電王少年ロジカルユーノ #1『オレ、参上!』 僕の名前はユーノ・スクライア。 生まれてこの方、不幸な目に合いっぱなしです。 ついさっきも眼に砂が入ったせいで下り坂の角を曲がりきれず、自転車ごと木に引っかかりました。 それで、いわゆる不良な方々に囲まれて財布を取られて、ようやく行きつけの喫茶店『翠屋』に辿り着いた所です。 そういえば、自転車を直してもらったときに変な声を聞いたような……。 遡って…… 2007年の今、海鳴市にも時を越えた砂が降り注いだ……その中の一つの魂が、ユーノの肉体を選び憑依する。 (見つかるかどうかは、賭けだよな……) とにかく、まずはこの人間と契約を交わさなくてはならない。 時の狭間にあった砂によって自分の体を形作る。その姿は目の前にいるこの少年の想像力によって形成されるのだ。己の姿は竜の骸骨を思わせるシルエットだった…… 何はともあれ、まずはお決まりの口上で自分の存在を知らしめる… 『お前の望みへぶあッ!』 ハズだったのだが、目の前の少年に気付かれず、自転車の前輪に轢かれるハメになった…… 「あ、いらっしゃいユーノくん。今日はどうしたの?」 翠屋にやってきた時には、ユーノはもう傷だらけだった。ここのオーナーでもある高町夫妻に心配されるのが日常の一部と化していた。 「今日もまた酷いなぁ、こんなに砂がついてるじゃないか」 「同情するよ、淫獣」 翠屋の常連客であるクロノとヴェロッサが服についた砂を払い落とす。 「あ、ありがとう、クロノにヴェロッサさん」 「ところでユーノ君、これなんだ?」 その時、さっき拾った落とし物をヴェロッサが上着のポケットから見つけ出す。 普通のカードよりは大きめのカードが入ったパスケース。いわゆる電車に乗車する為の物だ。 「変わったICカードね」 「こんな電車、この辺に走ってたか?」 「とにかく、交番に届けてきますよ」 それが、後々とてつも無い事件に巻き込まれる前触れだなどと、この時は誰も思っていなかった…… 「ねえ! パス、持ってる!?」 一体何が起きているのか、ユーノは己の目を疑うしかなかった…… 自分が走っているすぐ傍を女の子が電車に乗って追っかけてくる。しかも、レールがない場所にも関わらずだ。 「お、落とし物なら交番に行ってよ〜!」 その後もユーノの苦難は続く。財布を取られた不良集団に再び目を付けられたのだ。 覚えの無い事を問われて一方的に殴られるユーノは、死と言う想像をまるで他人後とのように受け止めていた。 足蹴りが頭に向かって飛んで来る。 その瞬間、ユーノは自分でも分からないまま体が動き、両手で足を受け止めていた。 更に、ありえないほどの膂力を発揮し、足どころか相手もろとも投げ飛ばしたのだ。 ユーノは上着を投げ捨てると、白い砂がばら撒かれる。淡いブラウンだった髪は光を弾くような金色に変わって逆立ち、癒すような緑の瞳は燃え盛る紅蓮に変わる。 「オレ……参上……ッ!」 そう言い放った少年は、先ほどまでの押しの弱そうな優男ではない。歯向かう者を真正面から咬み砕く凶暴な獣だ……。 「こいつはオレの契約者だ! ここまで好き勝手やられちゃぁ、黙ってらんねーな!」 じりじりと歩み寄ってくる獣を前に、今まで嬲ってきた不良たちはこれまでユーノには微塵も抱かされなかった感情によって後ずさる……。 「いいか? オレに前フリは無ェ……最初から最後まで、徹底的にクライマックスだ!」 そいつは『恐怖』の権化であった。そして、その恐怖によってパニックに陥った一人が突き出した拳をいとも簡単に受け止める。尻餅をついた相手の近くにあったオブジェからパイプを力任せにちぎって振り回す。 「逃げるなよ! 今考えたオレの必殺技を見せてやる!」 目の前の存在に対して、もはや狩られる獲物でしかない二人は、ただ震えているしか出来ない。 ただの鉄パイプにも関わらず、コンクリートや石床を軽々と砕く姿は人の皮を被ったモンスターとしか言いようが無かった。 「……必殺! オレの必殺技!」 鉄パイプが容赦なく振り下ろされようとしたその時、獣の手が止まった。 「嘘でしょ……。イマジンを押さえ込んだ……」 その一部始終を観察していたのは、電車で彼を追いかけていた少女だった。 金色の長い髪をツーテールに結い上げた赤い目の少女は一度見れば忘れそうにない。 「変身して戦って!」 状況すらも把握できていないのに、いきなりそんな事を言われても無理だ。 「お前が死ねばオレも消えちまう! やれよ! てゆーか、オレにやらせろ!」 先ほど自分に取り付いたイマジンは、実体化もしていない砂のままにもかかわらず体当たりしては消し飛ばされる。 「へ、変身!」 その言葉をキーに、ユーノの腰にベルトが出現する。それが何なのか分からないうちに、ユーノはパスをバックルにかざしてしまい、殆ど真っ白なスーツに身を包み込まれた。 ハッキリ言って弱々しい事この上ない……。 そして、例によって例の如く、性格も肉体能力も戦闘には向かないユーノは逃げ回るしかなかった…… 「オレに代われッ! お前は引っ込め!」 「どうやって!?」 「分かるかッ!」 つくづく勝手なヤツだとユーノは思う。そもそも、どうしてこんな事になってしまっているのか、これが夢であって欲しいとひたすら願った 「ベルトの赤いボタンを押して!」 さっきの少女が叫ぶ。ベルトを見るとバックルの横に4色のボタンがついている。 これか、と思い赤いボタンを押すと、軽快なメロディがベルトから流れる。 「パスをかざして!」 「こっ、こうだね!」 先ほどと同じようにパスをバックルにかざす。 『Size Form!』 その瞬間、弱々しかったスーツが黒と赤のメタリックな装甲に包まれる、その姿は竜を象った闘士の姿だった。 「オレ……再び参上ッ!」 闘士は腰に装備されている4本のデバイスを連結すると、白銀の大鎌の形状となって闘士の手に握られ、そのまま飛び掛ってきたイマジンを横薙ぎに斬り裂いた! 「貴様! 我々の使命を忘れたか!」 「知るかよ! オレはそんなつもりでイマジンになった覚えは無ェッ! オレはオレの目的の為にここにいんだよ! 邪魔するってんならブッ潰す! ただそれだけだッ!」 「ハァ……馬鹿か?」 どうやら、同胞にすらため息モノのようだ。この存在は…… 「ああ、オレは元々バカなんだよ」 黒の闘士が大鎌を構えて疾駆する。 速い! 戦闘力と言う面でヤツはかなり強い部類に入るようだ。 同時に敵の攻撃を軽やかに躱し、喧嘩腰な風に蹴り飛ばし、滅多斬りにする。 敵が怯んだ隙を闘士は見逃さずに、パスをベルトのバックルに再びかざす。 『Full Charge! Arc Saber!!』 ベルトから大鎌へとエネルギーが流れ込んでいく! 「オレの必殺技、パート2……ッ!」 大鎌の湾曲した刃が宙に浮き上がり、闘士が柄を動かすのに合わせ、高速回転しながら敵イマジン目掛けて飛翔する! 回転する刃の餌食となったイマジンは真っ二つにされて爆散した! 「あぁ〜、スッキリしたぜ」 こっちのイマジンは満足したらしくユーノの体から出て行く。 「こ、恐かった……」 ユーノは戦闘に疲れ果てて、その場にへたり込んだ。 「今のが電王……変身できる人を探してたんだ。私はフェイト、フェイト・テスタロッサ。君は?」 「ユーノ・スクライアです……フェイトさん」 パスによって乗った電車の中は別世界であった。 「いよぉ、遅かったじゃねーか」 軽々しい挨拶をする黒い竜の骸骨を模したイマジン。そう、ユーノに取り憑いたヤツだった。 「しかめっ面すんなっての。オレとお前は一蓮托生の身なんだからよ。オレの事はそうだな、ムルシエラゴ……とでも呼びな」 それが、全ての時空と次元を超える列車『リリライナー』と共に行く戦いの旅の始まりだった。…… 続く? あとがき うーむ、とうとうやってしまった電王ネタ。4話ぐらいの中編を予定しております。 ソードフォームならぬ、サイズ(鎌)フォーム、あとの3フォームは誰になるかお楽しみに。 オリキャラばっかし出して、今回はごめんなさいです。 |