“リリカル・クリスマス☆5”へ “リリカルなのは・ライダーズ”へ “リリカル・クリスマス☆6”へ “リリカル・クリスマス☆7”へ “リリカル・クリスマス☆8”へ “リリカル・クリスマス☆” 前回のあらすじ。 クリスマスムード満載の中、すずかはメイド服を着用した。 「それもお約束なの?」 「えっと…」 『ぁ、ぅぅ…ごめんなさい』 「どんまいフォー」 心の中でグッジョブと言いつつも、それは心の奥にしまっておくケティ。 ちなみに二人の変化した髪の色はアリサが山吹色、すずかが青色と変わっている。 「何でメイド服になってんのよ」 「服装ってのは使用者のイメージが主流だからね。フォーがテンパリすぎて弱冠誤差が出たみたいだ」 『フォーちゃんやるね♪わたしなんてその場のノリでまんまサンタ服にしちゃったのに、メイド服ですか!?いやー成長したね♪』 「あんたは狙ってやってたの!?」 『す、すみません』 「ううん。いいよフォーちゃん。結構可愛い服だし」 「良い娘だね」 『本当ね』 傍から見てると失敗した娘を慰めている母親のようにも見える。 「ねえ、まさかずっとこの格好って訳じゃないわよね?」 「ああその事なら大丈夫。さっきも言った通り使用者のイメージがそのまま服に変わるから、君達が慣れれば自分の好きな服装に変えることが出来るよ」 「…あんた、トゥーって言ったわよね?」 『そうですけどなにか?』 「この服装はあんたの趣味?」 『いいえー違いますよー。これは元から組み込まれていたデータをそのまま実行しただけですよ』 トゥーの説明にアリサは凄く冷めた目でケティを見る。 予想していたのか別に対して気にする風も無く、ケティは別の説明を始める。 「最初はイメージし辛いだろうからお楽しみ装置をつけてみたよ」 「お楽しみ装置?」 「そう、デバイスに内蔵された空中魔力固定装置の作動で面白7変化ができるんだ」 その説明にアリサは心の中で思いっきり退いた。 「そうゆう趣味全開って言うのは良くないと思うわよ」 「解った。次に合ったら伝えておく」 「伝える?」 ケティの言葉に疑問を感じたアリサが尋ねると、全く動じてない様子で答える。 「これの原案はシャマルさんだからね。開発中何度かアンケートを取ってたんだよ」 おもに八神家中心にと付け加えて語るケティ。 何度かあった事のある友人の家族が一役買っているのかと思い、アリサはガックリと肩を落とす。 今回は何度も同じような疲れを感じると思いつつ頭を抑える。 「それは兎も角フォー。キチンとしたデータを取りたいから、もう一度構築し直してもらえるかな?」 『えっと、はぃ』 「大丈夫だよフォーちゃん。元気出して」 落ち込み気味なフォーを励ますすずか。 結構このコンビは合ってるかもしれないと思い安堵するケティ。 それはそれと置いておき、再度ジャケット構築を促す。 「今度は大丈夫なんでしょうね?」 「キミもやっておくかい?」 「遠慮しとくわ」 『えー、どうしてですかぁ?』 「あんたがやると、絶対おかしな格好をさせる気がする」 『ひどぉ!?』 実はアリサの勘は正しかった。 彼女のパートナーは茶目っ気たっぷりなのだ。 出合って僅かな間に、アリサはトゥーの事を理解し始めているようだ。 そんなやり取りが横でなされる中、すずかは再びジャケット生成に取り掛かろうとする。 丁度その時、部屋の扉が開き中からスヴェルとシャマルが順に入ってきた。 シャマルは弱冠顔が赤く、すねている様な不機嫌さが少し現れている。 って生きていたのかシャマルよ。 「あ、スヴェル。大丈夫かい?」 「まだクラクラする」 「シャマルさんは?」 「不意打ちで高ランク魔法を直撃しましたけどすこぶる快調ですよ。まだ頭痛がしますけど」 棘のある言い方をしながら答えるシャマルに苦笑しつつ言葉を続けるケティ。 「でも非殺傷だったからスヴェルよりましだよ。魔法でも失くした血までは戻せないからね」 「言うな!!」 「もう二度と頼みません!!」 「八神家ビックリクリスマス大作戦”ドキ☆ポロリ重視の大宴会”の内容暴露」 「ゴメンなさい」 「なにしようとしてたんすか」 なにやら妙なことを企んでいたらしいシャマルは土下座しながら謝罪する。 ちなみに彼女が着ている服は、何とか婦人とかが着てそうなドレス(結構値段が張りそうなもの)だった。 『あの〜』 「そろそろ良いですか?」 スッカリ忘れ去られていたすずかとフォーが申し訳なさそうにしながら手を挙げて訴える。 すずか達がいる事の敬意をスヴェル達に伝え、作業開始の許可を出すスヴェル。 「じゃあ、いきます!」 『やり…ます!』 光が少女の身体を包み、そして一気に弾け飛ぶ! そして中から現れる巫女服すずか!! オプションとして神主様とかが持つ、お祓いの棒を持っている。 「…?」 「なんで巫女服になってんのよ!?」 『アリサちゃん、これが世の心裏ってやつですよぉ♪』 「やはりな」 『なにが、やはりなのよ』 「あら、あれって私がデザインした服じゃない。ちゃんと組み込んでくれたのね♪」 「なんの為だよ」 各々好き勝手な事を言いながら、マジマジと見つめる。 スヴェルだけは直視せずに視線を外している。 若さ故の処理だと言えよう。 『あ、ぅ…すみません』 「これも可愛い服だね」 「それは私がデザインしたのよ♪」 「じゃ、次行ってみようか」 「…なんとなく展開が読めてきたわ」 『それが慣れってやつですよアリサちゃん』 「慣れたくないわよ」 その後一所懸命に頑張るフォーは、アリサの予想通りドジップリを遺憾なく発揮し続けた。 『えい!』 ボン! 「あれ?」 次に現れるは白衣の天使。 ナースすずか。オプションに注射器と聴診器がついていてそれっぽい。 何故か全員が帽子の中には何かあるような気がしてならない雰囲気を発しているような気がした。 「いけない男の子に愛のお注射かしら?」 「どんな解説ですか」 『や!』 ポン! 「はれ?」 面妖な色気を持つ豹柄の服。 豹柄なんだけどあえて言おう、これは猫すずかだと。 肉球付きの猫グローブと身体のラインをクッキリと表す服には勿論尻尾が付いていて柔らかに動く。 「猫パンチで煩悩抹殺ね☆」 (逆に上がると思うが) あらぬ方向に背けながらも、徐々に顔が赤くなってきているスヴェル。 そんな彼をからかう様に話しかけるシャマル。 ケティはその様子を某死神のノートを使った天才少年の如く様子を観察していた。 『ぇぅぅ』 「フォーちゃん大丈夫、ちゃんとできるよ」 『はぃ…えい!』 ボフッ 「あっ」 「「あ」」 『『あ』』 「どうし…!?」 次に出たのは、豹柄ビキニに頭には二本の小さな角。 色々ギリギリな感じもするが、そこはまあスルー気にしたら自分に負ける。 オプションとしてあからさまにデカイ棘付き棍棒があるが、それは恐怖よりもなぜか彼女の愛らしさを醸し出していた。 「で、実際やってみてどう思う?」 「可愛くて良いじゃない?ねえスヴェルくん?」 「どうコメントすれば良いんすか」 明後日の方向を向いて話すスヴェル。 そんな彼を見て、最近クロノ等をイジレなくなったシャマルの悪戯心に火が付いた。 「コメントはいいわ。ただ直視してくれれば♪」 「え?ちょっごハァ!?」 頭を両手で左右から掴まれ、ゴキンと嫌な音を鳴らしつつ首をすずかに向けさせられる。 思い切り直視させられ、段々と顔が赤くなっていくスヴェル。 そんな彼とハタと目が合うすずか。 「っや」(///) はい レッツ皆でキャストオフ♪ (理性の) (魚ぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!! >逝くーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!) 思わず小さな声を出しながら、身体を抱きしめるように腕を回しながら身を捩り顔を赤くするすずか。 そんな彼女の様子に体内が沸騰するスヴェル。 彼は結構純情派だった。 「キターーーーーーーーーーーー!!熱血メーター急上昇ね♪」 「相変わらず楽しむ事に命賭けるね貴方は」 比較的大人しいと言えば大人しいスヴェルだが、一度キレルと結構容赦ない。 堪忍袋の尾が切れるのが楽しみになってきたケティだが、それは顔には出さないでいる。 アリサは失敗の連続に半ば呆れ始めていた。 『ぅぅぅぅ……』 「ふぉ、フォーちゃん。こうゆう時もあるよ」 自分の情けなさに本気で泣き出してしまったフォー。 すずかも内心恥ずかしいが、我慢してフォーを慰める。 (ええこや、あの娘ホンマにエエ娘や) その様子にほろりと涙しそうになるスヴェルとアリサ。 いい加減元に戻れとかそういう発言は無いのかお前等。 「やっぱり気合が空回りしちゃうんだなーフォーは」 「やっぱりって、どういう事よ?」 「彼女は頑張り屋さんなんだけど、初対面の人とか苦手な人が相手だと妙に気合が空回りしちゃうんだよね」 「それって大丈夫なの?」 「彼女なら大丈夫だよ。仲良くなればすごく頼りになるって、以前のモニターからお墨付き貰ったからさ」 『そうですねー。あの人も面白い人だったなー、あっちこっち次元世界駆け巡ってとんでもない事件とかに巻き込まれたけど、色々あって面白かったですしー。あ、そうそう前に旅した時こんな事があったんですよー!あのですね――――』 「ふーん、そう」 長話を始めたトゥーの話しを聞き流しながらアリサは思った。 多分以前の人はこの二人を同時に預けられて苦労したんだろうなーと。 暫くして、紆余曲折あったがどうにかサンタ服を装着できたすずかだったが、シャマルさんの進言でなぜかメイド服着用を義務付けられた。 クリスマスゆえにサンタ帽も着用という妙なこだわりも発揮しつつ、準備は着々と整っていった。 無数にある次元世界の一つ。 そこは地球と酷似した、瓜二つといって差し支えない世界。 ただ違うのは、そこにはなのは達の様な魔導師となる人物が存在しない事。 そして…… 魔法と何の関わりも無い世界を舞台に、新たな異変と思惑が動き始める。 (閑話休題代わり) “リリカルなのは・ライダーズ” ユニゾンデバイスを研究し、大量殺戮兵器を生み出そうとする組織。 彼等の開発したものは最早デバイスとは言えず、人を餌とする怪物を生み出すだけの負の遺産。 その脅威は平穏に暮らしていた人々の日常を驚くほど簡単に打ち砕き管理局にも牙を向く。 目の前にいるは人と獣が混ざったような異形の者。 「これは…暴走なん?」 「いえ、違いますこれは…この者達は明確な意思を持って我等を殺そうとするつもりです」 はやて達が組織の捜査、戦闘を経て出会う異形を狩る復讐者。 「お前達の野望は…俺が叩き潰す!!」 本郷 光太郎。 彼は組織によって自身の身体そのものをデバイスへと改造されてしまっていた。 彼の腹部に形成されるベルト状のデバイス。温もりを無くした冷たい身体。 「どうして…どうしてそんな戦い方をするんですか!?」 「……それが俺が生きる唯一の誓いだからだ……変・身!!」 赤い複眼に風に靡くマフラー、触覚のような二本のアンテナ。 その姿は飛蝗を模し、各関節から余剰魔力のフレアが放出される。 彼の者は変えられた身体を更に変え、異形となって異形を葬る戦士へ己を変える。 同じ世界でのとある遺跡にロストロギアの調査に向った先遣隊の連絡が途絶えるという報がアースラに届く。 フェイトとクロノが原因の解明に現場へ向い、そこで彼等が目にしたもの。 それは、かつてベルカを滅ぼしかけたといわれる暴走ユニゾンデバイス達が眠る封印が解かれたという事実。 そこに偶然居合わせ、同じ場所に安置されていたベルト状のデバイスを手にした青年がいた。 「はぁ!…はぁ……変わった!?」 上代 巧。 彼は世界の自称フードハンターで冒険家という、少しずれた所はあるが普通の青年だった。 しかし、遺跡に安置されていた文字列の掘り込まれたベルト状デバイスが彼を選んだ事で全てが変わった。 ベルト状のデバイスが持つ超古代の戦いの記憶を受け取り、状況が彼を戦いの中へ身を投じさせる事となる。 「なんだあれは?」 「銀の…戦士?」 苦戦するクロノとフェイトの前に現れ、異形と戦うは銀の二本角を持つ戦士。 筋肉を模した様な装甲に頭部を覆う黒い仮面には赤き複眼。 「どうして……あなたはそうまでして戦うんですか?」 「誰だって自分の夢を持ってたり…見つけたりしたいと思ってる。だけど、やつ等はそんなささやかな未来を奪い去ろうとする…そんなの許せないだろ?」 巻き込まれる形でありながら、それでも彼は自分の意思で異形の者と戦う為にその身を変える。 人の命は一つなれど、心の有り様は多種変動。使用者の精神に感応し、ベルトの光が強く輝きを放つ。 知りえていく力は姿を変え戦士の基となり、戦士の心が邪悪を貫く武器を新たに形作っていく。 其の者は大切なものを守る為、他が為に其の身と心を奮い立たせて異形を滅する。 彼の者の敵は自然の摂理を捻じ曲げ、人道に反して力を手に入れようと醜き姿へその身を変える。 其の者の敵は古代より人を喰らい、飲み込み続け力を付け狂喜し全てを滅ぼさんとその身を変化させていく。 戦士達は戦うだろう、己が守りたいものを護る為に。 彼の者と其の者は相容れず、互いの意思がぶつかり合う。 「お前のような甘さでは、戦い勝つ事は出来ないぞ!!」 「そんなのは偽りの強さだ!!アンタは自分さえ偽って……それで何を守るって言うんだ!!」 「どうして? どうして二人が戦うの!!」 「無限書庫のデータベースで探した結果…彼のデバイスは……ある種の寄生型だという事が解った」 運命は動き出す。 戦いの連鎖と悲しみを秘めた方向へ。 されど、彼女達は集う。 これ以上の悲しみを失くす為に、愛する人を護るために、そして奇跡を起こすために。 “リリカルなのはライダーズ” それは、過去と未来に繋がる戦いの記録。 「……という内容はどうだろう?」 「一条刑事は出てくるのかしら?」 「何を話してるのあの二人?」 「なんでもミッドチルダ新人小説家大賞を狙ってるんだって」 「……暇なの?」 「いや…あいつはマッドなだけだと思う」 「あんたも苦労してんのね」 『一部実名っていうのは誰も突っ込まないんですね』 「ってかこんなのやる暇があるならクリスマス話進めろよ」 「本当はユノなので空我調の話も出来るんだけど」 「それなら刑事役はクロノくんね?」 いい加減止まれお前等。 そして俺、自分の首を占め続けるな!! ふはははは! ネタが浮かべば即投入! それが俺のジャスティス!! 今宵は窮地へ逝ってまいります。 “リリカル・クリスマス☆” 突発的に始まったクリスマスのバイト。 顔合わせは話しの流れ的に着せ替え人形月村すずか、好評発売中みたいな感じになっていた(嘘) 「さて暇潰しも堪能したし、そろそろ行こうか」 「暇潰しってどういうことよ!?」 「冗談だけど言葉の通りかな」 「え、んん…んー……? もー!訳分からないこと言ってんじゃないわよー!!」 いきり立つアリサをやんわりとかわしつつ、ケティはサッサと何処かへ出掛けるように身支度を始める。 「みんな、はやく出掛ける準備してくれないか」 「どこへ行くつもりなんだ?」 「そろそろ準備くらいはしないと時間的にまずいよ」 「どこに行くのよ?準備って言ってもクリスマスはまだ結構先よ?」 「あー、まぁ…確かに君達のところではまだ先だね」 「どういう事ですか?」 「あー、また後で…と言うか道中で話すよ」 すずかが尋ねるとケティは言葉を濁しながらリイン達のいる部屋へと向う。 扉を開けて中へ入ると、室内はゴチャゴチャに散らかっていた。 視線を彷徨わせていくと、机の間に挟まるようにフィルヴィータとリインフォースの二人と床で縺れ合っていた。 「…やぁ」 「もうすぐ出掛けるから準備をたのむよ」 特に細かい事は言わずに用件だけ伝える。 前方の方でヘッドスライディングしたようにフーが倒ていて、三人が縺れ合いつつも食器類を確保している事から大体の事情は把握できた。 「この状況を見て言うことがそれだけなのか!?」 「それについては多分後の人が言うから大丈夫じゃないか?」 「う、腕が抜けません〜!」 恐らく茶を用意したフーが盛大につまづき、浮遊した食器類を三人が落とすまいと奮闘した結果。 こんな感じのなんか妖しい体制になってしまったのだろう。 ケティは呆れと疲れの混じった溜息と共に吐き捨てると後続からアリサ達が出てくる。 「なにやってんのよアンタ達は」 「す、好きでやった訳じゃねーです」 「なんだかすごい事になってるね……」 「お褒めに預かり光栄だよ」 「それは良いから助けて下さい〜」 凄く放っておきたい衝動に見舞われながらも、このままだと話が進まないので皆で力を合わせて三人を助け出そうとする。 「いてててて!足引っ張んなよ!!」 「あぅ!お手てが痛いです〜!」 「ん〜……これは困ったね」 「落ち着いてる場合じゃないでしょーが!!」 「アリサちゃん、焦ったらヴィータちゃん達が痛くなっちゃうよ?」 四区八苦しながらも、どうにか難解な人間知恵の輪を解き明かした一同。 「よーやく抜け出せた」 「あっちこっちが痛いです〜」 「はー酷い目に会った」 「そう言う割には余裕じゃない」 「はーいはいはい、皆さん修学旅行生気分はそこまでー」 一同がワイワイ騒ぐ中、パンパンと手を叩いて注意を引くケティ。 「はやく出発したいから準備を済ませてくれないか?」 「そう言えばさっきから出発するって言うけど、どこに行くつもりなのよ?」 「それは行ってからのお楽しみ」 「危険は無いでしょうね」 アリサの問いに明後日の方向を向くケティ達セルフのメンバー。 「まさか本当に危ないんじゃないでしょうね!?何とか言いなさいよちょっとぉ!!」 「あはははは、大丈夫大丈夫……だと思う」 「目を見て話しなさいよ!!」 顔を背けながら語るフィルの襟を掴み、大きく揺さぶる。 ガクガクと音を立てながらも、全く動じていないのは鍛えられたからか慣れているからなのか。 「落ち着いてアリサちゃん」 『そうそう、慌ててもどうにもならないって事は世の中たくさんあるんですから待ったり行きましょうよ。貴重な突っ込み役なのは分かりますけど、やり過ぎると髪の毛痛みますよ?』 「あんた達はノリが良すぎるのよ!!」 『あわあわ…』 妙な方向に話しがずれ始めたなぁと客観的に見ているスヴェル達は思う。 このままお流れにしても良いかなぁとも思うが、流石にそれは出来ない事情があるので、ここら辺で話を戻す事にする。 「おい、時間は良いのか?」 「ああそうだね。そろそろ彼女の準備もとい覚悟(諦め)も終わっただろうし」 「彼女って…まだ誰かいるの?」 スヴェル達の会話に自分達以外にも巻き込まれた人がいるのかと、疑問なのか同じ被害者という認識なのかアリサが尋ねる。 彼女の問い掛けに、シャマルとヴィータの口元が小さく歪み、小さく薄ら笑いを浮かべた。 「ああ、細かい経緯は今回は省くけど、彼女もプレゼントをあげる条件でバイトをしてもらう事になったんだ」 「どんな人なんですか?」 「君達もよく知ってる人だよ」 フィルがそう言うと、タイミングよく別室のドアが開いて中からマントに身を包み、頭にピョコピョコ動くアレを付けた女性が現れる。 「シグナムさん?」 「よーシグナム。遅かったじゃんよー?」 「ダメよシグナム。オーナーを待たせるのはマナーが悪いのよ?」 「おまえたち……#」 どうやらシャマルとヴィータ、シグナムは同じ時期にセルフに来ていたらしい。 ニヤニヤしながら語る二人に、額に怒り皺を浮かべるシグナム。 あからさまに頬がヒクヒクと動き引きつらせて怒っていますオーラ全開という感じだ。。 その様子に首を傾げるアリサとすずか。と、二人はシグナムの格好と頭についているモノに視線が集中する。 それは彼女の頭にフィットし、動くたびにピョコピョコ揺れる。 「あのー…それって?」 「どうか聞かないで欲しい」 「あたしも深く聞きたくは無いけど…でも、それって…」 「ウサミミだよなー♪」 「ええ、正真正銘立派なウサミミよ♪」 「誰の所為だと思っている貴様等ぁ!!そこになおれ叩き切ってくれる!!」 怒りに燃えて腕を大きく振るうシグナム。 その所為でマントが剥がれ落ち、隠されていた彼女の現在の服装が露わになる。 彼女が着ていたのは黒い網タイツに黒いボンテージ服。 派手な動きを見せると勢いに乗って谷間が見える胸が大きく揺れ、黒いタイツが瑞々しい太ももを隠しながらも彼女の魅力を強調する。 っていうか正直に言ってしまえば、耳を見れば分かるだろうが彼女の姿は正しくバニーガールと言われるもの。 バニーシグナムさんご誕生だった。 「なぁシグナム」 「なんだ!!」 「マント、落ちちゃったわよ?」 「え?ぁぅ、わぁああ!!!?」 瞬時に自身の長髪の色も霞むほど、顔を赤く染め上げつつ高速でマントを拾って物陰に隠れる。 その動きは黒衣の魔導師に勝るとも劣らない、良い加速度っぷりだった。 「なにをしたのよあんた達」 「僕等は何もしてないよ」 『ちなみに二人もあの格好になれるからね?っていうか今実際にやってみる?』 「やる訳無いでしょ!!」 その後彼等は結構苦労した。 物陰に隠れたシグナムさんは、顔を上半分だけ出してシャマル達の様子を伺う。 それはもう警戒心剥き出しで、且つ拗ねたようにも見える涙目で彼等を睨み続けたのだ。 彼女の普段の威圧とは別の眼力に、男達は結構胸の奥がなんかクルようなアレな感覚を感じさせられる。 フィルだけが物ともしていなかったのがシャマル的には面白くなくて、残念に思ったりもしていたがそれはどうでも良い。 「あのーこっち来てくれませんかー?」 「いやだ」 ケティが呼ぶが、拗ねたように短く答えて拒否する。 「船から出ないと仕事に行けませんよ?」 「やだ」 スヴェルが出来うる限り優しい口調で外出を進めるが、顔を徐々に引っ込めていきながら拒否。 「ほら、機嫌直してください」 「…やだ」 フィルが話しかけても拒否。 「ほらほらどーしたんだよー?」 「ヴォルケンリッターの将が情けないわよー?」 「もうお前達の言う事は絶対信用しない!!」 「一体何をされたのよ」 『楽しい事には間違いないですよ♪いやー、あの格好で夜窓からやってきて布団の中に入って、私がプレゼント(はあと)。とか言ったらもー男の人はイチコロ間違い無しでしょーねー!!』 「似合ってるけど、本人としてはやっぱりち恥ずかしいよね」 『ぁぅぅ…さっきの失敗が……ぅぅぅ』 しばらくはそのまま投降を呼びかける状態が続き、アリサ達は半分蚊帳の外にされる形になってしまう。 当事者達の予想以上に、シグナムさんの引き篭もりはその後数時間にも及ぶこととなった。 仕方が無いので、普段とのギャップに少し呆けていたアリサとすずかの二人に交渉役を頼む。 ちゃんとした服に着替えをするという事でようやくシグナムは動いてくれた。 当然シャマルが着付け役を申し出たが、鬼の形相で睨まれ速攻で却下されたのは言うまでもない。 オンドゥルルラギッタンデェスか!? という声が聞こえてきそうだぜぃ。 憂鬱日その1を乗り越え、気分は絶賛昂揚中! 今回の目玉は出そうで出てないバニーシグナムさん! 何故彼女がそんな格好をしてセルフにいるかは次回語れたら良いなぁ… “リリカル・クリスマス☆” 羞恥心に半分涙目になりながら隠れ続けたシグナム。 その所為か彼女の瞳は赤くなって、よりバニーっぽさを引き出していた。 「落ち着きましたか?」 「ああ、すまない。だが主の友人の手を煩わせるなど、とんでもない失態」 「そんなに落ち込まなくても良いじゃない」 落ち込んでるような、照れているような感じで話すシグナムに笑顔で答える二人。 アルトロンにある部屋の一つの更衣室で、シグナムのバニー服を丁寧に畳むアリサとすずか。 当然今のシグナムは下着のみだが、女性どうしでも一応遮蔽物越しに話しているので彼女の姿は肩から上までしか見えない。 期待していた人は残念でしたち言いたいが、全体的なプロポーションが良いのでそこだけでも十分な魅力が放たれている事は否めない。 「ところで、どうしてシグナムさんまでここに?」 「う」 すずかの問いに硬直するシグナム。 二人は疑問に思うが追求せず、少し間を置いているとシグナムがセルフへ来るまでの敬意を語り始めた。 〜〜〜〜 数日前のとあるデパート。 そこでは既にクリスマスに向けての飾り付けが済まされ、人も多くそれなりの盛況を見せていた。 すでにバイトの件を頼んであるシャマル達と共に、ケティ達はクリスマス用の道具の買出しに赴いていた。 「なー、こんな所にきてどうすんだよ?」 「ちょっと買い出し。ここでも色々面白いものがあるからね」 「で、僕は荷物持ち?」 「私達もですか?」 「いや、シャマルさん達は適当に好きなものでも見ててよ。良ければバイト代替わりにプレゼントしようか?」 「ホントか!?」 「それは悪いですよ」 取り留めの無い会話をしながら、デパートの中を見て回る一同。 暫く見て回ると、展示場のような売り場でフィルが見知った顔を見つけた。 「ん?」 「フィルさん?」 「あれって、シグナムさんにリインフォースちゃんじゃない?」 「え、あら?」 「ホントだ。なにやってんだあいつら」 ある商品売り場の一角で、突っ立っているシグナム。 隣でリインも同じ場所を見てはしゃいでいるのが見える。 「わ〜、可愛いですね〜♪」 「あ、ああ。そうだな」 「この熊さんのプリントも可愛いです〜♪」 「そ、そうだな」 キャイキャイはしゃぐリインに対して、なにやらギコチなく返事を返すシグナム。 「そ、そうだリインフォース。喉が渇かないか?」 「はぇ?」 「喉が渇いただろう?そうだ、あっちの方に自販機があるからそこで買ってくるといい」 早口でまくし立てながら千円札を手渡し、リインに握らせるシグナム。 「え?え?シグナムお姉ちゃん、二人分でもこれは多いと」 「お釣りは好きに使って良いぞ」 「ええ!?良いんですか!?」 「ああ、私は暫くここにいるから、好きなものを買うも良し、遊んでくるのも自由だ」 「えっと、じゃあ行ってきますね♪」 少し迷った後に笑顔で言うリインに、爽やかな笑顔で見送るシグナム。 駆け足で去っていく彼女を見送り、姿が見えなくなった所で再び商品に向き合う。 その視線の先には様々な猫のマークが付いた袋や風呂敷系統の商品が陳列されていた。 その中で彼女が凝視しているのは、デフォルメ化した猫の顔マークが施された竹刀袋。 「アレが欲しいのかな?」 「スゲー見てるよな」 「まるで恋する乙女の顔ね」 小さく息を吐きながら、竹刀袋をウットリと眺めるシグナム。 やがて理性を取り戻したのか、首を大きく振ってその場から去ろうとする。 しかし、未練があるようで2・3歩進んだ所で振り返って商品を見るとその場でうろつき始めてしまう。 「なにをやっているんだ?」 「まるで、欲しい物を取りたいけど、取って良いのか分からない猫って感じだね」 フィルの言う通り、今のシグナムはうろつく猫。 ちょっと萎れている感じがちょっと可愛らしく思えてしまう。 「アレが欲しいなら、なんで買わなねーんだ?」 「そりゃからかわれると分かってればね」 「そうね。ヴィータちゃんが黙っているはずないものね」 「貴方もだシャマルさん」 彼等が観察してるとは夢にも思わず、シグナムは超高速思考を開始していた。 (ねこネコ猫ねこ可愛いネコカワイイ猫かわいいネコネコねこニャンニャンねこニャンみゃーミャーミャー………) (怖い) フィルは正直な感想を口に出しそうだったが、ぎりぎり踏み止まった。 「シグナムのクリスマスプレゼントはあれで決まりね」 「でもよー、あいつ昨日は木刀が欲しいって言ってなかったか?」 「木刀?」 「なんでそんなものを?」 「ただの木刀じゃないのよ。とある辺境の次元世界に生える金剛樹っていう木から作られたすごく頑丈な木刀なんです」 「ふーん」 「あ、なんかシグナムが悶え始めた」 話しを聞いている間、シグナムは頭を抱えてしゃがみ込む。 う〜う〜唸って本気で悩んでいる様は傍から見たら妖しくて、本来なら視界から外したいが彼女がやると何故か見ていたくなる。 シグナムはそのままの姿勢でブツブツとなにやら呟き始め、思考の渦に埋没していった。 「あら?シグナムったら何を話してるのかしら?」 「どうやら、木刀を自費で買ってサンタに竹刀袋をプレゼントしてもらうか、あの袋を靴下代わりにして木刀をプレゼントして貰おうか迷ってるみたいだね」 「あらあら、シグナムったらカワイイ♪」 「聞こえんのか?」 「いや、ただの読唇術」 「眼鏡かけてるのに凄いね」 「ってゆーかテメーは本当に何もんなんだよ」 ヴィータの突っ込みを聞き流し、サンタがいることを信じているのかという突っ込みも忘れてケティは口元に笑みを浮かべる。 それを見たフィルは彼が何かオモシロい事を企んでる事を長年の付き合いで理解した。 予想通り彼はすぐに行動に移り、シグナムの元へと歩み始めた。 「あの木刀を自費で買うには高すぎて剣術雑誌が買い辛くなる、しかしこれを自費で買うのも…だが、この愛らしい瞳が…」 『買ってにゃ〜』(幻聴) 『寂しいニャー』(幻聴) 『使ってみゃー』(幻聴) 『早く買うニョー』(跳!幻聴!) 『安心しろ俺は猫の達人だニャー!!』(蝶☆幻聴!!) 『ハイ、ぼくドラえも―(諸事情によりカットします) 「あああ、私は…私はどうすれば!!」 「すいませーん。これくださーい」 「へ?」 徐に横から手が伸び、シグナムの目当ての竹刀袋を掴み店員に言う。 突然の事にシグナムは思考を止め、竹刀袋を取った人物に顔を向ける。 「れ、レッサイ!?」 「こんにちわ」 「な、なぜここにいる!?」 「ちょっとクリスマスの買い出しに」 ケティに細かく震える指を刺しながら、驚き焦って慌てているシグナム。 珍しいものを見れて役得といった感じで笑いを噛み殺すケティと物陰で見ているヴィータ、シャマル。 「そ、それをどうするつもりだ?」 「これ?クリスマスプレゼントとして使うつもりなんだけど」 「そう…なのか」 (そんなに落ち込まなくても) ケティが答えると、物凄く寂しそうに眼を伏せて項垂れるシグナム。 普段と違い、儚く脆そうで弱々しいその姿は、見る者に物凄く守ってやりたい思いに駆らさせる。 「あの、これ…」 「いや良いんだ。私は何でもない…気にするな。そうさ、わたしはなにもきにしてないしおちこんでもないさ」 「あんなギガ落ち込みモードのシグナム初めて見た」 「シグナム…貴方も夢中になれるものを見つけたのね」 ホロリと涙を拭う仕草をしながら語るシャマル。 夢中にさせるものが、何時かキミをスゲエやつにするんだ。という言葉が昔あった気がするが、この場合はどうなんだろう。 ふと、そんなどうでも良い思考が浮かぶフィルだった。 「シグナムさん」 「……なんだ?」 全てを捨ててしまったような、取り戻せない過去に憂いながらも必死に隠そうとしているような表情を向けるシグナム。 良心の呵責に苛まれそうな表情に、内心居心地の悪さを感じながらケティは当初の目論みを話す事にした。 「キミはクリスマスの日まで暇はあるかい?」 「交際の申し出か?」 「違います」 ふっと乾いた表情で苦笑しながら聞き返すシグナムに間を置かずに返すケティ。 その反応の速さに少し感心したシャマル。 (あんまりイジレるキャラじゃないのね) 感心ではなく残念がっていたようだった。 「なら、なんだ?」 「暇があるならちょっとした頼み事をお願いしたいんですよ」 「頼み事?」 「もし承諾してくれるなら、前金としてこの竹刀袋あげるよ?なんて――」 「引き受けよう」 「うお!?」 「「「速!?」」」 言葉が言い終わらない内にケティの手を両手で包み込むように握り締めるシグナム。 その速さにフィル達は驚き、ケティは急にシグナムが鼻先が触れそうなくらいに近づいた事に驚く。 「い、良いのかい?」 「なにを言う。こちらとて以前お前達には世話になった借りがある。だから気にする事はない。そうだな、前金とは言わず報酬はその竹刀袋だけ気持ちとして貰ておこう。別にそれが特別欲しい訳ではないぞ?私はただ借りを返そうとだな―ーー」 「分かった、わかったから落ち着いてくれないかな、ね?」 ケティに宥められてようやく落ち着きを取り戻し、離れるシグナム。 心なしかその表情が明るくなり、ハキハキしているように見えるのは気のせいではないだろう。 「あ、そうだ。ヴィータやシャマルさんもいるから、出来ればはやてさんには内緒にしておいてくれないかな?」 「あの二人もいるのか?」 「そうだね。二人とも彼女にプレゼントをあげる為に協力してくれるってさ」 「わかった。主には申し訳ないが秘密にしよう」 やけに明るく、気前が良くなってきているのか特に考えを巡らさずに承諾するシグナム。 ケティは心の内で作戦通りと邪悪な笑みを浮かべつつ話しを続ける。 「ついででも良いから、リインフォースにも話しておいてくれないかな?」 「リインフォースにも?」 「ちょっと人数が欲しいんだ」 「話せば協力はすると思うが…主に秘密事を作るとなると」 「そこは…あとで費用は出すからお菓子をあげるとか言って協力してもらってよ」 「努力はするが」 言いよどむシグナムにケティは残りの一押しをすべく、すでに包装された竹刀袋をシグナムに差し出す。 「取り合えず、先にこれは渡しておくよ」 「え?」 「僕はフィル達を待たせてるから、そろそろ行くよ」 「ま、待て!これは――」 「紙に包まれたままなら家族にはバレないだろ?」 「そ、そうかもしれないが」 「じゃ、よろしく頼むよ」 「あ」 そう言ってフィル達が隠れている方向とは逆へ向って駆け足で去っていくケティ。 シグナムが退き止めようと手を中空に伸ばすが、すでに姿が見えなくなりそのままの姿勢で動きを止める。 ほんの少しの間を置いて手を下げ、包装された竹刀袋に視線を向ける。 そして思い切り、大切そうにソレをギュッと抱きしめた。 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪♪♪」 「うっわ、あんな顔したシグナム多分二度と見れねーぞ」 「可愛いわ!可愛いわよシグナムぅ♪」 満面の笑みを浮かべて胸元に商品を大事そうに抱きしめる彼女の姿は少女のような印象さえ与える。 ちょっとはしゃぐ女学生的な雰囲気とでも言うのか、兎に角今のシグナムはカワイイ少女と化していた。 「あああカメラに取りたいぃ!!けどシャメしたら多分バレるから取れないし…でもあのシグナムをアルバムに残してはやてちゃんにも見せてあげたいいいぃ!!!」 「カメラ機能を駆使特化したデバイスならあるよ?」 「うわ!?どっから湧いてでたんだオメー!?」 「一回りしてきた」 「そのデバイスはお幾ら?」 「買うのかよ!?」 シャマルの返しに少し考えながらケティは答える。 「○百万MGで」 「高すぎない!ボッタくりよそれ!!」 「幾らなんだよそれ」 彼等が話している間に、シグナムはリンと合流し幾らか話しをすると手を取って店から出て行く。 遠目から見ていてもそれはもうルンルン気分、幸せハッピーって感じでスキップや鼻歌までやりそうだ。 「どうする?分割払いでも構わないよ?」 「買います!!買いますから今すぐあのシグナムを撮らせて!!!」 「了解」 そう言って写真型デバイスを手渡すと、シャマルは眼にも見えない速さでそれを奪うように手に取ってシグナムを追いかけ始めた。 残された三人も後に続き、ケティはシャマルの傍らで取り扱いの説明を行なう。 しかし、その後では竹刀袋を手にした時程のものは取れず、シャマルは弱冠不満気味だった。 〜〜〜 「という訳で、私は仕事着についてろくに説明も聞かぬままここに着てしまったという訳だ」 「シグナムさんも物につられて来てたのね」 「ぅ」 「でも、どうしてシグナムさんだけサンタ服じゃなくて、この服を出されたのかな?」 「ここに来た時、シャマルとヴィータノ口車に着せられた」 ズーンと落ち込み気味に話すシグナムに乾いた笑いしか出せない二人。 「と、取り合えず着替えましょう?」 「そうそう、何時までも気にしてたらキリがないわ!」 「二人とも…恩にきます」 「良いのよそんな改まらなくても」 「そうですよ……これがそうかな?」 「はいどうぞ」 部屋の中に置いてあった服をすずかが見つけて一つずつアリサに渡し、リレー式にシグナムへ手渡していく。 渡された物から順番に着替え始めていくシグナム。 やや時が過ぎてシグナムが着替え終わるが、その表情は微妙に納得がいかないというものだった。 「あの、お二人に尋ねたいのですが」 「それを見立てたのはあたしじゃないわよ」 シグナムが着ているのは、やはりサンタ服。 しかし、明らかに彼女の身体には小さかった。 ソレもその筈、彼女が着ているサンタ服は年齢は書かれていないが、元は子供用と描かれたダンボールの中から引っ張り出された一品。 適当に転がっていたものを引っ張り出したすずかが、狙ってやったのかは定かではない。 「とっても似合ってますよ♪」 「いや、その…」 「すずか」 全く邪心も悪意も悪戯心も無い笑顔で言われると、責めたくても何も言えなくなる。 シグナムとアリサは適当な机に両手を突き、ガックリと項垂れる。 もう一度言おう。 シグナムサンタが着ている服は子供用。 下は短パン宜しくギリギリ下着が見えない位で危うさがモロに出ており、上はもうきつそうで胸が圧迫されているんじゃないかと思う。 正直言ってパッツンパッツンを超えた肌のラインを浮かび上がらせるソレは、最早肌着とさえ言っていいものか。 もし映像化されるとしたら、ゴールデン放送禁止は免れないかも知れん。 「いっそ殺して」 「シグナムさん…気持ちは分かるけど弱気はダメよ」 「そうだよシグナムさん。ぎっくり腰は治らない病気じゃないから大丈夫だよ♪」 『これは本気で言ってるんですかねー?』 『わたしに聞かれても…分からないよ』 その頃、暇を持て余してるフィル達はというと。 「あ〜あ〜。あの時のシグナム…写真に収めときたかったわぁ」 「まだそんな事言って」 「だってあんなシグナムこの先見れる保証なんてないんですよ!!」 「確かに…というか正直あたしは見たくなかった」 本気で悔しがるシャマルと小さく呟くヴィータ。 彼女達の反応を背後に感じつつ、ケティは微笑みながら紅茶を入れる。 「もし見れるとしたら幾ら賭ける?」 「ぅ…お金の催促ですか?」 「違うよ。あれは返してもらったしそんなに枚数とって無いから格安にしとくよ」 「それでもお金取るんですね」 「商売だからね」 冗談を言い合う彼等の横で、ソファーにもたれ掛かりながらフィルは心の中で苦笑していた。 実はケティは立ち去った後、速攻で隠し撮りに最適な場所へと走り、アノ直後のシグナムを写真と映像に収めていたのだ。 それを聞かされた時どうするつもりかと問い質したが、結局はぐらかされて教えてもらう事はできなかった。 もし、それがあると知ったら彼女達はどんな反応をするのだろうか? 間違いなく、恐怖が先に出る大騒ぎになるだろう。 「なるほどね…そうゆう事か」 彼はつくづく可笑しな事に全力を尽くすようだ。 親友の奇行にスッカリ慣れたなぁと思いつつフィルは今後の為に眼を閉じる。 別に寝る訳ではないが、眼を閉じた方が眠らずとも体力等の回復には良いと感じているからの行為。 クリスマスはもうじき。 静かなるお祭り騒ぎの聖なる時間。 サンタが動き出す時も、もう直ぐそこだ。 “リリカル・クリスマス☆” ケティがなんか企んでるような節がある中、クリスマスへの準備が始まった。 「フィルさん、ソッチから132次元用の備品をすずかちゃん達に廻してください」 「うん分かった」 『アリサちゃんとすずかちゃんは種別に分けてもらえるかな?』 「種別って?」 『配る場所用に…その次元用の数式が』 「配るって、本当にバイトみたいね」 『だから大丈夫って言ったでしょー?』 アルトロンの整備室。 見渡すと、ロボットや飛行機の発射口のようなその場所でアリサ達は荷物整理をさせられていた。 「これはどこかに届けるように頼まれたのか?」 「あ、や、まぁ…その」 「どうかしたんですかスヴェルさん♪」 まともにシグナムを見れないスヴェルにシャマルが茶々を入れる。 今作業中の彼女達の姿はすべてサンタ服。 けれど内容はゴスロリ、ミニスカ、半袖、メイド、ヘソ出し、というかほとんど肌着に近く際どい服装。 前四つは耐えることができた。 だが、シグナムサンタは無理だった。 はじめ見たときはシグナムが顔を真っ赤にしていきり立ったが、羞恥心の前に腕を身体に抱きしめるようにして隠す仕草をとり。 ケティ達は予想通りといった様子で、スヴェルのみ直視できずに顔を赤くして明後日の方向を見て、悪戯シャマルの標的となった。 ちなみに、シャマルは今全体が赤く、サンタ服を思わせる結婚式用のドレスに近いものを着ている。 その後一悶着あったが、クリスマスのバイト内容を発表した。 内容が様々な次元世界へクリスマスプレゼントを配るという事にアリサ達は驚いた。 今は各次元へのプレゼントの仕分けを行い、ソリへと乗せている所だった。 手分けした作業内容はアリサ、すずかチームが仕分け。 3やフー等セルフ内勤チームが各次元世界での行動…配布予定スケジュールの確認、知り合いのつてへの連絡等の細かな調整。 フィルやケティがこれから使うソリ型デバイスの微調整。 スヴェルとシグナムは様々な荷物をソリへと乗せる力仕事を任され、シャマルが現場の動きの指示をする事となっていた。 ヴィータとリインフォースはカスクに遊んでもらって待っている状態だ。 「わーカワイイですー♪」 「なーなー、なんで今回はヨンソク歩行なんだ?」 「ニャリー」 今のカスクは通常の待機モードと違い、四足歩行の丸型哀願動物的な姿を取っていた。 今回の作業の為に、予め装備のある状態での待機フォルム。 装備の特性が色濃く出てしまっているが故の形態変化。 その姿が愛らしく、またチョコチョコと動くのでリインやヴィータお子様組みには大好評のようだ。 二人が「むしろコレくれ」と話していたが、量産するだけの予算が今は無いと断られて少し残念に思ったのは別の話。 「別になんでもないっすよ」 「ふーん、そうですか♪」 一先ずシャマルの矛先が逸れ、その事にホッと一息つくスヴェル。 そんな彼に近づいていく、最早なにを言っても無駄だと悟っ(諦め)たシグナム。 「すまんな、あれも普段はああではないのだが」 「いえ、別に構わないっすよ」 「そう言ってくれると助かる」 「どーも」 返事を返しながら、仕分けの済んだ二つのアタッシュケースをシグナムに渡す。 このアタッシュケースも改良したデバイスで、中に見た目以上の荷物を内包する事ができる一品だ。 それを受け取り、ソリの近くへ置きに行くシグナム。 ソリの傍らには山積みにされた袋が佇んでおり、崩れたらシグナム程の身長でも埋まるだろう高さだった。 「じゃ、機動頼みます」 「ああ、ここを押せばいいんだな?」 スヴェルが頷き、アタッシュケースの取っ手下にあるスイッチを押す。 デバイスとしての機能が働き、目の前に山積みにされている袋の山を吸い込むように圧縮収集していく。 山積みにされた袋が消化されるまで同じ行動を続け、大量にあった袋の山が6〜7個のアタッシュケースに納まる。 「これで全部か?」 「そうっす」 「あとはこれらをソリに乗せるだけか。思ったより少し速く終わったな」 「仕事が始まってからが苦労っすよ」 冗談のようで、本当に憂鬱そうに話すスヴェル。 傍らのシグナムはそうかとだけ言うと、3〜4つ程のアタッシュケースを積み重ねて持ち上げ運び出す。 「よっと」 「!?」 ドサッと音を鳴らせ、ソリへとケースを入れるシグナム。 だが、それは男の欲を刺激する強烈な一撃を自然に打ち出していた。 よく思い出してみよう。 今のシグナムさんはぱっつんぱっつんを通り越した危ない服装。 普通に動くだけでもかなり際どいミニスカート。 それは少し前傾姿勢をとるだけで、中の白い何かをモロに出してしまう危険な代物。 さっさと先に荷物を置きに行った為にシグナムさんの後ろにはスヴェルがいる訳で、同じように荷物を置きに行けばイヤにも彼女に視線が行く訳だ。 「…?どうかしたのか?」 「…………なんでも」 絶対に眼を合わせないように注意しつつ、荷物を運ぶスヴェル。 疑問に首を傾げるシグナムだが、深くは聞かずに彼の荷物を預かろうとする。 一度意識してしまうと妙に反応してしまい、ドギマギしながら断るスヴェル。 その様子をシャマルはクスクスと楽しそうに現場監督の位置で楽しんでいた。 当然作業を行なえば、屈伸運動をする機械は多々ある訳で…その後、どんな光景があったかはご想像通りとだけしか言えない。 作業開始から数時間。 ようやく全ての準備が整った。 「はー……」 「どうしたんですかスヴェルさん。妙に疲れてるみたいですけど?」 「白々しい、どうせお前が何かしたのではないか?」 「あら、どっちかというと何かしてるのはシグナムだと思うけど」 「どういう意味だ?」 「さぁ?」 「たのしそうだなぁシャマルさん」 「それは別に突っ込まないけど、あっちのカスクは良いの?」 「さっきヴィータちゃん達に追い掛け回されてたけど」 「大丈夫アイツも結構楽しんでると思うから」 「まてー!」 「まつです〜!」 『なり〜!!』 「フィルド、今回もガンバローね♪」 「うん、今年もよろしく頼むよフー」 「ぼくも頑張るよ!」 「期待しないでおくよ」 「あ、ひどい!」 「さてと、じゃあ皆ソリに乗ろうか…カスク!!」 『ニャリー!!』 ケティの指示にカスクは高く飛び上がるとその姿を戦闘形態に変えた。 一度全体が茶色の人型を経て、そこから四足歩行の獣型の機体へと姿を変える。 そして、背面のバックパックをソリとくっ付け、繋ぎ合わせる事で牽引準備は完了。 「ソリを引くってことは今回のモチーフは鹿なのか?」 「あんまり鹿さんには見えないです」 「この状態だとそうだろうね。けど、戦闘用に武器を展開したら違うよ?」 「配るのに武装なんていらないでしょ」 お子様組みに説明するケティに突っ込むアリサ。 微笑ましく思いながら、それぞれがソリへ乗り込んでいく。 その中で足取りを重くしながら、スヴェルがフィルに話しかける。 「今年はどうなりそうなんだ?」 「そうだね……彼女達がいるから、平和な方はどうにかなるんじゃないかな?」 「回りきれるか?」 「やっぱり分かれた方が効率は良いね」 その答えに足が止まり、溜息を吐くスヴェル。 「やっぱりそうなるんだよなー」 「ははは、毎年ごめんね」 「良いよ。頼まれたからと言っても、それほどイヤでもないからさ。報告書かくよりずっと良い」 「そう言ってくれると助かる」 「おーい二人とも何やってんだよー」 立ち止まっている二人にヴィータが手を振りながら呼んでいる。 すでに全員乗り込んでおり、残すはスヴェルとフィルの二人のみ。 どうやら思ったより話し込んでいたらしい。 「途中でバラけるのか?」 「そうなるね。乗り物は彼女達に使わせるから、今年も僕等は」 「分かった。それだけ聞けりゃ十分だよ……行こうか」 「うん」 二人が乗り込んだのを確認するとハッチが開き、外の青空が良く見える。 獣型カスクが馬の様に前足を大きく上げてから走り出す。 ソリが音を立てて滑り、発射口から勢いよく大空へと飛び立っていく。 心地良い風を受けながら、サンタ達を乗せたソリは大空を駆け抜けていった。 あああああ。 明日は憂鬱日パート2〜。 憂鬱な事があると人間ヤル気も萎える。 というか、残りの週間余裕が予想以上になくなりそうな予感。 大丈夫なのかこの話…終わるのか? 不安を抱えたまま続く!! ちなみに、今回のカスクのモチーフはガイアだ!!(心底どうでもいい) |