見えなくても輝いてて、触れようと君の名前を呼ぶ…… 1番眩しいあの星の名前は、僕しか知らない…… 『プラネタリウム』(なのはと???) ここは何処なのだろうか? 高町なのはは気付けば見知らぬ部屋の中に立ち尽くしていた。 半球状の屋根は左側が橙色に輝いている。そこから右に行くにつれて群青色に変わっていく。 それはちょうど黄昏時の空を切り取ったようだった。 周囲には中心から円形に広がるように座席が並び、中央に大型の機械が設置されている。 色々な所で見た経験はなのはにもある。中央の映写装置でスクリーン状になっている天井へ星空を投影して再現する。所謂、プラネタリウムだ。 どうして、こんな場所にいるのか? なのはには状況が理解できない。いつものバリアジャケットを着ているが、肝心の相棒たるデバイスの姿も見当たらない。 部屋の中がふと暗くなり、天井は夜の星空に変わった。 光の散りばめられた世界で目に付くのは中央を横切って見える星の集まり。天を流れる光の川。 それを見ていると思い出す。自分を鏡に映したような女性の事を…… 「ったぁく! ずいぶんと辛気臭いツラァしてんじゃないの?」 なのはは突然耳に飛び込んできた声に辺りを見回す。余りにもタイミングが良すぎる懐かしい声。 南側中央の列の座席に一つの人影が見えた。 「こちとら、そのツラを死んでからも拝む事になるなんて思いもしなかったわよ!」 その座席になのはが近づいていくと、影の正体がハッキリと見えた。 蒼いメッシュの入った銀色のショートヘアにアメジストの瞳、黒いスーツをぱしっと着込んだ女性らしさを感じない格好を一目見たイメージはバリバリのキャリアウーマンと言った所か? 「久しぶりね……高町。あたしは会いたくなかったけど」 「リ…リラさん……」 なのはは思いがけない再会に動揺しながらも声を紡いで彼女の名を呼ぶ。 「リラさーーーーーーーーん!!!!」 「抱きつくなッ!」 両手を広げて飛び込んできた、なのはの背中にリラは踵を落として一蹴する。 「痛い……」 「当たり前でしょ、本気で打ち込んだんだから」 うつぶせの体制で呟くなのはにリラはしれっとして返す。 「ま、座んなさいよ」 そう言われてなのはは彼女の隣に座る。 「リラさん。ここは何処なんですか?」 ここにいるのは自分とリラの2人だけ、だったら自分よりも前からいる彼女なら何か知っていると確信して聞いた。 すると、リラの方はとんでもない答えを口にしてきた。 「ここはね。あんたの心の中が映し出した世界。あんたの中にあるなんらかの想いが、あたしをここに呼んだのね」 なんらかの想いと言われて、なのはは少し考える。真っ先に思い浮かんだのは…… 「リラさん……少しお話を聞いて、くれませんか?」 「嫌♪」 「そ、そんな即答しなくても……」 落ち込むなのはを見てリラは思わず吹き出した。 「冗談よ。だいたい想像はつくしね。大方あのティアナって女の事じゃない?」 それを聞いて、なのはは棒でも飲んだような顔になる。どうしてリラが彼女の事を知っているのだ? 「あのねぇ、あたしを呼び寄せたのはあんたなんだから、あんたの記憶ぐらい容易く読めんのよ!」 リラは呆れたような声を上げるが、そもそもそんなルールなど、なのはが分かるはずもない。 「で、良かれと思って蜂の巣にしたら、ユーノがゾディアック渡してあたし見たくなったって事か」 喩えが嫌味ったらしいような感じがするが、大筋は間違っていないところで、なのはは妙にムカつく…… リラは全部察したと言うような顔でなのはの事を見てくる。 「用はさ、あんた恐いのよ。あたしを殺したようにあの子を殺す未来を想像して、それが不安の種になってあたしの残留思念を呼び寄せた。あのティアナって子、あたしとウマが合いそうじゃない」 リラは煙草をふかしながら、なのはに解説する。 「本当に、似てますよ色々と……」 『あたし決めました。羨望も脚光も賞賛も要らない。あなたを超える『悪魔』になって見せます……!』 なのはの口調は沈んでいる。今のティアナと初めて会った頃のリラの姿が重なって見えていた…… 自分以外の存在に憎悪と敵意を向けた目、何もかも嘲笑う冷酷な言動、己の力しか信じなくなった悲しい女…… 「まったく、あんた7年経っても何も変わってないのね。中身は一緒、傲慢なクソガキのまんまじゃない」 リラの言葉は、なのはの胸を貫く。これ以上無く嫌なところを寸分の狂いもなく狙い打たれたような…… 「ほんっとに進歩ない。いい? 戦って倒すって言うのは、同時に相手の正義も信念も全て否定する事と同じなのよ! それにね、あんたにして見れば全力で戦えば分かり合えるって思ってるんだろうけど、それはテスタロッサやヴィータ見たく、互いの実力が拮抗してないとなり得ないの! まずはそれを理解しなさい!」 びしっ! と指を立てながら、リラは顔を近づけて凄むように説教を始めた。 「あまりにも実力が違う相手に力でねじ伏せられたら、逆にもっと意固地になって口を閉ざすだけよ」 なのはにとっては考えもしない事がリラの口からは申し合わせたかのようにすらすらと出てくる。 そう言えば、昔彼女に言われた事があった……。それは今のこれにも繋がっていたのだ…… 『ガキの理屈ってのはね、ガキにしか通じないからガキの理屈足りえるのよ』 そう、あの頃のなのはが信じて疑わなかった事を、次々と言葉の刃で初めて斬って落としたのがリラだ。 思い返せばなのはが対峙した敵の中で、言葉で納得させた人間は、フェイトやヴィータのような『子供』だけだった。 「だから、どんな理由があっても、力で黙らせたら何も変わらない。逆らえば殺すって言ってるようなもんよ」 「リラさん……わたしより教導官に向いてるんじゃないですか?」 「まあ、力の無い歯痒さってのはイヤって程に良く分かるけど? とにかく、あの子を導いていきたいなら、いったんデバイスも魔法も全部棄てなさい! なんにも持たないまっさらな状態で言葉を尽くす。まずはそれからよ」 リラは笑いながらなのはの事を諭す。あの頃は気付かなかったが、今はとても頼り甲斐があって頼もしく思える。 「なんか、凄く年上の先輩みたいです。今のリラさん」 「ゾディアックと契約しないで普通に生きてれば、あんたの倍近くの歳だからね。 てゆーかあんたさ、19歳にもなってこんな痛々しいBJ着てんの? 昔の方がずっとマシじゃない。 ユーノに見放されて脂ぎった気色悪いデブばっか寄ってきても知んないわよ?」 「はやてちゃんからも言われました……」 「あっちが正しい」 リラにまでも両断されてなのはは凹んだ。そんなに自分のセンスは悪いのだろうか? 「SLBで消されるのが恐くて誰も口に出さないだけよ。管理局の白い大魔王」 「がーーーーーーーん!!!!!!」 星空の下、2人の魔導師が仲良く話す光景は。互いが生きていた頃にはなりえなかった光景だった…… 「高町、そろそろ夜が明ける。話の時間はこれで終わりよ。あんたは現実へ戻らなきゃいけない」 「そうですか……じゃあこれで本当にお別れなんですね?」 「ま、せいぜい頑張んなさいよ。こっち側の世界で笑いの種にさせて貰うから」 ちょっとした皮肉を残すのが、死んでも尚彼女らしいと苦笑しつつ、なのはは消えゆくプラネタリウムを見つめていた。 あとがき 久々にまともなリラを書いたなあと思いました。結局書いてしまった地獄ティアナ繋がりのお話。 元ネタとしては灰人化した剣心の下に涅槃からやって来る志々雄真実。 ただ親身になってアドバイスするのは違いますが、死んだからこそリラはこんな風に丸くなると言う事で宜しく。 タイトルのネタはBUMP OF CHICKENのプラネタリウム、間違えても某『素敵だね』もどきを想像しないで下さい。 |