晴れた空に乾いた大地。そこに激しい爆発。それが幾つも起きる。そしてそれに巻き込まれる仲間−時空管理局、第692次元世界フェアリィ星空軍−通称FAF−第16前線戦術基地所属の局員が数人見える。
 −666小隊D班全滅−
 着けていたヘルメットに味方が大勢死んだその結果が映し出される。それを一瞥しただけで、黒色で長髪の青年−深井零は視線を眼下の戦場に戻した。
 戦場ではデバイスと呼ばれる杖を持った人たちが空中で、地上で激しく撃ち合い、斬り合っていた。そしてその相手は人型に近い黒い物体‐ジャムと呼ばれる未知の魔法生命体だった。彼らについては謎が多く、未だに何の目的で戦闘をしているのか、どういった生物なのか分かっていない。しかし、その戦闘能力は決して高いわけではなく、こちらの技術でも十分に対応できるほどだったが、今回の戦闘では味方の負けだったらしい。ジャムは追撃をせずにあっという間に消えてしまった。
 『ほぼ全滅か…、奴等また性能を上げやがったな。深井少尉、データは十分取った。帰投するぞ』
 それを上空で静かに見つめている男が2人。
 2人とも両手で同型と思われる色違いのデバイス・シルフィード−ハルバードと呼ばれる槍の穂先に斧頭、その反対側に突起が取り付けられている武器。零のデバイスにはマガジンと排気口などが付けられており、もう一人はマガジンなしの青と白の塗装がされている−を持っており、目の部分全体を覆うゴーグルを着けている。通信はこれに搭載されている電子的な物と、魔力を使った念話の二つを併用している。ジャムのなかには何らかの形で魔力磁場を発生させる種類がいるため、それに対する措置として二つを搭載している。
服装は零が灰色のロングコートの左腕に妖精が鎌を持っている絵プリントがされているのと白い厚手の長ズボンと、コートの裾の部分とマガジンの取り付け部分に“雪風”と達筆で書かれていた。もう一人は管理局の一般局員のジャケットを青と白に変え、FAF使用の装甲をいくつか付けたものを着ていた。
 零は時空管理局−全ての時空に存在する世界を監視し、犯罪などを取り締まる組織−のフェアリィ星空軍、フェアリィ基地戦術戦闘航空団所属、第5飛行戦隊、略称SAFに所属する空戦魔導師。その任務は魔法戦闘が行なわれる全ての戦場での情報収集で、そのため、戦闘には一切介入せず、味方が全滅しようとも収集した情報を持って帰るのが絶対だった。「投げて当たらずに手元に帰ってくる。まさしくブーメランだ」という皮肉から、彼らはブーメラン小隊と呼ばれている。
 彼らは部隊としては珍しい独立した指揮系統と、開発技術を持っている。そんな彼らの現在の任務は謎の敵、ジャムについてさまざまな情報を集めること。そして今回の作戦では零のデバイス−雪風に、最近になって安定運用が可能になったカートリッジシステム−魔力を一時的に倍増させる−のシルフィードタイプへの搭載実験がなされていた。これを通常型と分けるためにスーパーシルフと呼ばれている。FAFシステム軍団からの派遣されたはもう一人は雪風のデータを収集していた。
 『了解。B−3、深井少尉。データ収集を終了。これより帰投する。雪風、帰るぞ』
 −了解、深井少尉−
 念話で相方に応え、自分の愛杖−雪風にも呼びかける。それに雪風は槍の根元にある宝石を光らせながら短く応え、中継役の艦である超大型次元航行試作艦バンシーVに戻る最短ルートをすぐに演算し、表示した。
 零は自分の足に魔力を集中させ、その場から離れた。
 『少尉、ジャムの戦闘能力はどこまで上がると思う』
 『さぁな。どこまで上がっても、おれには関係ない』
 お喋りな相方の問いかけに短く応える零は、雪風の柄をそっと撫でる。
 雪風は自ら思考し、最良の行動することの出来るインテリジェントデバイスと呼ばれる部類に入り、本来なら喋れるデバイスだが、雪風は喋らない。その思考機能の大半を情報処理に回しているために、術者の補助をするために雪風は喋る機能を外した。代わりに文字によるコミュニケーションが出来るが、それも簡易的なものだ。
 しかし零には雪風の声が聞こえる。そして、自分は彼女と完璧に息が合っていると思っている。例えジャムが強くなっても、雪風と一緒なら勝てると思っている。
 −広域探索魔法に反応−
 『少尉、広域探索に反応』
 丁度、帰り道の半分に差し掛かったところで雪風と同僚からの報告が入る。
 『なんだ?』
 『分からない。位置不明。人間か?』
 『何を言っている。人間か、だ。敵だ。捜せ』
 零は同僚にそう指示すると、自分も雪風を使って目標を捜した。
 『目標発見。小さいな。人間だ』
 零も発見したが…。
 『速い。衝突コース。回避』
 咄嗟に上に逃げると、先程まで零たちのいた所を高速で目標が通り過ぎた。
 『なんだ、あれは?』
 『IFF(敵味方装置)の応答はない』
 『では、敵だ』
 −対象を敵と判断。迎撃行動開始−
 零は雪風に目標を敵だと認識させる。その瞬間、雪風は人間では到底出来ない高速演算を始め、最良の選択を考え始める。
 −スティンガーレイ−
 『待て、少尉。味方かもしれない。やつらがこんなところを飛んでいるはずがない』
 零は雪風に発動を中止させて目標を視認するが、振動でもしているのか、距離が離れている状態では全身が黒色だということしか判断できず、敵味方の判断が出来ない。
 『もう一度確認しろ。あいつは何だ。緊急回線でコンタクトをとれ』
 『やっているが応答がない。回線を閉じているのか?』
 同僚は一度高度を上げ、零は高度を維持してそのまま飛び、一度に撃墜されないように距離を取る。すると目標は同僚には反応せずに 零に向けて持っていた杖を向ける。後方に下がった同僚はその形をはっきりと見た。
 『やつは交戦する気だ。エンゲージ』
 雪風に再度、魔法をセットする。
 『ジャムじゃない』
 『なぜ分かる』
 『あの杖は我々と同じだ。シルフだ。シルフィードだ』
 『シルフだと?どこのどいつだ』
 『不明』
 ランダムに方向を変えながら、零は同僚の報告を確認する。確かに零たちの持っているデバイス−シルフィードと同じ形をしているが、どこかに違和感を感じる。零は雪風に確認をとる。
 −不明。目標、攻撃態勢に移行−
 零は素早く回避行動を取ると、雪風に魔力を流す。
 『撃墜する』
 『やめろ。敵じゃない。あれはシルフだ』
 大きく旋回、目標と対向すると、雪風の先端から環状魔方陣に包まれた純白の矢を打ち出す。矢は目標に当たることなく、しばらくまっすぐに飛んだ後、消滅した。
 『気でも狂ったか、少尉!』
 一度交差すると、零は目標の後方をとる。目標は高速で飛行し、零から離れようとする。
 −スティンガースナイプ−
 今度の魔法は先程の魔法とは違い、誘導機能が付随しているので相手に当てるチャンスはいくらでもある。零の意識と同調して環状魔方陣が高速で回転を始める。
 「スナイプ」
 零のトリガーワードで矢は高速で発射される。今度は零と雪風の誘導を受け、その軌道を修正する。槍は高速で逃げる目標にまっすぐに突っ込む。直後爆発が起きる。それに確かな手ごたえを感じる。
 −命中を確認−
 槍は確かに目標に当たった。たとえ防壁を張られても槍の付随機能にある物理貫通機能を使えば何の問題も無い。
 『少尉。自分のしたことが分かっているのか!』
 しかし、爆煙の晴れたそこには目標がしっかりと浮かんでいた。
 −目標健在。魔力の収束を確認。砲撃魔法の可能性大。回避−
 遠目でも確認できるほどの漆黒の光が見えた瞬間、砲撃魔法が放たれた。
 『グァ…!』
 咄嗟に回避した零だが、同僚は間に合わずに被弾。そのまま堕ちていく。
 −カートリッジロード。短距離転移魔法起動。座標設定完了−
 雪風が魔法を勝手に起動し、視界が光に包まれる。次の瞬間には左半身が黒焦げになってしまった同僚とその愛杖−シルフと一緒に落下していた。
 −スティンガースナイプ−
 雪風の意図を理解した零は急いで魔力を流す。
 「スナイプ」
 発射された槍は一旦降下し、まだ息のある同僚の下に着くとその頭部だけを破壊した後、旋回し今度はシルフの中枢部を破壊した。これでジャムに雪風の情報が漏れることは無い。
 −目標接近−
 すぐに上昇をかけ、降下をやめると目の前にのっぺらぼうのように何にも無い真っ黒の能面が現れる。
 −擬似神経接続−
 雪風は驚いて動けないでいる零の身体に魔力で作った擬似神経を繋げ、防御のしようとするが、それより早く目標が零の喉に突きを入れていた。しかし、零はそれを苦しむ余裕も与えられずに雪風の命令により、強制的に打撃を与える。
数度組み手を繰り返し、やっと息が出来るまでに回復した零は、雪風の制御下にある体の痛みに耐えながら、必死になって相手の動きを目で追う。
 −目標、転移魔法の構築を確認。捕獲を−
 零は咄嗟に目標を捕獲しようと身体を動かした。ジャムを捕獲し、その調査をするためにここで逃げられては次の機会がいつ来るか分からない。雪風も考えは同じらしく、捕獲用の魔法をセットした。
 −危険−
 雪風の警告が飛び込んできたときには遅かった。目標は不用意に近づいてきた零に抱きつくと、瞬時に転移魔法を発動した。
 −転移情報送信。救援を…−










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はじめまして、アチュイです。
最後まで読んで(?)いただきありがとうございます。
リリカルなのはは高校の時に、友人に勧められてネットにあったアニメで見たのがきっかけで、それ以外は知らないというとんでもない者です。
なので原作ネタや小説・マンガネタは全く分かりませんし載せれません。それと作品が進むにつれstsの設定と矛盾することもあると思いますが、気にせずにいただけるとありがたいですwww
雪風に関しては小説とアニメ両方見ましたが、原作の人物とまったく違う設定になってしまいました。なのでそこも気にせずに見てくださいwww
遅筆なので更新は下手したら半年以上かかってしまいますが、どうか続きができた時は見てやってください。





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