10年後、あなたはどこにいるだろう
 10年後、私はどこで何をしているのだろう
 それは、遠い未来のことじゃない
 今日の先にある時間、きっと必ず来る時間
 10年後、あなたはどこで何をしているのだろう

『時空のクロス・ロード』
著/鷹見一幸より抜粋


『BEYOND ALL SPACE & TIME:Side.E 前編』





 ここはどこなのだろうか? 自分が見知ったようで見知らぬ街を、エリオ・モンディアルは彷徨い歩いていた。
 つい先ほどまで、機動六課の隊舎でキャロと2人で訓練を行って、一息入れようと戻って来た際に奇妙な懐中時計を手に持ったところまでは覚えている。
 だが、その後の記憶が曖昧で、自分がどうしてここにいるのか? そもそもここがどこなのかもさっぱり解らないのが現状であった。周囲にそびえ立つ建物自体は幾つか見覚えがある。
 しかし、見たことのないビルが隣接していたり、逆に記憶ではそこに存在しているはずの施設が無かったり、先ほどの看板を信用するなら、ここはクラナガンのはずである。
 エリオは性質の悪い夢を見ていると思いたかった……。だが、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、その他諸々の感覚がこの状況を現実だと口を揃えてエリオに告げていた。
(いったい、どうすれば……)
 辺りを見回しながらしばらく思案して、エリオは一件の商店を見つけた。生活に必要な品を最低限だが揃えてあり、なおかつ24時間何時でも営業している、地球で言うコンビニエンスストアに近い店だ。
 エリオはそこへ入って新聞の置かれている棚を探した。
 新聞には知っての通り、その日に起きた事件や天気を記載してあるし、使われている言語や天気図を見ればここがどこなのかおおよその見当は付く。そうすれば後は通信を送って助けに来てもらえば良いだけの話だ。
 エリオは早速一部取り出して三面記事に目を通す。使われているのはミッド語、天気予報も自分の知っているクラナガン周辺の天気図を現していた。
(じゃあ、ここは本当にクラナガン?)
 エリオは何かの間違いではないかと思い、新聞を満遍なく目を通し、上に小さく記載されている事柄が目に入る。
 その項目は『日付』、そこにははっきりとこう書かれていた。

『ミッドチルダ新暦85年 5月23日』

 エリオはその部分を何度も目をこすって確認しても変化は無い。それはきっかり10年後の日付であった。
 思わず、よろけそうになる姿勢を慌ててたて直し、手に持った新聞を元の棚に戻してからエリオはその店を出た。
 考えたくは無かったが、自分は未来へ来てしまったと言うのか。一体なぜ? と思ったところで訓練服のズボン右ポケットの中になにかが入っている事に気付き手を突っ込む。手の中には例の奇妙な懐中時計があった。


 一方その頃、クラナガンのとある公園。
「……遅い」
 その中心に位置する噴水前で女性が一人待ちぼうけをくらっていた。
 淡いミントグリーンのスウェットワンピースの上に真っ白なパーカー、大人しめな色調でありながら活動的な部分をアピールするような服装、肩にかかる程度まで伸ばしたチェリーピンクの髪に、大きな眼が印象的な童顔。
 プロポーションは雑誌に載るような蟲惑的で目立つほどではない控えめなものだが、スレンダーな体系はその童顔と相俟ってアンバランスな魅力を掻き立てる。だが、その表情は決して穏やかではない。
「どうしたんだろ? 急な任務でも入ったかな?」
『本局に確認を取りますか?』
 彼女の左手に巻かれたアクセサリーが問いかける。彼女が十年以上苦楽を共にしているデバイス『ケリュケイオン』。
「ううん、とにかく家まで行って見る。いなかったら本局に連絡。それでいこう」


 エリオは途方にくれていた。見知らぬ場所、しかも未来にたった一人。
 訓練中だったから財布を持っているはずもなく、戻れる確信も算段もなく、文字通り身一つで放り出されてしまった。
 この懐中時計もさっきから試しては見たもののウンともスンとも言いやしない。
 しかも、街中でこの服ははっきり言って目立つ。人目を避けようにも無駄な抵抗で、結局商店の傍から動けなかった。
 機動六課の隊舎に行く事も考えたが、ここからではあまりにも距離がありすぎる上に、転移魔法を使いこなす自信がなかった。それに10年も経過して変化が起きないはずがない、同僚のスバルやティアナ、上官のなのはやはやて、ヴォルケンリッターの面子が今も残っている保証はないし、いても自分を信じてもらえる可能性は低い……
 砂漠で遭難することと同じぐらい、ある意味ではそれ以上に酷い状況であった。
 丁度その時だった……
「エリオ!」
 聞き覚えのある声が、自分を呼ぶのが聞こえた。
 同名の別人である可能性が高くても思わずエリオが向き直ると、そこにはどこか自分が知っているような気がしてならない、綺麗な女性の姿があった。
『えっ!?』
 二人は目が合い、同時に驚いたように身を硬直させる。
「君、その右手につけてるのは?」
 女性の方が先に問いかける。それはエリオの相棒、ストラーダだった。
「僕のデバイスです。名前はストラーダ……」
 それを聞いて、女性は相槌を打った。
「そっかぁ! 今日だったんだ! 君、名前はエリオ・モンディアルだね?」
「は…はい! でもあなたは……」
 女性は馬鹿正直に答えて聞き返すエリオを見てくすくすと笑う。
「キャロ・ル・ルシエ空曹であります♪ 未来へようこそ、10年前のエリオ♪」
 女性はしゃがみながらそう名乗って、笑顔で敬礼する。あの頃、空港で初めて出会った時のように。

「じゃあ、あのロストロギアにはそんな効果があったんですか!?」
 大方の事情を大人になったキャロから聞いて、エリオは驚かされる。
 しかし、古代の超文明から生まれた産物であるのだから、何が起こっても不思議ではない。
「だから、心配しなくても1日経てば元の10年前に帰れるよ。今日は私のとこに泊めてあげるからね♪」
 キャロの一言は予想外だった。一応キャロがいてくれれば軌道六課に話を通してくれると踏んでいたが、どの道宿と食事の問題はこれで解決されたわけだ。キャロに費用を全部出させてしまうのは気が引けたのだが……
『君も私も「無い袖は振れない」のだ。ここは彼女の好意に甘えさせてもらおう』
 と、ストラーダの方から冷静にツッコミを入れられてしまった。
「じゃあ、お世話になります……えと、ルシエ……さん」
「キャロでいいのに♪」
 キャロはエリオに優しく笑いかける。エリオはそれにどきりとした。
「い、いえっ! 今はまだ年上ですから!」
「エリオらしいよ。なんだかんだ言って、マジメな時はマジメだもんね」
 自分では気付かないが、エリオは顔を真っ赤にしている。キャロはそれを見てまたクスリと笑った。


 続く


 あとがき

 まさか一日で二つ出来るとは思わなんだわ。と言うわけで、大人キャロ編です。
 そして、戦闘中じゃなくてもCV:小野健一さんになってるストラーダ。
 今度はかなりの美人さんになった大人キャロにエリオきゅんがどぎまぎさせられる番となりました。
 しかし、自分としては一つやり難い事として、ギャグを入れるのが困難になってます。
 大人エリオほどネタは出なさそうです今のところ。
 次回は大人スバルと大人ティアナ、それから、ユノなのの娘とクロフェの娘でも出すかな。それではまた





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