砕かれた夢の欠片を求めて……見知らぬ街を彷徨う…… 血と硝煙の臭いに連れられて……死神が影を追ってくる…… 行き着いたのは……見てはならない世界の影…… 『StrikerS Other World』 Part.1 掃き溜めの街の中で ビデオを繰り返し再生するように訪れる訓練の日常、今日もまた朝がやって来る。 スバル、エリオ、キャロのフォワード3人は食堂へ集まった。すがすがしい朝だが、3人の表情は沈んでいた。 「スバルさん……。その……元気、出しましょうよ!」 パスタを皿に盛りながらエリオは無理矢理笑ってみせる。自分が男だから何時までも泣いていられないと言う気持ちもあったのだろう、だが今のスバルにそれを汲み取るほどの余裕が無い。 『ランスター二等陸士はMIAと認定されました』 今もスバルには克明に思い出せる。高層ビルの立ち並ぶ都市での戦闘、飛ぶ事の出来ない自分とティアナにとって空中の生命線である、《ウィングロード》がほんの一瞬、彼女の判断ミスでGJのAMFに引っかかって解除された。 スバルは辛うじてビルの外壁に捕まって難を逃れたが、足場を失ったティアナが遥か下の地面へと転落して行ってしまった。死体を確認出来ない事から《行方不明》とされているが、ほぼ死亡確定と言う事で取られてしまっている。 何年も一緒にやって来た相棒。ティアナがどうだったかは分からなかったが、スバルにとっては彼女意外の相棒など考えられもしない。同性愛とは無論違うが《比翼の鳥》のような感情を抱いていたと思う。 だからこそ、失ってしまった今のスバルは文字通り《抜け殻》のようだった。いつもの弾けるような生命力に溢れた目は虚ろで透明で精気がごっそりと抜け落ちているようにさえエリオとキャロには見えていた。 なのは達も気を遣ってくれてはいるが、それでも事件は待ってくれない。レリックもガジェットドローンも容赦はしない。 現実を受け入れ、彼女の死を割り切る事が出来なければ、次に死ぬのはスバルだ。 「スバルさん。ティアナさんの事……悲しいのは分かります。でも、今のスバルさんを見たらきっとティアナさん怒ります」 『キャロ……』 その言葉にはスバルだけでなくエリオも目を丸くしてキャロを見つめている。 「ティアナさんとは、スバルさんみたいに付き合いは長くないけど、そんな感じの人だってなんとなく分かって来たんです」 スバルはため息を一つ吐き、キャロの凛とした目を見る。 「そっか、ティア……怒っちゃうか」 ぱんぱんと両手で頬を叩く。 「よしっ! 落ち込むのは止めっ! そもそも死体は見つかってないんだもんね! もしかしたらひょっこり帰ってくるかもしれないし、その時はみんなで驚かせよう!」 たとえそれが、藁にもすがるような小さな希望でも、その先に本当の絶望が待っていたとしても、今のスバルは信じるしかなかった。そうしなければ、とても立ち上がれなかったから。 堕ちていく……、闇の中へと落ちていく、このまま死ぬのだろうか? 空がどんどん遠ざかって、下は何も見えなくて、それに、クラナガンにいたはずなのに周囲の景色は見慣れない廃墟に変わっていて…… 「うわぁぁぁーーーーっ!!!!!」 ティアナは飛び起きた。気付けば汗びっしょりでベッドの上に寝かしつけられている。服は着替えさせられていて、ぶかぶかで鼠色のパジャマ姿……。管理局の制服を探すと、そこは見慣れない薄汚れた部屋の中だった。 「ここ……どこ?」 足を床に着くと、コンクリート特有のひんやりしてざらざらした感触が足の裏に伝わってくる。 寝ぼけ気味の体を窓の外へ乗り出すと、そこにはまったく知らない景色が広がっていた。 所狭しと隙間無く立てられたコンクリートビルの廃墟、殆どの場所に日が当たらないだろうその造りはいろいろな意味で奇妙な物だった。まともな道路は見る限り少なく、自動車は愚か自転車さえも通ることは困難だろう。 この部屋はまだ日の光が当たっているからマシな方だ。下の方を見れば建物の間には洗濯物が垂れ下がった紐や電線が蜘蛛の巣のように張り巡らされ、まともに太陽の光は届かない、上を見てみればここは大きな穴の中にあるような、そんな感じの場所なのだ……。入り口と言えばいいのか? 空にはクラナガンでよく見る高層ビルの影がある。 だとすれば、ここはクラナガンのどこかなのか? しかし、こんな場所の事など見たこともなければ聞いた事も無い。 そんな思考の迷路に突入しそうになった時、背後から声がした。 「気が付いたか?」 後ろを見ると、ティアナと余り変わらないぐらいの青年の姿があった。 手入れなど知らないようなざんばらに切った茶髪に灰銀の目、ティアナより一回り高い長身、革ジャンに破けて穴の開いたジーンズとシャツ、首からはドッグタグを下げている。 「あの、ここはどこなんですか? あたしはどうしてここにいるんですか? えっとそれから、今は何月の何日ですか?」 青年はハァ……とため息を付きながら 「いっぺんに聞くなよ、順を追って話してやるから。お前はこの街に落ちてきて丸3日間眠ってた。 オレはお前が落ちてくるのを見つけて助けた。で、ここはオレん家でお前が気絶してたから運び込んできた」 かなりかいつまんだ説明だったが、自分がどうしてここにいるのかは分かった。 「お前も運が良かったぜ、ティアナ・ランスター。拾ったのがオレじゃなかったら、クスリ漬けにされて娼館に売られるか、それとも身包み全部剥がされて、犯されて棄てられるかしてただろうよ」 物騒な単語が口からさらりと出てくるあたりにティアナは辟易したが、ふと違和感に気付く。 「どうして、私の名前を?」 「ほらよ」 青年はカード状のなにかを自分に投げてくる。それは常にスーツのポケットに携帯している時空管理局の身分証明用IDカードだった。 「勝手だが調べさせてもらった。素性が分からねえヤツを無条件で置いてやるほど無用心でもお人よしでもねえからな」 素っ気なく言われて今度は服を幾つか投げ渡される。 何の変哲もない長袖のTシャツと古めかしいジーンズに、スニーカーとポケットが多くついた赤い半袖の上着。 「ここじゃお前の小奇麗な制服はイヤでも目立つ。それに着替えろ。着替えたらこの街を案内してやる」 「あの、あなたの名前は? それにどうしてこんな親切にしてくれるんですか?」 ティアナの質問に青年は少し黙った後こう答えた…… 「周りには《ジョーカー》で通してる。だからそう呼べ。それとお前を助けたのは、オレが《半端者》だからだろうな」 それだけ言い残して、ジョーカーと名乗った青年は部屋から出た。閉めるドアは無く覗こうとすれば簡単に覗けてしまえる部屋の構造に細心の注意を払いながら、ティアナは渡された服に手足を通した……。 続く あとがき つーわけで、地獄ティアナ編の続きです。ジョーカーの登場が早まりました。 展開が飛んでますがそこはお許しを……。ティアナは見知らぬスラム街へと流れ着きました。 てゆーか、こんな『九龍城砦』みたいな街はTV本編じゃ絶対に出てこないでしょうな。 こんなうらぶれた街の中になのはキャラが入り込む余地ないでしょうし、ハードボイルドな空気も似合わないしね。 イメージ的には『装甲騎兵ボトムズ』とか『ブレードランナー』とか『シン・シティ』とか『GetBackers』辺りです。 次回はさらにアリエナイ世界観のこの街で、魔法少女の魔の字だけでなく萌えの草冠の一画目すら浮かび上がりそうに無いハードでダークでクリミナルなストーリーに磨きをかけていく所存にあります。 |