飛び越えてく 今を 昨日よりも高く……
 答えのない毎日(ひび)も 孤独(ひとり)じゃない……
 だから 飛び越えてく 今が錆びついてく前に……
 かけがえない奇蹟 見つけるまで……


『BEYOND ALL SPACE & TIME:Side.C 完結編』


 エリオたちが戻って来た隊舎では大騒ぎになっていた。理由は言うまでもなく昼間の一軒だ。
 自分達が追っている《ジェイル・スカリエッティ》達とは別に、レリックの悪用を目論む人間がよりにもよって管理局内部から出てきたのだから尚更だ。当のエリオはこの先がどうなるかは知っているが。口を開くつもりは無かった。
 個人レベルの情報ならば幾らリークしようとも時の運行が大きく改変される事は無い。だが、組織などの大規模なレベルになってくるとそうは行かなくなってしまう。小さな波風が大きなうねりとなって帰って来るのだ。
 結果として時の運行は大きく乱れ、エリオの知る未来ではなくなってしまう。
 それに、ここの面子は未来の情報などに頼るようなヤワな人間の集まりではない事など、10年の歳月を通して骨身に刻み込まれている。
「あ、エリオ! キャロ! どこに行ってたの? 探してたんだよ」
 2人に声をかけてきたのはフェイトであった。そして、食堂へと連れ込まれる。
 確かに日はもう沈み、2人とも空腹を感じ始めていた頃合だった。食事ついでに昼間の事も色々と聞かれる。
「街の方に行ってたんです。そしたらガジェットがいたので、俺たち2人とクロノさんの部隊で片付けました」
「……怪我はなかった?」
 フェイトは心配そうな目付きで2人を見る。エリオはそれが少し懐かしかった……
「はい。2人ともなんとか無事生還いたしました♪」
「エリオ、いくら大人になっても無茶だけはしちゃダメだよ」
「当たり前です。俺の命は、もう俺だけの物じゃありませんから」
 それを聞いてフェイトは安心したようだ。昨日と同じ今日、今日と同じ明日、こんな日常が何時までも続く事を10年前は何の疑問も抱かなかった事を思い出す。本当にあのころは子供だった……
(……そうだ)
 エリオはふと思いつく。過去へ戻って来れるなんてそう出来る経験ではない。だったら今でなければ出来ない事を一つだけさせてもらえないだろうか? と……
「フェイトさん。この後何か予定はありますか?」
「この後訓練メニューを組み終えたら何も無いけど」
「だったら、その後でいい。俺と戦って下さい!」
 その言葉にフェイトとキャロだけでなく、食堂に居合わせていた局員全員が驚愕の叫びを上げた。
 エリオの言い分は、未来へ帰る前に全盛期のフェイトとリミッターのない全力の状態で戦い、自分の力を試して見たいと言う事だった。最初はフェイトは乗り気ではなかったが、エリオの方は真剣でシグナムがその気持ちを汲んだ形となり、あくまで模擬戦ではあるが決闘が成立した。
 クロノの方にも連絡を取り、リミッターの解除をクロノはしぶしぶと言った形で承諾したのだった

「はい、じゃあ。これより模擬戦を開始します。時間無制限、勝敗条件は魔力切れかギブアップ、続行不能と判断した場合には、こっちから止めに入るからね」
 フェイトの仕事が終わって準備が整った頃には六課の殆ど全員にこの事が知れ渡り、ある者は純粋な興味を、ある者は面白半分、ある者は心配しながら、別々の思いで体育館ほどの広さのある訓練室の周囲や食堂のモニターからフェイトとエリオの模擬戦を観戦する形になった。
 余談だが、その時一部の局員が勝敗で賭博行為に及んではやてに一蹴された事を追記しておく。
 なのはが立会人として訓練室に結界魔法を展開して決闘の準備は整った。
「《ストラーダ》!」
 エリオのバリアジャケットが生成され、右手に今とは違う槍が姿を現す。形状に大きな差は無いが、カートリッジを装填する部分がシリンダーになっており、最大で6発のカートリッジが装填出来るようになっている。
「《バルディッシュ》……」
 フェイトも黒き戦斧を構え、バリアジャケットを身に纏った。
「嬉しそうだね。エリオ……」
 エリオは笑っている。その笑みには覚えがあった。
 バルディッシュにカートリッジ機能が搭載されて、初めてシグナムと合間見えたとき、その後、幾度と鳴く刃を交えた自分自身、8年前に再会した父ディルカ。
 より強いものと闘い、闘いの中で強くなりたいと願う純粋な願望と悦び。ある意味最も自分達に似て欲しくない部分を大人になったエリオはきっちりと受け継いでしまったようだ。
 フェイトは改めて理解する。自分と同じなら止めても聞かない。だったら求めるように全力で斬り伏せるだけだ。
「手加減なんかしないで下さいよ? 今の俺とは違いますからね」
 2人は最後の言葉を交わし、思考回路を戦闘の状態に切り替える。こうなってしまえば、口先だけの会話など無意味なものだ。2人ともそれを充分に承知している。誰の介入さえも拒絶するだろう。
「はじめっ!」
『Sonic Move!』
 なのはの合図と共に二人の姿が一瞬で消えた。
 正確にはそう見えただけなのだが、二人の動きを眼で追う事さえも殆どの人間が困難であった。
 フェイトのスピードは機動六課の中では群を抜いている。同じレベルであるなのはや、はやてでさえも彼女の速さに拮抗する事さえも難しい、いつも刃を交えるシグナムでもトップギアのフェイトには斬撃を掠らせるのがやっとなのだ。
「はああっ!」
 戦斧形態のバルディッシュがストラーダの突きを打ち払う。だが、突きそのものが速くて重い。いつまでも防ぎきれるものではない。それは愚直に槍を振り続けて鍛え上げた結果と瞬時に理解する。
 元々素質があると見込んではいたが、10年と言う歳月がここまで彼を成長させている事に素直にフェイトは感嘆した。
(だけど、これならどう?)
『Scythe form! Haken Saber!』
 稲妻の曲刃が戦斧の姿を大鎌に変える。《黒い死神》と呼ばれる所以であり彼女が彼女である証だ。
 大鎌となったバルディッシュから、三日月を髣髴とさせる刃が不規則な放物線を描きながらエリオに向かって飛ぶ。
「《カヴァリエーレ》ッ!!」
『Year! Dio Spada!』
 エリオの左手中指に通した指輪が紅い魔力刃を帯びた長剣に姿を変える。
「スパークカッター!」
『Spark Cutter!』
 剣を高速で振ると同時に、魔力の刃が同じように飛ぶ。フェイトと同じ斬撃を組み合わせた射撃魔法だ。
 黄金と真紅の刃が二人の間を飛び交い、互いに斬り合って消滅する。射撃魔法の鍔迫り合いだった。
「アディオダンツァ!」
『Addio Danza!』
 エリオの姿が弾幕をすり抜けたと認識した次の瞬間にフェイトの視界から消える。
(どこに!? 転移魔法? いや違う)
 転移魔法には空間座標の指定と式の構築が必要になる。移動用ならともかく、戦闘中に瞬時に術式を構築し、なお且つ有利な位置を確保する事など、自分たちのような高速戦闘でなくとも人間業ではない。
 そこまで考えた刹那、自分の背後に殺気を感じ取った。
 フェイトは咄嗟に身をよじってストラーダの刺突を躱し、がら空きになったエリオの腹を力の限り蹴り飛ばす。
 床の方へ落ちていくエリオ。フェイトは逆方向へ浮いたまま距離を大きく開けた。
 さらにそのまま次の術式を構成する。
「プラズマランサー・ファランクスシフト……ファイア!」
 現れては消える魔法陣がエリオの周囲を取り囲む。
 そこから発射される秒間21発の弾丸は、角度もタイミングも測ることは困難な全方位射撃。喩え躱そうとも誘導機能のついた弾丸を防ぐ方法は、並外れた防御壁で防ぎきる以外には無い。
 これで決まる。誰もがそう思った矢先の事であった。
「防げなければ、弾き飛ばす!」
 エリオはストラーダとカヴァリエーレの柄の部分を組み合わせ、両側に刃の付いた長大な槍となる。
「《ロッソ・ストラーダ》! テンペストウォールッ!」
 長大な騎兵槍となったストラーダはボディの色を《赤き道》と言う名の通り鮮血の如き真紅へと変えた。
 エリオは槍の中央を持って自分の体ごと高速回転させる。3発のカートリッジを消費した魔力を帯びた回転は巨大な暴風となって発射口となる魔方陣さえも弾丸ごと弾き、消し飛ばして見せた。
 だが、フェイトもそれを指を加えて見ていない。破られた時の第二派を用意してある。
「プラズマ・スマッシャー」
 魔力を収束させた電撃の砲弾が収まりかかった暴風へ一直線に向かっていく。暴風の中で、更なるカートリッジの廃莢音が響いた。
「ライトニングッ……ブレイバーーーーーーーッ!」
 暴風の中から槍を構えたエリオが超高速で突進してきた。そのままプラズマ・スマッシャーの砲撃と槍が正面から激突した。膨大なエネルギーはぶつかり合い、空中で大爆発と共に雲散霧消する。
 両者からは止め処ない汗が流れている。そして悟っていた。
 互いに最大の攻撃力を持った一撃でなければ、この相手は倒せない……。
「バルディッシュ……」
『Yes,sir. Zamber Form!』
 己の戦斧の最強の攻撃形態、巨大な長剣がフェイトの手に現れた。
 エリオもまた、ストラーダのシリンダーをスイングアウト、廃莢してスピードローダーから手早く弾丸を再装填する。
「雷光一閃……」
「ブーストオン!」
『ブースト作動! デバイス臨界点へカウントスタート!』
 フェイトの大剣に稲妻が宿り、エリオの槍からブーストが発動する。全てを呑み込む爆雷の砲撃、全てを貫く紫電の一閃、神さえも従わせる最強の矛と、最強の剣が激突しようと火花を散らす。
「プラズマザンバー……ブレイカァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!」
「ジェット……スピアーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!」
 強大なエネルギーの奔流に結界が揺らぐ。地面を揺るがし壁に大きな亀裂が入る。
「やああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!!!」
 結界が崩壊する……白い閃光が視界を焼き尽くした……

 2人が気が付いたのはそのすぐ後、訓練室は一部の壁を残して結界を境に跡形もなく焼き尽くされ、地面も土が露出している有り様、そしてフェイトとエリオが最初に見たものは……なのはとはやてが鬼神、あるいは魔王の如きこの世のものとは思えない形相で仁王立ちしている姿だった。
 訓練室の修理費用はフェイトとエリオの減俸した中から出すと言う事でひとまずの決着が着いた。
 更にフェイトはこれから一週間、エリオは10年後に戻ってからの一ヶ月間の謹慎処分が下された事も追記しておく。
 結局勝敗はどうなったのかと言えば……
「俺の負けです。最後のぶつかり合いでストラーダはどの道槍として使えなくなるし、損傷が激しすぎて戦闘は続行不可能でしたから」
 更にバルディッシュの方は損傷があったものの、ストラーダとカヴァリエーレに比べればずっと軽く、魔力量とデバイスの差によってエリオは敗北していた。
「いい土産話が出来ました。これで心置きなく未来に帰れます」

 翌朝、例のロストロギアの効果が切れるまで残り10分を切った。隊舎の屋上にはエリオとキャロが佇んでいる。
「もうすぐですね」
「うん……、この景色も見納めだ。それじゃ、10年後にまた会おう」
 エリオはしゃがんでキャロの髪を撫で、額に口づけた。
 キャロは途端に顔を真っ赤にして、耳から湯気が出そうなほどに慌てふためく。
 ゆっくりとエリオの体は光に包まれていき、次第にそれはサイズが縮まってキャロと殆ど同じ大きさになる。
 そこには、元の自分と同い年の姿になったエリオ・モンディアルが戻ってきていた。
「キャロ? こんなところでどうしたの?」
「はひゃうっ!」
 エリオが顔を近づけると、途端にキャロは頬を染めて全力で逃げて行ってしまう。
「僕、何かしたかな?」
 まさか10年後の自分に責任があるなど、この頃のエリオには思いもしないだろう。
 そして、しばらくの間キャロはまともにエリオと顔をあわせられなくなるのは別の話……。


 あとがき

 ようやく終わったぜ! 大人エリオ完結編!
 最後の最後はフェイトとのバトルとなりました。実は思い浮かんだのが今日の昼ごろだったりする。
 そしてカヴァリエーレには某ミニ四駆ネタが三つほど使われております。
 さて、次は大人キャロと今のエリオの話を書かなければ。





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