〜新暦75年5月 遺失物対策部隊 機動六課隊舎 部隊長室〜 「はやて、今日だったよね。“例の人”が来るのは?」 「そうなんよ。急な話だったからビックリだったんや」 「突然だったこともそうだけど、今回の異動の話は驚くことばかりだよね。地上本部からの異動だということ、そしてその人物そのものもね」 「機動六課の監視が主な目的やないかとは思うんやけどね。ただ“この子”4年前に入局して以来、色々話題になった子やからなぁ〜。本気でウチを監視するためなのか、それとも何か別の目的があるのかと疑いたくなるんよね」 部隊長室にて機動六課部隊長八神はやてとライトニング分隊隊長フェイト・T・ハラオウンは今日来るという地上本部からの異動人員(1人だけだが)について話し合っていた。地上本部が犬猿の仲である管理局本部所属の部隊に出向させるというのは、非常に珍しい。これが機動六課の様な新設部隊に送ってくるとなると、その実態はだいたい内部調査などであろうと考えるのが一般的である。しかし今回の異動話は機動六課に来る人物そのものにも2人は驚かされているのである。転属してくる者の名前はマイア・ラクレイン三等空佐。地上本部に所属しているのに空佐ということはそれほど珍しいことではないが、このマイアという女性は並の魔導士ではない。 4年前、10歳で嘱託魔導士として地上本部に所属し、それからわずか4年、14歳で三等空佐の地位という、階級でいえば管理局の“エースオブエース”高町なのは一等空尉より上の地位になっていることがその証左である。“閃光のマイア”という通り名ができるほどの彼女の噂は地上本部だけでなく本局にまで轟いていた。 しかし彼女に関する噂はそのスピード出世のことだけではない。三等空佐に出世した現在でも彼女は未だに嘱託魔導士のままなのである。本来三等空佐という高い地位のものなら部隊を指揮する隊長ぐらいにはなっているのが普通である。これは彼女が数多くの部署からのオファーがあったにもかかわらず、なぜか全て拒絶していたからである。“嘱託魔導士という民間協力者なのに三等空佐という高い地位を持つ”まさに“異端のエース”なのである。 そんな彼女が、今回の機動六課の異動では地上本部の意向よりむしろ彼女が積極的に要望したという話を、はやてとフェイトは耳にしていた。それ故今回の異動話は、地上本部が本気で監視するという目的をカモフラージュするために彼女を転属させたのか、それとも単に彼女の積極的な要望を受け入れたために実現したことなのか。さすがのはやてとフェイトでもそのことを断定することはできなかったのである。 「…まぁとりあえず実際に会ってみてからでないと何とも言えへんよね」 「うん…」 その時部隊長室のインターホーンが「ピンポーン」となった。 「はい、どちら様や?」 「今日転属のために参りましたマイア・ラクレイン三等空佐です」 どうやら話題の渦中の人物が部隊長室前のドアの前に到着したみたいだ。はやてはどうぞ、といって入室を許可し、部隊長室のドアが開いた。 はやてに入室を促されて入ってきた女性、マイアは銀色のショートヘアーに赤い瞳を持ち、身長はスバルより少し低いぐらいの女の子。地上本部の制服を着ているとはいえ、見た目はどこにでもいる普通の女の子だった。正直言って“異端のエース”“閃光のマイア”などと呼ばれるすごい子には見えなかった。まあそんなことを言えば“エースオブエース”と呼ばれるなのはも見た目は普通のかわいい女性なのよね。 「ようこそ機動六課へ。私が機動六課課長、そして総部隊長の八神はやてです」 「機動六課前線フォワード部隊“ライトニング分隊”隊長、フェイト・テスタロッサ・ハラウオンです」 「マイア・ラクレイン三等空佐であります。今日から機動六課へ出向となります。本局で名高いお2人に比べて若輩者ですが、宜しくお願いします」 はやてと私が敬礼をして軽い自己紹介すると、彼女も私たちと同じく敬礼をしつつ軽く自己紹介した。着任挨拶も一通り終えたところで、はやてが機動六課の設立理由や仕事のことなどを色々説明し、彼女はその説明をまじめに聞いていた。 そして説明が一通り終わると、はやては彼女に関する質問を始めた。彼女に関する情報は地上本部から送られてきた書類で大体把握していたので、その確認のための質問とそれらに答える彼女の様子を見る限り地上本部から送られてきた書類に嘘はないようだね。 「それにしてもマイア三等空佐はその歳で三等陸佐なんてほんますごいなぁ。一体どんな活躍してきたんや?」 はやてが私も聞きたかった質問をさりげなく切り出した。地上本部から送られてきた書類には彼女の地上本部での経歴が書かれてはいたけど、その経歴だけでわずか4年で三等空佐にまで出世するのは無理があると思えたし。 「はあ…。八神部隊長から褒め言葉を承るのは光栄ですが、私の経歴は地上本部が送りました書類に書いてありますので、そちらを確認してご不明な点があれば地上本部に問い合わせてください」 彼女は和やかなしゃべり方をしつつ、遠まわしに回答を拒絶した。 “フェイトちゃん、このマイアって子、予想以上にガード固いと思わん?” “そうだね。今のはやての質問に対する答えをうまく誤魔化したもんね…” 彼女に気づかれないよう念話で話すはやてと私。今の答え方は下手にうそをつくよりも有効な切り抜け方であり、それをこれから上司になる私やはやての前で瞬時に行なったことから、優れた判断力と巧みな話術を持っているみたいね。 「それもそうやな。ほな違う質問させてもらってええかな?」 「ええ、構いません」 はやてはこれ以上追求するのは得策でないと判断して、別の話題に話を変えたようだね。 「地上本部から送られてきた書類にはマイア三等空佐の戦闘技術に関するもの、例えば魔導士ランクや使用デバイス等が書かれてなかったんやけど、そこんところどない感じなんやろ?」 「えっ、書類には書かれていなかったのですか?」 「うん、そうなんよ」 「それがわからないと機動六課のどの部署に所属させるべきかを判断できないの。だから詳しく教えてほしいのだけど…」 「それはそうですよね…」 どうやら彼女も地上本部から送られた書類に彼女の戦闘データーに関することが書かれていなかったことを知らなかったらしく、なにやら困ったような表情になってしまった。魔導士ランクや所持デバイスのことを説明するのはそんなに難しくはないと思うから、他に何か理由があるのかな? その時彼女は何か閃いたのか、いきなり手をポンッ、と打ってから口を開いた。 「では私の戦闘技能の件で提案がひとつあるのですが、よろしいでしょうか?」 「ええよ。で、提案ってなんや?」 そして彼女が提案した予想外の内容に、私とはやてはただただ驚かされてしまった。 〜機動六課隊員訓練場〜 「はい。それじゃあお昼の訓練はこれまで。お疲れ様。」 「「「「はい!ありがとうございました!」」」」 スターズ分隊隊長高町なのはの声と、フォワードメンバー4人が疲れていながらも、元気のいいはっきりと答えた声が、訓練場に着いた私とはやて、それにマイアの耳に入ってきた。ちょうどお昼のフォワードメンバーの個別訓練が終わったところのようだね。 「みんな、お昼の訓練お疲れ様や!」 「お疲れ様、みんな」 はやてと私の声に訓練場にいたみんなが反応し、なのは、ヴィータが振り向き、ティアナ、スバル、キャロ、エリオは首を伸ばして私たちの方を見た。でもその視線は声を発したはやてと私よりも、私たちの横にいるマイアの方に強く注がれていた。みんな知らない人が私やはやてと一緒にいることに驚いているんだろうね。 「えっと、フェイトちゃん、はやてちゃん。隣にいるその子はだれなの?」 なのはが訓練場にいたみんなを代表して質問してきた。その当然の質問にはやてが答えた。 「えっ、もしかしてあなたが“閃光のマイア”と呼ばれている、マイア・ラクレイン三等空佐なのですか!?」 「…周りが勝手に呼んでいるあだ名ですけどその通りです、高町なのは隊長。それと私に敬語は使わないでください。なのは隊長に敬語を使われるのは気が引けますから、そこのフォワードメンバーの方々と同じ接し方をしていただくとありがたいので、お願いします」 「…じゃあお言葉に甘えさせてもらうね。そのかわりマイアも私の事を“隊長”じゃなくて、“さん”付けで呼んでくれるかな?」 「はい、ありがとうございます、なのはさん。それで訓練が終わったばかりで申し訳ないのですが、なのはさんにお願いがひとつあるのですが…」 「うん、何かな?」 次の彼女の発言に、その場にいたみんな(もうすでに内容を知っている私やはやては除いて)を再び驚愕させた。当然といえば当然なのだけどね…。 「私と模擬戦をお願いします」 なのはさんが私の申し出を受けてくれたので、私は模擬戦の準備をしています。当然地上本部の制服で臨むわけにはいかないので服を着替えています。けっこう制服代って高いものですからここで破けたりすると、何かの理由で地上本部に顔を出すときになると困ることになるのです。はぁ…、不便なものですね。 話がそれました。上はごく普通の黒いYシャツ、下は黒いジーンズに着替えました。先ほどまで訓練していましたフォワードメンバーの方々と同じ様なかっこをしています。着替えが一通り終わったところで、フェイト隊長…、いや、フェイトさんが通信を入れてきました。 「マイア、なのはの方は準備ができたみたいだけど、そっちの方は準備できたかな?」 「はい、今着替え終わりまして準備はほとんど終わりました」 「…ねえ、マイア。これからなのはと模擬戦をやるんだよね?」 「はい、そうですけど何か問題があるのですか?」 なにやらフェイトさんが複雑な顔をしています。私が何か困るようなことしたでしょうか?私が原因を心底わかっていないからでしょう、フェイトさんが何かを言うべきかどうか困っているようです。 「マイアはバリアジャケットを着用しないの?」 なるほど、そういうことですか。確かに魔導士がこういう模擬戦や実戦の時には身の安全のためにバリアジャケットを着用するのが当たり前ですね。だから私がこんな訓練に臨む様なかっこをしていることに戸惑っていたのですね。 「そういえばご存知なかったですよね。私はバリアジャケットはおろか、デバイスも使わないのです」 私の返答にフェイトさんは呆然としています。しかたないですよね、時空管理局に所属しているのにデバイスを使わないで戦っている魔導士なんて私ぐらいしかいないでしょうから。 「…えっと、マイア。それじゃどうやってなのはと戦うつもりのかな?」 フェイトさんが疑惑の目で私に問いかけてきました。当然ですよね。模擬戦とはいえデバイスもなくリミッターがかかっているとはいえ あれ、フェイトさんの後ろからなにか聞こえますね? 「ちょ、スバル、聞こえたらどうするのよ!まあ私も 「確かにな。よほど ……お三方とも聞こえないように話しているつもりなのでしょうが、私は耳が非常にいいですからしっかり聞こえてますよ…。 私の戦闘スタイルのことを知らないからそういう発言も仕方がないのかもしれませんが、さすがに頭にきますね…。 この模擬戦の後 …また話がそれました。とりあえずフェイトさんの疑問に答えることにします。 「私はデバイスの代わりに“これ”を使います」 そういって私は床においてあった一振りの鞘に入った剣を右手で持ち、モニター越しのフェイトさんに見せました。 「それは?」 「私の愛剣、“ヘリオス”です。もちろんこの剣にはデバイスのような高性能な機能などありませんが、私はこれを使ったクロスレンジ戦で戦います」 フェイトさんは顔を曇らせました。なのはさんは中〜長距離のロングレンジ戦を得意としている魔導士。それゆえ私のような近距離のクロスレンジ戦を仕掛ける者は苦手な相手なのは間違いないでしょう。しかしなのはさんは防御魔法にも秀でていて、たとえ近距離戦を仕掛けても柔軟に対応できることを知っているフェイトさんは、それでは勝てないのではと思っているのでしょう。 あっ、そろそろ行かないとなのはさんを待たせることになってしまうので、最後にフェイトさん、そしてその後ろにいらっしゃるなのはさんを除くフォワードの皆さんに笑顔でこう言って話を締めくくりました。 「まあその目で見てください。私が“閃光のマイア”とか“異端のエース”と呼ばれる由縁を…」 そして訓練場で待っているなのはさんのところへ向かいました。 現在訓練場で私となのはさんは向かい合って立っています。バリアジャケットを着ているなのはさんは穏やかな表情で立っているにも関わらず、何か威圧感を感じます。まさに“エースオブエース”の成す歴戦の風格といった感じですね。 「マイアのことは教導隊時代から噂を聞いたことあるけど、まさかこうして模擬戦をやることになるとは思わなかったね」 「そうですね。しかし私は正直言いましてうれしいですよ。“エースオブエース”のなのはさんとこうして手合わせできるのですから」 「そういわれると照れるね。でも私もそんな感じかな。“異端のエース”と呼ばれるマイアがどれほどの実力を持っているか、一度戦ってみたいとは思ったことあるからね」 「それは光栄です」 なのはさんが私と戦ってみたかったという言葉に、私は素直に感想を述べました。 「それじゃあ……始めるよ!」 「はい…、行きます!!」 なのはさんの模擬戦開始を宣言する掛け声に、私も1つ気合を入れて答えました。 こうして私VSなのはさん、“異端のエース”VS“エースオブエース”の模擬戦が幕を開けました。 To be continue… あとがき と、いうわけで「リリカルなのはStrikers With Saga」第1話です。 お待たせしましてすみません。…え?誰も待っていない?ソンナ…(゜A゜) 今回は登場人物視点に挑戦しました。(前半→フェイト、後半→マイア) 何の前ぶりもなく途中でキャラ視点が変わり、違和感を感じましたらすみません。初めての挑戦でうまくいかなかった感がありますので…(つДT;) ちなみに前回書き忘れましたが、この小説はクロスオーバーものです。と、いいましても何の作品とのクロスオーバーかは途中まで明らかにしない方針なのでご了承くださいm(_ _)m (1つはタイトルからわかる方もいると思いますが…) 今回オリキャラを登場させました。このオリキャラ、マイア・ラクレインに関する人物設定は後日アップします。 今回の第1話の感想や指摘があれば、是非よろしくお願いします。ヽ(´∀`)ノ |