類の空気を感じた。 「君と皆が追いかけてるレリック事件の事だよ。えーと、今は2時半か」 ストラーダで時刻を確認するや「そろそろ大丈夫かな」と呟いた。 「もうじき、機動六課にスクランブルがかかる。もちろんレリック絡みのね。そっちはスバルさんたちが抑えてくれるんだけど、問題はそこじゃない。乗って」 エリオはクレープの残りを口の中へ放り込んでヘルメットをかぶる。キャロも残りを食べてしまってタンデムシートにまたがったのを確認すると、エリオはバイクを発進させる。 2人を乗せたバイクは高速道路に入り、クラナガンの中央へと向かっていた。 「ストラーダ! レリックはどこにいる!?」 『およそ5km先の地点を、時速80kmで移動中だ』 「《アレ》の反応は?」 『通常のレーダーを掻い潜り、レリックに近づいている。このままでは先を越されてしまうぞ!』 「わかった!」 エリオはハンドル近くにあるスイッチを操作し、フロントカウルにサイレンが姿を現し、規則的な警報音を鳴らしながら先行者が道を明けた隙間を100kmオーバーのスピードで爆走する。 「キャロ、しっかり捕まっててくれ!」 急加速した車体から振り落とされないようにエリオに抱きつくように捕まる。 『こちら時空管理局機動六課、エリオ・モンディアル三等陸士とキャロ・ル・ルシエ三頭陸士、クロノ・ハラオウン提督、応答願います!』 バイクに設置された通信機から、XL級新造艦へと通信を送る。 『こちら、クロノ・ハラオウンだ。一体何が起きている?』 『良かった、データは目を通してくれたんですね? 細かい説明は後です。至急クラナガン中央部、ポイントB-67に武装局員一個小隊を出動させて下さい。結界魔法の展開と周辺住民及び高速道路利用者の避難誘導をお願いします』 『待て、君は誰だ?』 『エリオですよ! 10年後のって付きますけどね! じゃ、あっちの方をよろしくお願いします』 そこまででエリオは通信を切った。 「エリオさん!? 何をするんですか?」 「こっちもレリックが密輸されてるんだ。それをなのはさん達が追っている犯人とは違う奴等が狙ってる。改造したGJを使って、あたかもそいつ等の仕業に見せかけてね。でもってこっちの犯人は管理局のお偉いさんさ。 レリックを密かに回収して私利私欲の為に悪用しようってハラだよ。スカリエッティ達を隠れ蓑にしてね!」 エリオはそれだけ言ってバイクの運転に集中する。 『エリオ。あのタンクローリーの中だ。車体の下部、エンジンパーツに偽装されている!』 「キャロ! 聞いての通りだ! 俺と君で回収するよ!」 「は、はい! って、エリオさん上ーッ!」 上空から多数のGJが迫って来ていた。それを追って武装局員の姿も見える。 「彼等はクロノさんの部隊じゃない。GJを追う振りをしてレリックを回収する気だ」 次の瞬間結界が展開され、周囲を走る車が一斉に2人の視界から掻き消えた。遅ればせながら、クロノが送り込んだ部隊が間に合ったようだ。 それを確認した2人のデバイスが同時にバリアジャケットを生成する。 「ストラーダ! セタップ!」 「ケリュケイオン! セットアップ!」 キャロはいつもと変わらない桃色のBJ。そしてフリードリヒが小竜の状態で召喚された。 エリオのBJは大きく変わっている。上は現在のエリオが着ているものとあまり変わらない赤の衣装、更にその上から黒いライダー用ジャケットを着込み、下は黒の革パン。そして両手両足を合金で作られ、爪先と指先が鋭利に尖った漆黒の篭手と具足が覆う。 バイクは更に加速し、強制停止されたタンクローリーに近づいていたGJ一機を引き倒して着地、バイクから降りて二人は戦闘体制に入った。 「フリード! ブラストフレア!」 無数の火炎弾がGJに向けて掃射され、爆発を引き起こし、視界が赤に染まる。生じた隙を狙ってエリオがGJの群れに飛び込んでいた。黒い影が炎の中を躍る。 今のエリオとは全く違う、徒手空拳での荒々しい喧嘩殺法。群がるGJに向けて華麗に回し蹴りを見舞う。 「雷・吼破ァッ!」 電撃の魔力を帯びた重い正拳突きがAMFを張らせる暇さえ与えずに、装甲を突き破った。 「すごい……」 キャロは見とれてしまっていた……、背後にGJが近寄っている事に気付かずに…… 「きゃあああああああああああっ!」 キャロが悲鳴を上げる。エリオが振り向いた先にはキャロがGJのコードに手足をからめ取られていた。 「ひぃ、やあああぁぁっ! 気持ち悪いー! 入って、来ないでーーーーっ!!!」 コードが袖や首からバリアジャケットの内部に入り込んでくる。言いようの無い嫌悪感にキャロは嗚咽を漏らす。 「まったく……、随分と悪趣味な改造してくれちゃって。どんな変態が解析しーたーんーだーよっ!」 エリオはコードを根元から引きちぎり、そのままGJの心臓部に腕を突き込んで内部の部品をえぐり出す。 「人の(※未来の)彼女に手ェ出しやがって! そう言うのはモテない男のすることだ。悔しかったらもっと自分を磨けばいいだろ。っと、これでGJは全部片付いたな」 「エリオさん……10歳の私を彼女って言うと、凄く危ない人に見えますよ」 「それもそうだね……。って妙なコントやってる場合じゃない! とっととこっちを片付けないと!」 2人はタンクローリーに向かうと、そこでは例の部隊が既にレリックの回収に当たっていた。 「全員動くな! 両手を挙げてデバイスを棄てろ!」 「何だ君達は?」 「悪いけど、ネタはもう上がっているんだ。あんた等の上司《クラーク・アシュトン・スミス一等空佐》はクロノ・ハラオウン提督が逮捕に向かっているよ」 エリオの言い放った一言に部隊全員が凍りついた。 「なのはさん達は別のレリックで忙しくてね! お前らなんかの相手をしてる暇は無いんだ。というわけで、俺とキャロの2人で片付けさせてもらうよ。いい?」 「ふざけるなこのガキ!」 局員の一人が逆上し、剣型のアームドデバイスを構えて襲い掛かってきた。 「答えは聞いてないよ!」 エリオはそれをダンスのように軽やかなステップと回転で受け流し、カウンターの裏拳を顔面に見舞った。 後続の斬撃をエリオはひらりひらりと、闘牛士のように躱していく。 「攻撃は大降り、カートリッジに頼り切ってて、超絶ド級にカッコ悪い闘いだね! 特別に見せてやるよ。カートリッジにもベルカ式にも頼らずに、ミッド式魔法とたった一本の剣で戦い抜いた最高に格好良かった漢の闘いをね!」 エリオは左手中指にはめたコンドルの指輪を宙高く放り投げる。 その間に相手の腹に後ろ回し蹴りを叩き込み、距離が出来た所で手元に指輪が変形した短剣が落ちて来る。 「出番だ。《カヴァリエーレ》!」 『Yeah!』 エリオの魔力を喰らうように、短剣は深紅の刃を作り出し、一振りのロングソードに姿を変えた。原理そのものはフェイトの斬撃魔法と同じ物だろう。 「一網打尽と行こう! 《アディオダンツァ》だ」 『Addio Danza!』 刹那、その場にいた誰もがエリオの姿を知覚出来なくなった。次の瞬間には遥か遠くに姿を現したエリオが一気に全員を斬り伏せていたのだ。全く知覚させずに相手を葬り去る様はまさに《死に別れの舞》と言っていい。 そのカラクリはこうだ。 エリオの体が魔力を帯びて急激に加速し、まずは一人目をすれ違いざまに斬り伏せる。その時その相手を軸に周囲をぐるりと回り、その勢いを利用して次の相手を同じように斬り倒す。これを繰り返す事で流動的な動きで全員を一斉に倒していた。元々エリオの持っていた《ソニックムーブ》とは異なる高速移動。ソニックムーブが『直線的な加速』を加える魔法であるなら、アディオダンツァは『曲線的な加速』をさせる魔法なのだ。 ストラーダを用いた接近戦だけでなく変則的でトリッキーな戦法さえもエリオは10年の間に身につけていた。 接近戦だけならばそれだけで達人の領域へ足を踏み入れているだろう。 一時間ほどして、ストームレイダーが2人を回収しにやって来た。 事件の首謀者、クラーク・アシュトン・スミスとその部隊はクロノ・ハラオウン提督の部隊によって全員が検挙され、管理局内部に本格的な捜査のメスが入るだろう。 その帰りのヘリの中で…… 「これでやる事は終わった。色々と巻き込んでゴメンよ。この事件は誰もこの時は嗅ぎ付けていなかったから、未来を知っている俺がやらなきゃいけないと思ったんだ」 キャロはヘリに乗ってからと言う物、うつむきっぱなしだった。 「管理局って、犯罪者を捕まえるのが仕事だって思ってました。でも、どうして管理局の人が罪を犯すんでしょう?」 「俺たちだって人間である事に変わりは無い。『魔が差した』って言うと安直だけど、それ以外に言いようがないかな? 人間は不安定で移ろい易い。人は生きている内に変わって行くんだ。俺も、君も…… けど、さっき言っただろ? 恐れる事なんか何も無い。まっすぐに目を向ければ希望は見えるんだ」 2人はヘリの中から窓の外を見ると、真っ赤な黄昏の夕日が沈もうとしていた。 「この夕焼けは明日に繋がっているんですね……」 「ああ、生きてる限り明日はやってくる、1000年先の未来は無理でも自分の『明日』をつかんで行けば、未来だって変えられるよ」 「あーあー、お熱いこって。あっちが戻って来たらどうなるんやら……」 ヴァイスの呟きだけがストームレイダーの中にむなしく響いた。 続く あとがき えー、今回で終わらすと書いておきながら、結局あと1話延長です。次回は『完結編』と言う事で 今回もまた特撮ネタのオンパレードでした。次回で大人エリオは帰ります。ではまた |