電王少年ロジカルユーノ フェイトさん、それとムルシエラゴ。 時を越える電車に乗った不思議な女の子と、時を越える怪人『イマジン』に出会ってから……。 僕、ユーノ・スクライアの中で何かが変わってきました!(←それは響○だ! どうやら僕は、イマジンに取り憑かれても意識を完全に支配されない『特異点』と言う特殊な人間で、変なベルトとパスを使って『電王』と言う姿になった僕は、イマジンと戦う事になってしまったんです。 ライトノベルじゃないんだから、こんな現実早くおさらばしたい…… 『The train of exceeding time 『Lyliliner』. Is the next station past or future?』 (ナレーション:レイジングハートもといDonna Burke) #2『その隼、真意や如何に?』 「で、あなたはどう言う目的でユーノに取り憑いたの?」 フェイトはリリライナーの食堂に居座るイマジンを真正面から問いただしていた。 「答えると、思ってんのか?」 どこか皮肉交じりに、どこか鼻で笑っているような口調で、ムルシエラゴはフェイトに返した。 その態度がフェイトをイラつかせる。こいつはイマジン、即ち自分達の敵なのだ。 『オレはそんなつもりでイマジンになった覚えは無ェ』 ムルシエラゴの言葉を頭の中で反芻させる。果たしてこいつの言い分がどこまで信用できる物か怪しい物だった。 「おうそうだ。お前、望みは無ェのか?」 「望み?」 フェイトの事などすっかり無視し、ユーノの方に話の矛先を向けるムルシエラゴ。 「別にないよ? でもなんで?」 「ユーノ! 絶対に言っちゃダメ! イマジンと契約されちゃう!」 フェイトは声を荒げてユーノに警告した。契約が交わされてしまったらもう止められないのだ。ユーノの記憶を利用して過去へとタイムトリップされてしまう。 「ちったぁ冷静になれよ。そいつは無ェって答えたんだ。望みがなきゃ契約は出来ねェんだぜ?」 「今なくても、いつかって事はありえます! とにかく、ユーノの体で好き勝手しないでッ!?」 「ずいぶんとご執心じゃねェか……そいつにホレたか?」 からかい混じりのムルシエラゴの言葉を受けて、フェイトの頬はかあぁっ! と一瞬で真っ赤に染まった。 「まあまあ、落ち着いて。フェイトちゃんもムルちゃんも、それとユーノちゃんも」 ミディアムヘアの金髪が目立つ大人の女性が3人にコーヒーを持ってくる。 ここの食堂車でコーヒー他料理を持ってきてくれるウェイトレス、シャマルだった。 「む…ムルちゃん……!?」 「あははっ! お似合いじゃない♪」 そんな会話を交わしながら、互いにコーヒーを受け取って口をつけた。 「うっ……いつも通り微妙」 「そうか? 結構美味いぜ」 正反対の味覚によって再び二人の喧嘩が始まった。 「で、ユーノはどう思う!?」 「美味いか? 不味いか?」 そして、ユーノに白羽の矢が立った。本人としてはどちらかに組するつもりも全く無い。 だが、どう答えていいものか。迫ってくる二人の剣幕を前に優柔不断な回答は即死モノだ……。 その瞬間、ユーノの体から急激に力と意識が抜け出ていく。これは、ムルシエラゴが取り憑いたときと同じ感覚だ。 ユーノの髪がスカイグレイに、目の色は透き通るようなコバルトブルーに変色する。 「人の味覚なんてそれぞれじゃない? 小さなことで言い争うのも詰まらない。それに……」 ユーノは薄く微笑を浮かべながら、フェイトの顎先を指で上げつつ顔を近づける。 「せっかくの可愛い顔が台無しだよ?」 その瞬間、乾いた音が食堂者に響いた。フェイトの平手がユーノの頬を直撃したのだ。 「なにふざけてるのッ!?」 「痛たたた……、つれないなぁ」 二人は信じがたいモノを見た。ユーノの体から、猛禽類を模したグレイの体を持つもう一人のイマジンが分離して出てきたのだ。 「たった今取り憑かせてもらったんだ。僕もそちらさんと同様に、特異点に憑いた方が都合が良くてね♪」 「テメェとオレを一緒にすんじゃねぇッ! そもそもテメェなんだッ!!」 「何って、君と同じイマジンさ。過去を変えて、未来を変えにやってきたね♪」 「もう……何がなんだか……」 次から次へと雪だるま式に増えていく常軌を逸した事態に、ユーノの認識能力は容量の限界を向かえそうだった……。 「くっ……どうなっている!?」 一人の魔導騎士は死体が町中を埋め尽くし、異臭を放ち、蟲が集る事態の惨状を呆然と見下ろしていた。 死体を回収する人間の余裕すらも出なかったのだろうその光景は、ひたすらおぞましい地獄といっていい。 既に白骨化した死体はまだいい…… 酷い物では、ランドセルを背負ったまま路上に倒れ、腐りかけの状態で蛆に喰われ続ける子供の死体もあった…… 手遅れだった……誰も救う事が出来なかった…… こんな事は一度や二度ではなかったが、それでも己の無力を嘆かずにはいられなかった…… ユーノはひとまず翠屋へと帰された。しかし、これまでに起きた事が今でも信じがたい。それでも、この手元にあるパスが今まであった事を現実と物語る何よりの証拠だった。 翠屋のドアを開ける。今の自分はここに下宿させてもらっている身なのだ。 「ただいま帰りました〜」 「あっ、ユーノくん。おそかったね」 ユーノと同じぐらいの年頃の女の子が迎え入れる。 「なのはも、今日は帰ってこれたんだ」 「うん。何か飲む?」 「じゃあ紅茶。ストレートでいいよ」 他愛も無い会話だが、なのははいわゆる『魔法少女』だ。その昔(と言うほどでもないが)怪我をしている所を助けられ、ユーノが事件に巻き込んだ事を期に魔法の世界へと足を踏み入れた。 「ユーノくん。今日はいつもより怪我してないね? 運が向いて来たのかな?」 なのはの言葉で、今日あった事を思い出す……、果たして自分の運命はいい方向に向かっているのか? いや、むしろ悪化しているような…… 「どうなんだろうね……」 しかし、ユーノはそれを表に出さない。なのはを巻き込みたくないのだ…… 自分の不運にも、そして今ユーノ自身がいる世界にも…… 「まだ開いているか?」 来客は自分たちがよく知っている女性だった。 小柄な男なら軽く抜く長身、ポニーテールに纏め上げたマゼンタの長い髪、つり上がった鋭い目付きの印象的な姿は抜き身の刃を思わせる。 のだが、どうもそれに覇気が見当たらない。まぶたが沈み、剣で言えば刀身の輝きが曇っている感じだ。 「シグナムさん……」 「大丈夫ですよ。ご注文は?」 「エスプレッソで頼む」 「ミルクとお砂糖は?」 「要らん」 二人はその注文の内容で、彼女に何が起きたかを悟った……。 いつも彼女がこのメニューを頼むとき……それは、任務に失敗し死人を出してしまった時だ…… 「シグナムさん。また……」 「ああ、私たちが気付いて駆けつけた時は、街一つが生物兵器で絶滅した後だった……。 私はまた、罪のない人々を救えなかった! これだけの力を持ちながらッ!」 だん! とテーブルを叩き、コーヒーカップからエスプレッソが跳ねる。 「どんなに優れたランクを付けられようと、私の力は所詮は剣の道……一対一の対人戦でなければ、私は無力だッ! 戦争や兵器を止める事など出来ないッ! 私は……お前が羨ましいよ高町……、お前は生来の魔力もさておき、戦争のような場合でも対応できるスタイルだからな。大衆が奇跡を謳い上げるのも分かる……」 「本当にそう思うの?」 なのはとシグナムがユーノを見る……、髪と目の色が変色し、雰囲気も声色も変わっていた。 「人一人が出来る事なんて、たかが知れているんだよ。それは誰だってそうさ…… 死んだ人の事を、そうやって悲しめるのも僕は羨ましいと思うよ……、けど君は真っ直ぐすぎる…… その真っ直ぐさが、逆に君が君自身を袋小路に追い込んでしまう危うさにもなりえるんだよ」 そのいつもとは全く違うユーノの雰囲気に二人は気付いた。 「ユーノくん?」 「いや、お前はユーノではないな? 一体何者だ?」 「さぁね……。あえて言うとすれば、過去を変えたいと願う愚か者さ……」 そのユーノではない別の存在は、自虐的な乾いた笑みを浮かべると、ユーノの体から分離した。 「テメェも、オレと同じクチか?」 「あれぇ? あれほど一緒にするなって言ってたのに?」 リリライナーの食堂車、ムルシエラゴともうひとりのイマジンは、腹の底が見えない会話を繰り広げていた。 「そうさ、僕も過去を変えたいのさ……。それが世界を滅ぼす事になってもね……」 続く あとがき なんか、思ったより早く書きあがりました。 ただ予想より話数が長引きそうです。ウラタロス役は、自サイトで予告しか出してない事実上凍結中の長編『Blutig Regen』の主役ファルケ君にやってもらいました。 ちょうど、女好きで軽薄で腹の底に何か隠してる的なキャラ設定なので(あとモモちゃんはフェイト父ね)。 でも武器はロッドじゃなかったり……。何フォームになるかはお楽しみに |