空から見れば地を這う者全てが、小さな虫のようにしか見えないものだ……
 優雅に飛ぶ鳥は、大地で生きる芋虫をただの食い物としか思わない……


 StrikerS Other World


 Intermission 『異郷に咲く花』


 絡みつく声がまだ鼓膜に残っている……
 離れない残像は記憶に彷徨って……


 静まり返った部屋の窓から、クラナガンの夜景を見下ろす影が一つ……
 整えられた長い髭がいかつい表情と相俟って、近寄りがたいと言うか嫌われ者のような雰囲気を纏っている。
 長年前線から退いているからか、あるいは初めから前線など出た経験が無いのか、軍人とは思えない肥満体。
 当の本人も自分の口の悪さとこの容姿から、あまり良い印象が無い事は充分に承知している。
 照明も消さないまま、自分のデスクに座り、ディスプレイを機動させる。
 そこには、三人の男性、2人の少年の肩を寄せて映る一人の青年の姿があった……
「……お前たちは儂を今でも恨むか……」
 本人にとっては返答の分かり切った問いを物言わぬ過去の思い出に投げかける……。
 突出した魔力や特殊なレアスキルなど持たなかったが、それ以上の資質を持ちえた良い部下達であった……。
 才能に恵まれながらも。それを己の傲慢さで腐らせるだけ腐らせた。ハリボテのようなエリート共に肉薄して見せた。
 能力や資質と言うものはランクや魔力量、レアスキルを指したものではない事だ。
 それが自分と部下たちにとってのポリシーであった。
 家柄もランクも関係なく、能力と人徳の優れた者を選りすぐった、あの頃の空隊が好きだった……
 だと言うのに今はどうだ? それこそ一部のエリートが全てを掌握したような部隊ばかりだ。
 特に、あの3人のエース。
 高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやて……管理局はあの3人を祭り上げ過ぎている。
 一握りの天才だけが持て囃される、それはいずれ独裁に等しい結果を生んでしまうだろう……。
 それではいけない。だからこそ自分の副官に査察に行かせるのだ。
 自分はまだ彼女達の事は深く知らない。元犯罪者やこちらの歴史をよく知らない管理外世界出身者を、手放しで信用して任せて置く事を容認できるほどお人よしではない……。
「レジアス中将? まだ残っておられたのですか?」
 丁度、そこには女性の副官がいた。
「オーリスか……明日は査察の日だろう? 何故ここにいる?」
「少々、中将の行動に気がかりな点が見当たりましたので」
「何を言うか。あれが儂の本音だ。それ以外に何もありゃせんわ」
 レジアスは寄って来た犬を追い返すような口調で副官を退こうとするが、相手も黙ってはいない。
「私の勘違いならそれでいいのですが、中将は六課に何かを重ねて見ているのではありませんか?」
 眼鏡の奥の冷たい瞳がレジアスを見据える。
 どうもと言うか、やはりと言うか、レジアスはこの副官に口では勝てない。だが、この冷静さが自分の助けになってくれている事が分からぬほど愚かではない。
「お前は、なぜ儂が地上への予算を削減したと思う?」
 オーリスは答えない。
 そう、当初はもっと地上部隊ではありえない潤沢過ぎるほどの予算配分がなされていた。しかし、彼はそれを頑なに否定し、例年通りの予算だけを受諾した。
「簡単な話だ。奴らにとって地上部隊など高ランク魔導師やレアスキル持ち、良家の連中を生かす為の『捨て石』としか思っとらん。予算などただの餌に過ぎん。GJ及びレリック、そして教会の予言の対策など何も無い、奴らにとって大事なのは自らの保身だけだ。だからこそ儂はここにいる。地上部隊を捨て石などにさせんためにな」
 レジアスはそこまで話して、もう話す事は無いと言うように口を閉ざす。
 しかし、オーリスは引き下がらずに抜け目無く返した。
「まだ先ほどの答えを聞いてません。中将は六課に何を重ねているのです?」
「……口ではお前に勝てぬか」
 レジアスはディスプレイの映像を、オーリスの前に移動させる。
「この方々は?」
「儂の部下、いや正確には元部下だ。空隊のな。強大な魔力もレアスキルも持たなかったが、それさえも凌駕する資質に溢れた良い部下たちだった。
 《流星のランスター》、《明星のグランセニアック》、そして《彗星のローレル》。三人とも銃使いで、《トリニティガンナー》、《スター・オブ・デルタ》などと呼ばれたもんよ。
 だが、儂は彼奴らを裏切った。彼奴らが信じた正義をな。儂が功を焦る余り、ランスターは命を落とした」
「この青年の事ですか?」
「ああ、そして儂は彼奴を無能と呼ぶしか出来なかった……。自分の失敗で死んだ大切な部下を《名誉の戦死》などと褒められるものか! だから、そうとしか言えなかった。
 そして、責任は死んだランスター一人に被せられ、空隊は解散。後々分かった事だが、全ては儂らを貶める為に仕掛けた上層部の罠だった! 今の状態を変えるには権力が必要だ。だから儂は地位を求めた……
 グランセニアックの小僧にはしこたま殴られたよ。クソ野郎とな。そして、ローレルの方は行方知れず
 今の儂に出来る事は彼奴らの為に悪を演じる事ぐらいだろう。復讐に来れば命を差し出してやるつもりだ」
 今度こそ、もう話す事はないと言わんばかりにレジアスは口を閉じた。
「中将、やり直すと言う選択肢は本当に無かったのですか?」
「今更無理だろう。儂も彼奴らも考えが若すぎた。間違いは何時だって老いてから気付くものだ」
 今度は機動六課の隊員データベースを開く。
「運命とは皮肉なものだ。もう一人のランスターまでもこんな世界へ呼び込んだ。出来れば一度会って話して見たかったが、それも叶わん。こんな事なら6年前の葬儀に顔を出してやるべきだったよ。ローレルやグランセニアックになんと言われようともな……。オーリス、明日の査察はあの3人は特に念入りに当たれ」
「分かりました。では失礼します」
 再び一人になったレジアスは一人呟く。
「過ぎた力は、己の目さえも曇らせる……。それに気付かぬ限り、《エース》だろうと《ストライカー》だろうとそんな称号はハリボテだ。管理局の魔導師が内からの犠牲を出すなど、あってはならん」
 六課のエース3人、彼女等が自分の手塩にかけた3人の部下と同じ末路を辿らない事を望みつつも、疑わざるを得ない。いつから世界はこんな風に狂ったのか? レジアス・ゲイズ中将は過去と未来の壁に押し潰されていた。


 続く


 あとがき

 オルデュールの方を書くいいながら、何故か中将の話を書いてしまった。
 どうせ本編だと『萌えキャラの言う事やる事が全て正しい』とされて、小物意外の何者にも書かれないでしょうから、思い切って『HELLSING』とかに出てくるようなカッチョ良いおっちゃんを目指して描写して見ました。
 この人結構好きだったりする自分。平野さんだったら俺と違って無能でもかっこよく書けるでしょうな……
 本編はまだどうか分からないけど、ヴァイスさんをティーダ兄さんと同じ部隊の人にして見ました。
 そして、名前だけ出てるローレルさんは多分誰の事かすぐ分かると思います。  個人的に一番注目して欲しいのは冒頭の一文ですかね。本編は改めて見るとなのは達強すぎ、新キャラ光らないで咬ませ犬状態。一番起きてほしくないことが起こってしまった感じです……  いっその事なのはとはやては華々しく散れ! と思ってしまうくらいに……





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