『エリオとキャロのお爺ちゃん(?):後編』

 

 

 

「……くん…」

 誰かの声が聞こえる。しかし、今は目の前の戦闘を見ている方が大事だ。

「……オくん……」

『クリムゾンスマーーーーッシュッ!!!!』

 あの人は凄いと、素直にそう思える。態度や性格的にあまり見習いたくないが……。

「……リオくん」

『オレの必殺技パート2ダァァッシュッ!!!!』

 斧、鎌、そして槍、三形態に変化するデバイスを見事に使いこなし、格闘戦に於いても相手を圧倒している。しかも、

殆ど魔法を使わずにだ。相手の攻撃を防御魔法を展開するのではなく高速移動で躱し、あるいは攻撃で相殺してしま

う。こんな戦い方をする魔導師がこの世に存在していたのかと思うと、胸の高鳴りが押さえられない……

 自分ならどうやって戦うか、それだけで頭が一杯になりそうだったのだが……

「エリオくんっ!」

「うわぁっ!」

 耳元で自分の名前を叫ばれて、意識を現実に引き戻された。

「キャロ……?」

「もう! さっきからずっと呼んでるのに、エリオ君は何番目に行くの?」

「僕は……一番最後に行くよ」

 それを聞いたキャロは、エリオの様子がおかしい事に気付いた。

 エリオの視線はディルカに向けて釘付けになっている。握りこんでいた拳から汗が滲み出ていて、肘から先が時折り

震えている。思い切ってキャロはエリオに問うた。

「エリオくん……恐いの?」

「少し……ね。でもそれより、早く戦ってみたい」

 エリオの返答に、キャロは矛盾を感じていた……。早く戦いたいのなら、スバルのように喜び勇みそうなものだ。

 なのに、エリオはまだ動かずに、ディルカの戦いを目で追うように観戦しているだけではないか。

 まだ彼の意図を、キャロは読み解く事が出来ないでいた。

 

 

「19番、キャロ・ル・ルシエです!」

「ガキだからって、手加減は出来ねーからな。ル・ルシエ嬢ちゃん♪」

 キャロの肩に止まっていたフリードリヒが二人の間に入る。

「《ケリュイケオン》作動……」

 両腕につけたブーストデバイス《ケリュイケオン》を介して、キャロの魔力がフリードリヒへと流れ込んでいく。

 その呼称の通り、キャロのデバイスは己の魔力を他者に供給する事で強化する補助に特化したデバイスだ。

「フリードリヒ! ドボルザークモードッ!」

 

 ダーダッ……! ダーダッ……!

 ダンダンダンダン♪ ダダダダダダダダ……♪

 チャーラッチャーラッチャーラッチャーラッ♪ ダンダンダンダーン♪

 ダーダッダッダーダーッダダーンッ♪ ダーンダンダダダーン♪

 

(※BGM、ドボルザーク作曲『新世界より』第4楽章)

 

 フリードリヒの体が、どこからともなく飛んできた数百ものパーツによって、超巨大なドラゴンに変化していく!

 黒い巨体に背中から生えた巨大な翼、禍々しい八本の尻尾、二本の角が生えた凶悪な顔つき……

 それは、普段の愛らしい姿とは余りにもかけ離れすぎていた。

 世界の全てを揺るがすかのような咆哮を上げて、フリードリヒの巨大な拳がディルカに向かって襲い掛かる!

 その一撃がディルカを叩き潰すと誰もが予想したその瞬間! ディルカの左腕が自分の何十倍もある拳を受け止め

ていた。絶対的な質量差をものともしない、この男のどこにそれだけの膂力と魔力があるのだろうか?

 彼のランクは『A+』のはずであった。だが、誰もが管理局の情報を信じられないでいる……

「それが本気の一撃かよ? だったら……お前の負けだッ!」

 圧倒的だった……。ディルカはあのままフリードリヒの巨体を力任せに投げ飛ばし、呆気に取られてしまったキャロに

斧の刃を向けたのだ。

「嬢ちゃん自身が無防備だ。それにあの形態、嬢ちゃんが持つ魔力の殆どを与えちまってる上に、火力とパワーに片寄

り過ぎであれじゃすぐガス欠になるぞ? チビ竜はもっと省エネでフレキシブルに対応できるようバランスを考えろ。

 嬢ちゃん自身も射撃魔法ぐらいは撃てるようにな?」

 

 

 そして、残りもつつがなく進行して行き、最後の一人まで順番が回ってくる。

「26番! エリオ・モンディアルです! よろしくお願いしますッ!」

 槍を構えるエリオの目を見て、ディルカは他の人間と違う空気を感じ取ると、ぺろりと一度舌なめずりして笑う。

「やっと来たか。で、『観察』の成果はどうだったよ?」

「戦って見れば解ると思いますよ」

 互いに一歩も譲らぬ不敵な態度から一転、両者がデバイスを構えて疾駆する! ストラーダの刺突とダインスレフの

打ち下ろしがぶつかり合う!

 よく見れば、両者の戦い方は見通った部分が見当たるだろう。一つ目にデバイスが近接戦闘を考慮に入れた武具の

形状を取っている事、二つ目に、高速移動で相手を翻弄して接近戦を挑む事。

 だが、両者の間には決定的に埋めがたい差が存在する。これが遠距離攻撃の魔法戦ならば瑣末な事でしかない。

 頭部を狙ったエリオの突きをディルカはギリギリの間合いをとってスウェーバックで躱し、ダインスレフを力任せに打ち

下ろしてなぎ払う。エリオがどれだけ軸足と重心を固定しようとも、それだけで軽々と跳ね飛ばされてしまうのだ。

 そう、二人の『体格』と『武器の性質』がその差を生み出しているのだ。

 体が成長しきっていない小柄なエリオが、ストラーダの刺突でディルカの頭部を狙えばどうしても振りが大きくストロー

クの長い攻撃となってしまう。ディルカは接近戦のエキスパートと言っていい。それだけの技量があればスウェーバック

だけで攻撃をやり過ごしてしまえるのだ。

 更に長柄武器はエリオが体格の違う大人を相手にリーチの差を埋めようと選択した苦肉の策ではあるが、ディルカの

武器も長柄であるが故に、その差は逆に広がってしまっている。

 今のエリオにとってディルカの懐は果てしなく遠いと感じているだろう、いわば最悪の相性だ……。

 ディルカにとっては逆にこれほど有利に働く状況も少ない。長身のディルカがエリオの遥か頭上から、自重に任せて

『叩き斬る』事に特化した斧を振り回せば、エリオの膂力では受け止める事が出来ない。

(足を止めての接近戦じゃダメだ……なら)

「ソニックムーブッ!」 『Sonic Move!』

 エリオの姿がディルカの視界から消え去る。

(スピードでかき回すッ!)

 前後左右、ディルカの周囲を高速で移動し、的を絞らせずにヒット&アウェイで突き崩すのが狙いだ。

 背後から仕掛けようと、槍を構えて突撃した瞬間!

「アクセルビートッ!」 『Accel Beat!』

 ディルカのスピードが格段に跳ね上がり、槍ごとエリオの体を跳ね上げた!

 二人は常人の見えない高速の領域にバトルフィールドを切り替えていた。

 槍と斧がぶつかり合う音しか聞くことが出来ず、二人の打ち合う奇跡として時折り激しい音を立ててフェンスが軋み、

おそらくはディルカが撃ったミッド式の射撃魔法で地面がえぐられる事でしか戦闘の状況を目で見る事が出来ない……

 エリオは押されていた……。

 スピード、パワー、フィジカル、タクティクス、殆ど全てに於いて自分を上回る相手に、エリオは初めて出会ったのだ。

 管理局は彼のどこを見て『A+』などとつけたのだ? 戦闘力だけならAAAは愚かSランクに届いても可笑しくない。

(ストラーダッ! 何か手は無いか!?)

『君の勝率はおよそ7.92パーセント。ほぼ絶望的な数値だ』

(やっぱりか、でもただ負けるのは嫌だッ! せめて……せめて一矢報いたいんだ!)

『非常にリスクが大きいが、一つだけ方法がある』

 そして、ストラーダが出した結論にエリオは顔色を変えた。

(どんな方法なんだ!?)

『私のシリンダーに装填されているカートリッジ6発をフルバーストし、《ライトンングブレイバー》からの連携で《ジェットス

ピアー》を0.5秒の時間差で撃つ』

 それは、途方も無い結論だった。装填してある弾丸の全てを同時に着火し、今のエリオが撃てる最大の攻撃を間髪入

れずに撃ち込めと言うのだ。しかも、《ジェットスピアー》は戦闘中に一度撃てば、ストラーダが槍として機能しなくなる。

(そんな! 僕はともかくストラーダが保たないよッ!)

『戦いにリスクは付き物だ。そして、私は戦いの為に生み出された。コアさえ無事なら、ボディはどうなろうと問題ない。

問題なのは、君に覚悟があるかだけだ』

 今、目の前に強敵がいる。あくまでこれは模擬戦だ。しかし、いずれ実戦でこんな事態になったら?

 この相棒を犠牲にしなくてはならない時が来るかもしれない。今それを出来ない男が、そのいずれの時にその決断を

下せようか? 否!! 答えは否、断じて否だ!

(解った……。ストラーダ、ごめん)

『気にするな。こんな決断は今後幾度となく訪れるだろう。改めて言うが、私は部屋に飾って愛でるインテリアではない。

 エリオ・モンディアルに仇成す敵と戦い、討ち倒す為に創られたアームドデバイスだ』

 エリオは再び槍を構えなおす。彼等を取り巻く空気が変わる。

(何か狙ってやがるな……?)

 ディルカもそれを本能的に察し、真正面から迎え撃とうと身構えた。

「来なァ! 受けて立つぜッ!」

「行くぞストラーダッ! ブーストオンッッ!!」

『ブースト作動! デバイス耐久力臨界点へカウントスタート!』

 エリオの足に魔力が集約し、強力な推進力へと変化する。

 更に槍の穂先には性質変化させて集まった電撃が一突きの刃となって加速するエリオを覆う。

 そう、今のエリオはストラーダと一体化し、一振りの槍と化しているのだ。

「ライトニングッ……! ブレイバァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!」

 稲妻のエネルギーを纏った超高速の突き。スバルの技とは違い、体と槍が魔力で覆われている故にいなして投げ飛

ばす事は出来ない。だが、どれだけ魔力を纏おうとも、砲撃の性質はなく槍による物理攻撃に変わりは無い。

 しかしディルカは危険性を察知して、スウェーではなくバックステップで攻撃を回避する。

 全身全霊を込めた一撃、誰もが終わりだと思っていた。

 だが次の瞬間! シリンダーが回転し、装填された3発の弾丸から魔力が放出される。

「行くぞスパイラルッ! ジェット……! スピアーーーーーーーッ!!!!!!!」

 再び推進力を得たストラーダの穂先が、弾丸のようにディルカの顔面に向けて発射された!

 

 《ジェットスピアー》、それはカートリッジ3発以上の魔力を消費し、その魔力によって電撃を帯びた穂先を高速で撃ち

飛ばす、ストラーダとエリオが放つ最大の威力を持った攻撃魔法である!

 しかし、一つしかない穂先を弾丸あるいは矢として使用してしまう為、一回の戦闘につき一発しか撃つ事が出来ず、命

中させられなければストラーダが槍の機能を失ってしまう……まさに最後の手段なのだッ!

(ナレーション:若本規夫さんの声を想像してください)

 

 攻撃の余波で出来た砂煙が晴れ、ディルカの影が視界に姿を現した。エリオもストラーダも己の目を疑っていた。

 立っていた……。ジェットスピアーの直撃を喰らって耐えたと言うのだ。これを防がれたなら、もう打つ手は無い……。

「ったぁく……まさかこうくるとは思わなかったぜぇ!」

 ディルカの口調は呂律が回っていなかった。それもそのはず、その口には発射されたストラーダの穂先がくわえられ

ていたのだ。信じがたい事だったが、ディルカは撃ち出された穂先を咄嗟に噛み付いて歯で受け止めていたのだ。

「まったくよぉ……、シグナムにしろ、ヴィータにしろ、ベルカのヤツらはどいつもこいつも『常識破り』で面白れぇッ!」

 嬉々としたディルカの一言で、一瞬、演習場が沈黙に静まり返った……。

『どっちがですかぁっ!!』

 真っ先に突っ込んだのはフェイトとキャロであった……。

 

「お前は的の狙い方を考えろ。頭に焦点を絞りすぎだ。同じ体格ならともかく、大人を相手にするなら的としては遠くて小

さい分外れ易い。狙うなら寧ろ下半身。足に傷を入れれば相手の機動力を削げるし、箇所によっては多量の出血を期

待できて一石二鳥だ。それと、最後のヤツも狙うなら心臓か肝臓の方が躱されにくい」

 

 エリオの模擬戦までが終わった頃には、すでに日が西に傾き、空が赤く染まり始めていた。

「とりあえず、今回の教導はこれで終わりだが、最後にオレから一つだけお前らに言っておきたいことがある。まず、オ

レの戦い方に違和感を覚えたヤツ。手を上げてみろ」

 訓練生たちは顔を見合わせつつも、半数以上が手を上げた。ミッド式の魔法を使いながらも、ベルカのように接近戦

及び格闘戦を主点に置く戦い方は、魔導師としても魔導騎士としても異色の物だ。

「じゃあ次だ。オレのランクが変だと思ったヤツ、手を上げろ」

 これにもやはり、今度は先ほどよりも多く手が上がった。

「やっぱそう思うよな? 実はな、自慢じゃねぇけどオレはなぁ、魔法5〜6個しか使えないんだよ。しかもその大部分が

攻撃魔法だ。バリアジャケットは生成出来ねーし、障壁も張れねーし、射撃と砲撃は一つずつ撃てるけど零距離で撃た

ねーと全ッ然当たんねーんだよこれが。だから『A+』。それにあんまし頭は良くないからな、執務官、教導官、提督、そ

う言う役職は性に合わねー。そう言うことで試験受ける誘いが来ても蹴ってたんだよ」

 まるで、さも当然であるかのように語るディルカに訓練生たちは驚きの声を隠せない。

 管理局に入るなら、上の役職を狙う野心を持った人間だって0ではない、むしろ半分以上がそう言う人間だ。

「確かに、上の役職につけば給料上がるし休みも多く取れるけどよ、そのためだからってやるのが辛い仕事やるのも

キツイもんがあるぜ? オレはグダグダ考えて仕事するより、前線で戦う方が性に合ってたってこった。でまぁ今いろい

ろあって嘱託やってるわけだ。これでも50近いんでな。

 昔ロストロギアに関わって肉体が老化しなくなっちまったもんだから、楽に隠居生活出来なくて困ってんだよ」

 その一言で、訓練生の疑問が解けた。それは彼の体の『若さ』と精神的な成熟の度合いに見る矛盾感だ。

「とまぁ、話がそれちまったんだが。今言った『肩書き』、『ランク』、それから『魔力量』、この三つだけが魔導師の強さを

決めるもんじゃねぇ! むしろ、『人間の強さ』ってのはその三つで推し量れない所にあるってのがオレの持論だ。

 例えばの話だ。途中から見に来てくれたこの三人は全員Sランク超えたエースとまで言われてる」

 ディルカは自分の横にいた、なのは達三人をちらりと見る。

「こいつらと比べれば、オレ等なんか『全身タイツの戦闘員』と同じように見られるかも知れねェ。けどな。お前らもオレも

ちゃんとそれぞれ一人一人が『名前』を持って生きてんだよ。『その他大勢』なんかじゃねぇ。

 だから、魔導師ランクや魔力量なんかで手前ェの事を卑下するな! そして『自分にしかない強さ』を見つけ出せ!

 っと、以上でオレの教導は終わりだ。願わくば、オレの言った事がお前らのためになってくれる事を祈る」

 ディルカが全ての事を言い終えた瞬間、26人の訓練生が予想外の反応をディルカに見せた。

 

『ありがとうございましたッッ!!!!!!!!』

 

 最初の態度が嘘であるかのように、彼等はディルカの事を敬意を込めた眼差しで見つめていた。

『なぁ……オレはなんか特別な事でも言ったか?』

 ディルカはなのは達に念話で問いただしていた。

『ええ、ディルカさん気付いとらんかも知れへんけど、こう言う型破りな事期待しとったんですよ』

『そうかぁ? オレは別に普通だと思った事話しただけなんだけどよ』

『父さんらしいですね……この後もまだあるんでしょう?』

『バレてたか……』

『時間になったらみんな呼びますので、フェイトちゃんと父娘水入らずでどーぞ♪』

『ばっ、馬鹿、茶化すんじゃねえよ高町』

 

 

続く

 

 




 

 あとがき

 あー、かなりかかった。エリオVSディルカ。とりあえず、本編始まるまでになんとか終わりました。

 実際に新キャラがどう戦うか解らないので。まぁ、思いっきり遊んで書きましたけどね!

 この後でちょっとしたおまけを書こうと思っています。最低でも土曜あたりには……

 ちなみに、StSで一番危惧しているのは、新キャラが結局無力→3人娘に助けられてマンセー! な展開になってしま

う事。まぁ、特になのはがあまりにも完成されすぎてて、A'sのあたりから見てて詰まらなくなったので。

 ある意味、『天才じゃない』人間が主人公と言うのは見たかった要素ではあるのでようつべに落ちてたら見ようかと。

 あとは、井上敏樹さん辺りが考えそうなアンチなのはキャラがいてくれたら文句無かったのですがね。





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