『Dirty Wizards』



 Burial.1 『Another Blood』



 その日は雨が降っていた……。

 だから、いつもよりは空気に混ざる生ゴミと汚水の臭いが雨で遮られて、多少はマシだった。
 鋼で出来た武器として付け替えた左(利き)腕が、駆動系に入り込む水滴で軋んだ悲鳴を上げ、破損した部品が
ショートし、俺の体に激痛を伝えてきている。
 廃ビルの壁に寄りかかって座り込む、ドブネズミと大差ない俺の事を見下ろす影が一つ。
 小奇麗な身なりからそれなりにいい生活をしている人間だと思って、金目の物を奪い取ろうと襲い掛かった俺を返り討ちにあわし、この腕を壊した張本人であった。
「なんだよ……」
 そう言って突き放そうとするも、そいつは動かない。
 白と濃紺を基調とする制服姿はそいつがここにはいるはずの無い種類の存在である事を物語っている。
 腰には黒い鋼の輝きを放つ二挺の拳銃、俗に『デバイス』と呼ばれる魔導師の扱う魔法の発動ツールだ。
 背丈からしておそらくは男、極端に長くも短くも無いオレンジ色の髪が場違いな雰囲気を強めている。
「まだ、足りないってのかァ……? じゃあとっとと殺せよッ!!」
 俺の放つ拒絶の叫びに対してそいつは何も動じていなかった。そしてあろう事か、俺に手を差し伸べてきたのだ……。わからない……、どうして? 疑問ばかりが俺の脳髄を駆け巡っていた。
「君は魔法が使えるんだろう? だったら、そんな使い方はしちゃいけない」
 その通りだ。俺は魔法の資質を持っている。だが、それを使うのは誰のためでもない。
 イラつく奴を殺し、欲しいモノを奪い、ひいてはこの『オルデュール』の街で生き延びるためだ。
「家族はいるか? 申し訳ないとは思わないのか?」
「とっくの昔に死んじまったよ。犯罪者の身内だって蔑まれて自殺した」
 思い出すのも嫌だった。俺だけを残し、天井から釣り下がって自分を見る父と母の姿を思い出すのが……
「だから、こんな生き方をしているのか?」
「あんたには関係ないだろ……」
 何を思ったのか、俺にはさっぱり分からなかった。だけど、その後にこいつの言い出したことに俺は耳を疑った。
「俺と一緒に来ないか? 君には何かやり遂げたい事があるんだろう?」
 少し会話を交わしただけだったのに、心の全てを見透かされているようで……
「俺はティーダ。ティーダ・ランスター。君の名は?」
 この男は分からない事だらけだったのは確かだ。だから……惹かれたのかも知れない……
「ディーノ……テスタロッサ……」


 そして、時は流れ7年後……


「ディーノ。皆さん引っ越しの準備は終わったみたいですよ」
 まだ日も昇らない早朝、俺たちの部隊が居を構えるオフィスビルの屋上に佇んで煙草をふかしていた俺に、喪服を思わせるスーツ姿の眼鏡男が俺に話しかけてくる。
「ブラウ……。分かった、出発するとしよう」
 俺は同じような縁で会った同僚、ブラウ・シューペリアの名を呼ぶ。一応俺の副官と言う事で通っているが、同じ特別捜査官だ。普通とは違う意味で口は悪いが、互いの実力そのものはこれでも認め合っている仲だ。
「さてさて、行き先は噂の部隊、機動六課ですからね♪ 愛しの貴女が待っていますよ?」
「ふざけるな……」
 ブラウの入れた皮肉気な茶々を俺は一言で斬り伏せると、ブラウはクスリと笑ってビルの中に戻って行った。
 東の空に朝焼けが見える。だが、俺の光はとうの昔に消えたのだ。
 世界は俺と俺の家族を棄てた……、その発端となった『あの女』を俺は一生許さないだろう。

 母親に虐待を受けて利用されていた。それだけでなんの罰も振り下ろされず、自分の性も棄てて名家の養子として幸福を手に入れたあの女を……、テスタロッサの面汚しを……

 世界があの女を裁かないのなら……俺がこの手で裁くために……



◆       ◇        ◆        ◇         ◆




 スカリエッティ事件が一応の終結を見て半月が経とうとしていた。
 かと言ってすぐに機動六課が解散するわけではなく、犯人を逮捕した後でも山ほどの事後処理が待っているのだ。
 半壊していた隊舎も急ピッチで進んだ作業のお陰で、外装だけは元の状態に戻り始めている。
 八神はやては隊長室で人事異動の書類に目を通していた。
 依然として機動六課の状況は厳しいままだ。それこそ戦場へ無理矢理体を引きずったため半死人状態に至っている隊員も少なくない。一番動ける新人4人とも今は訓練だけでなく、改修作業の手伝いまでやらねばならない事態だ。
 それで、本部の方に戦力として別部隊から一次的な人事異動を申請した。その部隊が早ければ今日の正午にここへ来る事になっている。
 部隊名は『ワイルド・ラプター(野生の猛禽)』
 二人の特別捜査官をリーダーとする魔導師6人で構成された操作チーム。
 自分が特別捜査官だった頃から、その悪名は聞きなれていた……。事件解決のためならば、無許可での非殺傷設定解除、器物の破壊、果ては犯人の殺害すらもいとわない危険人物を集めた集団。
 だが、犯人の検挙率の高さ、抜群のチームワークと操作手腕を買われている面もあり、管理局にとっては『実力は高いが扱いづらい存在』と言った所らしい。
 彼ら自身が名付けたその名前よりも、内部で蔑称として広まった俗語の方が通りがいいとも聞く。
 その最たる例が、汚い仕事ばかりが目立つ実状を皮肉った『ダーティ・ウィザーズ』と言う呼称だった。
 夜道で見かけた魔力さえも無い男が女に飛び掛った瞬間に、間髪入れず四肢を撃ち抜いて病院送りにした理由を『公共募金にはとうてい見えなかった』と平然と言い放った逸話があるぐらいだ。
 そんな部隊をよこしてくると言うのだからよっぽど自分たちは嫌われているらしい。
 レジアス・ゲイス中将殺害の一件は『はやてが密かにスカリエッティ一味を利用し、自分に都合の悪い存在を抹消した』と噂する者もいるぐらいなのだから。
 確かに、自分たちは悪く言うならば、『よく当たる占い』を真に受けて、最高権力まで利用し、管理局全体を掻き乱したどうしようも無い愚者と写ってもなんらおかしくは無いのだ。
 あるいは、六課の隊長陣が色仕掛けで今の地位を手に入れたと揶揄されてもいる。
 それだけ身勝手な意志と人物と力を集約させた部隊。それが機動六課の裏の顔でもあるのだ。
 はやて自身も覚悟はしていた……自分たちは賛美される偶像でもないただのエゴイスト集団でもある。
 かのレジアス中将と同じ穴のムジナに過ぎない。それでもエゴを貫くと決めたのだ……理想のために……。

 改めて彼ら『ワイルド・ラプター』の個人データに目を通す。

 特別捜査官 ディーノ 22歳 魔導師ランク/AA- センターガード兼ガードウィング

 同じく特別捜査官 ブラウ・シューペリア 20歳 魔導師ランク/AA センターガード

 この二人がリーダー格だ。
 二人ともが銃型のアームドデバイスを使用するミッド式魔導師と言う異色な存在である。
 隊長より副官の方がランクが高いのは気になるが、それが実力の全てではないだろう。
 次はチームを構成する隊員たちのデータを見ていく。

 一等空士 ゼファー・デスモセディチ 26歳 魔導師ランク/A+ ガードウィング

 一等陸士 エルダ・スラクストン 23歳 魔導師ランク/A フロントアタッカー

 この辺りは割りと普通だろう。両方ともミッド式の魔導師のようだ。
 目が閉じているように細い男と、一見して分かり難い中世的なショートヘアの女性だ。

 二等空士 ファルケ・エストレヤ 18歳 魔導師ランク/A- センターガード兼フルバック

 二等陸士 エアラ・マジェスティ 17歳 魔導師ランク/B フロントアタッカー

 打って変わってこっちは風変わりだ。
 ファルケの方は芸能事務所に所属しており、今も芸能活動との二足の草鞋である。
 エアラの方は写真だけを見ればメイドのような格好をした少女だが、その性別の欄は男と記載されている。


 これだけ異色の魔導師の集まる部隊。一筋縄ではいかない存在に心してかからねばと思うはやてであった……。


 >>To Be Continued



 あとがき

 どーもこんばんは。新長編『Dirty Wizars』のプロローグ。いかがだったでしょうか?
 今回のテーマは『アンチ機動六課』、『アンチフェイト』、そして『アンチTV本編』となります。
 っていつもの事ですね……。それがいつもな俺も俺ですが……。
 と言う事で機動六課と行動を共にする事になった別の部隊が登場し、色々な面で対立する事になります。
 まあ、タイトル及び部隊の背景の元ネタはこれ見たら分かりそうですけど『ダーティ・ハリー』。
 更に操作チーム外に協力者が3人ほどおります。ただし六課のような権力者ではない闇の住人です。
 それにあたって色々とページから削除してしまった長編や短編もあるのですがね……
 ネタそのものは流用して再利用と言う形で、消え去った長編からもいろいろと出てきますよ。
 時間軸はスカリエッティ事件の直後から、新人4人の卒業までの間かなぁ。多分空白がありますよね?
 ではまあいろいろとありますが、新長編をよろしくお願いします。





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