とあるアパートの一室に二人の男女が住んでいた。 その片割れ、ユーノ・スクライアはなんて事無い質問をしてみた。別に特別な意味は無く、単に途切れた会話が新しい種を見つけるまでの場繋ぎ感覚。 「ねぇ、なのは。魔法ってあると思う?もしあったとしたらどんな事をしたい?」 片割れ、高町なのはは答えた。 「魔法か……私は無いと思うな。だから、もしあったとしたらなんて、考えた事も無いし分からない」 「なのはだって小さい頃にテレビでそういうものを見た事くらいあるでしょ?それなら魔法が使えたらやってみたい事の一つや二つありそうだけどな」 ユーノ・スクライア。現在私立大学にて考古学を勉強中。高町なのはの恋人。なのはと同棲中で主に炊事担当。 「確かに私だって小さい頃は魔法に憧れたよ。でも魔法は特別なものってイメージが私には無いんだ、憧れもね」 高町なのは。現在ユーノと同じ私立大学に在学。空を飛ぶ手段を模索中。ユーノ・スクライアの恋人。ユーノと同棲中で主に掃除洗濯担当。 「魔法で出来る事は、特別じゃない。空を飛びたければ飛行機に乗れば良いし、火が欲しければライターやコンロで良い。だから、魔法よりも別のものが欲しいな」 「別のものって何?」 ユーノの言葉に、なのはは僅かな微笑みで応える。 「ユーノ君と一緒に居られる時間。こういうものは、魔法でもどうにもならないしね」 1秒に満たない時間、間が空いて、けれどすぐに動き始める。 「そういう言葉を素で言うのは反則だよ、なのは」 ユーノがなのはの顔に両手をかけ、引き寄せる。なのはもユーノも眼を瞑り、ほどなく、二人の距離は無くなる。 トントン。軽く肩を叩く動作。首を回せばボキボキと骨の鳴る音がして、張り詰めた全身の雰囲気から。肩を叩かれた人物がとてもリラックスしていない状態が窺える。 「相変わらず大変そうだな」 その声にふと振り返ると、見慣れた男性が立っていた。ただ、普段顔を合わせる場所では無いので戸惑いを覚える。 「兄さん、どうしてここに?」 フェイト・T・ハラウオン。現在なのは、ユーノと同じ私立大学で弁護士を目指し勉強中。アパートを借りて一人暮らしをしている。 「母さんに頼まれてね、差し入れだ」 クロノ・ハラウオン。エイミィ・リミエッタと結婚し、現在は検事として活動中。 「そうなんだ、ありがとう」 クロノが手渡した包みの中身は、大きさからして弁当の様だ。大方一人暮らしの台所事情を心配してなのだろう。実際その心配は大当たりで、こうして弁当を届けられなければ昼食はコンビニ弁当かカップ麺、遅くまで勉強していた場合はこれまた夕食もコンビニ弁当かカップ麺になっていたところだろう。 とはいえ、この日ばかりはそうなる予定は無かったのだが。何にしても、家族の気遣いが嬉しい。 「しかし、何時来ても人が多いな、この大学の図書館は」 「うん。資料が豊富だし、整理も行き届いている。欲しい本があれば司書さんに頼めばすぐに出して貰えるしね」 「良い環境なのは分かっているが、だからといって余り無理をしない様にな。それじゃもう行くから」 早々に立ち去るクロノを見送ると、フェイトは手元にある法律関係の資料に目を落とす。 「さて、頑張らないとね」 時刻は午前11時。今日はお昼の時間を楽しみにしながら勉強出来る。そう思うと何故か難しい筈の文字の羅列が、幾分か簡単に見えるから不思議だ。 グツグツグツグツと煮立つ鍋に、女性が茶色い物体を投入する。 「うわ、シャマル!何いれとるん!塩か?コショウか?得体の知れない固形物か!」 「はやてちゃん、人をなんだと思ってるの?」 「いや、だってシャマルやし」 八神はやて。幼い頃の事故の後遺症で体力が低下。高校を卒業後は自宅療養という形で日々を過ごしている。 「今入れたのはカレーのルーです。そんなに心配しなくても大丈夫よ」 シャマル。本来は外国に住まうはやての親戚で、6年前に一人暮らしを心配したシャマルの両親から送り込まれて来た。 炊事は封印指定。 「それ、かぼちゃスープなんやけど」 「あれ?」 「…………作り直すわ」 「ごめんなさいね」 両手を顔の前で合わせて謝罪の意を示すシャマル。 「そうそう、それと炊き込みご飯も作るから材料洗っといて貰えるか?」 「はーい」 この日は、祝い事があった。だからはやては普段よりも早く、それでいて気合を入れて夕食の準備を進めるし、普段は台所に立ちいらせて貰えないシャマルも出来得る限り手伝っている。 シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、リインフォース。みんな早く帰って来ないかな?けどあんまり早く帰って来られると準備が間に合わないし。はやては、そんなとりとめもない事を考えていた。 「あれ、スバルもう帰るの?折角部活が休みなんだからさ、何処か遊びに行かない?」 「ごめん!今日はなのはさんに練習見て貰う日なんだ!また後で誘って!」 大声でそう言うなり鞄を引っ掴んでスカートを翻して走り出すスバル。 「また“なのはさん”か。好きね、あいつも」 スバル・ナカジマ。公立高校の一年生で陸上部。放課後に部活有りとの情報を捉えれば授業終了後マッハで教室を飛び出し、放課後に部活が無くなのはさんとの約束有りとなれば授業終了後マッハで教室を飛び出す。 「てゆーか、部活ある日は部活で遊べないし、部活無い日は“なのはさん”と約束あるって言うから、今まで遊べた試しが無いんだけど」 クラスメイトから見れば、そんな少女。 「ああ、暇だ」 ティアナ・ランスターは、本日最後の授業終了と共に机に突っ伏した。ぐてー、とか、だらー、といった表現がよく似合うぐてだらっぷりである・ 「楽しい放課後だってのに、そんな風になるなんてもったいない」 「うっさいわね、秋の味覚」 「誰が秋の味覚だ。“秋”の部分だけでいい」 「アキちゃーん」 「シュウ、だ」 ボケ倒すティアナの頭をぐりぐりと拳で押す男子生徒、赤坂秋。ティアナはそれを、うざいからやめろと言わんばかりに手で振り払う。 「でも珍しいな。お前がそこまでぐてーってなるなんて」 「私だってそういう時くらいたまにあるわよ」 ティアナ・ランスター。私立高校二年生で帰宅部。日々をなんとなくで過ごしたいと思っている。 「うん、じゃあさ、例のスバルって奴のところに行ったらどうだ?よく分からんが、スバルに会った翌日のお前が一番それらしい気がする。このクラスの住人の明日の為に元気を補充しておいてくれ」 妙案だと自信満々に告げる秋だが、ティアナはそうは思わない。そうは思わないが、そうしてもいいとは思った。 「行って来る」 ガタガタギギギギと豪快に椅子を引き摺って立ち上がり、鞄を無造作に掴んで教室の外へ出て行く。それを見送る秋の横合いから声が掛けられた。 「秋君、はいこれ」 箒を差し出された。 「何これ?」 「ティアナってば掃除当番だけど帰っちゃったし、仕向けた秋君が代わりにやってね」 泣いた。 あとがき 本作品は魔法が存在しないリリカルなのは、というものを書きたくなったので書いちゃいおうというものです。一応は長編という事で、どれくらいの長さになるかは未定ですが、出来るだけ短くまとめたいと思います。 魔法無いとか「魔法少女」って部分を完全スルーしちゃってますが、自分の中でやっちゃえって感じになってしまいました、やります。なのでシグナム達は普通の人間ですし、スバル達もただの人間として登場します。 無理矢理に魔法関係を取っ払って登場してるので多少設定におかしな所が出るかも知れませんけど、もし出たら無視して下さい。出ない様には頑張りますけど。 時間軸的にはなのはさん達19歳。スバル達出したかったんで。 オリキャラもちょっと出ますが、ギャグ要員とかに徹して貰って、シリアスな場面にはなるべく関わらせないつもりです。 この作品がどんな風に迷走するのか分かりませんが、まったりお付き合い下さい。 |