第十九話「みんなで手を取り合えば」






 夜。まだ深夜というには早い時分、海鳴市のとある場所で、とてもとても不思議な光景が見られた。
 対峙するは、竜と人の群れ。
 一条射す月の光を境に、両方は相手側の出方を窺う。
 一方、獰猛な眼光と鋭利な爪、ギラつく牙。背にした両翼を広げれば、十数人もの成人男性を包み込めるだけの影。尾は逞しく、猛々しく、一振りで建築物を破壊せんと蠢く。一般人は当たり前として、精神を鍛え上げられた格闘家や軍人ですら、この竜を前にして正常な精神を保てる者は居ない。
 一方、七人から成る人の群れ。先頭には金糸の髪と赤いリボンを風に靡かせ、強気な瞳を持つ少女。すぐ傍、右隣りにはリボンの少女に似た、しかし確かに違う金色の髪を持った黒衣の少女。二人の背後に隠れる様に立つ、茶色い髪を左右で束ねた少女。さらにその後方、剣を携えた麗人、鉄鎚を持った赤毛の少女、屈強な肉体を持つ褐色に近い肌の男性、普段であれば温和だろう表情を強気に装飾した顔の女性。
「さって、はやての家を散々に壊してくれたお礼はしないとね」
 人の群れの先頭に立つ少女、アリサ・ローグウェルがそう言い放った。余りにも自信満々に、まるで竜など眼中にないと言わんばかりの強気な、勝利以外の結果を見ていない言葉。
 その異質な言葉に不安を覚えたのは隣にいるフェイト。アリサという、これまで戦いに関わる事の無かった友達の戦いへの介入に戸惑い、止めるべきだと思い、けれど何故か止めるという事が出来ない。フェイトの背後にいるなのはも、シグナムもヴィータもザフィーラもシャマルも、同じだった。
「アリサちゃん……」
 ようやっと、という感じでなのはが口にする。
「どしたの、なのは?」
「危険な事はやめて。怪我しちゃうよ」
「んー、心配してくれるのは嬉しいんだけどね」
 なのはの気遣いを、アリサは苦笑気味に蹴った。
「私、知ったから。みんなが戦ってる事。だから、私はもうじっとしていられないの」
 それだけ言うと、アリサ・ローグウェルは一歩前に踏み出す。もう待ち切れんとばかりに喉を鳴らす竜目掛けて進む。
「みんなもう何回も戦って疲れてるんでしょ? 休んでて。ここは私達だけでなんとかするからさ」
「でも」
 フェイトが彼女の言葉に異議を唱える。けれど、彼女は優しい瞳でそれを断った。
「大丈夫。私は、私達は負けないから」
 彼女は、外見的には一人としか映らないが、その実は二人である。魔力構成体という、言わば魔力そのものが意思を持った存在であるローグを、アリサが内に取り込み融合した姿。
「之無限の言葉、其れ無限の形、此処に同位する武器と成れ」
 唱えるは詠唱。アリサ・ローグウェルとして彼女が扱える、唯一の魔法。
 短い魔法詠唱を完成させ、その次に吐き出した言葉を体現した魔法。
「長い剣! 腕より足より背丈より! 屋根まで届け、長い剣!!」
 これが想像無形武装創造魔法。
「ワード・オブ・アームズ!!」
 彼女の口から吐き出された言葉を忠実に再現した剣は、その言葉の通りに長かった。剣は地球でいうと中世の時代等に歩兵や騎兵が使用するものだ。人間が扱う武器であるならば、必然的にその大きさには制限が付く。人間が振り回せる長さと重さを超える剣は、剣として成立しない。だから、剣とは一個人が片手ないしは両手で持ち上げて振り回せるものが全てだと言い切っても過言では無いだろう。
 だが、このワード・オブ・アームズはそんな常識は凌駕した代物だった。アリサ・ローグウェルが握る剣の柄は彼女が両手を並べて握っても少し余裕があるくらいの長さ。装飾も何も無く、柄から伸びる刃は数メートル程にも成る。2メートル超、いや、3メートル超の超長剣。それでいて刃は驚く程薄く細い。正面から突きつけられたならば、まるでカッターの刃にも見える薄さ、それでいて刃の幅は一般的な家庭用テレビのリモコンのおよそ半分。
「またキワモノを創ったもんだな」
「いいじゃないの。こっちの方が速く振れそうじゃない?」
「イメージ優先か。折れなきゃいいけどな」
 自分達で創ったというのに、アリサもローグもその剣をよく理解していない様子だ。もっともな話ではある。なにせ融合そのものがまだ二度目、必然的にこの魔法の使用も二度目なのだから。ワード・オブ・アームズを用いて武装を創造するという事にまだ理解が及ばないというのも無理はない。
 さて、どう攻めようか? アリサがそう思考するも、答えが出る事は無かった。
 竜が、シャドウコモンが、行動を開始したからだ。
「アアアアアアァァァァァァァァッッッ!!」
 竜の巨体が猛る咆哮をまき散らし、地を蹴って跳躍する。強く一度、地面が振動する。大雑把かつ適当に予想したって、数百キロはくだらない体重を持つ巨体が足の力だけで跳んだのだ。その力は凄まじく、又踏み切る際に地面に走る衝撃も申し分無く強力だ。戦うという事に不慣れなアリサは揺れる足場に戸惑い、一瞬だけ硬直する。勿論、戦いが始まったのにその場に留まっていいなんて思っちゃいないが、体が反応してくれないのだ。
 気付けば、シャドウコモンの巨体が彼女の頭上にある。このまま移動せず立ち尽くせば、待っているのは壮絶な光景。
 アリサは、何処へでもいいから逃げようと思考――「ぁ」――しようとして停止した。
 怖いのだ。初実戦が、並の管理局員では歯が立たぬ程の強力な竜。しかもそいつが敵意を自分に真っ直ぐ向けて来ているのだ。怖くない訳がない。戦闘が始まる前は、まだシャドウコモンの敵意が全て彼女に向けられていなかっただけだ。
 このまま、後数秒も待てば彼女は死んでしまう。刹那、アリサの意思を無視してローグがその肉体を動かした。

 Vanishing step――

 まさに間一髪というタイミングで加速魔法を使用し、逃れる。シャドウコモンが地面に降り立ち、その超重の衝撃が地面を走り、彼女だけでなくフェイト達の足元さえも危うくする。
 一連の流れを見て、フェイトやシグナム達が助太刀に入ろうと動く。各々がデバイスを構え、あるいは魔法を行使し、一斉にシャドウコモンへ攻撃を仕掛けようとする。
「待って!」
 だが、アリサの声がそれを制する。
「お願い。やらせて」
 ギュッと、剣を握り締めてそう呟く。
 危なかった。確かに今のは、危なかった。アリサの中にローグという意思が存在しなければ、確実に死んでいた。
 だが、だからこそ、アリサは剣を握り締めて戦う意志に火を付けた。
 これが、これが今まで友達が、大好きな人が見て来た光景なのだ。あるいは、これ以上のものも見て来たのかも知れない。なればこそ、これを乗り越えられぬ様では駄目なのだ。これを乗り越えねば、魔導師としてのなのはの、フェイトの隣に戦友として立つ事は叶わない。
 何よりも、今自分と一つになっている者に、この先ずっとこんなのと戦わせる事になる。一人で、だ。あんな化け物相手に一人で立ち向かうんだ。それは怖くて、辛くて、逃げだしたくなる、きっとそんな世界だ。アリサは嫌だと思った。一方的に守られるのは嫌だと。だってそれじゃあ、まるで自分が荷物みたいじゃないか。だからアリサは望んだ。ローグと共に、戦う事を。
「頼むわよ」
 アリサは握り締める剣を呼んだ。背の小さな自分では届かない屋根の上、そこまで届く剣。そう、この剣は届く剣なのだ。
「アアアアアアアアアアアアア!!」
 シャドウコモンが彼女目掛けて突撃を開始する。跳躍しての圧殺攻撃では捉えられぬと踏んだのだろう。直線的な、しかし先の攻撃以上の速度を持った突進。躊躇えば即座に激突し、彼女の体はバラバラになってしまう。
 食らえば倒れる攻撃なら、食らわなければいい。そう判断したアリサは剣を正眼に構える。剣の技術など無い、テレビで見た映像をうろ覚えで模倣したものだ。拙い構えで、獰猛な突進を迎え撃つ。
 一歩、一歩と地面を揺らせ迫り来る竜。逃げだしそうになる自分を自分で叱責し、踏み込む。
「ローグ」
 アリサが具体的な事を何一つ告げずにローグへと一手を託す。
「ああ。お前は思いっきり振り切れ」
 別に言われなくても問題ない。今二人は一人だから、相手の心の内くらい、簡単に想像出来る。だからローグはアリサを止めず、魔法を行使する事で応援する。

 Vanishing step――

 加速魔法を用いての一歩。シャドウコモンの激走以上の超高速の実現、その中でアリサは視認する。標的は関節。腕と肩の付け根、鍛えられぬ部位。
「やあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 アリサ・ローグウェルが加速魔法により疾走、彼女は周囲の誰もが認識しない内にシャドウコモンへと肉薄する。真正面からの接近、衝突する直前。一歩、右足を前方へと強引に踏み込ませる。痛い。強力な加速、それによって踏み込む右足へと伝わる衝撃はアリサの意思に痛みを容易く捻じ込んだ。剣を振る際の軸となる筈の箇所が悲鳴を上げて、無意識に右足を崩して逃げてしまいそうになる。その無意識を、アリサは捩じ伏せた。
「っあぁぁぁ!」
 眼前にあるのは、竜の体躯。馬鹿デカイ肉体のどの部分かなんて考える余裕は既に無く、アリサはただがむしゃらに強く握り締めた超長剣を振り下ろす。

 Speed slash――

 魔導師と竜が、すれ違う。圧倒的に加速していたアリサとローグの思考、肉体はゆっくりと減速し、やがて周囲の流れと帳尻を合わせる。加速状態から減速し、周囲と等速になる瞬間に一瞬だけ頭の中にノイズが走る。速度のギャップが起こす、ちょっとした立ち眩みの様なもの。
 分かっている。今すぐに振り返って、シャドウコモンがどうなったのかを確かめねばならないのは分かっている。だがアリサの右足は鈍い痛みを訴え、そして張り詰めていた緊張の糸は擦り切れる寸前まで摩耗していた。
 立つは片腕と片翼を失った竜。魔導師が握るは刃こぼれ一つ無く月光に輝く剣。やがて落ちるは、竜の巨体。
 アリサ・ローグウェルの背後で、重い物を落とした様な音がした。まるで古くなった建築物を重機が取り壊す音。バラバラと、ガラガラと、ずしりと重い音がする。
 ようやく、息を一つ吐く。右足の鈍い痛みはもう感じず、緊張の糸は再び張られた。
 振り返る。
「やっ……たの?」
 彼女の視線の先には、生物はいなかった。あるのはただの破片。シャドウコモンという竜を形作っていた、肉の塊はもう無い。
「なんとかなったみたいだな。けど」
「うん」
 なんでだろう。アリサ・ローグウェルは確かに戦いに勝利した。お互いの命が賭けられた、本気の戦いだった。この結果に悔いは無く、文句も無い。でも、嫌だ。
「殺しちゃったんだよね?」
「しょうがないさ。でないとこっちが死んでた」
「うん。でも……」
「そうだな。なーんか、嫌な気分だ」
 どうにも沈んでしまう気分の、そんな彼女の頬を一陣の風が撫でた。
 もう夜も遅く。子供は帰って寝た方が良いと、夜風が言っていた。






 シャドウコモンとの戦い。計らずもなのは達とヴォルケンリッターが一応の共同戦線のようなものを張る形になった次の日。
「なぁなぁ、お菓子どれくらいいるかな?」
「分かんないけど、たくさんあった方がいいんじゃないかな? 人数いるから食べると思うよ」
「そうね。なのはってあれで結構大食いだし」
 八神家の台所でははやてとすずかとアリサがお茶とお菓子の準備をしている。
「ヴィータちゃん、そのぬいぐるみ見せてもらってもいい?」
「…………丁寧に扱えよ」
「大丈夫だよ」
 居間の一角ではなのはとヴィータがぎこちないながらも会話をしていた。
「テスタロッサ、以前の戦いでの傷はもういいのか?」
「ええ。元より怪我そのものは軽かったので」
 フェイトとシグナムは、極自然に会話をしている。
「あんたも使い魔なんだねー」
「使い魔では無い。守護獣だ」
 これまで無限書庫でユーノの手伝いをしていたアルフもやって来ていて、ザフィーラと並んでなにやら話している。
「サイ君もキョウちゃんも、久しぶりねー」
「体感だと一年も経ってないよな」
「実際にはどれくらい? 数百年単位かな?」
 シャマルはサイとキョウと和やかに会話をしている。ヴォルケンリッターとこの二人は旧知の仲らしい。
「…………」
 そんな風に、いっそ和気あいあいと言うのに似つかわしい雰囲気を醸し出す一同。あんまりにも不自然な光景を、ユーノだけが離れた位置で頭を悩ませながら見ていた。
 八神の家には、これまでで最大の混沌とした風景が広がっていた。
「ねぇ」
 ユーノが誰にともなく喋り掛けるが、特定の人物に向けられた訳では無い言葉に気付く者は居ない。
「ねぇ」
 やや声量を大きくするも、これだけの人数が一度にバラバラの事について喋っている為、声は虚しくかき消えた。
「ねぇ!」
 やがて、もう我慢出来ないと言わんばかりにユーノが大きな声を挙げた。
「ど、どうしたのユーノ君」
 いきなりなんの脈絡も無しに大声を挙げるものだから、周囲に居る者は総じて眼を丸くしていた。その中で唯一なのはがユーノに対してどうしたのかと問う。
 ユーノはなんだか疲れた顔をして、少し息を吐いてから答えた。
「なんでみんなそんなに仲が良いの?」
「…………変かな?」
 フェイトが疑問の声を挙げる。
「変だよ! だって彼女達ヴォルケンリッターはなのは達を攻撃したんだよ! なんで普通に会話してるの!?」
「それはそうなんだけど。なんて言えばいいのかな……ええと、私達とヴィータちゃん達はお友達になるんだよ。これからお友達になる相手とケンカしてたら変でしょ? だから普通にお喋りしてるの」
「友達って、どうして話がそんなところまで飛躍してるのさ。この前までは危険な相手だって聞いていたのに」
 なのはの言葉に、ユーノは疑問を覚えずにはいられない。
 なのはとヴォルケンリッターとの出会いは、一方的な攻撃だった。
 理由も何も告げず、問答無用でなのはを攻撃したヴィータ。なのはを助けるべく駆け付けたユーノとフェイトを襲ったシグナムとシャマル。
 そしてその一度だけで無く、ヴォルケンリッターは再びなのはとフェイトを襲った。しかもその時には戦闘で敗れ、魔力蒐集も受けているという。
 たった二回。されど確かな二回。彼女達は敵対しているのだ。
 だというのに、どうして敵対していた筈の人達は今こうして仲良くしているのだろうか? 今この場に、地球の海鳴市にある八神はやてという少女の自宅にヴォルケンリッターが全員集まっているという事実は、通常であれば管理局に報告してしかるべき事態なのだ。罪も無い数々の魔導師を襲って魔力蒐集を行って来た彼女達の行いは、決して認められるものでは無い。けれどなのはもフェイトも、どうしてかアリサやすずかやアルフまで仲良くしている始末。これはもう、理解し難い状況ってレベルじゃあ無い。
「ユーノ・スクライア殿。よろしいか?」
 ユーノの説得に苦戦するなのはに代わり、シグナムが声を挙げた。
 まさかヴォルケンリッターの側から発言があるとは思わず、ユーノは戸惑う。だが、なのはに聞いて納得出来ないのならば他に説明出来そうなのはフェイトか、でなければ今声を挙げたシグナムだろうとユーノは思った。なので、まだシグナムに対してどう接すればいいのか分からぬ彼は無言で頷き、先を促した。
「ありがたい」
 シグナムはユーノの反応を受け、真剣な眼差しで彼を見据える。
「実は、今日集まってもらったのには相応の理由がある。スクライア殿が仰る通り、我等のした事は非道だ。許される事では無い。だが、だからこそ、我等はこの件に関わった者達に集まって貰った。今日この場で謝罪の意を示し、協力を申し出たい」
「協力ですか。もう少し具体的に話していただけませんか」
「無論だ。事の始まり、我等の魔力蒐集とは、全てが主はやての為に行われた事」
 シグナムの言葉に、ユーノがはやての姿を見る。台所ですずかとアリサと一緒に楽しそうにお喋りしながらお茶やお菓子を用意する様子は、どこからどう見ても普通の少女のものだった。彼女が座る車椅子以外は。
 ユーノが視線をはやてからシグナムに戻した事を確認して、シグナムは続ける。
「見ての通り、主は足を患っている。あれは放って置けばやがて主の命をも奪う。それは全て闇の書が原因なのだ」
「闇の書が彼女に影響を与えているという事ですね」
「その通り。詳細な説明は長くなるので省かせて貰うが、主はページの埋められぬ闇の書の影響で、肉体的魔力的に負担を抱え続けて来た。その負担を取り除くには闇の書を完成させなければならない」
「つまり、闇の書を完成させる手段が魔力蒐集だったと」
 ユーノの言葉を、シグナムは頷いて肯定する。
「しかし、この方法には欠点がある。闇の書が完成した時、万一に主が管制プログラムと防衛プログラムの把握と操作に失敗した場合、闇の書は暴走してしまい、主は死ぬ恐れがある」
「そんな危険な方法を取ろうとしていたんですか。彼女は魔法については素人なんでしょ? だったら、失敗する確率はかなり高い筈なのに」
「それでも、それ以外に方法が無かったのだ。だから我等は危険で許されない行為だとしても、主を守る為に魔力蒐集を繰り返した。魔力蒐集は行わないという、主との約束を破って」
 シグナムの言葉に、ユーノは苦い顔をする。大切な人を助けたいというのは分かる。だからといって誰かを傷付けていいものでは無い事も正しい。これは、どちらを選ぶにしても必ず辛い事が待っている選択。世界中探せば呆れるほどに出て来る類の選択だけど、いざ自分の眼の前に出て来ると他人事みたいに考えられない、そんな選択。
 シグナムの、ヴォルケンリッターの選択が正しいかどうかなんて誰にも分からず、だからこそユーノは否定出来ない。例え自分の大切な人が傷つけられていたとしても、彼女達のはやてを助けたいという想いは否定出来ない。
「これまでの状況ならば、我等はこのまま魔力蒐集を続ける他は無かった。だが、1000年前の約束は我等を見放さなかった」
「1000年前の……約束?」
「そう。1000年前、闇の書の本来の姿である夜天の書の最初の主が居た。我等が彼女に仕えていた時に、月天王の守護騎士達と交わした約束だ」
「夜天の書……最初の? しかも月天王。名前からすると月天物語、ローグの持つ魔導書の……」
「いきなり話が飛躍して済まない。簡単にまとめよう」
「お願いします」
「闇の書はかつて夜天の書と呼ばれていて、我等はその夜天の書の持ち主、夜天の王に仕えていた。そして夜天の王の隣には月天王が居た。スクライア殿の察しの通り、ローグウェルが持つ月天物語を持つ者だ。そしてその月天王の守護騎士と、我等は約束を交わした」
「守護騎士ですか。それは、あなた達の様な?」
「いいや、我等の様なプログラム生命体とは違う。月天の守護騎士達は、死滅した人間の肉体を魔力を用いて強制的に再構成し、創られた」
 ユーノはシグナムの言葉に頷きも返せない。死滅した肉体を魔力を用いて強制的に再構成? そんな事が出来れば、この世に事故死や殺人など起こりえなくなる。肉体の再構成、形だけではなくその機能までも創らなければ意味を成さないそれ。
 まるでお伽話の様な、そんな言葉をユーノは信じられない。
「呼んだー?」
「うっわぁ!」
 何時の間に近付いたのだろうか、キョウがユーノとシグナムのすぐ傍まで来ていた。驚き、声を挙げるユーノに構いもせず、キョウは台所からくすねて来たクッキーをちまちまと齧る。
「君は確かキョウ、だっけ?」
「そーそー、キョウだよ。君はユーノだよね」
「うん。悪いけど、今大事な話をしているんだ。お菓子を食べるならもうちょっと離れて……」
「ああ、いや。スクライア殿、彼女は当事者だ」
「え?」
「彼女こそが初代月天王が生み出した守護騎士。魔封の騎士、キョウ」
「どーもー」
 ちまちまとクッキーを齧りつつ、片手を敬礼の様におでこに持って行き、にこやかに笑顔。とても普通の少女に見える、しかし普通では済まない存在。
「でもって、俺がもう一人の守護騎士。一応、破壊の騎士って呼ばれてる」
 キョウの背後から顔を出したのはサイ。こちらもやはり台所からくすねて来たクッキーを齧りつつ、なんでもない事みたいに言ってのけた。
「サイとキョウと我等は1000年の昔に約束をした。夜天と月天、どちらかの主が困難に苛まれれば、共に戦おうと。二人と、そして今代の月天王に協力をしてもらえれば、主が抱えている問題は解決する」
「今代の月天王って、もしかして……」
「スクライア殿の予想通りだろう。ローグウェル・バニングス、主はやての友人だ」
「ああ、やっぱり」
 ユーノはそう言って右手で額を叩く様に覆った。なんだろう、この都合の良過ぎる展開は。八神はやてという少女はローグの友人で、そしてそのはやてを助ける事が出来るのもまたローグで。しかも夜天と月天の守護騎士同士は過去に困った時は助け合おうという約束までしていて、それが叶えば魔力蒐集に必要性はなくなる。
 誰だろう、こんなご都合主義を仕組んでくれたのは?
 確かにこの展開ならば、ヴォルケンリッターはもう魔力蒐集を行わない。故に、なのはやフェイトはこれ以上敵対する必要性を持たない。元よりなのはは戦いを嫌っていたし、フェイトだって好んじゃいない。
「サイとキョウ、そしてローグウェルに協力してもらえる事は先日の内に確認した。故に我等はここに謝罪と、そして事が済んだ後には犯した罪を償う約束をすべく、今日この場に集まっていただいたのだ」
 ああ、納得した。
 はやてを助ける為に動いていた守護騎士達は、はやてを助ける事の出来るより確実な手段を見つけたから、これまでの手段を捨ててこうしてここにいる。しかし、それでは。
「失礼ですが、一ついいですか?」
「ああ」
「それは、余りに勝手じゃないですか?」
 それでは余りにも、酷い。
 ここでヴォルケンリッターが魔力蒐集という手段を捨て、別の道に走ればどうなる? 今まで蒐集されて来た者全ては、被害者達が受けた傷は何の礎ともなる事無く、誰かの助けになる事無く、吐いて捨てられるのだ。
「承知している。その事については謝罪の言葉も考え付かない。真に、我等が急いた故の失態だ」
 ヴォルケンリッターの将は真っ直ぐな瞳でユーノを見据えてそう言った。瞳の中には開き直りや諦めの考えは垣間見れず、そこにははっきりとした意志があった。
「我等は、この先どれ程の時を掛けようとも罪を償う。だがその前に、この件だけは解決せねばならない」
 沈黙が少しの間訪れた。
 一分も経たぬ後、ユーノが口を開く。
「あなた達がどういう考えで行動しているのか、会って間もない僕には分かりません。けど、なんの罪も無いあのはやてっていう子を見捨てる事は正しく無いって、それだけははっきりと言えます。ですから、あなた達が罪を償うというのであれば、僕は何も言いません」
「感謝する。ユーノ・スクライア殿」
「あ、それと、その『殿』っていうのはやめて頂けませんか? 余りそういった呼ばれ方は慣れていませんし」
「では、どの様に?」
「呼び捨てで。ユーノでいいですよ」
「それでは、ユーノ。感謝する」






 ユーノとシグナムの会話が終わって程無く、お茶とお菓子の準備も終わり、後は最後の一人を待つだけの状態となっている。
 最後の一人とは、ちょっと連れて来ないといけない人がいると言って何処かへ消えてしまったローグである。
 彼の言う連れて来ないといけない人とは誰なのか、それはこの場に居る誰も知らない。なのはもアリサもすずかも、連れて来なければいけない人の見当は付かず、はやてやヴォルケンリッターの面々にとっても当然分からない。これまで会う機会の余りなかったユーノやアルフまで居るというのに、一体誰が足りないというのか。
 一応今回の一件に関係がある人物でこの場に居ないのは闇の書事件を担当しているアースラの面々なのだが、まさか闇の書事件の中心人物の家に連れて来る訳にはいかないだろう。となると誰か、その人物にフェイトだけは一応の心当たりがあった。
 対シャドウコモンの際に協力してくれた人物。恐らくはその人なのではないかと、フェイトは思っていた。そして、その予想は大当たりだった。
「ほら、行くぞ」
「っだーかーら、離してよ!」
「往生際が悪いぞ。ここまで来たら覚悟を決めろ」
「面と向って会えないでしょ」
「もう一回会ってるようなもんだろ」
「あの時は戦闘中だったじゃない。ノーカンよ」
「お前名乗ってただろ。それでアウトだ」
「くぁ、しまった」
 なんとも騒がしい声が玄関口から聞こえて来た。扉は開けられていないのに、声はまるで空洞を通って来ているかの様にクリアに聞こえた。結構な大声に、近所迷惑にならぬ内にとはやてが向かう。
「あたしが出るからはやては休んでろよ」
 しかし、車椅子で時間のかかるはやてに代わって、ヴィータが名乗り出た。それでは、とはやてはヴィータに任せる。
 ガチャリと金属のドアノブが回る音がして扉が開く、その先に居たのは紛れも無く男の子と女の子。男の子は当然ローグであり、ヴィータにとってもそろそろ見慣れた感がある顔があった。しかし、その隣で忙しなく文句を捲し立てて逃げようとしている女の子、金髪の少女の顔に違和感を覚えた。
 ヴィータが違和感を覚えたのは少女の顔に変な落書きがあったとか、ほっぺに渦巻き模様があったとか、個性的なアクセサリを付けていたとかそういった理由では無く、妙な感覚を覚えたからだ。まるで、同じ顔の誰かをついさっきまで目にしていた様な。
「おい、お前ら。近所迷惑になるから早く入れよ」
 勘違いだろう、とヴィータは二人に声をかけた。すると二人はすぐにじゃれあいを止めてヴィータの方を見た。
「ああ、ごめんごめん。こいつがここまで来といていきなり帰るとか言い出すからさ」
「元よりあなたが無理矢理引っ張って来たんじゃ無い」
 ここでもヴィータは驚いた。
 聞いた事のある声だ。似てるなんてもんじゃない、完璧に同じといってもいいレベル。よくよく顔を見れば、それは殊更にある人物を思い浮かべさせた。
 フェイト・テスタロッサ。声も、顔も、身長も、そっくりだ。声はフェイトのものよりも大きく、感情が多分に込められている印象を受けた。顔と身長に至っては、まるでおもちゃ屋に並ぶドールみたいにそっくり。いや、同じ。少女の髪型はポニーテールだが、これを解いてから左右に分けて結い直せば、恐らくは見分けがつかない程に同じ。
「ヴィータ、どうした?」
「んあ、なんでもねーよ。早く上がれよ」
「ああ、そうする」
「私は帰るー」
「ええい、お前を形作るのにどれだけ体力と魔力を使ったと思ってるんだ。いいから来い。でないと晩飯は渡さねー」
「何よそれ! この鬼、悪魔ー!」
 尚も騒がしい二人の相手に疲れ、フェイトと少女が同じ容姿をしている事を気にかけ、ヴィータは一人で先に全員が集まるリビングへと戻った。
 慌てた様子でローグがそれに続き、少女も引っ張られる形で付いて来た。



「で、こいつが俺の連れて来ないといけないって言ってたやつ」
「エーティーよ」
 ローグに紹介され、しぶしぶ名乗るエーティー。その顔を見て、声を聞いて、その場にいる誰もが固まっていた。
「エーティーちゃんって……フェイトちゃんにそっくり」
 なのはが一言呟く。
 その呟きはこの場に居るほとんど全ての人物の内心を代弁していた。
 ヴィータが初めて見た時に思った通り、身長も容姿も同一。なのは達からすればフェイトが二人に分身した様な、フェイトからすれば鏡を見ている様な感覚。そうやって場に居るほぼ全員が驚きを隠せないでいる中、一人だけ例外が居た。
 アルフである。彼女はこの場に立つ以前のエーティーを知っている。事故死したプレシアになり済まし、ジュエルシードを集め、そしてプレシアを蘇らせようとした。しかし最後には自分の行動を否と考え、ローグとなのはへフェイトの事を託して虚数空間へと自ら落ちた筈の人物。
 エーティーの正体とは、アリシア・テスタロサである事をアルフは知っている。
 この事実を知る者はP・T事件に関わった者の中でも僅かに二人。エーティーの隣に居るローグと、フェイトの横に居るアルフだけである。ローグウェル・バニングスという魔導師の存在を管理局は知らない。そしてエーティーの存在も。つまり、両方の事実を知る者は当事者達を除けばアルフ一人なのだ。
「ローグ、ちょっといいかい?」
 そのアルフが口を開いた。
「なに?」
「その子は……」
 アルフは躊躇う。ここで、"その子は本当にエーティーなのかい?"と問い掛ければ、アルフが何故彼女を知っているのかという疑問が生まれてしまう。かといって、フェイトの前で彼女が本当はアリシアだ、などと言える筈も無い。これはあくまでもフェイトとアリシアの問題であって、アルフが如何にフェイトの使い魔といえどおいそれと干渉出来る問題では無い。
 事は、自分自身が何者なのかとかそういった小難しい事に飛んでしまうからだ。ただでさえ闇の書事件で大変な今、小難しい考え事を無理に増やす必要性は無い。
「私はエーティー。それでいいでしょ?」
 エーティーがアルフを真っ直ぐに見詰めて言った。
「…………ああ、そうだね。いやー、なんかあんまりにもフェイトに似てるもんで驚いちまったよ!」
 アルフがおどけた調子で場を誤魔化す。それにつられて各々が、私もそう思った、とか、あれは似過ぎ、などと言葉を並べている。そんな中、フェイトだけがエーティーへと声をかけて来た。
「以前、助けてもらいましたよね。あの時は、ありがとうございます」
 フェイトが言っているのは、シャドウコモンとの戦いの時の事である。
「別に気にしなくていいわよ。私はこの非道なご主人様に従っただけだからね」
「非道ってなんだよ。俺はそんな事を言われる覚えはないんだけど」
「十分非道よ。寝てたのを起こして引っ張り出して武器持たせて、いきなりあんな凶暴なのを撃てとか。無茶振りというかなんというか」
「お前なら出来るって分かってたからだよ。実際に出来たんだし、無茶でもなんでも無かっただろ」
「出来る出来ないの問題じゃなくって、要求そのものが無茶なのよ。あんた、私を女の子だと思ってないんじゃないの?」
「女の子かどうかって、お前を男だと思うやつはいないだろ。それ、何か関係あるのか?」
「こいつ……」
 何時の間にか完全に会話から外されてしまったフェイトは二人の様子を眺めるしかない。幾つか気になる言葉も出て来ているのだが、それは何も今すぐに聞かねばならない事でも無いだろう。
 そうやってフェイトが自分と同じ顔をした少女を見ていると、ふと誰かが近付いて来た気配がした。誰だろう、と気配のした方へ顔を向ければ、なんとも不機嫌満載な表情をしたアリサが居た。
「さて、ローグ。説明して貰いましょうか? その子が誰なのかと、今の"ご主人様"発言について」
 殺意の波動に目覚めたアリサ、これで幾度目かのご登場です。



「つまり、その子はジュエルシードとかっていう事件に巻き込まれた魔導師な訳ね」
「ま、そんなとこね。ジュエルシードとか諸々が原因で私の肉体は一度無くなって、最近になってローグに疑似肉体を構成して貰った。要は、私は魔力構成体として生き返ったって事」
「その魔力構成体ってのがいまいち理解出来ないのよね、私」
「安心しろ。俺も分かって無い」
「いや、ローグは分かって置こうよ。自分の事なんだし」
 アリサの一言を切っ掛けに、エーティーがどういう人物で、どういう経緯でここに来たのかが説明された。
 肉体を失ったエーティーはローグに魔力構成体として再び生きる機会を貰った。だから恩返しとして闇の書事件解決を手伝う。これが、表向きの理由。
 一回自分から死ぬ事を選んで虚数空間に自ら飛び込んだアリシアだったけど、実は彼女の全データはローグと同じ様に月天物語にセーブされていた。ローグはそれを、正式な月天王となった時に知った。ローグはアリシアに尋ねた、まだやりたい事はあるか? と。アリシアは答えた、フェイトが大変な目にあっているから手伝ってあげたい、と。
 ローグは月天王としてその願いを聞き入れ、アリシアを自分の守護騎士という扱いで疑似肉体を構成し、アリシア・テスタロッサの全人格データをロードした。そして彼女は、闇の書事件とフェイトが持つイヴィルアイという問題を解決すべく、現われた。アリシアだと知られぬ様に、名をエーティーとして。これが本当の理由。
「さってと、それじゃそろそろいいかな?」
 キョウが話の切れ目を見て声を挙げた。
 次は自分達の事を説明する番だと。
「俺達の事も説明しとかないといけないし」
 サイがキョウに続いて口にした。
 そして世間話でもする気軽さで話を始めた。
「シグナムとかはもう知ってるだろうけど、俺達はだいたい1000年くらい前に居た初代の月天王に死体の状態から蘇らせて貰った守護騎士。古代ベルカ戦争末期、初代月天王の死亡と共に月天物語の中に格納されていた存在だ」
「でもって、私達は最近になってイリスの手で月天物語から呼び出された。ローグウェル・バニングス、次代の月天王候補であるあなたに試練を課す為に」
 二人が語る言葉は、少なからず場の者を驚かせた。すずかにとっては以前に一度聞いた話なのだが、なのはやフェイト、特にユーノからすればとんどもない衝撃的な話だ。
「そしてローグは俺達の試練を乗り越えて月天王になった。だから、俺達はもうローグの守護騎士だ」
 姉弟についての説明はこれで終わりらしい。まぁ、大体の筋は理解出来た。この二人がローグばかり狙う理由は一応分かったし、ローグが月天王と成った後はすずかを通じて味方となった理由も。しかし、決定的な不足が一つ。
「一つ質問いいか」
「はぁい。どーぞ、ご主人様」
 ローグの言葉に対し、キョウが体をくねくねと揺らしながら語尾にハートマークを付けそうな勢いで言った。
 不気味だったので有志が集い三人くらいで頭を叩いて止めた。
「イリスって何者なんだ? 最初に俺に月天物語を渡したのはあいつ、俺を魔力構成体にしたのもあいつ、サイとキョウを呼び出したのもあいつ。俺には、あいつが月天王に思えるんだけど」
「ああ、それなら簡単よ。イリスはね、管理者代行なの」
「代行? つまり、管理者不在時の代わりか」
「そ。イリスは1000年前に月天王の護衛として付き従った、人間の魔導師なの。それが、戦争中に大怪我を負って、その肉体に無限の心臓を埋め込まれて、以降は管理者代行って立場になったんだ」
 キョウに続いてサイが補足を加えた。"無限の心臓"というのは今で言うロストロギアで、なんでも固体内部から魔力を自己生成して所有者に供給する、所謂永久機関という物である事。そしてイリス自身には、魔力を定期的に供給すれば決して朽ちず腐らず病にも侵されない肉体と成る魔法が施されている事。イリスの肉体を維持する魔法とは、月天物語を用いて使用されている事を。
「えっと、じゃあもしかして、イリスさんって……」
「1000年前から今まで、ずーっと生きてるわ。何百年単位の長い眠りとかしないで、人間と同じ生活サイクルでね」
 あんまりにも規模の大きな話に、一部の者はどう反応していいのか分からない。常軌を逸した語りに、魔導師達は皆揃って息を呑む。魔法に関する知識があればある程に、どれだけ途方も無い事なのか理解出来るからだ。
 だから、なのだろうか。今まで魔法とかいったものに関わった事の無かったはやてが、極自然に言葉を返せたのは。
「しっかし、初代の月天王さんは酷い事するなぁ。そんな1000年も一人で生きなあかん様にするなんて」
「仕方なかったんだよ。それくらいしないと死んじゃうくらいに当時のイリスは大きな怪我を負っていたし。それに、ちゃんと本人に了承は取ってたから」
 こうやって、今まで知らなかった事のほとんどは明かされた。
 サイとキョウの正体。イリスの正体。
「ねぇ、ちょっといいかな?」
 すずかがおずおずといった感じで手を挙げる。ダメだなんて誰も言う筈無く、すずかは今の解説を聞いての疑問を口にした。
「イリスさんて人は、ローグ君が月天王っていうのになる為に、わざと大変な事を仕掛けていたんだよね」
「そうよ。それが管理者代行の役目だからね」
「じゃあ、なんでイリスさんはずっと同じ様な事を続けているの?」
 すずかの疑問とは至極単純なものだった。
 イリスの目的がローグウェル・バニングスを月天王とする為のものであれば、サイとキョウを打ち破った時にその目的は完遂されている。なのに、イリスはシャドウコモンという竜を呼び、攻撃を仕掛けて来た。それは目的とは合致しない行為だ。
「あー、それね。ぶっちゃけ分かんないわ」
「そんな適当な」
「しょうがないじゃないの。イリスってばローグが王になった後はすっぱりと行方を暗ましちゃってさ。しかもようやく出て来たと思ったら、なんでか攻撃してくるし。何かあった時の為にすーちゃんと契約しといて良かったけど、本当はイリスを相手にするつもりじゃなかったんだからね」
 どうやら、先日のシャドウコモンによる攻撃はサイとキョウからしても予想外の事だったらしい。そうなると、以前としてイリスの行動目的は不明と言える。
「ま、いいじゃない。分かんない事を考えてもどうしようもないし、今優先する事は他にあるでしょ」
 そう言ってキョウがはやてへと視線を向ける。
「ローグ、サイ。私達で八神はやてと闇の書とのリンクを断ちましょう」



第十九話 完

次『魔導書との繋がり』






あとがき

 今回でオリキャラ関連の説明はほぼ終わりになります。でもって、闇の書事件解決に向けて同時に軌道修正の回です。
 戦闘が珍しくあっさりと終わって大半が説明関連ですが、次回以降は戦闘になるとやっぱり長くなってくる予定です。そういったSSなので、その辺りはご勘弁をー。





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