軌道に乗せた鼓動、君に届けたい……
 途切れる事の無い愛で支えあって……


『BEYOND ALL SPACE & TIME:Side.E 中編』


「あ! これも似合うかな? かな?」
 キャロは子供用の洋服をエリオに持ってきては鏡の前で重ねてと言う行動を繰り返していた。
 エリオがあれから真っ先に連れられて来たのは、クラナガンでも一、二を争う大規模なショッピングモール内に設営されているブティック。立てられたのはキャロから見て5年前との事で、エリオが知りようのない施設だった。
 流石に街中を訓練用の服装で、しかも10歳の子供が歩くとなるとかなり目立つ。そこで、まずは服から始まった。
「ルシエさん……なんでこんな事に?」
「デートがポシャっちゃったんだ♪ 10年前のエリオはわたしとデートするのイヤ?」
「でっ! でーとぉ!?」
 エリオはその単語に赤面する。心なしかキャロがその反応を見て楽しんでるように見えた……。
「もー、かぁいいな〜。お持ち帰りしちゃいたいよぅ〜♪」
 結局、白い長袖のTシャツと迷彩模様のベストにオーソドックスなジーンズと言う無難なスタイルに納まった。
「すいません。わざわざ……」
「気にしない気にしない♪ それにあの訓練服、六課じゃもう使ってないから着てると怪しまれるよ?」
 やはり10年経てば色々と変わっていてもおかしくはない。しかし、怪しまれると言う一言に疑問が浮かぶ。
「じゃあ六課の隊舎に行って見よっか?」
「ええっ!?」
 思わず声を上げる。よく考えて見れば自分が行ったら混乱するだけではないのか?
「大丈夫だよ。エリオにとっての今日には今のエリオが時間転移してるからね。六課のみんなは君が来る事をもう知ってる。それに、ただ時間潰すなんて10歳のエリオには退屈じゃない? と、言うことでレッツ・ゴー!」
 キャロはいきなり転移の魔導式を展開させ、二人の姿がクラナガンのメインストリートから消えた。

「ここが隊舎ですか?」
 辿り着いた六課の隊舎もまたエリオの記憶とは違っていた。明らかに見覚えの無い建物が二棟増設されている。
「うん、なのはさんもはやてさんも易々と前線に出られる身じゃなくなっちゃったからね。その分戦闘要員の枠が大きくなって、訓練施設と宿舎が新しく建設されたんだ。3年前に」
 変わりすぎている未来に、エリオは目が回りそうになっていた。そもそも自分が生まれてから同じだけの時間が経過している世界に、10歳の子供が変化の実感を持てというのも無茶な話だった。
「行こっ、エリオ♪ 《みんな》にエリオのこと紹介しなきゃね」
「えっ!? 紹介って? ちょ、ちょっとルシエさーんっ!!?」
 キャロは答えも聞かずにエリオを隊舎の中へズルズルと引きずり込んで行った。
 しかし、いざ中へ入って見れば多少の改修はされているものの内装そのものは殆ど変わっていなかったが、それでもエリオにとってここは見知らぬ場所でしかなかった……
「ルシエ空曹じゃないですか? 今日は非番でしたよね? あれ、ひょっとしてお子さんですか」
「あのねぇ、これでも二十歳ですから、10歳の子供は無理! ほら例の……」
「子供の頃のモンディアル空曹ですか。うっわー、可愛い〜」
「ホント、懐かしいなー」
 すれ違うのは見知らぬ人間が多く、中には面影のある見知った者もいるにはいたが、声を掛けられて10年前とは雰囲気が明らかに違うことを嫌でも思い知らされる。
 どうやら自分が10年前から来た事は六課内では既に知られているようだ。
 キャロ曰く10年後の自分が過去(今のエリオにとっての『今日』)へ転移している。それで何時の日か自分が来ることは分かっていたらしく、無用の混乱が起こらないように配慮されていると言う事だった。
 自分の知らない所で事態が勝手に動き、まるで台本も合わせもなしに、いきなり舞台へ放り込まれた役者のような気分だった。気付けば呼吸が普段よりも激しくなっていて息苦しい……。
 目を足元に向けると、真っ直ぐに立っているはずの床でもぐらぐらと揺らいでいるように感じる……
 このセカイからエリオの存在だけが浮いていると思うと、噴き出す汗が止まらない……
 さっきからずっと、体が震えている。例える事の難しい恐さが心中に根付く……
「エリオ、どうしたの?」
 自分よりもずっと視線が高くなった未来のキャロは下から心配そうにエリオの顔を覗き込んでくる。
 気を遣ってくれている彼女さえも、今は得体の知れない何かに見えてしまう……こんなところにいたくない……
「うわあああああああーーーーーーーーーーーッッ!!!!!!!!!!」
 エリオはキャロを振り払って走リ出していた……。どこを走っているかなんてわかったものじゃない。
 逃げたかった……どこでもいいから逃げたかった……誰もいないどこかへ……
 廊下を走り抜けて角を曲がり階段を登ったかと思えば違う階段を降りて非常ドアを開けて外へ出て、別の建物の中へと入り込みと繰り返して……
「きゃあっ!」
 誰かにぶつかってしまった……。
「ごっ! ごめんなさい!」
 反射的に謝るエリオの目線の先には、会ったこともない女の子が倒れていた……。
 瑪瑙色のショートヘアに翡翠色の瞳、黙っていれば穏やかそうな顔つきだが、目は釣り上がり気味できつそうな印象を見ている人に与えるだろう。今の自分と大して歳は変わらなそうだ……
「もう! 誰だか知んないけど。これどうしてくれんの!?」
 初対面にも関わらずズケズケとした物言いで顔を近づけて、彼女は床を指差す。
 そこには、先ほどぶつかって散らばったのだろう大量の資料が足の踏み場を覆っている。
「す、すいません!」
「謝る前に手伝うッ!」
 エリオは彼女に気圧されて、資料を拾い集めるのを手伝わされた。
「で、あんたどうしてあたしに突っ込んで来たワケ?」
 そう問われて、答えるのに戸惑った……。
 自分を見てもなんとも思わないと言う事は、事情を知らされてない可能性がある。それ以前にここが息苦しくて気がつけば走ってましたなんていったら機嫌を損ねるかもしれない……。
「はぁ……ま、言えないって事もあるよね? 母さんみたいに力ずくで吐かせるのは趣味じゃないし、気にしないから。
 ったぁく! 誰が《白い魔王の申し子》だってのよ! ざけんなっての!」
 どうも、微妙に会話が噛み合っていない。と言うか彼女のテンションに付いていけない……
「あの、君は? 母さんって?」
「他人行儀で呼ぶなっ! あたしには《リラ》って名前があんの! ちなみに『ちゃん』とか『さん』付けで呼ぶのも止めなさいよ? なんか呼ばれるとゾワッ! と来るんだから!」
 リラと名乗った少女はたたみ掛けるようにまくしたててエリオに釘を刺した。
「ま、あんたが誰かなんてどうだっていいわ。さっきのワビ代わりに手伝ってよ?」
「それはいいけど……何を?」
「資料運び、てゆーか正確には事件記録の整理だけどね。本局の方に提出しなきゃいけないの」
 エリオは不思議な気分になった。この子は、リラは自分の過去と未来の事を知らない、あるいは聞いてこない。
 それが、エリオにとっては何処か安心できる……。
「なに変な顔してんのよ!? 行くよ!」
「あ、ごめん……リラちゃ」

 ギロッ!

「リラ……」
「よろしい!」


 続く



 あとがき

 うーむ、駄目だ。妙に筆が進みません。この調子で行くと大人エリオ編よりも難航しそうです……
 名前と言動から誰の娘かは言うまでもありませんね? そうあの2人の娘です。
 でも、性格は全くと言っていいほど似ておりません。と言うか本当にいたら嫌なマセガキになってるかも……。





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