Dirty Wizards


 Burial.2 『 Wild Rock 前編』


 はやてが一通り資料に目を通して一息入れようかとしたその時だった。
 呼び出し音が空気を揺らすと共に非常通信回線が開いた。
『八神部隊長! 訓練用のガジェットが突然暴走し始めましたッ!!』
「なんやて!? 状況は!?」
 普段なら取るに足らない相手ではない。だが、今は戦える人間が少ないうえに隊舎の損壊は避けたい。
 非戦闘員のスタッフが明らかに多く、怪我人が増えかねない。
『1型が40、2型が80、3型が25機です!』
「分かった。スターズ2、ライトニング2、ライトニング4及び私は空戦で2型を、スターズ3・4両名と、ライトニング1、3は陸戦で1型と3型の迎撃。場合によっては破壊してもかまへん。ロングアーチは非戦闘員の誘導と負傷者の治療を最優先に行動を開始して」
 命令を告げて通信を切り、はやては自分のデバイスをスタンバイする。
 隊長もフォワード陣も全員残っている分幸いだが、いかんせん非戦闘員の多さがネックになる。
 しかも、原因不明だからといってこのような不祥事を公に晒されるのも困り物だ。
 可能な限り秘密裏に処理したいが、そうなればかなり規模の大きい結界を行使する必要性も出てくるだろう。
「ああ……」
 ここにいない昔馴染みを少しばかり思い出したが、無い物ならぬ無い『者』ねだりをしても仕方が無い……。
 とにかく、今はガジェットを沈静化させる事が先決である。
 まずは隊長と一緒にいるはずの管制人格と合流すべく行動を開始した。


 爆音、爆音、爆音――――
 狂える科学者の生み出した狂える機械の雑兵共は、既に隊舎の中で猛威を振るい始めていた。
 誰もが予想しなかった事態。既に主の命令が無い機械が動くなどと……。
 このまま戦えばその余波で隊舎そのものが崩壊してしまう危険もある。
 普段以上に威力を加減して撃った魔法がAMF(※アンチマジックフィールド)を貫く事は出来ない。
 さらに狭い場所で射撃魔法を使うのは、味方に被弾する危険性が大きく、いくらエントランスとはいえ何人も密集しているこの場所で発動させるのは自殺行為に等しい。
「くっ、このぉっ!!」
 ティアナが拳銃型デバイス、クロスミラージュを両方ともダガーモードに変形させて1型に向かって斬りかかる。
 魔力の刃が前方にいた二機のうち一機の中心を貫き、機能を停止させた。
 が、もう一機がティアナの片腕を伸ばしたコードで絡め取る。それを認識した瞬間、ティアナの視界と脳髄が真っ白になった。ガジェットがコードを通じて放電したのだ。
「ティアナさん!」
 本人の耳に届かない声と共に彼女の真正面を大槍がブースターに点火した状態で横切り、ガジェットを串刺しにしたまま壁に突き刺さった。
 槍型のベルカ式アームドデバイス、『ストラーダ』をその使い手エリオが咄嗟に投げていた。
 しかし、上策とはいえない。10歳の子供にすぎないエリオが武器を手放してしまえば、格好の獲物になるのは自分の方だと言う事を見落としている。
「みんな伏せてッ!」
 フェイトはバルディッシュを鎌に変形させ、三日月を思わす金の魔力刃をブーメランのように飛ばす。弧を描いて飛ぶ刃が1型、3型を数機真っ二つに両断した。
 この隙にエリオは手放したストラーダを回収すべく壁に向かって走り出す。が、今のエリオは一方に気を取られている無防備な的だ。3型がミサイルポッドを展開してエリオに照準を定め、無数のミサイルが発射されようとしていた……


 空戦のほうも状況は似たようなものであった。
 こっちはこっちで物理的な破壊が生じる危険は少ないが、事を勘付かれるほど高い威力の魔法を乱発する事は出来ない。可能な限り最小限の魔法で片付けて置かなくては、後々面倒ごとが増えるだけだ。
「アクセルシューター」
「シュワルベフリーゲン!」
 桜色の魔力弾と紅い魔力を帯びた鉄球が一発を貫通させる事で、2型30機余りをそれぞれ5〜6発で撃墜する。
「飛竜一閃!」
 さらにシグナムは剣を蛇腹状に鎖で繋がれたシュランゲフォルムに変形させ、鞭のように振り回して薙ぎ払う。
 その背後でフリードリヒが戦闘形態で炎を吐き、2型を火あぶりにしていた。


「いやぁ……随分派手にやってますね〜。訓練でしょうか?」
 黒いスーツに身を包んだ眼鏡を掛けたサラリーマン風の青年が、のんきそうな声で呟いていた。
 そこは機動六課隊舎のすぐ前を通る道路だ。彼が運転したらしき左ハンドルの白い乗用車には他にも3人の姿が確認できた。
「の割には、穏やかじゃないよ? ブラウ」
 助手席から出てきたのは、若干ウェーブのかかった長い黒髪が印象的なメイドが出てくる。
 しかし、格好は正統なメイドと言うよりは、ノースリーブにミニスカートのエプロンドレス、オーバーニーソックスをガーターベルトで吊り下げていると言う、どちらかと言えば夜の水商売に近い印象を見るものに与える
「二人とも気を引き締めろ、これは戦闘の空気だ」
 続けて後部座席から白いコートの男が姿を見せた。
 灰色の長髪を首の後ろで束ね、閉じているかのように細い目がどこか冷たい空気を放つ。
「エアラ、ゼファー……そんな事は無論分かっていますよ」
「そんじゃ、戦うってワケかい。じゃ、思いっきしハデに行こうぜ♪」
 最後に現れた長身の女性は、ピンク色のショートヘアに淵の細いサングラス、革ジャンに膝や腿の部分が破れたジーンズと言う、胸の膨らみが無ければ女性とは思えない格好をしていた。
「そうですね。エルダ、ところでディーノはどちらに……」
「あそこだ」
 ゼファーと呼ばれた白コートの男が指を刺した先、隊舎の屋上に黒ずくめの男がいた。
 それを確認するや、全員の頭に声が響く。
『聞こえているな?』
「ええ、全員大丈夫ですね?」
 ブラウが確認すると、次の念話が届く。
『ゼファーとエアラ、お前たちは内部のガジェットを。ブラウ、エルダは空戦で2型のガジェットをそれぞれ叩け』
「ディーノはどうすんの?」
『状況を見て不利な方に向かう。それとあのバカはどこ行った?』
「ファルケなら、先ほどドラマの収録があると言って別れましたよ」
『またか……。まあいい、ターゲットをそれぞれのやり方で……狩れ!」
『了解ッ!』


 念話による通信を終えて、ディーノは隊舎の屋上へと跳び移った。
「まったく……たかが一部隊に勿体無すぎるぐらい豪勢な隊舎だ。今はさすがと言って置こうか」
 そう呟いて、ディーノが首から下げた弾丸のペンダントに魔力を送り込むと、瞬く間に回転式拳銃『S&W M29』に姿を変えた。黒く無骨に輝く相棒にスピードローダーでベルカ式カートリッジを装填する。
「狩りを始めるぞ」
 相棒はディーノに対して声を発さず、紫の燐光を放つ事で答えた。



 >>To be continued



 あとがき

 ひさしぶりの更新です。だけど前後編……。ひとまずダーティ・ウィザーズの顔見せ(一人除く)となりました。
 微妙に分かりにくかったかもしれないので一応おさらい。

 ブラウ→スーツに眼鏡
 エアラ→メイド
 ゼファー→白コート
 エルダ→ピンク髪

 となります。

 後編ではこいつらがなりふり構わないアバレっぷりを見せる事になるでしょう。





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