獣拳少女ニキニキヴィータ



 この世界のどことも知れぬ、人里を離れればどこにだって見当たりそうな、地図にも載らないのどかな森にその少女はいた……
「うがーーーーーーーっ!」
 雄叫びと共に無数のパンダの群れが地響きを立てて飛び降りて来た。
 いや、パンダだけではない。その中に一人混じっているのは人間の少女だ。
 伸び放題の赤毛、つり上がった眼、服とは呼べそうにない出来損ないの毛皮を纏っている。
 少女は自分の何倍も大きなパンダを相手にじゃれ合いではなく、取っ組み合いを繰り広げていた……
 もみ合いになる中、少女がパンダの鼻面へ噛み付くと、余りの痛さにパンダの方が耐え切れず、バンバンと地面を叩いた。
「うっっっっっしゃーーーーーーーっ!!!!!!」
 それを確認すると、少女は組み付いた手足を解いて飛び跳ねる。
「すげーーーっ! アタシすげーーーーーーっ!!!」
 パンダに勝った事が今の彼女にとっては何よりも嬉しい事なのだ。
 だが、そんな余韻に浸るのもつかの間……、少女はなにやら不穏な空気を感じると、手近な木へと跳び移り、木の頂上から空を見る。
 鳥のようで鳥でない何か(飛行機と言う名を彼女は知らない)が煙を引きながら森の中へと落ちていく。
「ゾワゾワだ……ゾワゾワのにおいがする……」
 自分にとって良くない存在を感じ取った……。だが、それと同時に……
「あれっ……ニキニキだ! よーし、いくッ!」
 少女は思い切って木から飛び降りた。
 

 獣を心に感じ、獣の力を手にする拳法 『獣拳』……。獣拳に相対する二つの流派在り……
 一つ! 正義の獣拳 『激獣拳ビーストアーツ』! 一つ! 邪悪な獣拳 『臨獣拳アクガタ』!
 戦う宿命の拳士たちは、日々高みを目指して学び! 変わる!



#1『紅の虎』

 森の中を一人の女性が走っていた。着込んだスーツと革靴が今の彼女にとっては足枷と拘束具のように自由を奪っている。
 それでも、小脇に抱えているケースの中身を『奴ら』に渡すわけには行かないのだ。
 周囲を見渡せば、奇怪な動きで枝を飛び移ってくる無数の影。
 彼等の名は『リンシー』、かつては拳聖と呼ばれたモノたちの成れの果て……。
「困るわね……そんなにこれが欲しいの?」
 眼鏡の奥に光る目がギラつき、一転して彼女の放つ空気が変わった。
「でも駄目……渡さないわ」
 右手を前に突き出した構えを取り、体に内在する力を、己の内に眠る獣を呼び起こす。
「激獣レオパルド拳……ッ!」
 リンシー達の攻撃を軽やかに躱しながら、華麗な動きと共に一撃を打ち込む姿は、まさしく女豹と呼ぶに相応しかった。
「仮初の命を与えられた、哀れな死者たちよ……。今こそ永遠の眠りにつきなさい」
 彼女の一撃を受けたリンシー達の体が音を立てて崩れ落ちて逝く……灰は灰に、塵は塵に、それが死んだ者の運命だ。
「すっっっっげーーーーーーーーーっ!」
 どこからとも無く聞こえた声と共に、一人の少女が木の上から飛び降りてきた。
 彼女の周囲を飛び跳ねながら、キラキラとした好奇の目を向けてくる。
「いまのすげーーっ! すげーいまの! なんだそれっ!」 
 見たところ10歳にも満たない人間の少女だ。死人ではなく、ちゃんと血が通って生きている。
 だが、話し方から見て知能のレベルは同じ年頃の子供よりも低そうだ。敵の手のものではないようだが、別の意味で妙に思う。
 こんな山奥に女の子。髪は伸び放題、体も汚れ放題で定期的に浴場施設などにいけるとは思えない。更には服も着てない裸同然の格好。
「何なの君? どうしてこんな山奥に?」
 あえて口に出して聞いてみると、この少女はとても信じられないことを口にした。
「ここ、アタシの森! アタシの家だ!」
「この樹海で暮らしてるって言うの!? 一人で!?」
 こんな小さな子供が人も入らぬ樹海の中、たった一人で生きている。そんな事が可能なのか? 在り得るのか?
 だが、現にこの少女はさも当然のことのように口に出した。それに、知能的にも大人を騙せるような嘘を言えるとも思えない。
「そうだ! アタシ、ヴィータ! トラの子だ! おまえ、さっきのなんだ!? もっかいみせろ! なっ?」
 ヴィータと名乗った少女は、初めて見た獣拳に興味が沸いたようだ。
(仕方ないなぁ……ッ!)
 子供の頼みなのだから無下に扱うのも酷だろうと思ったその時、別の方向から殺気を感じた。
「危ない!」
 ヴィータを咄嗟に突き飛ばし、自分も後ろへと飛ぶ。
 その目の前をどこからか放たれた衝撃波がすり抜け、地面に大穴を穿っていた。
「ヒャーッハッハッハ! 惜しかったなァ!」
 崖の上から下卑た笑い声が耳に届く。先ほどのリンシーとは違う。それよりも格上の『リンリンシー』までもが、このケースの中身の為に差し向けられたようだ。
「まぁ、一発で終わっちまうとつまんねェからな! そうだろう? 拳士レティ・ロウランッ!」
「こっちは関わり合いたくないだけど、一応引退した身だしね……」
 皮肉気にレティは返すと、リンリンシーは崖の上から飛び降りてきた。
「選ばせてやるぜ! 俺にいたぶられてからそれを渡すか。それを奪われてからいたぶられるのと、どっちがいい?」
「どっちもお断りよ」
 レティの返答を聞くや、リンリンシーは哄笑を上げる。ヴィータの方は状況を全くつかめずに首を傾げるしかなかった。
「いいぜいいぜ! 強がってる女が苦痛と恐怖に泣き叫ぶのを見るのは大好きだ!」
 リンリンシーは下卑た趣味を明かすと同時に、奇妙な手の動きをした構えを取る。
「カマキリだ!」
「俺の名前は臨獣『マンティス拳』のマキリカ! 今がお前の、最後の祈りの時だ!」
 マキリカがレティに向かって襲い掛かる!
 片手と言うハンデがありながらも敵の攻撃を見事に捌いて見せたレティだったが、セスナの不時着が元で出来た傷が仇となり、ケースを手放してしまう。
 飛ばされたケースの中身をヴィータは拾い上げた。鎖のようにつなげられた三本の腕輪、それこそが奴らの捜し求める『拳魔の腕輪』なのだ。
「なんだ? コレ?」
「早く逃げてッ!」
 無防備なヴィータが鎌鼬に吹き飛ばされ、木の幹に叩きつけられる。
 だが、その瞬間ヴィータは二人にとって予想外の行動を起こした。
「がァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!」
 獣の如き咆哮がエネルギーとなってマキリカに襲い掛かったのだ。
 しかし、それも一瞬でしかなく、ヴィータは鎌鼬で切り裂かれた樹木の下敷きにされてしまい、腕輪も奪い取られてしまった……
 一部始終をはっきりとこの時見ていたのはレティただ一人。腕輪のことは悔やんでも仕方ない。
 それよりも、少女の方が心配だ。
「この子……」
 更にもう一つ、レティにとってはこのまま見逃せない事を察知していた……。



続く



あとがき

とうとうこっちのパロディもやってしもーた……
今度は理央様とメレさんですが、誰に置き換えるかはお楽しみに♪
しかし、ゲキレンが珍しいのは虎が主役でライオンが敵と言う所ですね。
大概はライオンが主役で虎はライバルの場合が多いわけですが、『ライオン丸シリーズ』とかね。
虎は主役になっても『タイガーマスク』みたくライバルも虎となってライオンが出てこないケースも多い。
やっぱりライオン=主役ですか。ただし戦隊とかはレッドが空を飛ぶモチーフだとサブに回される事もあります。
ライブマンのイエローライオンとか、ダイレンジャーのキバレンジャーとか(分かるかよ!
あと少数だけどツンデレとしては『とらドラ』のDQN女とか、『仮面ライダー剣』の虎姐さんかな。
前者はどうでもいいが、後者はブレイドのベストヒロインやったなぁ……





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