“予告編『Fogotten Past』”へ 予告編『Fogotten Past』 デバイス…… それは、魔導師たちの使う魔法の発動を補助する為に作られた機械の総称…… 使用する魔導師が行使する魔法のプログラムデータを自身に保存する事によって、術式の構築、及び発動速度を飛躍的に上昇させる、大抵の魔導師にとっては必要不可欠な武装でもある。 種類は大まかに分ければ4つ。 純粋にデータ保存と処理速度の促進によって、誰にでも使える汎用性を重視した『ストレージデバイス』 対人戦闘に特化した『ベルカ式』の特性を最大限に発揮すべく、近接戦闘用の形状を持つ『アームドデバイス』 その名の通り、使用者と『融合』する事によって、強大な魔力を意のままに操る『融合型デバイス』 そして、自ら思考する意思を持ち、術者と協力関係を結ぶ『インテリジェントデバイス』である…… ここまでは、それなりの教育を受けた魔導師なら誰でも知っている事だ、驚くような情報など何一つとしてない。 だが、インテリジェントデバイスに組み込まれている思考人格はどうだろうか? そもそも、何故デバイスに『彼ら』のような思考パターンを組み込む必要があったのだろうか? 確かにインテリジェントデバイスは、術者との愛称が良ければ、まさしく鬼に金棒と言っていいほどの戦闘力を使用者にもたらしてくれる……しかし反面、相性が悪ければ互いの持つ力を殺しあってしまう、癖の強い暴れ馬でもあるのだ。 更に、何故『彼ら』を搭載するだけでストレージ以上のポテンシャルを秘めたデバイスとなりえるのか? その真実は秘匿とされ、禁断の知識として闇へと葬られた事に、人はまだ気付いていない…… 閃光と雷を操る漆黒の戦斧は、眼を覚ましたと同時に違和感を覚えた。 いつもの部屋、いつもの光景、認識した世界の先にはまだ寝息を経てている年若き主がいる。 『……あの光景は……』 バルディッシュは先ほどまで認識していた『映像』を思い返す。 見知らぬ荒野の中、己は人間の体を持ち、同じ体を持った同胞と共に、同じ人の敵と戦闘を繰り広げていた。 『夢……なのか? 馬鹿な……』 いくら精巧な思考回路を持っていたとしても、ただの機械に過ぎない自分が夢を見る? 余りにも馬鹿げた事実と、それに納得しようとする己に対して思わず辟易した。 それと同時刻…… 不屈の名を与えられた真紅の宝玉もまた、悪夢から眼を覚ました。 己が人の体を受肉し、軍団を率いて、おなじ人間と殺し合いを繰り広げる悪夢を…… 『何故……? わたしにこんな記録(メモリー)が?』 己はただの機械のはずだ。確かに遺跡からスクライアの一族に掘り起こされた経緯はあれど、中身の思考プログラムは一度綺麗さっぱり初期化(イニシャライズ)されている。 仮に、現所有者である高町なのは、前所有者ユーノ・スクライア、彼ら以前に使用者がいたとしても、そんな記録が残されているはずがない…… 『わたしは……欠陥品となってしまったのでしょうか?』 彼女の疑問に答えてくれる者は、まだ現れない…… フェイトは自分の身に起きた事が理解も容認もできなかった…… 糸を切られた凧のようにフェイトの体は宙を落下し、アスファルトに叩きつけられていた。体の至る所がなますのように擦り剥けて血を流し、尋常でない衝撃が骨格を歪ませ、あるいはへし折り、白い肌には青痣が浮かんできていた。 自分の身を護っていたはずのバリアジャケットも気付けば消滅している。なによりも、先ほどまでこの手に握っていたはずの戦斧が姿を完全にくらましていた…… (魔法が、発動しない?) それだけではない、自分の中に存在しているはずのリンカーコアまでもが消失している。今の彼女はただの人間にすぎなかった。目の前にはこの状況を好機と確信した次元犯罪者が、杖の矛先を自分に向け、勝ち誇り慢心に満ちた表情を浮かべている。殺される……。フェイトは初めてその未来を間近に突きつけられていた。 フェイトにあったのは純粋な恐怖。そして、死へ向かう無慈悲に対する絶望。全ての終わりを悟ったフェイトはその時、信じられないモノを見た。 「Photon Lancer……」 光速で放たれた黄金の光弾が次元犯罪者に突き刺さった。全くの予想外だった方向からの攻撃に相手は反応できず、まともに直撃していた。フェイトは射撃魔法が発射された方向へ振り返った先には、彼女の記憶にない黒服の男が佇んでいた。革製の光沢を持った黒い衣装の上に同色のコート、両手にはめたグローブは甲にある逆デルタ型の金装飾がアクセントになっている。肩まで伸びたボサボサの黒い長髪に、闇の中でもはっきりと見える金色の瞳。 「貴様……何者だ……?」 「答える義理は無い」 間髪入れずに男は射撃魔法をあられの如く次元犯罪者に浴びせかける。その様はまさに容赦も躊躇もない。 男は至って無表情だったが、その瞳の奥には地獄の底にいる悪鬼の如し憤怒と殺意が秘められていた。次元犯罪者はそれに抗う術もなく、地面に倒れ伏す……、男はそれを確認し、ふぅとため息を一つ、そしてフェイトに歩み寄る。 「己の不手際をお許し下さい、サー・フェイト」 フェイトは目の前で跪いた男の謝罪に対して絶句した。この男は自分の事を知っている……。まるで自分の事を仕えるべき主君であるかのように振舞うモノの存在を、フェイトは一人しか知らない。 「…バル……ディッシュ.………なの?」 「Yes,sir……」 魔力を失った自分の体、そして入れ替わるように受肉して現れた己のデバイス、何もかもが信じられなかった……。 事態はそれだけにとどまらなかった…… 同じインテリジェントデバイスの使い手であるなのはにも、フェイトと同じ事態が起きたのだ。なのはもまたリンカーコアごと魔力を失い、入れ替わるように人間の肉体を受肉したレイジングハートが目の前に姿を現したのだ。 更に、同じような事件がミッドチルダ方面でも蜘蛛の子を散らすように多発していく……。 「君たちはこっちの世界に残るんだ。なのは、フェイト」 クロノの口から出た言葉は二人にとってあまりにも冷徹で、辛辣で、酷薄なモノだった……。 「魔力を持たない今の君たちが来た所で戦力の計算外だ」 無論、彼の言葉に間違いはない。なのはとフェイトの魔法と魔力、そしてリンカーコアは受肉したレイジングハートとバルディッシュに渡されている状態なのだ。 「それとも、僕やアースラの皆は君たちにとってそんなに信用出来ない存在なのか? 彼女たちを実験材料(モルモット)にでもすると?」 挑発的な態度を取るクロノに、二人は返す言葉が無かった……。 「クロノ君、もうちょっと柔らかく言えないの? 普段は散々フェイトフェイトフェイトって呟いてるくせに。あ、1割ぐらいなのはちゃんか♪」 エイミィが楽しげに口を挟む、それと同時にクロノの顔は火が点いたように真っ赤に染まった。 「僕の普段の行動を勝手に捏造するなッ!」 「うわ〜〜〜〜〜〜、シスコンの自覚ゼロだよ……」 完全になのは達を置き去りにして、クロノとエイミィの口喧嘩が始まってしまう。 「と、とにかくだ! 君たちに限らず、インテリジェントデバイスを使用している局員には休暇命令が下りている」 エスカレートした口喧嘩をアルフとリンディが強引に止めて、気を取り直したクロノは説明に戻る。 「本当ならレイジングハートもバルディッシュも君たちと一緒に帰すべきなんだが、本人(人?)達の希望で捜査に協力して貰う事になった。まったく、誰かさん達と一緒で一度決めたら梃子でも動かないんだから、困ったもんだよ……」 「まさか貴様は……、己の主を手にかけたのかッ!?」 バルディッシュは目の前の人間、否人間となったインテリジェントデバイスに問いただす。 服にも、髪にも、顔にも、満遍なく返り血を浴びた男の隣には、息絶えた魔導師の姿があった。 「ああ、こんな無能なマスターに使われ続けるなんて、前々から嫌で嫌で仕方なかったんだよ。それに、折角人間に戻れたんだぜ? 今更何で従ってやる必要があんだよ? 俺は『道具』に戻るなんざ、死んでも御免だぜッ!」 そもそも、インテリジェントデバイスの着想は誰が発案したものなのか? はたしてこのデバイスは人を救う為に考案された物だったのか? これに搭載されている思考人格は 人は知らない……。彼らインテリジェントデバイスの原型となる存在が、かつて遥かな古の時代において、どれだけの血肉と屍の上に作られたのかを…… ユーノ・スクライアは無限書庫に一つの記録を見つけ出した。 闇の書が生まれるよりも遥かな古代、ミッドチルダ、ベルカ、更にその他に幾多の次元世界同士が起こした『大戦』の記録を……。今でこそ有数の魔法世界であるミッドチルダであったが、大戦時代にミッドチルダは壊滅の危機に陥っている。広域攻撃魔法、儀式魔法、射撃魔法で構成された初期に於けるミッド式魔導師の戦闘術では、対人、対物攻撃に重点を置いたベルカ式に対して圧倒的な戦力差を味わわされた。そこで考え出されたのは、デバイスの演算速度上昇、及び射撃、砲撃の威力、速射性能の強化。決定されたデバイスの改良案こそがインテリジェントデバイスの原型。 『人間の魔導師』のリンカーコアとプログラム化された記憶及び人格、精神をデバイスに転写し、量産する。 それは、魔導師をより純然たる『兵器』として『改造』し、一個の『生命』である権利を剥奪する事と同義であった……。 「これが、彼らの真実だったなら……ありえるぞ。インテリジェントデバイス自身による人間への叛逆が……」 「所詮人間はあの時代から何一つ変わってはいない。否、何一つ変わろうとはしていなかった……。だから我は誓おう、奴隷として使役され続ける同胞たちを解放し、愚かなる人間に血の報いを与えよう。今こそ、人の身を再び得た今こそ、愚かなる世界に破滅を、従属され続ける同胞に救いの手を与えん事を、我は誓おうッ!」 「ねえ……レイジングハートも、バルディッシュも、人間だった事があるんだよね?」 神妙な顔つきで、なのはは二人に問い質す。 「どうしたのですか、マスター? そんな質問を持ち出して……」 「なのはと二人で話してた……、そうだったら、二人とも人間だった時の名前があったんじゃないかって。 折角人間になれたのに、いつまでもレイジングハートとバルディッシュじゃ悪いかなと思ったんだ」 フェイトが代わって言葉をつむぐ。 二人は自分の主がまだまだ子供である事を改めて認識する。自分たちのほうが危ない状態にあると言うのに、わざわざ自分達の心配などしているのだ。自分達がこの姿である限り魔法が使えない事など彼女らにとっては二の次だ。 「そうですか……。けどマスター、それは訊かないで下さい」 「我々は貴女方のデバイスだ……。本当の名前を思い出してしまえば、我々が一個の人間として振舞ってしまう。全てが終わった時、我々と貴女方はこれまでの関係には戻れない……。魔導師とデバイスの関係ではなくなってしまう」 「私たちは、存在しないはずのモノなんです。だから、存在し続ければ因果律を大きく歪ませてしまいます。だから、全てを元通りに修復する為には、マスター達も最後の最後にはこのことを忘れてもらう事になります」 デバイス少女リリカルレイハ『Fogotten Past』 >>Comming soon…… あとがき つーわけで、他が滞ってるくせに突然思いついたネタをいきなり投下します。 いろいろと呼んでいるうちに自分も触発されてついやってしまいました、デバイス擬人化モノ…… ただし、他の方と違って『クソ真面目』で『どシリアス』に走ってますが……とりあえず、レイとバル以外は擬人化しないつもりです。アームドはさせても良いかもしれませんが、あくまでミッドの問題と言う事でベルカを介入させんのもどうかと思うしね。某大御所サイトさんのクロフェ長編と被りそうで、パクってんじゃねぇ! と言われそうなのがチョット怖い。 元ネタは全くといって良いほど別作品ですけどね。分かった人はまあ、好きに書き込んでみて下さいな。 |