『エリオとキャロのお爺ちゃん(?):前編』

 

 

 雲ひとつ無い青空から白昼の光が降りそそぐ荒野の訓練場に聞きなれない声が響き渡った。

「てめー等ぁッ! 始めっから並べぇっ!」

 本日は機動六課に所属するスターズ部隊とライトニング部隊が、合同で行われる『個人戦闘』の特別教導と言う事の

ようだが、今教導を受けている26名のほぼ全員が目の前にいる人物が教官である事を疑っていた。

 

「大丈夫かなぁ……」

 訓練の様子をはやての執務室で観察している3人の影がある。

 『管理局の白い悪魔』こと高町なのは二等空尉。

 『稲妻の幻霊ライトニング・ファントム』ことフェイト・T・ハラオウン執務官。

 『夜天の王』こと八神はやて特別捜査官だ。

「まぁ、なんとかなるやろ? 実際ウチらよりも局員の立場になって教えられる人で、単独での戦闘力を考えれば悪くな

い人選とは思たんやけどなぁ……」

「それはそうかもしれないけど……。はやて、いくらなんでも『魔導師』とかけ離れすぎてるよ……」

 フェイトは複雑そうにはやてに返す。自分の戦い方の基盤になっているとは言え、本人はそもそも本来なら『魔導師』

ですらないのだ。そう言う人物に教導を頼むのも少し申し訳ないという気持ちもあった。

 

「じゃあまず自己紹介と行くか? 今回お前達の特別教導を任された、元・武装局員のディルカ・ムルシエラゴだ」

 後ろで束ねられた長い金髪、不敵な笑みが似合いそうな顔立ちに、露悪的な印象を与える真紅の眼。

 革パン、ブーツ、タンクトップとその上に羽織ってある、ジッパーを全開にしてある腰までの長さに切り詰めた武装隊用

のアンダージャケット、黒一色に統一された服装が不良学生のような雰囲気を演出される格好の男性だ。

「でまぁ、今回の教導なんだが……なんだったっけか?」

 その一言で、訓練生の全員が一瞬にして凍りついた……。映像で表現されるとしたら、画面が暗転して全体にヒビが

入る所だ。同時に、これから数時間とは言え教わる側にいる彼等にとっては不安としか言いようが無い……。

「あの……ムルシエラゴ教官? 何を……」

 スターズ部隊の一人が呆れたようにディルカへ聞き返す。

「待った! そう言う呼び方は好きじゃねえ。ディルカで十分だ。

 教官ってのも付けなくていい、むしろ付けて呼ぶな! オレは正規の教導官じゃねえ、ただの嘱託だ。

 そうだな。誰かに答えてもらおうか?……お前がいる列はスターズ部隊だったな?」

 ディルカはその訓練生が並んでいた二列横隊の26人をじーっと見つめた後に。

「そこにいる。茶髪の女! 名前と一緒に答えな」

 指差した先にいたのは、スターズ部隊の中でも特に目立つ凸凹コンビの片割れ、ティアナだった。

「わ、私ですか!? えっと、ティアナ・ランスターです。

 本日の教導メニューは『有事の際の個人戦闘に関する対応の方法』となっています」

「ありがとよ。その通り、今回の教導は一人での戦闘だ。管理局の魔導師、特に武装局員は大概の任務をどういう形で

行うか……? 今度はライトニング部隊から一人答えてもらうぞ……そこのピンクの嬢ちゃん!」

「は、はい! 武装局員の場合は最低10名からなる『分隊』での行動が基本です!」

 ライトニング部隊のなかでも最年少の訓練生である。キャロが答える。

「おおよそは正解だ。で、嬢ちゃんの名前は? オレはまだ聞いてねーぞ」

「あ、すみません! キャロ・ル・ルシエ。キャロが名前で、ル・ルシエが苗字です」

「ル・ルシエ嬢ちゃんか。オーケー、覚えた♪」

 ここから先もディルカの質問を混ぜた基本的な事柄の確認は続き、26人全員の名前をその都度聞いた。

 それに何の意味があるのか? この時はまだディルカの意図を誰もつかめていなかった。

 

「さてと、おおよその確認は終わったな? で、まぁこっからが本題だ。武装局員が行うのは大概が集団戦。

 それこそ取り囲んで『ドカバキッ!』とリンチかますのが普通なわけだが、組んだ仲間が死んだり、あるいは何らかの

事故で散り散りになった時、一人で戦わなきゃいけねーって事もある。

 更に、ランクが上がって武装局員から、武装隊長、執務官、捜査官と役職が変わってくと、その機会は今より増えてく

もんだ。だから、今日はそう言った先の事まで視野に入れて組まれてる。

 まぁ八神のやつ、人選ミスもいいところだけどな♪ はっきり言ってグダグダ教えるガラじゃねーんだよオレはさぁ」

 冗談交じりに講義をするディルカの姿勢は、受け入れられたかと言えばそうとは言い切れないのだが、他の教導官と

は明らかに違う独特な方法とある意味で的を射ている事から、不信感は少しずつ拭えていた。

「口で教えるのはここまでだ。次はお前ら26人、これからオレを模擬戦をやってもらう。

 順番は問わねぇ。自分が戦いたいと思った時に出て来い。ルールも時間制限以外はナシ! 実戦にルールもクソも

無いからな! 質問は?」

「勝敗の条件は?」

「おう、そうだな。それがなきゃ延々と闘り合うハメになってたぜ。ありがとよ。アルバート・レックス……だよな?」

「はい!」

「ふぅ、間違えなくて良かった。演習場のフェンス外に出ちまった場合とギブアップ、そして魔力切れになったら負けだ。

 その時点で戦闘を止める。止めた後は欠点をいろいろと指摘するからな。」

「あの、すいません!」

 そこまで言った時に、訓練生の一人が口を挟んだ。

「魔力切れで負けって事は、後の順番になるほど教…いえディルカさんは不利になって行くのでは?」

「そのあたりは心配すんな♪ オレは最初から最後まで徹底的にクライマックスだ! 遠慮はいらねえよ。

 最後にだが、オレを敵だと思って殺す……、とまではいかなくても本気出してブッ倒すつもりで来い! 返事ッ!!」

 

『はいッ!!!!!!』

 

 ディルカが演習場の中央に立ち、訓練生が戦闘の邪魔にならないようフェンス側に移動する。

「行くぜ。《ダインスレフ》」

『レディ』

 ディルカの右手薬指にはまった銀色のリングは、両方に刃のついた物々しい戦斧に変形する。

「スバル・ナカジマ! 一番手行かせてもらいますッ!」

 最初の相手はスバル。何事に於いてもまずは行動を開始せずにはいられない彼女らしいと言えばらしい選択だ。

 スバルはリボルバーナックルを装着した右腕を腰溜めに引き込み、両足に履いたインラインスケート型のインテリジェ

ントデバイス《マッハキャリバー》に魔力を注ぎ込むと、あわせて八つのローラーが乾いた地面の砂埃を上げながら超高

速で空転する。陸上競技で言うクラウチングスタートに近い体制を取り、彼女の臨戦態勢は整った。

「……行こう、母さん……GOッ!!!!」

 空転していたローラーが地面に吸い付き、スバルの体は弾丸の如く一直線にディルカへと突っ込んだ!

 どっしりと迎え撃つ構えを取ったターゲットに向けて右手を弓を引くように引き絞る。リボルバーナックルが軋む音を立

てながらカートリッジシステムが作動し、右拳と肘に魔力が凝縮されていく。

 相手が防御しようともガードの上から相手を殴り倒す確固たる自信がスバルにはあった……

「やあああああああああああああああぁッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!」

 マッハキャリバーの推進力とリボルバーナックルの肘から放出される魔力が、拳速を限界にまで引き上げる事によっ

て一撃が当たりさえすれば人間の頭などトマトのように軽く潰せるほどの威力を生み出す。

 だが、それはあくまで当たればの話だ。どんなに威力を引き上げようとも標的に命中しなければ意味は無い……。

「……えっ?」

 スバルの体は一瞬何も感じなくなった……、拳から伝わる衝撃の反動は愚か急加速でかかっていたはずのGまでも。

 更に、視界の上下前後が見事なまでに反転し、自分の左側にディルカの右半身が映った。

 だが、それも一瞬。次の瞬間には視界がぐるんぐるんと縦に回転し、砂埃が鼻と口に入り込みながらフェンスさえも突

き破って転がり続け、兵舎の壁に派手な音を立てて激突したのだ。

『スピードとパワーに頼り過ぎだ。一撃必倒を意識するあまりに動きが容易く読める』

 念話が聞こえてくる。逆さまになった視界の先には、無傷で立っているディルカの姿が見えた。

『相手を崩すための小技を身につけろ。んなテレフォンパンチで勝てるほどオレは甘くねえ!』

 全貌はこうだ。

 突っ込んでくるスバルに対し、ディルカはまず左足を前に出してスバルの足を引っ掛け、同時にリボルバーナックルを

右手で、彼女の服の袖を左手でつかみ、彼女の突進を利用して投げ飛ばしたのだ。

『ま、気合いのノリは悪くねえよ。めげんな』

「おーし、次だ次ィッ!!」

 

 ディルカの指摘はどの訓練生に対しても的確な物だった。

 最初は不信感を抱いていた訓練生も、スバルを無傷であしらって見せた戦闘力の高さも相俟って、教官として呼ばれ

た理由が良く分かったと言った感じであった。

 だが、それとは違う違和感を覚える者もいた。音速と言えるほどのスピードで相手に近づいて斧を振り回し、暴れると

言っていい荒っぽい闘いと、相手の隙を的確に突く理詰めの攻めを巧みに使い分けた戦闘スタイル。

 それ自体は、どちらかと言えばベルカよりの戦い方である。のだが、アームドデバイスやカートリッジを使う素振りを

見せなければ、殆ど魔法を発動させないのだ。念話が使えるから魔力がない事はあり得ないが、疑問は残った。

 

「14番。ティアナ・ランスターです」

 彼女との勝負は一瞬だった。

《クロスミラージュ》による銃撃をダインスレフで弾き飛ばし、一瞬にしてそのスピードで間合いの内側に入り込んで積み

だった。ティアナはティアナで距離を取ろうとしたのだが、判断の遅れがそのまま敗因に繋がってしまったのだ。

「ナカジマと逆で銃撃に偏りすぎだ。今みたいに近づかれたら一溜まりもねーぞ? 離れるなら離れる、近づくなら近づく

で接近戦の対応手段を身につけろ。ちなみに、中途半端な距離で立ち止まるな。優柔不断は命取りだ」

 

「なんや、うまく行っとるやん」

 3人揃って様子を見に来ていたのだが、概ねつつがなく進行しているようではやては胸を撫で下ろした。

「でも、こうしてみるとディルカさん。あの子達よりも特殊なんだね……」

「父さん、元々は私たちと根本的に違うから…」

 フェイトの一言になのはもはやても顔色を変える。

「せやったな……。ディルカさんの場合。ナンギな商売しとったからなぁ……」

『コソコソ噂話してんなよ? どうせ見るならもっと近くに来たらどうだ?』

 3人の頭にディルカの声が響いた。どうやら、気付かれていたようだ。

 戦闘中でしかも100メートルは離れていたはずであるが、それもディルカなら可能だと納得していた。

『それと、フェイト。お前は見ない方がいいかもしれねぇ……。モンディアルとル・ルシエ嬢ちゃんも戦うからな。

 やるからには手は抜かないつもりだ。一応、教官として呼ばれてるからよ』

『やっぱり、戦うんですね……。でも、見ています。万が一の時には割って入りますからね』

 ディルカはため息混じりにフェイトとの念話を切る。そして。

『聞いたとおりの過保護っぷりだな。高町と八神』

 はやてとなのはに繋ぎ直して苦言をもらしていた。

 

 続く

 





 あとがきと言うか、なかがき

 えー、TV本編が始まる前にやって置きたい事として前後編の短編SSです。

 でも、今回は出来てません。一番やりたいのはエリオVSディルカなので。

 なんかティアナだけ、やけにヘタレたなぁと言う感じはあるかも。まぁ銃使いはヘタレと言う事で(どこのライダーだ!

 ちなみにゾルダ、デルタ、ギャレン、息吹鬼、ドレイクと銃撃ライダーはスーツアクターが5年連続で同じ人です。

 とりあえず、戦闘スタイルが知らないうちに出来る事もあると言うわけで、こんな形ですが……。

 短編で先にディルカの色々を明かしてどうすんだよとも思う今日この頃です……





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