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リリカルおもちゃ箱CASE プロローグ?
SAID ???




 目が覚めたらベットの上でした。
 今何時だ? 8時か……ま、これなら飯食う時間は余裕で取れるな。
 今日も嫌な一日が始まるのか、とか思いながら体を起こして腕を伸ばす。
 よし、頭はボーっとするけど意識はハッキリしてきた。
 さてと、今日も飯食ってパソコンでSS更新してる所探してから出勤しますか。



「―――ん?」


 って、あれ?
 ここ、どこだ? 全然見覚えないんだけど、少なくとも自分の家じゃない事は確かだな。あと友達の家でもない。
 それ以前に普段ベットじゃなくて畳の部屋で寝てるからな。それと友達もいるとかいって良いのか解らんもんだし。
 やば、自分で思ってて悲しくなってきた。


「あ、目が覚めたんか?」
「ん?」

 ドアが開く音に振り向くと、そこにはアニメ顔をした可愛い女の子がいた。
 ――――――アニメ顔?


「?????」
「ど、どないしたんですか? そない信じられへんものを見たような顔」
「あ、すんません」


 目の前の娘が困った感じで聞いてたから慌てて謝る。
 そんな変な顔したか、ってんな事はどうでも良いっつの。
 良く考えろMy脳みそ。目の前の状況は何ですか理解できません。
 二次元を求めるあまりに視覚が遂にオカシクなったか。いや、でも周りのものまでアニメ調で見えるのは……末期か。
 って、項垂れてみたら自分の腕までアニメ調で見えてんじゃねえか!?
 しかもサイズまで小さくなってるように見えるなんて……
 ヤベエよこれ。


「気分はどうや?」
「ええっと」


 自分自身に呆れてます。なんて言えやしねえ。

 それ以前にこの娘誰?
 結構年は下だよな〜小学生くらいか。でも今年で自分二十歳なのに、それにタメ口って最近の子は。


「まだ良くはなさそうやね」
「はぁ」
「自分の事解る?」


 自分ってどっち? あなた? それともミー(私)?
 日本語って難しい。日本人だけどさ。


「あんな、君は海岸で倒れてたんよ」
「海岸で?」
「覚えてへんか?」


 ちょっと考えてみたけど、全然思い当たる節がない。
 それ以前に海岸付近に住んでないし、自分一人で行くだけの手段も持ってないしな。
 なんでこんな所で寝てるかが解らない。


「そうや! あんな、君の荷物が近くに流れ着いてたから、それ見たら思い出せるんとちゃうか?」
「荷物?」
「名前も書いてあるでー? 確かこの封筒には津上翔い―」
「いやいやいや、それ違うから。それにアギトもう終わってるよ」
「じゃ、この盾に書いてある方やね」
「盾にって…うわ、古。ゼル伝かよ」


 この娘、ノリが良いな。芸人志望か? まあどうでも良いけど。
 つか今の子供でゲームボーイの方知ってるのいるんだ。
 ゼル伝しらないなら任天堂から調べてくれとしか言いようが無いと思うんだが…って、なに考えてんだっつの。


「あとはこれくらいやね」
「なんでクウガビデオ全巻!?」


 しかもビデオテープの方だから嫌に場所を取るな。
 よく持って来れたと思うけどこれ、自分の物じゃない。
 あと目に付いたのはそれらの上に置かれた中央に青い宝石のあるバンダナと、妙な形の籠手っぽい機械。
 その二つを見た時、頭の中で妙なモヤモヤとした”ナニか”が生まれ始めた。





 なんだ?
 何かおかしい。
 この娘はどっかで見た事がある気がする。
 人の顔憶えるのは得意じゃないし、すぐ忘れるけど何か見た事あると思う。
 でも思い出せない。


「どや? 何か思い出せた?」
「いや、むしろ困惑するって言うか」
「そっか。まあ焦ってもしょうがあらへんもんな」


 そう言って苦笑の一歩手前みたいな苦笑を見せる彼女が、ちょっと可愛いと思っちまったよ。
 そう言えば、現実だったらそんな顔されても何か気付かないけど、アニメとかだったら結構表情の変化は判りやすいよな。
 何かこの娘母さんみたいな雰囲気を出すなぁ。母さんって言うか、母親気質っていうか。
 でも幾らアニメキャラ好きでも、こうあからさまに視界が変わるなんて事あるのか?

 いや待てよ。
 それ以前に良く考えたら小学生の知り合いなんていねーぞ?
 そんな付き合いなんて持ってないし趣味も無い。
 じゃあ何でこの娘を見た事があるって思うんだ?
 この引っ掛かりは気の所為なんてレベルじゃないぞマジで。
 なんかすっげえ混乱してきた。



「そんな難しい顔しなくても大丈夫やって」
「ん」


 気遣ってくれる彼女の言葉にも曖昧な返事しか返せない。


 なんだ?
 本当に何かがオカシイぞ?
 ナニかが胸に閊えてもどかしい。
 ここまで来るとムカついてくるな。
 思い出すなら早くしろ。このクソ脳みそ!


「自己紹介がまだやったね。わたしははやて……八神や間違っても疾風のハヤテやないよ」
「ふー……ん?」


 やがみ・はやて?
 ちょっと待て。いや待て。いやちょっと待ってホント。いやマジで!? 
 おかしいから、いやオカシイだろ? マジオカシイから!?




 なんか見たことあるって思ったんだよ。
 どっかで聞いた事ある声だって思ったよ。今気付いた事だけどさ!!
 この娘の顔とか声とか雰囲気とか色々って……今自分が最も気に入ってるアニメのキャラじゃねーか!?
 じゃあ、このアニメ風景は全部現実!? それとも虚構の夢の中!?
 ここまで意識がハッキリしてるなら現実だと思う。
 いや現実である事を強く望もう。
 夢なら夢で楽しめそうだけど…それより、どうしてこんな事になってんだ?


「どうかしたんか?」
「いや……」




 ちょっとこれまでの事を思い出してみよう。
 ここで目が覚める前……あーしてこうしてドーなったかというとそーなった後にああなったんだっけ、そっか成る程。
 そうだ、確かあれは数少ない休みの日に同人を求めて出かけた中古ショップの帰り道だ。
 その途中で近くの公園に立ち寄った時にアレを見つけたんだ。



 このバンダナに付いてる……眩しく光るジュエルシードみたいな青い宝石を―――

 ・・・
 眩しい?



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!


「な、なんや!? このメルトダウンしとるような光は!?」

 言いたいこと言ってくれてありがとう。
 けど、こっちに振らないでください。もう分からへんわこっちも。
 光ってるし、震えてるし、何か振動が肌に伝わってきてるし……どないせーっちゅうねん。
 そういや、なんで慌てるときのギャグの言葉遣いは関西弁が多いんだろう?
 なーんてどうでも言い事を考えてる内にカッて感じの音が鳴った瞬間。





 死んだなって思った。







ドギャォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!






 次回予告 inはやて
驚いたわ〜。
偶然朝の散歩してたら漂流した男の子がおったんよ。
それで連れて帰ってみたら、行き成り爆発したのにはホンマにビックリしたわ。
でもそっからあんなんが出てくるとは思わんかったね。
なんやこれから楽しそうな事が始まりそうな予感がするで。
これからよろしゅーな? 二人とも♪


次回 リリカルおもちゃ箱☆CASE 第一話
”事の始まりは欲望塗れの願いでしたよ”

はやて「リリカルマジカル☆頑張るで♪」
???「頑張るウェイ!!」(■w■)b
___「誰だお前!?」
???「それより」、初回がこんなんで良いんディスか?」(■w■ ;も)
はやて「ええんとちゃうか? どーせほとんどの人が冒頭で飛ばしとる思うし」
___「駄目じゃんそれ」






前書き

この駄文は即身仏の心を持ってお読み下さい。
オールギャグのノリを予定しております。
パクリやら何やらやっちゃいけない事オンパレードです。
そういった手法は好まないという方。
これはそれ以前の問題なので、今から退却した方が無難です。
それでも見るという人は慢性神経中毒にならぬよう、自己責任においてお読み下さい。







リリカルおもちゃ箱CASE (改訂版)

プロローグ 1

「よっと、今日の分はコレで終りか?」
「だな、後は一応局に戻るまでに向こう側の廃品を仕分けるだけだ」

 ここは時空管理局に組する、そこそこ位も上の方に位置する方々が乗る船。
 その倉庫で二人組みの局員が雑談を交わしていた。

「にしてもさ。人数に対して明らかに仕事量可笑しくない?」
「だな。いくら雑用って言っても、ここ二人だけって嘗めてんのかとしか言いようがないよな」

 ブツクサ言いながらも二人は仕事へと取り掛かる。
 彼等の仕事は到ってシンプル。
 今回の任務で改修した物品と破損した備品の整理整頓。
 結構な数が置かれているのだが、大して重要なモノがある訳でもない。
 言い換えれば掃除を行なえという意味だろう。

「そういやさ、今回俺等が来る必要ってあったか?」
「無いな。多分人員を取られない為の数あわせだろ。
 人数が無いって事にすれば、無理に引き抜かれることも無いだろうからな」
「空しーな〜。楽で良いけど」
「だな」
「むしろ俺は清掃社員として働きたかった」
「ブッチャケたなお前」

 なら何でこの道進んだんだと聞きたくなるが、流れで就職という人もいる。
 それ以前に選り好みして入社できる人の方が凄いと思う。
 そんな事を考えながらか知らないが、ノラリクラリと作業を進めていく。
 倉庫内に鉄同士が触れ合う音が響き渡る。

「あ〜あ、若いうちにもっと色々やっておけば良かったなぁ」
「まったくだ」

 深々と溜息を吐く。
 ちなみに二人は今年で21と22になる。
 そんなやつ等が何言ってやがると、誰かの電波が届いたのか。
<若い内にもっと色々やっておけば良かった>
 そんな彼等の願いはある意味、思いがけない形で実現する事になる。


プロローグ 2

「お…ちょっ、ちょいちょい」
「どした〜?」
「なんか面白いもん見つけたぞ」

 そう言って彼が備品の山から取り出したのは、そこ等辺に転がるゴミ箱くらいの大きさのオレンジ色の円柱。
 よく見ると小さく丸っこい手足が付いている、元ロボットの体っぽいものだった。

「頭もげてるぞそれ」
「これ探してみたらくっ付きそうなパーツ無いかな?」
「探してみるか?」
「なんか簡単に取れるから付け替え出来そうだし、ちょっと休憩がてら遊んどく?」
「別に大半は廃品だし、構わないだろ」

 明らかに不真面目な最近の若者スピリット丸出しだ。
 誰も見てないと思って仕事を中断し、ロボらしきモノに色々なパーツを付けて遊ぶ馬鹿二人組み。
 そんな悪ふざけがこの後、自分たちの命を預けるパートナーを生む事になるとは思いもしなかった。

「よし、まずはこのアンパンが無限再生するロストロギア付けてみるか」
「いや、やっぱ男はG−3のメットだろう! ロボと言えばジ−サンしかないじゃないか!!」
「G−3ロボじゃねえよ! ってか既に古いっつのチョイスが!!」

 学生が休み時間にでもするような、他愛の無い話をして盛り上がる。
 同時進行で、其処にあるほぼ全てが仕様用途不明瞭というパーツを色々とくっつけていく。
開始から10分もしない内に、原型がなくなったのは彼等の技量が凄いのか。
悪乗りしすぎだったのかは解らない。その時だった。

 彼等が乗る船が大きく揺れ、その震度6級の揺れによって10mくらいまで巨大化していた元ロボのパーツが彼らに向かって倒れた。

「「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーース!?」」

リリカルおもちゃ箱CASE

 完


プロローグ 3


『エマージェンシー×2』
「かける2ってどんなコール!?」
「2回言ったんじゃないんかい!?」
「ってか生きてたのか俺達」
「マジで終りかと思ったよ」

 突然鳴り響いた警告音に驚きながら突っ込みをいれる二人。
 ギリギリ元ロボの落下による下敷きからは逃れたようだ。
 悪運の強いやつ等だ。

「って言うかさ。普通にギャースって言う叫び声って現実じゃ有り得ないと思うんだけど、普通にスは入らないよな」
「それを言ったらダメだろお前、妙な擬音があるから異世界ってのも存在するんじゃないか!!」


 局員二人がどうでもいい話を再開した頃。
 艦橋で外の様子を見ていた艦長達が驚きの声を挙げていた。

なんじゃありゃぁ

 艦長らしき人物が呆然とモニターを見て呟く。
 今この船は次元回廊を横断中で、障害物となるような物など何もない。
 事実、ほんの数秒前までは、その目の前の空間には何も無かった。
 しかし、今。現在目の前に唐突にして突然、巨大な隕石が姿を現した。
 あまりにも予想外の事に誰もが一瞬思考を中断させられていた。

「艦長! たった今、次元災害級の次元振発生の波形が観測されました!! 」
「何だと! どういう事だ!!?」
「それだけじゃありません。正体不明の何かが二つ…いえ、隕石付近にも強力なエネルギー反応が一つ!!」
「虚数空間の巨大隕石出現に次元振に三つのアンノウンだと!? 隕石を回避しつつ、アンノウンの映像写せ!!」
「映像数値修正…画像認識……映像出ます!!」

 艦橋の巨大モニターが三つの画面に分割表示される。

『七年前の仲間とご対面だ』

『うわわ、ドラ○えもん何とかしてよぉ〜〜!!』
『アレでもないコレでもない』

『キ○レツ〜!?』

 ブツン!
 三つの映像が映し出され、何か色々と危ないものを感じ取った艦長が画面を消した。
 決して赤いカブトと青いタヌキとか、眼鏡の少年達とか(故)不二子氏のキャラなんていなかった。

なにもなかったな
ええ、何も見えませんでした

 艦長同様に何も無かった事にしようとするスタッフ。
 だが、現実は無常にも彼らにその存在を突きつけた。

「・・・このまま行けば、第2倉庫部に激突しますが」
「防壁展開! 総員衝撃に備えろ!!」
GIG!!

 スタッフの掛け声に、オペレーターは思い切り頭をキーボードに打ち付けた。

 その所為で防壁展開のタイミングが狂った。って言うか展開すら出来なかった。
 遵って、虚数空間に現れた3珍物は何の苦も無く船に直撃した。
 ある局員二人がいる第2倉庫へ。


プロローグ 4

 倉庫にいた二人はガラクタが散らばった倉庫内で言い争っていた。

「だからさぁ、やっぱ巨大すぎるって思ったんだって」
「男だったらロボって言えば巨大だろ」
「でもこれは大きすぎだろ」
「気にするなぁ!!」狽пi’∀’)

 先程の揺れを微塵にも気に止めてないような会話を行なう。
 本当に単位とって学校卒業したのかお前等とか聞きたくなる。
 その時、社会を嘗めてる様な態度の二人に天誅が下ったのか。
 巨大な揺れと轟音と共に、倉庫の壁が爆発してブチ破られる。

ヴぉおおおおーーーーーー!?ビックリしたぁああああああ!!?
「俺はお前にビックリしたよ!!」

 驚く局員コンビに、更なる衝撃が待ち受けていた。
 空いた壁は外側、つまり虚数空間へと繋がり、唸りを上げて船内の空気ごと彼らを吸い込んでいく。
 恐ろしい勢いで、局員ズを飲み込もうとするかのように凄まじい風圧に引っ張られる。

何々なにあにあにあにあにないあにあにあになぁあああああああああっ!!!?
「掴まれ!!」
ムリ!!

 ムリと言いつつ必死に手を伸ばし、促した方もパイプに掴まりながら根性で相方の手を強く握る。
 だが、あまりの吸引力に耐えられる訳も無く。掴んだ途端にツルッと、ドリフのコントの様に足が滑った。

「あべしっ!!」
「おいぃいいいいいいいい!? なにやってんのきみぃぃいいいいいいぃぃぃ……!!!?」


 その絶叫を最後に、彼らは完全に揺らぎ安定する事のない次元の彼方へと飛ばされていった。
 二人を飲み込んだ空間はやがて大きく歪み、その姿が完全に黒い渦の中へと消えていく。
 後には雷が轟く異空間の中に、一部に穴が開いた管理局の船。
 この日、船の乗員リストから二名の局員の名前が抹消された。


第一話 「消える(未確認)飛行(物体の)機(体が生み出す)雲〜朴達は見送った〜」

 日の光を反射し、波が白く輝き水飛沫を飛ばす。
 その堤防の上、一人の少女が車イスから松葉杖を用いて立ち上がる。
 彼女の目の前には白衣を着た女性が立ち、泣き出しそうな表情をしながらそれを見守る。

「もう、良いよね。わたし頑張ったよね。もう、ゴールしてもええよね?」
「はやてちゃん」

 足が全く動かないのか、腕の力だけで体を持ち上げるはやてと呼ばれた少女。
 儚そうな印象をぶち壊す発言をするが、トンでもない腕力を有している事が窺える。
 両脇に挟んだ松葉杖で、苦しさに絶えながらはやては器用に進む。

「わたし、頑張ったから良いよね。休んでもええよね?
 色んなことがあったけど、辛かったり苦しかったりしたけど、わたし頑張ってよかった。だから―――
 …ええっと、あかん。先生っ素でもうあかん。もう腕が産まれ立ての小鹿や
「はやてちゃん!」

 腕が痙攣しかけながらも、辛うじて立っている状態のようだ。
 急いで白衣の女性が駆け寄り、倒れそうな体を抱きとめる。

「あはは、やっぱりあかんかったわ」
「はやてちゃん」
やっぱり、この体でAir最終話ごっこはムリや
腕を痙攣させてまでする遊びじゃないでしょ

 心底疲れたように話す女性にはやてと呼ばれた少女は明るく謝った。
 ―――と、顔を上げた彼女の瞳に青空から何か光るものが映り込も、思わず声を挙げた。

「どうしたのはやてちゃん?」
「石田先生。あれってなんやろか?」
「あれ?」

 はやてが指差す先、そこには海に向って落下する火の玉があった。
 やがて、火の玉は海面に激突して巨大な水柱を巻き上げた。



第2話 「陣内流柔術惨状」

 突然はやて達の目の前に、消える飛行機雲のように煙を尾に引いて落下してくる火の玉が現れた。
 それは海面に盛大に激突すると、それはもう盛大な爆音と水柱を作り出した。

「あ、あれはなに!?」
「これはドラえもんで言う大長編が始まる予感がするで!!」
「何の話? はやてちゃん」
「ん? なんやアレは?」

 多くの水飛沫を撒き散らす水柱。
 その中から凄まじい勢いで何かが飛び出してきた。
 ――――と言うより、猛ダッシュする人影が水面を走ってきた。

ドバババババババババババババババババババババーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!

 人影は水面を駆け走り、堤防に差し掛かった所で思い切り跳躍。

『「「暑ッッっっっっづ(ウェ)ぁあああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぃ!!!!」」』
「へっ!?」
「は?」

 三つの影が水飛沫を背に、驚く二人の眼前に飛び出ていった。
 そして、駆け足のポーズで繰り出された彼等の肘や膝や拳が見事に石田先生にヒットしていく。
 喉にアッパーカット気味の拳、鳩尾に深々と突き刺さるように肘、人中(急所の一つ)に膝の鋭いニーキック。
 といった具合に、どれも小気味良い音を立てていく衝撃だった。
 はやては念を駆使したかのようなジェットスタートを切って車椅子で猛ダッシュで回避。
 煙を尾に引きながら突然の強襲を避けつつ、石田医師に向かって叫んだ。

「先生ぇええええ!?」



第3話 「出会いは何時だって唐突だ」

「やめろ〜ジョッカー! ブッ飛ばすぞ〜う!!」
「や、やめるんだジャムおじさん! バイ菌マンの首を取るには鮮血が伴うんだぁあああ!!!」
「どんな寝言やねん」

 謎の寝言で魘される少年二人に律儀に突っ込みをいれるはやて。
 あの後、石田先生に見事な三連激を入れた三人(?)は、突っ込んだ勢のまま倒れこみ二人は気絶。
 見かねたはやてが気絶しなかった物体@と共に自宅へと連れ込み看病したのだ。
 石田氏はと言うと、危篤状態としか言いようの無いくらい見た目にも危ない感じだったので置いてきた

 もう一つ言うなら、彼等の服は全く濡れていなかった。
 恐らく落下の熱と海の水の温度が、何か丁度良い具合にマッチしたのだろう。
 なんで服は燃え尽きて消滅しなかったのかって?
 そこはほら、ドラゴンボールのズボンは決して破れない法則だ。


「石田先生置いてきてもうたけど大丈夫かなぁ? 一応病院に連絡はしたけど」
『血反吐吹いて白目向いて向いてたら、警察絡みになって色々説明が面倒ディスよ。
 絶対取調べでストレスで胃に穴が開くウェイ。逃げるが勝ち、触らぬ神に祟りなしディス』

 悩めるはやての肩を叩きながら語るのはAAキャラブレイド。
 (0w0)←の顔に丸みのある手足が無くなったドラ○もんボディをもつ和み系アンニュイキャラ。
 もしくはヒトデの一部を切り取って取り付けたものを想像してくれれば完璧だ。
 火の玉となった彼等が爆発して死ななかったのは、多分彼がダイブユニットとしての役割を果たしたのだろう。
 劇場版カブトのカブトエクステンダーの役割と言った方が解るか。
 この珍妙な存在の言葉にはやてが頷くと、魘されていた二人が目を覚ました。

「……???」
(周りが見えねぇ?)

 寝ぼけ眼で部屋を見渡す黄色いTシャツの少年。

「う〜ぉ・・・腰にキタ」

 もう一人は伸びをして体を捩り、背骨を鳴らす。

「…ここ、どこだ?」
「目が覚めたんか?」

 ようやく現状を把握し始めた二人に話しかけるはやて。
 その声に二人は揃って彼女に視線を向ける。
 彼等が彼女と出会ったのは、運命だったのだろうか。

 この時の異常としか言えない出会い。
 これが、後に大きな冒険の幕開けを告げる。
 そして、はやての煩く騒がしくも楽しく、やっぱり騒がしさの抜けない非日常の始まりでもあった。


第4話 「舞い降り(ていたりす)る剣」

「きみは誰?」
「うちはラクス・クラインですわ」
「色々足りないものとかが沢山あるぞ。天然っぽさだけでも、腹黒さだけでも」
「あはは、手厳しいなー♪#」<ドゴォ!!
アブロ!?

 見事なさり気ないボディブローを叩き込むはやて。
 その一撃は的確に鳩尾にクリーンヒットした。


 笑顔の眩しい可愛らしい娘だな、とちょっと思った。
 どう見ても人が良さそうで、少なくとも悪人ではないだろう。
 彼女の目の前でグロッキーになっている親友の事は全力で無視する。
 じゃないと色々進まないし、何より自分の身が危ないと思い改めて問う。

「あの、ここどこかな?」
「お…オヴェ達は……確か…倉庫にいた筈…ぐふぅ」
『レバーに大ダメージディスね』( 0w0)/))/<サスリサスリ>
「サンキュー」
「って誰さキミはぁーーー!?」
「え、知り合いやないんか? 最初に登場した時から一緒やったけど」
「知らん」
「さっぱりです」
『なんディスと!? 人を10uまで巨大化させたり、バイキ○ロボっぽく改造したり
 散々遊んだオディの事を忘れたディスかーーー!』
「「散々遊んだ・・・・・・?
 <チック・タック・チック・タック・ボーン・ボーン・クルッポークルッポー・ガンジース! ガンジース!!>
 <言葉見つけられず 思わず触れた肩先 キミは何にも言わずに 冷たく振りほどく〜♪> <オラァ!!>
 ぁあーーーーー!? もしかしてあのガラクタ倉庫の頭部なし騎士ブルーディスティニー!?」」
「それで解る人はおらんと思うで」
『もしいたら凄まじいボンボンコミックファンディス』

 なにやらとんでもなくどうでも良い事に話題の華が咲き始めた面々。
 そこから自己紹介やらここまで来た経緯やら何やら語りだすまでに3時間の時間を用いる事になった。
 ついでに、局員二人は自分達の身体が子供のモノに変わっていた事を知る。
 よく見ると律儀に服の裏に名札が付いてた。
 名札には野火埜鐚という名前と紀帝鋭一という、どこぞの暴走族かと聞きたくなる様な名前の刺繍入りだった。


第5話 「ジャッキーワード=ザ・ワールド!」

 なぜか知らないがFUZIKO F FUZIO? 的なキャラへ変貌してしまった局員s。
 正直に言えば局員ABで表したかったが、他のところで局員さん出てしまったのでやむを得ず。
 という裏事情とは別の事情があったりするのだが、説明が激しく面倒なので飛ばす。
 局員の事だから別に構わないだろう。主役じゃないし。


 視力は元から悪かったが、メガネキャラほどではなかった。
 なのに、二人とも行き成りメガネキャラへと返させられて不便に思ったが、そこはまあ仕方ないと割り切る。
 はやてもそんな二人が自分の所に落ちてきた経緯を聞いて納得し苦笑した。
 自己紹介も含めた無駄話で時間が経過し、日も墜ちる時間になるとリビングへと場所を移し、全員で夕飯の準備を行なう。
 彼らは全員順応力が高かった。

「今日はパーティーやー!」
『ィウェーイ!!』
「おー」
「良いのかな〜こんな勝手に世話になって」
「そんなん気にせんでええってノビくん。困ったときはお互い様や」

 聞こえないように小声で呟いたつもりだったが、はやてには聞かれていたようだ。
 ノビというのは、ハッキリ言って(漢字変換が面倒)あだ名だ。
 ちなみに紀帝はレッくんと呼んでいる。
 なんでレッくん? と聞いたら、はやてはイイ笑顔で「穴埋めや」と返した。
 思いっきりクレーム来そうだなぁ。と思いながらノビはブレイドと共に食器を用意する。
 レツはそこそこ料理が出来るのか、はやて一緒に晩御飯の支度をしている。

『ここに来て家庭的なのとそうでないのとで分かれたディスね。
 惜しい事したディス。ここで一緒にお料理はトキメキ℃アップのチャンスイベントディしたのに』

 冗談なのか本気なのか解らん発言に呆れるノビ。
 黙々と食器を用意していく内に、そう言えば家族を見てないなと気付く。
 その内帰ってくるかと思って、取り合えず聞かないことにした。

『そう言えばご両親はどうしたディスか? オディは兎も角、この二人は怪しさ爆発ディスから言い訳も考えないと』

 そっくりそのまま返してえよコノヤロウ。
 腹の底で微妙な黒い衝動に駆られつつも、ノビははやてへ目を向けた。
 レツも同じ様に視線を向けると、はやては寂しそうな顔をして俯く。

「大丈夫や。うちには、両親おらんから」






第6話 「笑いは心のビタミンだ」

 はやてのカミングアウトに静まる室内。
 静寂がその場を支配し、ノビ達は言葉を出すことが出来ない。

「そんな気を使わんでええって、もう慣れっこや」
「覚悟は良いかい?」
『解釈を頼むディス』

 食事用ナイフをブレイドの首筋に当てるノビ。
 ちょっと轢いてみると、黒板を引っ掻くような音が鳴った。

「……十円傷にしようか」
『マジディスか!? 痕が残るから勘弁して……ウェ〜〜〜〜〜!?』

 本気で十円玉を取り出し、ブレイドの頬に当てる。
 暴れるブレイドだが、悲しいかなその短すぎる手足ではまともな反撃は出来なかった。

「なんやこうして見ると、ちょう可愛いなぁ」
「ある意味、僕等が作った訳じゃないけどね」

 二人のやり取りを見ていると、自然と笑みが零れるのを感じた。
 ささやかな気遣いに感謝しつつ、はやてとレツは夕飯の準備を進めていった。

「なんか面白いなキミ。餅みたいに柔らかく伸びるのに、鉄ぶつけると凄く硬いって、
 どんな構成素材してんのホントに」
『あ、そんな強く握っちゃイヤウェイ』
「ふふふ、おめでとう猛くん。キミは栄えあるジョッカー婚約者の一員に選ばれました〜」
『やめるウェーイ! オディには愛すべき組織と愛人がいるんディスー!!』
「愛人て、恋人がおるんか?」
「っていうか、どんな修羅場だよ?!」

 バカな事をやっていくうちに料理は出来上がり、食卓へと並べられていく。
 ようやく出番だ! と弱冠心待ちにしていた仕事に動き出すノビとブレイド。
 他の人が働いてる中、自分だけ待つというのは結構居心地が悪い物なのだ。
 ブレイドは気にしたようではないが、早く食事にあり付きたいという素直な欲望から手伝いに行く。

「みんな席に着いた〜?」
『「「はーい」」』
「それじゃ、手を合わせて。頂きますって言ったら食べるんやで?」
「うおい」
「そう来たか」
『モグモグバクバクガッツガツガッ!!』( 0w;:)”⊂≡⊃
「って、全く気にしてへんし!?」

 はやてのボケに脱力する二人に対し、気持ち良いぐらい勢い良く食事を開始するブレイド、
 ドラえもん宜しく、指の無い手で起用にナイフやフォーク、箸を使い分けながら勢い良く口に食べ物を突っ込んでいく。
 三人はツッコミを入れながらも、食材が運ばれるブレイドのw字口を凝視した。
(どうやって食べてるんだろう?)
 そんな疑問から、観察をし続けたが解明できず。
 何時の間にかそろそろ止めないと、本当に自分たちが食べる分が無くなりかねない所まで食材がなくなっていた。

「少しは遠慮しようよ!?」
「厚かましいなお前!?」
『ウェ?』(0w0::⊂?
「ああもう、こうなったら早いもん勝ちや!!」
「マジッすか!?」
「落ち着けないなオイ」

 口々に言いながら食材に手を伸ばす。
 なぜか箸が折れたり、金属が討ち合う音が響いたりしたが気にしない事にした。
 戦わなければ生き残れない食卓。
 全く和める要素ゼロな食事。
 それでも、みんな結構楽しそうだった






リリカルおもちゃ箱CASE



第7話 「(妄想の)辿り着く場所さえも解らない〜(以下略)〜思い(漢の性)を走らせるよ〜」



 激しき食物連鎖の食卓バトルも終りを告げ、はやては激戦を潜り抜け、欠けたり拉げたりした食器等の片付け。
 ノビ達は激戦の疲れを癒す為に、リビングでそれぞれグータラに過ごしていた。
 ちなみに、弱肉強食卓勝者は八神はやて師匠がダントツトップだった。
 その時の様子を見た彼等はこう語る。
 いや、あれは凄かったよ。こう、ブーメランフックのモーションを取ったかと思ったら、背景が真っ黒になってソニックブームが巻き起こったんだ。
 あれはリング゛に掛けた日本黄金世代の拳を宿していたね。ギャラクティカを垣間見た。日本のボクシングもまだ捨てたもんじゃないかもしれないな。

 暫くすると、はやてが荒い物を終えて台所からリビングへやってくる。

「本当にゴメンな。手伝わなくて」
「ええって、ウチも素人にブロークンマグナムは大人気なかったわ。せめてファントムにしとくんやった」
「どっちもザコキャラには致命的だと思うんだ、それ」
『幻の左がファントムディスよ』
「何の話だ」

 なにやら、妙な空間を作り出し始める一同。
 普通とは違う感性を持つもの同士、気が合うのかもしれない。
 いや、そうしないと話が進まないから、無理やりそうしてるのいかもしれない。
 さて、そろそろ軌道修正しようかと、はやてが両手をポンと合わせて三人に頼み込む。

「あ、それより。ちょう皆に手伝って欲しい事があるんよ」
「なに?」
「あんな、ちょうお風呂に入るのを手伝ってほしいんよ」
「良いよ」
『ウェーイ!! お風呂イベントキター! ディスよー』
「落ち着こうよ。って言うかキミも承諾するの早いよ!?」

 明らかに親父精神丸出しのブレイドと、イヤにアッサリ引き受ける相方に突っ込むノビ。
 それに対してレツはさも当然とばかりに知れっと答える。

「足使えなくて、一人では入れないんだったら手伝うしかないじゃん。
 それに、別にやましい事なんてないんだから気にする事ないだろ?」
「いやま、そうだけどっさぁ。もっとこう、根本的に僕等は間違ってると思うんだぁ」

 体は子供でも、一応頭脳(実年齢)は大人の仲間入り。
 学生気分が抜け切らなくても、一応は大人であるのだからその節度は持つべきでは。
 まあ、実際に小学生上学年でも、親と一緒に入るのも探せばいるかもしれないが複雑である。
 こんな事考えてる時点で色々アウトなのか。それすらも解らなくなってきた。

「もうお風呂は沸いてるから、後は入るだけや」
『ディは! オディが案内するディスよー!!』<バビュン!!>
「うわ!? 早!!?」
「…俺等も行くぞ〜」
「そっちも!?」

 そう言ったレツは脇に挟む様にして風呂用具一式を抱えていた。
 眼が横太線っぽくなりながらオロオロと焦るノビ。
 なんだか置いてきぼりをくらった気分だった。
 ある意味、彼がこの中では一番まともな部類に入るのかもしれない。
 彼は色々悶々と悩んだ挙句。


 やっぱり二人と一緒に着いて行くことにした。






第8話 「人としての葛藤」

 色々と大人の事情というか、それらしい言い訳を行使して世間体を誤魔化し。
 局員ズ+αは野郎の憧れ、もとい、人として禁断の花園へと突入しようとしていた。

「なんか嫌な説明だなぁ。しかも一括りは名前じゃなくて局員ズだし」
「気にするなって、どうせ名前は飾りだ。作者の技量じゃ誰が誰か解らなくなるっていう理由の、拙い悪あがきじゃないか」
『と、言うか地の文にツッコミを入れるのはタブーディスよ』
「そやなぁ、細かい事気にしてたらこの先進まへんよ〜?」

 暢気に返すブレイドとはやて。
 今彼等は風呂場の隣の脱衣所にいる。
 流石に四人、しかも車椅子が余計に場所を取って弱冠窮屈に感じる。

「で、風呂場に来たのは良いんだけど、何で自分等もいるのかと疑問に思うんだ」
「仕方ないだろ。子供の腕力じゃ十分な安全確保できるか解らないんだし」
『そう言いつつ、もしもの流血イベント対策として、道連れにしようという魂胆ディスね』
「え〜、エッチぃなぁ」

 両手で身体を抱きしめる仕草をしながら、クネクネと身体を捩らせるはやて。
 ブレイドはそれに悪乗りし、ノビは居心地の悪さを感じつつ、レツと共に入浴に必要なもの一式揃える。

「あっそう言えば二人の服の事を考えとらへんかったわ」
「ああ、構わないよ。どうせ洗ったようなもんだし」
「今考えると、良く生きてたよね」
『正義のハートは一万度ディスから、耐える事は簡単ディスよ』
「そか、なら着替え手伝ってもらおかな」
『ウェィッス!!』

 はやての言葉に敬礼しつつ、真っ先に答えるブレイド。
 身を乗り出してはやてに近づこうとしていたので、局員ズは阿吽の呼吸でブレイドのドデカイ頭を鷲掴み止める。

「おまえ獣過ぎるぞ」
「正直、ドアップで見ると恐いわ」
『何するディスか。オディなら性別不確定ディスから何の問題もないディしょう?』
絶対雄だろキミ
『何を言うんディス。オディのこの赤く煌く清んだ丸い複眼が信用できないとでも?』

 アップで迫る彼のデカイ両目には、欲と望という文字が片方ずつ太字ゴシック体で色濃く表示されていた。

「取り合えずタオルで身体隠して、自分で出来るところから先に脱いでって」
「うーん。脱いでって言われると、何かやらしーわ」
「着替えが無いから濡れないように気をつけないとな」
「ノビくん達も服脱がへんと」
「へ?」
「だって、お風呂入っても身体洗ったりするとか一人で出来へんもん」
『オディは完全防水ディスから無問題ディス!』
「はい、キミは待とうねー」

 先程から妙に前に出るブレイドの頭を鷲掴みにして押し退ける。
 何故か知らないけど、そのやり方が一番しっくりくるので、多分この動作はこの後も続くかもなーと思ったり。
 取り合えず確かな事……多分、いや……こいつは絶対雄だ。

 絶対そうだ。間違いない。
 だって、さり気なく女物の白い下着をマヂマヂと持っているんだから疑いようが無い。
 というか、マジ最低だコイツ。

「じゃ、早よお風呂入ろか」
「つか、もう着替えたの?!」
「お前も早く着替えとけー」
「って、そっちも何時の間に着替えてんのか!?」

 たった数行の間に一体何が。
 ノビが困惑してるが、いい加減話が進まないのでそこら編は飛ばした。
 何か細かく書くと卑猥な感じになりそうだし、半端な文書力じゃ妄想を引き立てられないので已む無く断念。
 いい加減にしようぜ作者。

「じゃ、車椅子から移動するか。ノビ下持ってくれるか?」
「解った。じゃ、持ったら振り子の要領で投げ飛ばせば良いのかな?」
「投げ飛ばすかー!  さり気なく恐いなお前!?」
「どんな祭り気分やのそれ」

「いや、そろそろ呆け時かなーって思ったからさぁ」
「ちょうまともかと思ったけど、やっぱおもろいなぁキミ達」
『良いお湯ウェーイ』
「さり気なく一番風呂入ってんなよ!? どこまで俺様気質なんだよ!!」
『ウェ?』
「あはは、構わへんよ。どや? お湯加減は」
『タオパイパイみたいに釜茹でにしても大丈夫ディスよ』
「俺等が耐えられねえよ!!」
「あー、そろそろ移動するか?」

 収集が津か無そうだったので、ノビが切り出すとアッサリと「そうだな」と言って切り替えるレツとはやて。
 このテンポの変わり様、多分ツッコミが無ければこいつ等何処までも外れて逝けると思う。

「じゃ、俺が上持つからお前さん下な」
「ん」
「よろしくな〜」

 促されてノビははやての足、腿の下に滑り込ませるように両手で抱え込む。
 意識しないように全思想を、熱血系バトルシーンを思い返して妄想する事に費やして誤魔化していた。
 しかし、しかしだ。
 彼は結構健全で、どちらかと言えば純粋な方の部類に入る男性だった。
 けれど、共にいる悪友に雪の舞う約束の町が題材のPCゲームを進められて、色々と開放されてしまった彼。
 もうあの頃のような純粋さには戻れない所まで来てしまった野郎に、美少女の生足とバスタオル一枚姿の直視。
 そして、笑ってはいるが、ちょっと恥ずかしそうな仕草や頬が赤く染まってる等の胸キュンイベント。
 オベリスクの巨神兵を凌ぐの如く強烈なコンボに、彼の理性はハイパークロックアップ寸前である。
 ちなみに現在、欲情を抑える為に超高速思考を展開中。
 自己の世界に入っている為に、周りの時間の流れから外れると言う、漫画効果クロックアップ・思考の渦編を実行中なのだ。

「やさしくしてな?」

 彼の葛藤を知ってか知らずか、放たれたはやての言葉。
 それを聞いた辺りで彼の頭の中は更にキックホッパーが入り乱れる騒がしい空間となった。
 幾つものキックホッパーが入り乱れてライダージャンプを行使し続ける彼の脳内空間。
―ああ、変身能力を持った悲劇の主人公って、こんな感じに葛藤してるのかなぁ―
 と、ヒーロー達の苦悩をぶち壊しにするような考えをしながら、彼は悶々とした夜を過ごすのであった。






第9話 「彼・参上!?」

 日も沈み、月の明かりが辛うじて物陰を映し出す。
 僅かな月明かりの光に照らされ、生い茂る木々が幻想的な光を放つように見える。
 その木々の間、草むらを掻き分けて走る人影が一つ。
 マントを羽織っているが、小柄な体から子供だという事が判断できる。
 それを追う、不気味に蠢く不定形の異形の影が一つ。
 こちらは何か、小さな黒い粒が集まって一つの形になったような不気味な物体だった。
 彼等の距離は徐々に縮められ、後少しもすれば影は少年に追いつくだろう。

「くっ仕方ない!!」

 逃げ切れないと悟ると、少年は懐から小さなマッチ棒らしき物を取り出す。
 直後、異形の影に振り返り左手を掌底の形にして突き出した。
 同時に空いた右手で剣指を立て、何かの印の様なものを結び、呪文の様な詞を紡いでいく。

「……出でよ! サラマンダー!!」

 呪文を唱え終えて左手の甲へと押し付けると、手の平に赤々とした魔方陣が浮かび上がり、中から炎を纏ったトカゲが現れる。
 上半身まで魔法人から出したトカゲは大きく口を広げ、異形の影目掛けて紅蓮の塊を打ち出す。
 炎の弾丸と呼べる炎塊は空気を焦がしながら突き進み、そこまで迫っていた異形の影に直撃する。
 火炎の勢いに加えて、獲物を全速力で追っていた影の勢いが衝突し合い、衝撃波が周囲の木々を大きく揺らす。

「これなら……」

 衝撃によって巻き起こった風でフードから顔が窺えるようになった彼が呟く。
 彼の顔立ちや、弱冠長い髪は正直に言えば少女に近い様に見える。
 一見弱々しく見えそうな顔立ちも、今は立ち込める煙を注意深く、身構えながら様子を窺う鋭いものへと変わっている。
 更に言えば少年の息は荒く、汗も掻いていて大分消耗している事が窺えた。
 今の攻撃を受けて相手が健在であった場合、まともにやり合えば彼の勝率はかなり低い。
 それは少年も考えているようで、頭の中で様々な状況に陥った時の事をシュミレーションし、切り札ともいえる物体の入ったポケットに手を入れる。
 1秒、2秒……その短い間隔が数分の物にも感じられる。
 不意に小さく風が吹き、彼の髪を揺らし眼前の煙を追い遣っていく。

「■■■■■!!!」
「っく!?」

 煙が全て晴れかけた所で、異形の影が豪速で突進した。
 その行為は予想していた通りだったが、その動きの速さは読みが甘かったと言わざるを得なかった。
 粒が崩れて身体がボロボロであるにも関わらず、攻撃が直撃したとは思えない程の速さを持って少年に襲い掛かる。
 咄嗟にポケットの中の切り札――中心に金色に輝く星が見える限りなく清んだ蒼く輝く宝玉――を取り出し影に向けて突き出す。

「■■■■■■■■■■!?」
「ぅぅっ!!」

 宝玉から激しい光が放たれ、輝く壁を形成して影を弾き飛ばす。
 黒い粒を撒き散らしながら影は大きく吹き飛び、木々より高く弾かれて見えなくなる。

「しまった。見失ちゃ……た」

 少年は追いかけようとするが、膝に力が入らず倒れそうになり地面に両手を突く。
 荒くなる息を整えようと、力の入らない足を動かして近くの木に背中を預ける。

「早く……追いかけないと…」

 自分の気持ちとは裏腹に身体は休息を求めている。
 暫くは動けそうに無いな。と思った所で彼の意識は墜ちた。






第10話「○曜サスペンス劇場 失笑系」

「白い雲、青い空、立ち並ぶ木々、こんな爽やかな散歩気分って何時以来だろう?」

 ノビが木陰に腰掛けて頭に蒼い鳥が休憩所代わりに止まっているのを少し気にしつつ
 爽やかな太陽を眺めようとしながら煌びやかな細目線で呟く。
 お風呂騒動から数日、戸籍とか色々面倒な事は取り合えず置いといて、彼等は楽しい日々を送っていた。
 家事もそれぞれ役割分担し、時に皆で出かけたり遊んだり、たまに夜更かししたり、将来の夢を語り合うなど気分は修学旅行生。
 その中で解った事は、はやては普段は一人暮らしで祖父からの仕送りでどうにか生活を続けているという事。
 いや、はやてが言うにはリインフォースという蒼い鳥を飼っていて、その子がいるから一人ではないと言っていたが―――

 兎に角暗い話を穿り返さないように努力しようと、局員ズ+@は密かに義兄弟の契りを交わし、ボケと笑いで恩を返そうと取り決めた。
 別段気にしなくてもギャグに入るのが彼らなので一宿一飯の恩返しとは言い難いと思うが、その素人コントがはやてを楽しませているのも事実。
 色々前口上が長くなったが、要約するなら八神家にお世話になってるバカ共ははやてを笑わせながら日々を過ごし
 今日はピクニックに出かけてきたということだ。
 ちなみに、平日の真昼間を堂々と出歩いているという所は気にしてはいけない。


「おーいノビくーん。リインー! こっち見てみー! 1upキノコ見つけたでー♪」
「ふーん、良かったねー」
「じゃ、今晩はキノコ鍋?」
「そやね。キノコご飯もええかな〜?」

 レツとはやてが食べれる植物大図鑑・著作Drドカルト
 と書かれた書物を片手に晩飯の献立を話し合うのを遠めに見ながらノビは大きく欠伸をする。
 仕事についてから、こんな風にノンビリとしつつも健康的な過ごし方を暫くしてなかったので、何とも言えぬ開放感を感じる。
 頭に乗ってる青い鳥―リインもつられて眠そうにしている。うつらうつらと首が上下するのが恐いが、可愛いのでやりたいようにさせておく。

「面白いもん見つけたぞー。見ろよコレ、カプセルに入ったノリダー人形埋まってたぜ」
「マジで!? うわ、色んな意味でスゲエな」
「いるかー?」
「いらね」
「こっちも凄いもの見つけたでー!!」

 即答するノビに続いて、はやてが車椅子をドリフト走行しながら手に持ったものを見せに来た。
 煙がEの形をしながら白から赤色へ変わり始めた所で急停止。
 絶妙なるドリフトテクである。

「なんと、木の根元に七年前の物と思わしき小瓶に入ったボロボロの天使人形やーーー!!!」
「ははは、戻してらっしゃい奇跡起きなくなっちゃうでしょ」

 あはははは、と笑いに包まれる一同。
 そんなフレンドリーな空気に混ざろうと、遠くの方からブレイドが大きく手を振って三人に呼びかける。

『オーイ、こっちも見て欲しいディスよー』
「ブレちゃんも何か見つけたんかー?」
『ウェーイ』
「なんやなんやー?」
『見てみるディスよー。こんな所に血まみれで倒れてる少年ディスー!
「明るく言う所じゃねぇえええーーーだろそれ!!!?」
「ちょ、ノビくん。押して!!」
「……」<フルフル・イヤイヤ>

 縦線状に涙流しながら拒否したいノビ。
 折角の平穏すぎる大切な日常壊されたくないのって感じだ。
 はいはい、事件だよ事件。






第11話「UGUu……鼻(と体の彼方此方)が痛いよ〜」

 傷だらけの少年の下へと駆け寄るはやてと局員ズ。
 ブレイドが少年の事を引き摺ろうとしていたので、それは一層急いで走って止めた。

「傷だらけやなぁ」

 近くまで来ると、少年は体の彼方此方に擦り傷がある事が窺えた。
 だが、一定のリズムで上下する肩を見ると、少年は気絶しているだけのようだ。

「そうだな。でもどれもかすり傷くらいだし、手当てすれば大丈夫だろ」
「大丈夫なのかな?」
『何となくダッフルコートを着せた方が良い気がするディス』
「何でだよ」

 脈絡のない発言と共に、何処からか取り出したダッフルコートを少年に着せようとするブレイド。
 その動作を見守る一同だが、手が短い為に難儀し時間が掛かりそうなので途中から手伝う。

『で、手にはミトンの手袋をつけて、あとは赤いカチューシャは無いディスかね』
「ここにあるでー」
「何で持ってんの?」
『アリガトウェイ。最後にこれを着ければ完璧ディス』

 そういったブレイドの両手には、どっかで見たような羽根つきリュック。
 プラスチックの羽が三対、中には何が入ってるのかと疑問を感じずには入られない一品。
 そんな妖しい品を少年に背負わせる。
 それに何かを感じ取ったはやてと局員ズ。
 はやての手元には先程拾った天使の人形。そして、目の前の少年(?)の格好。
 悲しい事に、彼等はそれによって導き出される答えを知っていた。
 どうしてはやても知っていたか。それは個人のプライバシーの為に知る事は出来ない。
 ソレはさて置き、閑話休題。
 ちょっと似合ってそうなとか、やるんじゃなかったとか色んな思考が駆け巡るけど取り合えず無視。

『「「「……」」」』
「ぅ……ぅぅ〜……」

 何かを期待しながら見守るはやて達。
 嫌な視線を感じ取っているのか、少年(?)は嫌に魘されている。

『「「「……」」」』
「ぅぅぅ……」

『「「「……」」」』
「う……ぅぅ」

『「「「……」」」』
「……ぅ…………」

『「「「……」」」』
「うぐぅ〜……」

『「「「よし(オゥ Yes)【ウェイ】!!」」」』 狽(0w0)

 何故か力強くガッツポーズ取りながらサムズアップする一同。
 ちなみにタイミングは全く同じだったが、声は結構バラバラだった。
 だが、間違いなく彼等は魂の義兄弟の契りを完全に交わした瞬間でもあった。


 どうでも良いわそんなもん。






第12話「ポケット=彼(D氏)の存在意義!! or ベルトさえ着けてれば皆仮面ライダーと呼べるのか?」

 傷だらけの少年に奇跡のたい焼き少女の格好をさせて満足したはやて達。
 一応男の子だと思うが、活発な食い逃げ少女の格好をさせた所為で微妙に判断がつき辛くなっていた。
 元から女の子っぽい顔をしていると、その場にいる全員が思ったのは心に止めておく。

『女の子っぽい外見ディスけど、オディのサーチ愛が美少年と断定したディス』
「どんな能力やねん」

 思わず関西弁でツッコむノビ。
 はやては内心まだまだ甘いと、何故か気分的に若手芸人の師匠に成りきっていた。
 一先ず、彼の格好はそのままにしておいて、真面目に彼等は少年の容態を見てこれからの事を決めることにした。

「取り合えず病院連れてく?」
『警察がらみは面倒ディスよ』
「そーやなぁ。石田先生危篤状態にしてもうたときに、病院の人達みんなの事色々怪しんどるからやめた方がええかも」
「なんか犯罪者っぽいな俺達」
『遠からず近からずディスが』
「じゃ、どうしようか」

 そう言えば、ブレイドは妙に警察絡みになるのを拒むなぁとどうでも良い事に思考が傾く。
 閑話休題って事で、それはそこら辺に捨て置いた所で不意にはやてが思い出したように、あっと声を挙げて局員ズに質問する。

「ノビくん達の魔法で治せるんやないの?」
『「「ゑ?」」』
「えって……回復魔法とか、痛みを和らげる魔法とかて無いんか?」
「あ〜、そんなのもあったな」
「すっかり忘れてたよ」
『ヘタレディスね』
「違うよここはヘタレって言うんじゃないんだ。度忘れって言うんだ」
「忘れて無くても俺達は雑用全般が仕事だったからな。自分で使える魔法は全く役に立たない」
「ダメやんそれ」

 行き詰まり、腕を組んで悩み始める一同。

「何か回復アイテムでもあれば良いんやけど」
『それなら丁度良いものがあるディスよ』

 その発言に全員の顔がブレイドに集まる。
 失礼かもしれないが、胸と思われる部分をポンと叩く彼の姿には、胡散臭さを感じずにはいられない。

「って、何も持ってないじゃん」
『甘いディスよ。オディが只のマスコットキャラだと思っていたディスか?』
少なくともマスコット的要素は無いと思ってた
『見るが良いディス。子供たちの夢! 大人になっても忘れない!! まいらー♪
 このお腹に付けられる昔ながらのお馴染みアイテム!!


 高らかに宣言する彼の腹部には、DXブレイバックル
カード、ラウザー別売り)が装着されていた。
 ちなみにさっきまではそこには何も無いのっぺりとした腹部だったのだが、どうやらこれはクウガ、アギトの様に出し入れ自由のようだ。
 前回の洋服とかその他の物はこっから出していたのだろう。
 決して説明をし忘れていたとかいうような裏事情は無い。


「バックルじゃん!?」
「ポケットやないの?」
『そこら辺までやったらヤバイディスよ。二人の名前もキャラも本格的に変える羽目になるウェイ
 これなら適当に言い訳が着くから無問題ディス。それに元々オディと言ったらベルトディス』
「でもバックルだけじゃ役に立たないと思うなー」
『甘いディスよ。オディが何の仕込みも無いネタを披露すると思うディスか?
 このDXブレイバックルは色んな人の夢の集大成。ディスから夢繋がりで異次元と繋がってて
 無限の収納スペースがあるウェイ。この中にはオディが色々集めた道具が沢山眠っているのディスよ』

 フフフと企み顔をするブレイドの説明におおーっと賞賛の拍手を送るはやて達。

「あれ? でも、キミって僕等が作ったロボが変化した物だよね?
 道具ってそれの中にあったモノ使ってんの?」
『……さて、傷に良く効く道具を出すウェイ』
「こっち向こうやお前」

 これ以上ツッコミが来ない内に、さっさとバックルのレバーを引く。

『ターンアップウェイ!!』
「自分で言わなあかんの?」

 バックルが回転し始め、同時に中身(亜空間っぽい)に手を突っ込む。
 締まりきらない内に目的の物を掴み(?)手が挟まれるギリギリの所で道具を取り出す。
 何とも余裕のない道具の取り出し方だと思う中、一瞬で目的の物を掴み取るブレイドもスゲェと思う。
 妙なラッパの音と光る背景が映し出され、手には藻の塊らしき物を持ちながら、のぶよの声で道具名を言う。

『シュトルケスナー藻〜♪』
「何で藻なんや?」
『これは太古の戦いでも使われた一種の薬で、簡単に言うなら戦えない人もこれを敷き詰めた水槽に入れれば
 あっという間に馬車馬の如く働ける狂戦士に早代わり、という優れものディス』

 ドラえもん的説明口調で説明するのは最早何も言うまい。
 それは差し置いてブレイドの信頼性が上がる中、ノビだけはその道具の持つ危険性を知っていた。

「それって神経とか壊す麻薬じゃなかったっけ?」
『……ダメディスか?』
「ダメだろ」
「流石にそれはアカンわ」

 首を傾げる姿に可愛らしさを感じられられないブレイドに顔を引き攣らせるレツとはやて。
 ノビはギリギリカブトまで平成ライダーは大体見ていたのが役に立ったな〜と、この時だけ自分の性格に感謝した。
 彼の世間一般における知識の無さは、ここでカバーされたという瞬間だった。

『じゃぁ仕方ないからリカバーのカードで直すウェイ』
「回復用のカードね」
「最初からそっち出しとけよ」
『なにを言ってるんディスか。カードを使うにはオディと相性の良い人間がいないと使えないンディスよ?』
「そんな面倒な所だけ原作引き継いでるのかよ」

 何とも嫌な設定である。
 そんなこんなで彼らが遊んでいる間スッカリ忘れ去られてそうな謎の少年。
 彼はそろそろ綺麗なお花畑に足を突っ込み始めていた。




 ついでに草むらで彼等を見ている赤い瞳の妖しい影。
 ストーカー的雰囲気を丸出しにしながら、ヤツもまた自分の出番を待っていた。
 でも、ここで一旦区切って次回へ続く。






第13話「後ろのアーレはなーぁに?」

 中途半端な機能を持つブレイドの能力を扱う為。
 局員ズとはやては交代でカードスラッシュする事になった。
 何故かラウズする場所が、ブレイドの首筋の裏あたりに(バーコードバトラーみたいなのが)あったが気にしない。
 と、言うか気にするだけ無駄なので方って置く。細かい事は気にしない。それがストレスを溜めないことなのさ。
 交代交代でカードを切っていくと、レツとの融合率が高い事が判明。
 ようやく少年の治療が行なわれた。

「う、うぅ〜ん」
「あ、気が付いたみたいや」


「ここは……もしかして、あなた達が助けてくれたんですか?」
「ま、そんな所や」

 ネタに走ったり着せ替え人形にしたり女の子だと思ったりと全く関係ない事をしたが。
 ついでに、その所為で数十分くらい放ったらかしだった事も伏せておく。

「ありがとう。助かりました……お礼もせずに申し訳ありませんけど、行かなくちゃ」
「い、行くってどこにや!? まだ怪我も治りきってへんのに?」
『行くならせめて治療費を払ってからにして欲しいディスね』
「ごめんなさい。このお礼は必ずします。でも、今は」
「何をそんなに焦ってるんだ?」

 レツの問いに、少年は困ったように黙り込んでしまう。
 深く聞いてよいものか。または係わり合いになって良いのかという思案が入り乱れる。

『ダンマリされると気になるウェイ。素直に吐くか、お金を払うかどっちかに決めるディスよ』
「い、今すぐに?」
『勿論ディス』
「お前どんだけ欲望に忠実なんだよ」
「……判りました」

 少年はこれまでの経緯を話し始めた。
 その中には魔法などの単語が出てきた為にはやては今一状況が把握できない。
 ブレイドは考えるよりも、言葉が右から左へ抜けるように理解しようとさえしてない。
 また聞き直すのが面倒なので、局員ズが適当にメモっぽく書き記してみた。

 あらすじ→少年はユーノ・スクライアと言う名前→彼は魔法の使える世界からやってきた。
→彼は遺跡発掘が生業→ある日、何かトンでもないものを発見→それは凄いものだけど、使い方を間違えれば凄まじい危険物。
→ちょっとした不注意で紛失→責任取る為にM78星雲からやってきた→先日、その内の一つ見つける→返り討ち→現在に至る。

「ってことか?」
「そ、そんな所です」
「二人とも解った?」
「『は〜い』」

 説明文に思う所があるのか、またはブレイドの腹部から取り出された黒板に驚いてるのか。
 複雑な表情をする少年、ユーノ・スクライア。
 取り合えずはやて達も簡単に自己紹介をして、今後の事について尋ねる。

「それで、探し物ってどんなんや?」
「天使の軌跡って言って、様々な次元世界の記憶、知識を蓄えた魔道書で、その魔道書から生み出される羽は奇跡を起こすと言われてるんだ」
「奇跡?」
『七つ集めれば何でも願いが適うってやつディスね』
「それに近いかな?」
『マジディスか!?』
「でも、歪んだ心を持っていると、願いも湾曲した形で叶えられちゃうんだ。下手をしたら大災害が起きても不思議じゃない」

 だから、急いで回収しないといけないと強く決心した表情で言うユーノ。
 その表情に子供らしくないな〜と思う反面、責任感のある良い子だと思う。
 子供が頑張ろうとしてるなら、大人はそれをサポートすべきか。
 そんな考えが局員ズに浮かぶ。
 実年齢は局員ズのほうが圧倒的に上だが、実際にはいろんな面でユーノより劣っているのはこの時の彼等では知る由もない。
 ブレイドは話を聞き飽きたのか、頭の上を飛ぶ蝶々を眺めていた。

「そう言えばさ、探し物って本を探せばいいの?」
「元はそうです。でも、事故の所為でページがバラバラになっちゃって」
「バラバラかよ」
「その一部がこの世界にあって、半分実体を持って潜伏してるみたいなんです」
「ふーん。それってどんなん?」
『もしかしてアレッぽいやつディスか?』

 ブレイドが指差した先には、黒く小さな粒が集まって一つの形になったような不気味な物体。
 瞳のような赤い光点が二つ。そんな妖しいブツが、草葉の陰から彼等を見ていた。

「……あれです」
「なんであんなモン見つけてんだよお前は」
『オディは悪くないディス!! アンデットサーチャーが悪いんディス!! 全ての原因はダディヤーナさんウェーイ!!』
「なんやその責任放棄は」

 円陣を組み、顔を合わせながら文句を言う一同。
 何だかんだ言いつつ、黒い影を刺激しないように小声で騒ぐあたり節度は護れるようだ。
 いや、自らの命が掛かってるからかもしれないが。

「それは良いけどさー。一つ聞いて良いかな?」
「なんや?」
「この後、どうする?」
「どうって言われても……」
「あれは……なぁ?」

 そう言って全員で振り向く。
 すると、少し前まで草葉の陰からはみ出していた黒い物体がそこにいた。
 振り向いたすぐそこ。
 つまり彼等のすぐ近くに。

「■■■■■!!!」
「「『マジ(なん)(ディス)かーーーーーーーーーーー!!!!?」」






第14話「迫り来るバイオレンス妖しい黒い影」


 なんの捻りも無く現れた黒い影。
 それは、何時の間にかはやて達の真後ろに陣取り、覆い被さるように飛びかかる。
 はやて達が叫ぶ中、黒い影が身体(?)の形を変え、獣が大口を開けたように刺々しい突起を出しつつ一同を包み込もうとする。

「っく!」
「うわ!」
「ゑ?」

 瞬時に反応したユーノははやてを抱えて横へ飛び、レツも瞬時に後方へと逃げるがブレイドとノビは見事に逃げ遅れた。
 ノビの反応が遅かったと言うのもあるが、一応彼は一般市民の平均的な身体能力は持っている。
 ユーノとレツの戦闘に対しての順応力が彼より遥かに掛け離れていたというだけの結果だ。

「しまった!」
「ノビくん!?」

 ユーノとはやてが叫ぶが既に彼らではどうしようもない。
 醜悪な黒い牙が、大きく口を開けて獲物に喰らいつく様にノビとブレイドへ迫りノビは―――
 咄嗟にブレイドを掴み前面―黒い塊へと押し出した。

『ウェ?』

 ガリッと言う音が響き渡ったように思えた。
 ノビが突き出した両腕に黒い塊が押し止められている。
 いや、違う。牙が咬みあった様な黒い塊の隙間から小さな手足をバタつかせる何かが見える。

『ウェェエエエエエエエエ……』

 ブレイドだった。
 黒い塊は体積の割りに飲み込める量は多くないらしい。
 少しすると、影は頬袋が満杯になったハムスターの様な形にも見えた。
 つまりブレイドが飲み込まれそうになっていると言う事だ。
 影がブレイドを咀嚼している内に、仲間達の元へと駆け寄るノビ。

「ふぅ……たすかったぁ」
「意外とひどいんやなノビくん」
「なに言ってるのさ!? あんな状況で危険回避したぼくをむしろ褒めてよ!!」
「ああ、お前は良くやったさ」
「か、彼は大丈夫なの?」

 ユーノが心配すると、黒い塊は唾を吐き出すかのようにブレイドを吐き出した。
 地面にヘッドスライディングするように吹っ飛ばされ、土煙を上げながらはやて達の下へと飛んでいった。

「大丈夫ブレイド?」
『何故かサッパリしたウェイ』
「なんで光沢放ってるんだよお前」
「って言うか無傷なんだ」

 ゲロッと吐き出されたブレイドは、何故か洗車したかの様に綺麗になっていた。
 何でと聞かれれば、知らねーよとしか言いようがないが、無傷については装甲がオリハルコン式だから。
 彼等がブレイドをマジマジと見ていると、黒い塊は再び牙を剥き出すように襲い掛かってくる。

「来る! 君達は下がってて」
「ちょうマチィ! 作戦タイムや!!」

 前に出たユーノの横からはやてが迫り来る黒い塊に対して勢い良く手を挙げて申し出る。
 その行動にユーノは驚愕し、応戦しようとしていた思考が一瞬止まってしまった。
 意思もあるのかわからない。恐らくないと思うほうが正しい異形にそんな申し出が通るはずも無く。

「認める!!」
「ぇええ!!??」

 通った。
 しかも人間が喋ったとしか思えない滑舌で喋りながら、飛び出していた箇所を引き戻してピタリと踏み止まった。
 その様子にええ〜っと顔に縦線の影を浮かばせながら困惑するユーノ。

「ほら、ユーノくんもコッチきて作戦立ててな」
「良いの!? これって良いの!? ねぇ!?」

 彼の苦労性は放っといて、はやて達は円陣を組んで作戦を練り始めた。
 腑に落ちないものを感じつつユーノもそれに加わる。
 ヒソヒソヒソヒソと内緒話をする一団。
 ここで攻撃を加えればひとたまりも無いだろうが、黒い塊は律儀に会議が終わるのを待つ。


「で、実際のところどないしよか?」
「ぶっちゃけ俺等戦闘能力は全く無いぞ?」
「魔法関連の道具は倉庫にあったかもしれないけど、全部吹っ飛んでるだろうしね」
『ならオディに任せるウェイ!! オディのカードが真っ赤に燃えるディスよ!!』
「「「どうぞどうぞ」」」
『一人ディ!?』
「いや、一人は危険だよ!!」
「冗談やって」

 ダチョウ倶楽部のマネをするはやて達に脱力するユーノ。
 出会ってから数分間で彼の中に対するはやて達の評価は親切な人達から妙な人達へと変わっていた。

「ほな、正直な話どないしようか?」
「やらなきゃいけない事は到って簡単。アイツを全力で押さえ込んで専用の道具で封印するってことなんだけど」
「封印ってどうやるん?」
「判りやすく言うならポケモンのモンスターボールの法則だよね」
「あ〜、もしかして弱らせてからでないと捕まえられへんって事?」
「う、うん(ポケモンってなんだろう?)」
『つまり皆でボコッて袋叩きにして詰め込めば良いって事ディスね?』

 ユーノは自分とは感性の違う会話に少し違和感を感じながら肯定する。
 一先ず全員が理解したのは良いが、実際問題戦闘力の無い彼等がどうやって戦うかだ。

「ところでキミはは戦えるのか?」
「うん。少しは攻撃魔法を使えるけど、専門の人に比べるとちょっと」

 自身が無さそうに言うユーノの言葉に、戦力を確認してみる。
 まずはやて+リインは戦力として外す。
 車椅子の少女や鳥に戦いを撒かせられる訳がない。任せたら正しく鬼畜だ。
 次にユーノも無理がある。
 少なくても局員ズよりも真っ当に戦えるが、まだ披露から回復しきっていない。
 戦えない事もないが、正直勝てるかどうかは微妙らしい。
 最後に局員ズ+@も問題外。
 局員ズは雑用が主な仕事だったし、ブレイドは単体では大した戦闘力は無い。
 どれ位の戦闘力かと言うと、恐らくポケット内の道具が無い青狸程度が関の山。
 手詰まりとなり唸って考える一同。


「切り札とかは無いんか?」
『切り札〜は♪』
「歌わなくて良いから」
「あるには……あるけど」

 ユーノの発言に全員が顔を向ける。
 当の本人は正直使いたくないと言う様に、表情を曇らせる。
 スッと懐に手を伸ばし、中から一つの宝玉を取り出して全員に見せる。

「なんだこりゃ?」
「キレイやな、中にお星様があるで」
『シュベルトクロイツ。使用者の想いに呼応して魔術を行使する道具なんだけど
 (難しい言葉)の反応で(難解な言葉)に適しても使用者が(不可解な言葉)である場合(難義な言葉)
 をしても主人と認めない場合、使った時の反動が――ってどうしたの?』
「ごめん。普通に右から左に抜けるんですけど」
『グースカピー』(ΘwΘ)
「つまり、認められへんと使えへんって事?」
「うん」
「う〜ん。面倒な子やなぁ」

 言いながらはやてはユーノの手の平に置かれた宝玉をヒョイと摘む。
 中心に黄金に輝く星という、外観からは想像できない物騒さがこの中に秘められているとは考え辛い。
 と言うか、今現在黒い塊に襲われている最中と言う事を全員が忘れているような感じになっているのは気の所為だろうか。

「あれ?」

 突然はやてが疑問の声を上げ、その動きを止めた。
 宝玉の星を両の視界に納めた時、急速に意識が遠退いていく感覚に見舞われる。
 突然の事に困惑する余裕も無く、はやての意識は一旦黒く染まった。






第15話「赤いマフリャー正義の印」

 宝玉を手にした途端、急に動きを止めたはやて。

「どうしたの?」
「どうかしたのか?」
「あれ、もしもーし」

 疑問に思ったユーノ達が声を掛けるが、はやては全く反応しない。
 まるで魂が抜けてしまったかのように、虚ろな目で宝玉を見続けている。

<パタパタ>(0w0)ノシ
「……」
『返事が無い。ただの屍のようディス』
「おい」

 洒落にならないボケをかますブレイドにも反応を示さないはやて。
 その場の空気が”やっちまった”という冷たいものとなり、局員ズ+@はユーノに冷たい視線を向ける。

「優しくて良い人だったのに……」
「え、ちょっちょっとまって!?」

 彼等の言い分に心外と驚きで慌てるユーノ。
 ノビの悪乗りした言葉に便乗し、ワザとらしくハンカチを取り出して涙を拭う仕草をするブレイドがそれに拍車をかける。

「で、実際問題どうなってるんだ?」
「多分、彼女は試されてるんだと思う」
「試されてる?」
「でも、こんな事は初めてだ。もしかしたら彼女は――」
『出たディス。主人公に良くある王道パターン。こうゆうのって大抵時間が掛かるウェイ』
「それまで待つのか」
「そう言えばさぁ、あれもよく待ってくれてるよね」

 不意にノビが思い出したように呟き振り向く。
 すると、先程までそこら辺をウロウロしていた黒い塊の姿がなくなっていた。
 ノビにつられて振り返ったユーノ達も、ようやくその事に気付く。


「どこに行った?」
「まさか!?」

 嫌な予感を感じたユーノは近くに落ちていた小枝を拾い、地面に突き立て両手で印を結び瞳を閉じる。
 小さな光の粒子が地面からチラホラと舞い上がり、粉雪が舞い上がるような幻想的な光景を生み出した。

「やっぱり、あいつ人里へ向ってる!!」
「人里って、町か?!」
『マジディスか!?』
「大変だ、早く追わないと犠牲者が出る!!」
「ちょっと待って! こっちはどうすんの!?」

 ノビの言葉に進みだしていた足を止める。
 黒い塊が何時の間にか人里へ向ってる事に気付いたユーノはすぐに後を追いたかった。
 しかし、はやてをこのまま一人残していく事も不安がある。

「取り合えず、俺とユーノだっけ? 二人でアレを追ってみるわ」
『ならオディが彼女を見てるディス』
「お前は来い。折角武装が着いてるんだから、だからお前さん彼女頼む」
「うん。わかった」
「さ、行くぞ」
『ウェ〜〜〜ィ』

 渋るブレイドを引き摺りながらレツはユーノの元へと近づく。

「どっちの方向?」
「でも、これ以上無関係のキミ達を巻き込む訳には」
「乗り掛かった船だって。それにアレがあの娘の家まで壊さないとも限らないし」
「ありがとう……レツくん」
「呼び捨てで良いって」
「わかった。レツ」
『オディの意見は聞いてくれないディスか〜?』
「聞いたら真っ先に逃げるだろお前」
『失敬な!?』

 全く信用されていなかった。
 ブレイドはそんな事は無いと言い張るが、その輝きがあるんだか無いんだか疑問な瞳に信頼性は皆無だ。

「それは良いけど、今から行って間に合うの?」
「解らない。けど、早く行かなくちゃ被害が広まるだけだ」

 力強く言うユーノの様子にブレイドも観念したようで、背中を叩いて気合を入れる。爺様かお前は。

『しょうがないディスね。仕方ないからオディも協力するディスよ』
「ありがとう」
「そう言えばぶっちゃけお前どうやって戦うんだ?」
「カードのコンボは一応知ってるから、いくらか教えとくよ」
『ふっそれだけじゃないディスよ。このAAキャラと化したオディの追加能力を忘れたディスか?』

 胸を叩いて威張るブレイドに、何かあったっけ? と言う顔を向けるユーノ達。
 そんな反応に汗を流しつつ、ブレイドはまたもお腹にブレイバックルを出現させてレバーを引く。
 そして、回転したバックルから途轍もなく大きな鉄の塊が出ようとしていた。

「うわ!?」
「でかっ!?」

 明らかにブレイドの体積の倍以上ある物体が、小さなバックルから出てくる様はある意味壮観だった。
 青い狸風未来の猫型ロボットが行なう行為を目の当たりにしたユーノ達は驚きに目を見開く。
 ガキッ。

「え?」
『填まったウェイ!!?』
「おい?!」
「変な所で中途半端にリアルだな!?」

 どうやらバックルが回転し終わる前に出し切る事が出来ずに詰まってしまったようだ。
 中途半端に飛び出し、恐らく半分くらいしか出ていないであろう鋼鉄の物体を必死に取り出そうとする。
 半分だけでも彼ら全員並ぶより長くデカイ。そんな物を引っ張るのは相当の労力が筆労だった。
 と言うか、子供の腕力では不可能―――な筈の物体を何とか引きずり出す。


「ゼェ……ハァ……ようやく……出せた」
「凄いな」
「自分自身の事だけど、どうやって出したんだろうコレ」

 それはこの場にいる男の子全員の謎だった。
 まあ、勇者ロボとか特撮とか、色々なジャンルでありえない場所からとんでもない物が出るなんて最早常識。
 ユーノは生真面目に考えているが、この程度はまだまだ序の口程度なのだ。驚くべき事ではない。
 苦労して取り出したブツを前にブレイドは咳払いをして名乗りを挙げる。

『ようやく取り出せた所で、ジェットスライガー♪』
「デカイな」
「これは……車かな?」
「分類上バイクって設定のはずだけど……」
「解るけど、気持ち解るけどそれ以上は言っちゃいけないんだよ!!」
『さあ、オディの活躍を栄えさせるサブキャラ達! サッサと乗るディス!!』

 ブレイドのセリフに大小の青筋を浮かばせながら乗り込むユーノとレツ。
 身体が小さいので、結構普通に乗ることが出来た。
 何故か足が届くようになっているが、そこは気にしてはいけない。

「じゃあ、行ってくる」
「気をつけて」
「その娘を頼みます」
『それじゃ、飛ばすウェーイ!!』
「「「うぉ!?」」」

 景気良く叫び、思い切り後部の噴射口が火を噴き、加速して発車するジェットスライガー。
 風を切り裂き、音を引き連れて奔る雄姿はストレイトクーガーを彷彿させる。
 ちなみに最高時速は1300!!

「「おちるオチル落ちる墜ちるぉおアアアアアアアアアアアア!!!!??」」

 ユーノとレツ二人の叫び声がドップラー効果を伴いながら一気に遠退いていった。
 その噴射の勢いにノビが吹っ飛ばされて近くの木にぶつかって頭が突き刺さり、
 リインが困ったようにその上をグルグル飛びまわっていた事には気付かなかったがどうでも良い事だ。


「そういや思ったんだけど、よくこんなのの扱い方解るな」

 弱冠体に襲い来るGに慣れてきたレツが、ジェットスライガーを運転してるブレイドに尋ねる。
 今この機体はブレイドが操作、運転している。
 つまり二人はブレイドに自分の命を託していると言う事だ。
 その事を理解しているのか、ブレイドは平然ととんでもない事を言い放ってくれた。

「扱うも何も、触るのも初めてディスよ?」
「「降ろしてくれーーーーーーーーー!!!?」」






第16話「キミ(誰かは不明だ)が願う事なら(多分この後の事)全てが現実になるだろう」


 ノビが気に突き刺さった五秒程度たった頃。
 遠くの方でなにやら楽しそうな音がするのを聞きながら、はやては無数に煌く小さな輝きのある闇の中を漂っていた。

「ここはどこや?」

 まるで、宇宙空間に遊泳しているような不可思議な感覚を感じながらはやては辺りを見渡す。
 僅かに浮遊感を感じた瞬間、何かに話しかけられているような感覚に見舞われる。

「誰や、うちを呼ぶのは?」

 はやてがキョロキョロと首を左右に振ると、彼女の正面に一つの棒状の光が現れ、回転しながら近づいてくる。
 それを手に取ると、棒状の光が伸びて一つの杖のような形へと姿を変えようとしていく。
 でも、それは明確な形にはならずに、不安定な光のまま。

<ふむ、計算より混乱はしていないようですね>
「わ!?」

 突然返ってきた言葉に思わず声を出して驚いてしまう。だが謎の声はそれに構わず言葉を続けた。

<わたしは所謂魔法の国の技術によって作られた魔法媒体、通称シュベルトクロイツ>
「シュベルト……クロイツ?」

 その名前を思い出すのに少しばかり時間を要した。
 確か、ユーノが持っていた小さな宝玉の名前。
 使用者の想いに呼応して魔術を行使する道具との事だった筈。

<正確にはシュベルトクロイツに内包された官製人格です>
「う〜ん。なんや状況がようわからへんわ」
<貴女の疑問も尤もです。ですが、時間がありません。手短にご説明いたします>
「頼むわ」
<他人を助けようとするキミ達の行為に共感する物を感じた。このまま戦いに行けば、貴女は死んでしまう。
 貴女が限界まで闘い、それでも力が及ばなかった場合これを天に掲げてください。そうすれば私は貴女の力となる>
「作られた所て、魔法の国やのうて光の国とちゃうか?」

 宇宙人が他人の身体を乗っ取ったり、寝床にしたりする時によく使いそうな言葉だとはやては思った。
 はっきり言って、局員ズが来てから滅茶苦茶な事ばかりだ。
 異世界の人間に魔法の世界。果ては謎の怪物に光の国の方(間違い)―――
 でも、目の前の出来事は現実なのだから認めるしかない。

「ええっとシュベルツ―――でええかな。シュベルツはうちらの味方って思ってええんやな?」
<貴女が我が主となるのなら、私は貴女を護る剣であり盾。敵に対しては鉄槌を下し、守るべき者を包む癒しの風となりましょう>
「それは丁度ええわ。ちょっと困った事があったんよ」
<承知してます。待機状態の時に起こった事も把握していますので>

 他人行儀な言葉使いに苦笑しながら、はやてはシュベルツに改めて話を聞く。

「手伝ってくれるん?」
<貴女が我が主となり、それを望むなら>
「うん。ほなよろしくな。シュベルツ―――」
<了解しました―――我が主>

 はやては微笑むと、これから共に歩む仲間―――形作られていない相棒を掴む。
 握り締めた瞬間、扱えないとは思えなかった。まるで以前から知っていたかのように懐かしささえ感じるように馴染む。

<そうでしょう。主が意識を落としている間に、睡眠学習の要領で扱い方を口授しましたから>
「……それってちょっとした洗脳とちゃうか?」
<大丈夫だって、身体に害はねーです……多分>
「多分ってなんやねん」

 正直不安と同時に後悔にも似た想いが頭を過ぎるが、はやては持ち前の明るさで無理やり無視する。

「ま、ええわ。ほな行くでシュベルツ!」

 はやてが言葉を発すると、明確な形の無かった杖が眩い光を発した。
 その光は闇を飲み込むように掻き消していく。まるでビックバンが起こった様に光が満ち―――
 やがて、世界を砕くように光が弾けた。



「あれ?」

 気が付くと目の前には豊かな自然があり、先程までの幻想的な光景は無くなっていた。
 今のは夢オチだったのかと疑問に思って溜息を吐く。
 不意に手に硬い感触を感じて目を向けると、なにやらスティック状の何かが握らっているのに気付いた。
 もし、この場に局員ズがいたら、それはスパークレンスと呼ばれていたに違いない。

「よろしくなシュベルツ」

 はやてがスパーク……シュベルトクロイツに話しかけると、上空からリインフォースが飛んで目の前で止まる。
 
「どないしたんやリイン?」

 自分の目の前で滞空して羽を羽ばたかせるリインに疑問を持つ。
 まるで何かを伝えたいように思える。
 疑問に首を傾げていると、リインフォースがある木に向って飛んでいく。
 その木の中心部分に、なにやら異様に太い何かが生えているのが見えた。
 それは、前回ジェットスライガーに吹き飛ばされたノビの首から下の部分。
 重力を無視したかのように、ノビは身体が気をつけの姿勢で真っ直ぐ伸びたまま。
 太い幹に直立不動で突き刺さっていた。

「こわっ!?」






第17話「静かに朝焼けが大地を包んでく」

 一方、場面は制限速度何ですかそりは?
 交通法とか車体とか法律とか物理法則など色々な物を無視して暴走するブレイド操縦ジェットスライガー。
 ユーノ達は必死の懇願も空しく、未だ速度が上がっていくので二人とも悟りを拓いたかのように諦めた。

『大丈夫ディスよ。大体の操作はこれを呼び出した携帯のシステムがやってくれるディスから』
「携帯出してないじゃん」
『あっ』

 レツの言葉に今気付いた様子のブレイド。
 一拍微妙な空気が流れ―――

『ウゾダドンドコドーン!!』
「これ止まらないの?! 大丈夫なのこれ!?」
『ダッデェゴアンゴゲニィイ!!?』
「なに言ってるか解らねえよ!!」

 怒りに沸騰しながらレツがブレイドのバックルレバーを連続して引っ張る行為を繰り返す。
 回って開き、回って閉じ、その間に中からポンポン妙なアイテムが飛び出しては風に流れていく。

<ターンアップターンアップターンアップターンアップ以下略>
『ウェーイ!? 連チャンはやめるディスーーーーーーーー!?
 と、言いつつファイズフォン〜〜〜〜♪ これで衛星にアクセスして操縦法ゲットディスよー』
「早く止めろぉおおおーーーー!!」
『とか何とか言ってるうちに、見えたディス』
「え?」

 その言葉にユーノとレツが前方に目を向けると、緑の平原に黒い点が見えた。
 無茶苦茶とも言える速度の御蔭で、かなり早い内から黒い塊の姿が明確に見えてくる。
 間違いなく、先程襲い掛かってきたヤツだ。
 二人+@は相手が時速何キロで走ってるのか気になったが、それは気にしてはいけない事なので黙ってる。

『よし、ここでミサイル発射ディス』
「ちょっと待て、良いのかそれ?」
「あまり騒ぎを大きくするのは」
『発射ディス』

 有無を言わせぬ口調と、能面に近い(0w0)顔を二人に向ける。
 嫌に奇妙な迫力に仕方なく黙り込んでしまう二人。
 一秒後ブレイドがスイッチを押しポピッっという短絡的な音がなった直後、
 ジェットスライガーの前部分からミサイル発射工が左右に飛び出し、何の溜めも無く中のミサイルが一斉発射された。


 その頃はやては、木に物理法則を無視して突き刺さっていたノビを引っこ抜いていた。
 車椅子で苦労するかと思ったが、やけにアッサリ引き抜けた事に驚き危うく転びそうになった。

「いたたた。あ〜ビックリした」
「こっちがビックリしたわ。目が覚めたら他人が木に減り込むってアンノウンかい。と言うか意外と頑丈なんやな」
「いや、多分祐一とか智也とかいう名前だったらダメだったね。偉大なるF氏作の場合、
 シリアスになっても怪我は死に繋がるような外傷は無かったと思うから。
 でも手塚キャラの名前だったら、気絶できない流血くらいはいったかもしんないけど」

 訳の解らない説明をするノビにふ〜んと相槌を打つはやて。
 そこには、もしかしたら頭を打った衝撃でパーになってしまったのかもしれない。
 それでも楽しませてもらった感謝から、彼が周りに白い目で見られても見捨てないであげよう。
 みたいな心優しき考えと微笑み、人間の外面という仮面が見え隠れしていた。

「で、みんなは何処へいったんや?」
「黒いのを追いかけていきました」
「そっか。ならここで何や新しい力を手に入れたうちが活躍するしかないやないか!!」

 はやてが右手をグーにして左手の平に当て、パシッと軽快な音を立てさせたその時―――
チュドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……………!!!!!!
ピドーン。

「なんや〜〜〜〜!?」

 突如後方の遠くの方で連続しての振動と轟音。
 最後に一際大きな爆発が起こり、振り返るとそれは懐かしのガイコツ雲を形作っていた。

「あれはなに?」
「ちょ、ちょっと待ってや!? まさかこれで終り言うオチなんか!? 新しい力のお披露目は?!」
「さぁ?」
「グズグズしてられへん。急いで追いかけるで!!」
「今からじゃ間に合わないと思うんだけど」

 確かに、バイク(?)で追いかけていった彼らだからこそ、これほど短期間で追いつけたのだ。
 普通に車椅子を運んで追いかけても、重要な場面に辿り着けるとはとてもじゃないが思えない。
 あの爆発が仲間のものだと確信してるあたり、そこはつっこまなくて良いのかと聞きたいが些細な事だ気にしない。
 ノビの言葉にしたり顔でチッチッチと指を振るはやて。

「甘いでノビくん。この月宮……やない月村印の車イスが只の車椅子やと思うんか?」
(他になにがあると?)

 当たり前過ぎる疑問なので、口に出さずただ曖昧に頷いておく。
 対人関係において、どう返せば良いのか困る話題の振りは困る物だ。

「ふっふっふ〜ん。ちょっと後ろのハンドルをうちが言うように操作して欲しいんよ」
「良いけど、よっと」
『Cast Off』

 はやての指示通り、車椅子の両ハンドルを内側から押し上げる。
 すると、内部にインプットされていた情報が解禁され、内包されているファンデルワールス力により分子結合していた本体が中央部から展開。
 車輪がホバー変わりとなって本体が地面から浮かび上がり、その上に座るはやては何処か箒に座る魔法少女を思わせた。
 そんな可愛らしいものではないが―――

「これぞ、月村エクステンダー!!」
「すっげ市販なのこれ?」
「うんと、すずかって娘が作ってくれたんや」
「……けど狭いね」

 ノビはよくもまあと思う反面。ブレイドの存在意義が無くならないかと心配もしていた。
 色々とつっこみを入れなきゃいけない気がするけど、限が無さそうなので一旦区切っておく。
 元々が車椅子なので、普通に腰掛けて3人乗るのがやっとの広さだった。

「さ、早く乗ってユーノくん達を助けに行くで!!」
「終わってると思うんだよなぁ」

 ブツクサ文句を言いながら、月村エクステンダーに座るノビ。
 リインフォースもはやての肩に止まり、それを確認してはやては月村エクステンダーを発進させる。

「さーいっちょ飛ぶでぇ!!」
「安全運転でお願いします!」

 ノビの申し出をアッサリ聞き流し、はやては持てる速度の最高速を持って駆けて行く。
 その勢いに思い切り振り落とされそうになって、現場に到着するまで本気で泣きそうになったのは次回辺りの話。






第18話「馬鹿は外(一部除く) はやてマジ(魔法)」


 大量に発射されたミサイルの数々。
 その威力は並みの怪物ならチリくらいしか残さず、ゴルドスマッシュ級の破壊力を有するが、多分エンドオブワールドには及ばない!
 解りやすく言うなら、クロノのブレイズカノンとなのはのスターライトブレイカーくらいの差か。


チュドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……………!!!!!!
ピドーン。



 それでも一つの観光スポットに、大きなクレーターを作るには十分な威力だった。
 悲惨とも言える光景に、呆然とするユーノとレツ。

「うっわ」
「……トンでもないなこれ」
『またつまらぬ物を撃ってしまったディス』

 何時の間にか車体の先端に立ち、恐らくブレイラウザーらしきスロットル付きの剣を横薙ぎに振るう。
 某勇者などがよくやる決めポーズっぽいものも、二頭身キャラの彼がやると何とも決まらない。
 せめてSD系のように機械的でちゃんとした手足があればまだ様になっただろうに。
 そんな事していると煙が晴れていき、中にあるクレーターで黒い物体が蠢いているのが見えた。

『■■■■■■ーーー!!!』
「って、効いてなさそうだぞ!?」
「そんな、あれだけの爆発だったのに!?」
『ムアジッスカ!?』
「語尾忘れてるぞ剣崎ブレイド」
『ハッ!? 混乱しすぎて思わずやってしまったウェイ。
 こんな時は携帯でSOSがセオリーディス』
「トコトンやるつもりかお前」
「何処にかけるの?」

 切羽詰ってるんだか、〆切が迫った同人作家のような混沌とした会話が飛び交う。
 ちなみに取り出した携帯は銀色主体のファイズフォン。

「みんな〜無事なんか〜〜〜〜!?」

 丁度その時、遥か上空から届く声に空を見上げる一同。
 すると、小高い丘の方から珍妙な乗り物に座ったはやて達が高速で向って来た。
 ついでに言っておくが、これは携帯効果ではない。

「はやて!?」
「無事だったんだ」
『二人ともあの乗り物にはツッコミ無しディスか?』
「お待たせや! あの黒いのはどうなったんや!?」
「残念ながら健在だよ」
「よっしゃ!」

 ガッツポーズを取るはやてになんで喜ぶのと疑問を感じるユーノ。
 涙目になりながら、息を整えているノビはチアノーゼに成りかけているが気付かない。
 けど、脱力してる間に黒い塊がクレーターからズルズルと這い出てきた事にはみんな気付いた。
 それを見てそれぞれ感想を憶えつつ、逃げようとしたブレイドをレツが捕まえる。

「真っ黒コゲやなぁ」
「元からだよ」
「で、どうするの?」
「取り合えずブレイド、逃げるな」
『ウェ!?』

 黒い塊は先程の攻撃を警戒しているのか、すぐには襲い掛かろうとはしない。
 ウゴウゴと擬音を発しながら、身体を左右に揺らすその様は不気味だ。

「よっしゃ! ここはうちが新しい力でパパーッと行ったろか♪」
「危ないよ!」
「大丈夫やって、この子が助けてくれるから」
(スパークレンス!?)

 言いながらシュベルトクロイツを取り出すはやて。
 ユーノは様変わりした元相棒の姿に、ノビはその見覚えのある形に驚く。

「それは?」
「これはやな」
『魔法少女になる為のアイテムディスね!! なら前衛はオディ達に任せるディスよ!
 ヘシンシーンは絶対邪魔させないディス!!』
「妙に気合入ってるなお前」
『なにを言うディス。魔法少女と来ればヘシンシーン!
 これは邪魔させる訳には行かないじゃないディスか!!』
「もちろんだな!!」

 互いに意気投合し、親指立てるサムズアップ。
 そのノリについて行けないユーノとノビは手持ちぶたさだ。

「ほな変身行ってみよか!」
『まずはレディファーストディス』
「二人とも敵が来ないか注意するぞ」

 頷きたい言葉なのに、深い意味は無いよねと聞きたくなる。
 そんな衝動を抑えながらユーノとノビは黒い塊に意識を集中。
 レツは知らないが、ブレイドは8割方はやての方に意識を集中させていた。

「いくで、シュベルツ!」
<応!!>

 叫びながらはやては握り拳のまま腕を十字に組み、スパーク……
 シュベルトクロイツを握った右腕をゆっくり旋回させながら天へと掲げる。
 すると先端部が開いて小さな電光が弾け、続いて眩い輝きが中から溢れ出た。
 その光は局員ズ+@にユーノをも巻き込む。
 そして、一番魔法に精通しているユーノが一番に気付く。

「す、凄い……こんな魔力、今まで感じた事ないよ!」
「眩しくて後ろ向けませーん」
「すっげぇなコレ」
『ウェイー!? 今気付いたけど、コレって巨人化ディスか?
 ならあまり萌え要素が無いのディは? 一体全体どっちディスか〜〜〜!?』

 外野がうるさい中、はやては頭に響く声に(強制的に)教わった事を思い返す。
 想いを受け止める器を想像し、強い意思を持ってそれを明確な形に創造する。
 思い描くのは金色に輝く十字槍。星の輝きの様に美しく洗練された刃と五望星の飾り。

 不安定だった光がハッキリした形となり、弾ける様に光が霧散。
 彼女の願いを叶える為の道標が、生み出された瞬間だった。






第19話「(そろそろ真面目に)戦闘し(たり)せいや(お前等)!」


 専用の杖が生み出され、手に取った瞬間着ていた衣服が弾け
 新たに杖から現れた光の帯が身体に巻き付いていく。
 幾筋の帯はやがて、真ん中に青い線の入った薄い白いノースリーブシャツにミニスカートを生成。
 次いで白い両腿を包み込むように黒いニーソックスが、後ろ腰から下の部分を白いマントが覆い隠す。
 はやてが魔法少女へ変身していく中、外野の状況はと言うと……


『ウェーイ!? あまりの光量にオディのオーガンスコープも壊れそうディス〜〜〜!?』
「ダブルバスターに注意しようか」
「何の話し?」

 ノビが洩らしたあまりにも人を選ぶネタの呟きに、律儀にツッコミを入れるユーノ。
 それを合図にしたかのように光が収まっていき、やがて明確にはやての姿が映し出された。
 そこには先程までとは違う格好をしたはやて。
 作者の技量では解り辛いだろう。
 だからほぼリインフォースツヴァイのバリジャケを来た状態を連想してくれればそれが正解だ。

「楽屋ネタはやめようよ作者」
「幾ら文章力が無いからってなぁ」
「二人とも何の話ししてるの?」
『へ、ヘシンシーンを見逃すなんて……ウゾだ、ウゾダドンドコドーン!!』

 三人の会話に興味を持たず、はやての変身シーンを見逃した事にガクリと地面に突っ伏すブレイド。
 けど、本来真っ先に話題を振りまく筈である等のはやて自身は何故か沈黙していた。

「なぁシュベルツ」
<なんでしょうか?>
「この杖なんやけど……なんやえらい想像したのと違う形になってるんやけど?」

 はやてが今手に持っているのは、先端がハート形の造形の中に金色に輝くお星様をつけたステッキ。
 まるで一昔の魔法少女が使っていたような、近代化していくアニメ心を否定するような一品という
 彼女が想像したものとは大きく掛け離れているものだった。

<その辺りは主の技術不足ですね。図工2の人が行き成り紙粘土でMGガンダムを作ろうとする物です>
「なんやその嫌に半端な設定は?」
(っていうか、何でガンダムを知ってるんだろう?)
<問題は形ではありません。形がどうであろうと、我が力は変わりません>
「う〜ん。なんや騙された気分やけどええわ。みんなも行こか」

 中心が大きくハートマークを施した杖とどっちがマシだろうか。
 などと、別次元へ行きそうになる思考を戻してユーノ達に声を掛け、ようやく黒い物体に向き直る。
 けど、やっぱり待ちきれなかったようで、黒い物体は人里へ向っていた。

「ちょ、待ちや〜〜〜!!」
「当たり前だよ」
「と言うか、なんで僕らが襲われないのかが疑問なんだけど」
「兎に角追うしかないな」
『ウェイ今こそジェットスライガー』
「「それは嫌だ!!」」

 見事に揃いながらブレイドを睨む二人。
 だが、普通に走っては黒い物体には到底追いつけそうも無い。
 けれど、彼等は普通の人ではなかった―――というかなくなっていた。

<主よ、飛行魔術を行使すれば問題なく追いつけます>
「へ?」
「マッハのカードで追いかければ良いじゃん」
「「マッハ?」」
『その手があったディス!?』

 扱える能力を把握している二名(?)の発言に場の空気が更に無駄に明るくなる。

「「で、どうすれば使えるん?」」
<「それはだな(ね)」>
「説明してる時間なんて無いよ!?」

 またもノンビリトした空気を醸し出した面子に、何度も律儀にツッコミを入れるユーノ。
 しかし、そこは唯一の真面目キャラ。すぐに気を取り直して黒い物体へ視線を戻し、印を両手で結んで呪文を唱える。

「大地に実りし生命達よ―――汝らを統括する精ドリアードの名を借りて願う―――
 その逞しき大地の恩恵を受けし身体にて、邪悪なる物を追い縛る楔と成れ!!」

 唱え終わると同時に開いた手を地面に叩きつけ、そこから円形の仲に数学的な文字羅列の魔方陣が浮かび上がる。
 続いて魔法陣から光の線が延び、ネットワークを形成するかのように魔力が草花に浸透し、ユーノの意思を受け動く魔力の縄と成り敵を追う。
 動き出した草花は太く長く伸びて、振るわれた鞭のように高速で黒い物体を追い縛り上げた。

「よし、行くぞブレイド!」
『ウェイ!!』
「教えたのは個人的に一度やってみたかっただけで、公式には無いコンボだけど威力の方は多分大丈夫!!」
「うちらも行くで、シュベルツ!」
<了解しました。主はやて>

 黒い物体がはやて達の接近に気付き、自分を縛り上げる太い蔦と化した草花を引き千切ろうと力を込める。
 ユーノも魔力を通して耐久性を上げ、動けないようにする事に全力を注ぐ。

「みんな、早く……長くは持たない!!」
「いま行く!! やるぞブレイド」
『ウェーイ!!』

 気合を入れながらレツは左手指で挟んだ三枚のカードを、右手で一枚ずつ引き抜き
 ブレイドの首筋にあるスラッシュリーダーへと滑り込ませていく。
 そして息を大きく吸いながら―――

『「MACH・RAPID・BEATォ!!!」』
「自分で言わなあかんのかい!?」
「うわ、面倒くさっ!?」

 仲間達に酷い言われ方をしているが、気にする猶予も無くカードは青い立体映像のようにレツとブレイドを囲む。
 そしてレツがブレイドの首筋を掴んで持ち上げると、見る見るうちにその姿がリアルロボが持つような無骨な剣へと変化。
 したと思ったら、角部分であった刀身が引っ込んで盾の様な青色の手甲(ブルーガントレット)となって装着される。
 同時にレツの衣装も鎧を意識したような白のジャケットに蒼い衣装をした服装に変わった。

「行くぞ!『ラッシュ・オブ・スタープラチナ!!』」

 それぞれ速度・連射・威力増加の効果を持つカードの効果が合わさり、自身の身体・魔力能力が底上げされ両手に蒼い光が宿る。
 そして、繰り出された拳は音速を超え、ラッシュの嵐が身動きの取れない黒い物体を―――
 殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る
 殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る
 殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る――――――!!!!


「は、早い?!」
「でたー! ペガサス流星拳や!!」
「おらおらおらおらおらおらおらぁあああ!!」
『ウェイウェイウェイウェイウェイウェイウェイウェイーーーー!! 裁くのはオディのボディ&ヘッドディス!!』
「だから装着してない方の手が段々痛くなってきた気がする!!」
「マジで!?」
「多分な!」
『■■■■■■■■■■■ーーー!??!』

 殴られすぎて無数に凸凹した形になる黒い物体。
 心成しか、赤い目の様に見える部分も弱々しく垂れ目気味になってるように見える。


「あっちゃん、止めはトルネードとアッパーでお願いします!!」
「おっしゃァアーーーー見たいか俺の黄金伝!!」
「アッパーやて? もしかして今度は!?」
『TORNADO・APPEA!』

「『ジェットアッパァアアアーーーーーーーーーー!!』」
「廬山昇龍波やなかったか!」
「本当はマッハも欲しかったけど、初期能力値の都合でやむなく断念したんだなこれが」

 はやてとノビの呟きを轟音にかき消し、凄まじい突風が周囲を叩くように吹き荒れる。
 天才ピアニストのダンディなおじさまと儚き生涯を閉じた少年らしき幻影が、同じポーズを取りながら出現したような気がした。
 熱き魂を宿した一撃が黒い物体のアゴと思われる部位をブチ抜き、凄まじい気流がその妙な身体を空へと運ぶ。

 間違ってサイヤ人親子が入りそうになったが、場違いなのでそのまま帰っていただいた事は誰も知らない話だ。


 ついでに言うならブレイラウザー初期設定値(MPみたいな物)は5000AP
 MACH1600+RAPID800+BEAT600+TORNADO1400+APPEA600=合計消費量5000。
 上手い具合に収まったとホッとしている。


 大きく吹き飛んだ黒い物体は空高く昇るだけ上ると、やがて重力に従って落下し始める。

「まったく動かない所を見ると、空を飛ぶことは出来ないみたいやな」
<飛べてたなら最初から使っているか>
「ほなビシッと閉めるで!!」
<応!>

 シュベルトクロイツを両手で握り締めながら、真っ直ぐ伸ばして狙いをつける。
 意識を集中していくと、次第に先端部分の星が回転し出して高速回転していき、光の粒子を巻き込み膨大な光球を作り出す。

「な、なんやこの、今にもゴゴゴって感じの音が出てそうな危なっかしいのは!?」
<主、集中が乱れコントロールを失えば、乱れた魔力が暴走して自爆してしまいます。くれぐれもご注意を―――>
「そういう事はもう少し早よ言ってぇな〜〜〜〜!?」

 手に導火線に火の付いた爆弾を掴んでいる気分になりながら叫ぶはやて。
 ヤケクソ気味になりながらも、しっかり意識を集中してる部分流石と言える。
 伊達に、局員ズ+@を養ってはいない。
 懐のでかさは並の大人でも適わない彼女の精神は、これぐらいで大きく揺らぎはしない。
 意識の集中と共に、光がいち早く収束して金属が触れ合うような、魔力エネルギーの活動音が鳴り響く。

 キュインキュイン・キュインキュイン・キュインキュインキィンキィンキィン……
 キンキンキンキンキンキンキンキキンキキキキキキキキッキキキキキ――――――――――!!!

<5・4・3・2・1……発射!!>
「ファイヤーーーーーーーーーー!!!」

 ゴッという音の一拍後、大太古を至近距離で叩いたような衝撃がはやて達に降り注ぐ。
 ファンシーな杖の先端からジェノザウラーを髣髴させる光の放流が発射され黒い物体を一瞬にして飲み込み―――

 眩い光の放流を見ながらノビは思った。
 この後、戦闘が続いたら自分出番あるのかなぁ〜。ま、いっか。楽して衣食住の恩恵にあやかれるなら―――
 そんなダメ人間的思考を展開している事など放っといて、問題の黒い物体は―――


 その姿を完全に消し去った。






第20話「光よ心解き放て」

 わたし信じてる。孤門くんなら、きっと助けてくれるって―――byウルトラマンネクサス最終話より。
 そんな言葉が聞こえてきそうなほどの閃光が黒い物体を消滅させた。

「……なんやあれ?」

 光の通り過ぎた空に、小さく光り輝くものが目に入る。
 それは小さくも純白、宝玉のような煌めきを放つ羽根の様なもの。

「あれが核だ! 早く回収しないと!!」
「でも、落ちてこないね」
「飛ばなきゃダメか」
『アタックポイントは一回解除しないと回復しないディスよ?』
「うちに任しとき。な、シュベルツ?」
<MPがたりません>
「なんでドラクエ風なん!?」

 シュベルトクロイツの言葉にツッコミを入れると、弾ける様にはやての服装が元に戻る。
 途端、力が入らなくなり身体が前のめりに倒れ掛かる。

「きゃぁ!?」
「危ない!!」

 咄嗟にユーノがはやてを抱き止めた御蔭で倒れずに済んだ。
 互いの顔が急接近した事で、妙に気恥ずかしくなり両方とも顔が弱冠赤くなっているのが見える。

「大丈夫?」
「あ、う、うん大丈夫や。ありがとうなユーノくん……でもな」
「ん?」
「胸触ってるで?」
「え、ええあ!? ご、ごめん!!?」
「冗談やーって。もーそんな驚かんでもええのに」
「ぁ、え? ぅぅ〜」

 はやてにからかわれたユーノは面白く無さそうに、実際に面白い気分ではないが彼女の身体を支えながらゆっくり車イスへ座りなおさせる。
 一連のやり取りを見守っていた外野の局員ズ+@は、青空を見上げながらお茶を啜りたい気分になっていた。

「……危ないな。大丈夫か?」
「うん、ちょっと変に力が入らない気がするけど怪我も無いから平気や。ごめんなユーノくん。ほんとに助かったわ」
「どういたしまして」
「多分、あーゆーのがモテ気質って言うんだろうね」
『元が美形だから、なお更高感度は右肩上りディス』
「まあ、それはどうでも良いけどさ。あれどうやって取るの?」

 初の戦闘(と言えるような大したものではないが)により、全員魔力を行使するだけの余力は殆ど残ってはいなかった。
 どうしたものかと思いながら唸っていると彼等の苦悩が伝わったのか、リインフォースが羽ばたき核である羽のような物へ飛んでいく。

「リインあかん!」
「あれって近づいて大丈夫なの?」
「うん。あれは人の思いを吸収して力を発揮する道具だから。変な事をしなければ問題は無いよ」
「そっか、なら安心や」

 パタタタタタ―――パクッ。

「えらいで〜リイン。戻って来てや〜」

 羽らしき核を銜えながら、はやての元へと戻ってくるリインフォース。
 はやてが手を伸ばすと、リインフォースは翼を広げて上手く腕の部分に止まる。

「凄い利口だね」
「えへへ、そうやろ〜。さ、リイン。それ出してぇな」


ゴックン。


「あれ?」

 はやてが空いた方の手を差し出すと、リインフォースは了承の意思を表すかのように頷いた。
 その拍子に、勢い余って銜えていた羽をウッカリ飲み込んでしまう。
 あまりにも突拍子も無い出来事に、思わずそのままのポーズで固まってしまうはやて達。
 彼等の様子が違う事に疑問を感じているかのように、首を傾げるリインフォース。
 ちょっと間を置いて、彼女達は弾かれたように慌てて動き出す。

「り、リイン。めっ!! ぺっしなさい! っぺ!!」
「―――!!?」
「お、落ち着いて!! やばいって首を絞めるのは!!」
「そうだ。嘔吐の場合は逆さづりにして背中を叩くのが良いって聞いたぞ」
『わ、ワイルドゥディスね』
「結構効果的な事実だって話しだぞ」
「それよりはやく取り出さないと―――体内に入った場合、核がこの子をベースにまた暴走体になってしまう!!」
「そんな!?」

 ユーノの言葉に驚き、意識が離れた瞬間手の中から抜け出すリインフォース。
 慌てて捕まえようとするが、すでに空高く飛び立たれてしまい、どうにも届きそうに無い。

「ど、どないしよう。リインが! リインが!!」
「落ち着いて!」
「それは無理だろ」

 はやてにとってリインフォースは一人きりだった彼女を支えてくれた、かけがえの無い家族なのだ。
 レツが冷静に言う通り、そんな大切な存在が異形の怪物になってしまうと言われればそうそう冷静ではいられないだろう。

「なんか方法ないの?」
「核が体に馴染む前に取り出せれば何とかなると思うけど―――もっと低く飛んでくれれば今の魔力でも届くのに!」

 ユーノはこちらの様子を窺うように、円を描きながら空を飛ぶリインフォースを見上げて悔しそうに言う。
 ノビもはやての様子からリインフォースを本当に大切にしている事が解ったから、本心から如何にかしたいと思う。
 そのとき何処からか電波を受信したのか、途轍もなく安っぽい豆電球が点滅したと同時に頭の中で妙な事が閃いた。

「そう言えばさ。あれって人の思いを形にするんだよね」
「うん。だけど、大抵の事は歪んだ形で叶えられてしまうけど」
「ならさ。ここで僕らが何も起きませんようにとか強く思えば、いくらか害はなくなるんじゃないかな?」

 ノビ言葉にユーの達は一瞬口を空けて呆けてしまう。
 人の欲望を糧に暴走する品を、逆に欲望によってその効果を無効化しようと言う発想。

「やっぱダメか?」
「それや(だよ)!!」

 全員に一斉に突き出すように指差されて気圧されるノビ。
 逆にはやて達は逆転の可能性が見えたことでテンションがドンドン上がっていく。

「そうだよ。人の想いを受けて変質するなら、同じ様に人の思いで無効化する事も出来るはず。
 毒をもって毒を制す―――こんな事に気付かないなんて、ダメだな僕は」
「頭良いなお前」
「サンクス」
「なんやテンション上がってきた!! 見とけやルキフグス! この心、最大になるまで膨らませたる!!」
『ボケに使うジャンルくらい、一定に落ち着けたほうが良いと思うディスよ』

 騒がしくなる中、空を飛び回っていたリインフォースに異変が起こり始める。
 小さな身体が徐々に暗い闇色の光となって膨張していき、僅かな間に空中に丸い卵のような円を形作った。

「そろそろ時間無さそうだね」
「で、具体的にはどうすれば良い?」
「祈るんだ。あの子の事を心から強く」
「祈る」
『折る』
「漢字が違うぞブレイド」

 少なくともここは呆ける場所じゃないだろうと思いつつ、はやて達は祈る。
 どれ位の時間が経ったのだろうか。それ程大した時間は立っていない筈だった。だが、彼等にはとても、とても長い時間に感じられた。
 やがて、黒い球体に小さな亀裂が入り、仲から小さな白い光が零れ出る。

「リイン戻っておいで、みんな心配してるんやで?」

 はやての優しい言葉に導かれるように、一際大きな亀裂が生じた。
 そして、新たな命が生まれるように、暗闇の殻を破る光が産まれ出る。





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