毒にはそう毒が必要、力だけが全てだ……
 独裁者を血祭りにしろ、邪魔者は排除しろ……


 StrikerS Other World

 Part.2 『GOD BLESS ×me××××』


 ティアナはジョーカーに連れられて部屋を出ると、そこには異世界が広がっていた。
 最初は長い階段を降りて地面に足を着く。廃墟に囲まれた路上は光届かぬ影の世界だ。
 排煙の混ざった空気に乗ってゴミの混ざった汚水の悪臭が鼻を突いてきて呼吸する事を拒みたくなる。
 ジョーカーから聞かされた話は、ティアナにとっては己の耳を疑う内容だった。確かにここはクラナガンの一区画であるらしい。街の名前は《オルデュール》。それも誰が言い出したのか定かではない。
「ここは本来、お前みたいなヤツが来るべき所じゃない」
 歩けば歩くほど、その言葉が真実味を帯びていく。
 路上の端では何をするわけでもなく無気力な目で座り込んでいる者もいれば、いろいろと使えるのか使えないのか分からない物をシートの上に置いて売っている者も、あるいは注射器を片手に異様な恍惚感を浮かべる者もいる。
 足元にはゴミが散らばり、アスファルトの具合から何十年も整備されていない事も分かる。
 本当にこんな場所を街だとでも言うつもりなのか? まともじゃない人間が寄り集まっただけの廃墟を……。
「着いたぞ」
 ジョーカーに声を掛けられて首を前に向けるとやはり似たような二階建ての廃ビルだった。しかし同じようなビルでもそこは少し違った。ドアの前には看板が掛けられ、窓にはちゃんとガラスが張られている。壁も古くなって入るが塗装が施されており、今まで通り過ぎた際に見た建物に比べれば随分とまともな印象を受ける。
 看板には《XTC》と書かれているが、それがここの名前だろうか?
 ドアを開けたジョーカーに続いて中に入ると、きれいに並べられた席と、そこに座って食事やゲームに勤しむ見た目は物騒そうな客が談笑している。
「よぉ、レイロン! この店まだ潰れてなかったんだなぁ!」
「んもぅ、失礼ね!」
 カウンターの向こう側でジョーカーが話しているのは、背の高い男性だった。しかし、顔には過剰なほどの厚化粧を施し、女物の服を着て女のような口調で会話している。いわゆるオカマと言う訳だ。
「あら〜? ジョーカーちゃん! この女は一体誰!? アタシを差し置いて彼女作っちゃったのォッ!?」
 レイロンと呼ばれた男は入り口に呆然と立っているティアナの存在に気付くや否や、ズレた叫び声を上げる。
「あ、あの〜」
「ああっ! ジョーカーちゃんを誑かす女狐はたとえ天が許しても、このアタシが許さないんだからねぇっ!」
「落ち着け!」
 スパーン! と小気味のいい音が響く。
 ジョーカーがどこから持ち出したか分からないハリセンでレイロンの頭をはたいていた。
「痛いじゃないの!」
「知るか! 勘違いってのはこうでもしねえと止まらねーだろ!」
 ジョーカーはレイロンの事を諌めると、順を追って説明を始めた。
 3日前の夜、街の周辺で起きていた戦闘を観察していたジョーカーが、空から落ちてきたティアナを偶然見かけて間一髪で衝撃緩和フィールドの魔導式を構築してアスファルトに転落死するところを救い出した。
 そして、街中に跋扈するならず者に見つからないよう、ジョーカー自身のねぐらまで連れて行ったと言う事だ。
「妙に騒がしかったかと思ったら、こんなとこにまであの妙な機械ってやって来てたのね。《レリック》だったっけ? 高純度のエネルギー結晶体? それにアレの一部の機体には《ジュエル・シード》が埋め込まれているって話じゃない?」
「その辺利用して、今度こそ《オルデュール》も完全に消されちまったりしてな。時空管理局によ……
 で、こいつはそれに一枚咬んでるらしい。ドジって身一つでこの街に落ちて来ちまったのは同情するけどよ」
 どうやら、この街の間でもレリックとGJ(ガジェット・ドローン)の事は少なからず知られているようだ。
 しかし、どうして? レリックの事もGJの事も民間に対しては情報の公開が制限されているはずであるが、2人の会話からはそれ以上の情報が漏洩されている形跡が見て取れる。
「とまぁ、まだるっこしい話はここまでにして、オレ達2人とも腹減ってるんだ。なんか適当に作ってくれよ」
 と言いつつ、ジョーカーはクラナガン共通の紙幣を2枚レイロンに渡す。
「1枚でいいわよ。あんたの分はアタシの奢りってことでね♪」
 レイロンはそう言ってティアナにウィンクを投げつつ厨房のほうへと向かって行った。
「オカマで気色悪いかもしれねぇけど、この街に住んでるヤツの中ではマシな方だ。アレぐらいは許してやってくれ」
 ジョーカーは呆れ半分、面白半分、と言った感じでティアナに話す。
「あの、ジョーカー……。本当にここはクラナガンなんですか?」
 ティアナの質問にジョーカーはため息を付きながら更に信じられない話を吐き出した。
「ああ、ここは昔、予算面で開発に失敗した《クラナガン新都市計画》の跡地だ」
 それはまだティアナの上官である高町なのはの存在が知れ渡るより更に時を遡った話……
 クラナガンは現在のような首都の姿をとる前はまだ、いくつもの中規模な都市がバラけている状態だった。5〜6存在していた都市を一つに合併することによって、現在のような巨大都市となり首都として機能し始めたのだ。
 その際に立ち上がった二つの計画の内一つがこの街の原型のようだが、開発途中に資金提供をしていた議員及び建設会社が汚職の容疑で起訴された事から計画はそのまま流れてしまい、この廃墟だけが残った。
 それ以後、新都市計画に乗ってきたものの様々な問題で市民権を得る事の出来なかった人間が寄り集まって出来たのが、このオルデュールの街だった……
「でもって、首都にそんな街があるなんて思われたくもねーお偉いさんは、ここを覆い隠すようにビル街を建設して、周囲には擬装用結界のオマケまで付けて監視施設まで造った。それでも流れてくる人間は後を絶たない、住む場所を増やす為に強引にビルは増築された。おかげで、太陽の光もロクに届きやしない『穴蔵の街』が完成したってワケだ」
 全てが、ティアナにとっては初めて知る話であった。クラナガンの影にこんな街が存在していた事。
 そしてその存在をひた隠しにする政治体制。 管理局も同罪ではないのか? 自分達の足元にこんな無法地帯が広がっていると言うのに何故介入しようとしない? いや、理由は分かっている。
 上に逆らう事になるのだから管理局も動く事は出来ない、法の力など何の役にも立っていないのだ……。
「結局はそう言うことなのよ」
 厨房から出てきたレイロンが口を挟んだ。両手にはパスタの乗った皿が一枚ずつ、つまりは2人分ある。
「お待たせ。お嬢ちゃん。この街の名前の意味って分かる?」
 ティアナはそう聞かれて首を横に振った。
「でしょうね……。オルデュールって言うのは、《ゴミ》って意味よ。そう、クラナガンの表側に見せたくないモノをかき集めて押し込んだ《掃き溜め》の街……。ここではあらゆる事が許されるわ。『窃盗』、『強盗』、『暴力』、『賭博』、『売春』、『薬物』、『人身売買』、他にも色々。自分が生きるためなら他人を殺す事なんて空気のような世界……」
「しかも一度入り込んじまったら、簡単に抜け出す事もままならない街だ。明日の朝日を拝む事無く死ぬ、なんて事が日常的に起きちまう。元の居場所に帰るのは残念だが難しい……」
 不思議と、絶望や悲観は沸いて来なかった。そんな物に浸っている暇があるなら行動を起こすべきだ。
「冗談じゃない。あたしには実現させる目標も、証明しなきゃいけない存在も、超えるべき壁もあるの。
 こんな所で終わるつもりなんか無いわ! 意地でもこの街から出て、クラナガンに帰ってやるんだから!」
 ティアナは二人に向けてそう凄んでいた。
「やっぱりそう来たか……。流石は《流星のランスター》の妹だな! 面白いじゃねえか!」
 ジョーカーは笑いながらそう言ってくる。ティアナはたった一つの単語に耳を釘付けにされていた。
「兄さんを知っているんですか?」
「……噂を聞いた事があるだけだ。珍しい性だから覚えてたんだよ」
 そう、返しつつもジョーカーは必死だった。己の昔を打ち明けるわけには行かなかったからだ。
(これが、あの小さかった女の子か……)
 だが、せめて道を指し示してやろうと思う……。尊敬した魔導師と同じ轍を踏ませないために……


 あとがき

 つーわけで、リリカルなのはにまるで見えない、世界観ぶち壊しの街がベールを脱ぎ始めてきました。
 TV本編の優しすぎる世界では存在し得ない、社会のゴミをかき集めた悪臭漂う闇鍋シティー《オルデュール》。
 イメージとしては前にも言いましたが『装甲騎兵ボトムズ』第1クールの舞台になった無法地帯『ウド』
 この先も反則イカサマなんでもアリの闇賭博とか、局員魔導師崩れが戦う闘技場とか、日常的に人が無残に殺されたり、小さい女の子が路上で○○されたり、ストリートギャングが我が物顔で歩くような世界を書いていく所存であります!





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