休日の翠屋は本来ならばお客で賑わう場所なのだが、この日ばかりは賑わいを見せるのはお客では無く友人一同だった。店先にはCLOSEDの看板が掛けられ、営業していない事を宣言している。

 なのはとユーノの絵本作成開始から数日、ついにやって来たヴィヴィオの誕生日、そしてエリオとキャロがハラオウン家の一員となった事を祝うパーティーの日。

「ごっはん、ごっはん、ケーキとご飯」

チンチンチン。ヴィヴィオが箸で茶碗を叩く音に合わせて歌を口にする。内容は凄く単純で、腹減った〜早くご飯、なんていう催促の歌。普段は行儀良く待つヴィヴィオだが、この日ばかりは気分が高揚しているんだろう、とても年相応の無邪気な様を見せている。

「ほ〜ら、お茶碗を箸で叩いちゃ駄目だよ」

ひょいっとヴィヴィオの箸を取り上げたフェイトが窘める。いくら無邪気で傍から見ていれば可愛い事も、母親としては見過ごせない。ヴィヴィオもそれをすぐに分かったんだろう、素直に“ごめんなさい”をして、“良い子だね”と頭を撫でて貰うと満面の笑みになる。

「はやて、こちらの飾り付けはこれでいいですか?」

「ええよ。あ、ザフィーラ、そっちのはもうちょい上で頼むな」

「ああ、分かった」

八神家の一同は翠屋の中を忙しく走り回り、飾り付けをしている。流石に大人数だけあってその戦力は頼もしく、飾り付けは加速度的にその体裁を整えつつあった。厨房で料理を準備している桃子や美由紀、材料を冷蔵庫から取り出したり野菜の皮を剥いたりの手伝いをしている士朗に恭也の高町家御一行はその様子を嬉しそうに見ている。

「フェイトさん、僕達も準備しなくていいんですか?」

「そうですね、やっぱり私達も……」

「いいんだよ。エリオもキャロも、今日は祝われる側、主賓なんだから」

忙しく動き回る周りの様子を見て、エリオとキャロが居心地悪そうにしている。出来る事があるのに何もしないというのも何だか心苦しいというのは分かるが、主賓に手伝われては祝う側の面目も立たないというものだ。

「二人ならそう言うと思って、ちゃんとやる事を準備して来たわよ」

「そうそう。良い子な二人はこっちを手伝ってね」

 見計らった様なタイミングで桃子達と一緒に料理を作っていたリンディがやって来た。その後ろにはエイミィもいて、こちらのハラオウン家御一行もこの日のお祝いに参加する為に駆け付けた。今はクロノが欠けているが、それは前日の仕事が朝方まで続いた為に極端な寝不足になっているからだ。こんな睡眠不足の酷い顔で祝われても困るだろう、とはクロノの弁で、ギリギリまで仮眠をとって顔も洗って髭も剃って、ちゃんと身なりを整えてからやって来るとの事だ。

 エリオとキャロがエイミィから手渡されたのはクラッカーだった。

「クラッカーですか?」

「これ、まだ使うには早いんじゃないですか?」

 クラッカーと言えば、パーティーの始まりや盛り上がる場面で鳴らすのが定番だろう。まだ準備中のこの状態、どう使えというのか。

「はーい、みなさんご静粛にぃ!ただいまから本日のヴィヴィオ誕生パーティー&エリキャロのハラオウン家加入おめでとうパーティーの第一イベントを開催しまーす!」

「加入では保険か何かみたいですね」

リインフォースの言葉も流してエイミィは突っ走る。エリオとキャロに持たせたクラッカーを翠屋の入口へと向けさせ、はやてやシグナム、ザフィーラの飾り付けメンバーに、シャマルや高町家一同厨房メンバーにも声を掛けて呼び寄せる。フェイトもクラッカーを手にして構えた。

「それでは!本日の主賓の一人、ヴィヴィオへの先行プレゼントタイム!」

「え、何?何かあるの?」

 突然自分の名前が呼ばれた事に驚くヴィヴィオ。祝い事だとは聞いていたが、まさか始まる前からすでにプレゼントがあるなんて予想して無かった。驚きと嬉しさで目を真ん丸にしながら、エイミィが手で示す翠屋の入口を見る。

「はーい!遥々はやてちゃんの家のお隣からやって来てくれた現役アルバイター高校生兄妹!秋君とアイちゃんだー!」

 パン!パン!パン!とクラッカーが鳴り響き、翠屋の扉が待機していたヴィータによって開かれる。エリオもキャロも一瞬唖然としてしまったが、周りを見てクラッカーを鳴らす。そして現われたのは、当然ながらエイミィの紹介通りの人物、秋と灯藍である。

「エイミィさん、やり辛いです」

「そんなぁ〜。私頑張って演出したのに」

「いや、過度な演出はハードルを上げるだけですから。ヴィヴィオって子とは初対面なんですから勘弁して下さい」

「そんな!ギャグ担当の秋君にまでそんな事言われたら私どうすればいいのさ!」

「誰がギャグ担当ですか誰が!圧倒的に競り負けてますから!」

「誰に?」

「え、いや…………それは」

エイミィの鋭い質問に黙り込む秋。言えない。秋は見えないプレッシャーを浴びせる関西弁の人の前で、“はやてさんです”なんて言えない。

「いろんなところでアルバイトしてる秋さんと、妹の灯藍さんですよね。初めまして!」

 ヴィヴィオは今初めて会った筈の人達に対して、まるで以前から知っている様な風に挨拶をする。いきなり現れたのに戸惑いも何も無く、当然の様に反応した。

「あれ、ヴィヴィオってもしかして二人の事知ってるんか?」

「ちょっと前にリインフォースさんから聞きました。少し変わった二人がお祝いに来てくれるって」

「あちゃー、そうやったんか」

 はやての残念そうな仕草に、リインフォースは不思議そうな顔をした。

「何かいけなかったですか?私は良かれと思って話したのですが」

「ああ、いや、何でも無い。私が説明しとらんかったのが悪かったんや」

 要領を得ないはやての言葉に首を傾げる一同。はやてが自分の考えていた事、ヴィヴィオが人見知りするかも知れないからそれを確かめて、出来るならこの場で直してしまおうと考えていた事を告げる。

「えー、私人見知りなんてしませんよー」

「私もそうやと思うんやけどな。ほら、なんかこう一度気になりだすと収まらなくなってしもて。学校通うようになってから分かっても困るし」

「全く、はやては心配性ですね。これだけ多くの人間に囲まれているのですから、大丈夫に決まっているじゃないですか。ここで直すべきなのは、はやての心配性の方かも知れませんよ」

 笑って誤魔化すはやてと、笑ってからかうリインフォース。ヴィヴィオは不満を口にするが、はやてが自分を心配しての事だと分かっているから、すぐに笑顔になった。

「ところでリインさん、変な二人ってどういう事ですか?」

 だが、変な人呼ばわりされた兄妹は割とご不満だった。

「はっはっは。愉快だと言いたかったのです」

 棒読みしつつリインフォースは逃げ出した。

「むー、リインさんてば」

 どう問い詰めたって軽く流されそうな予感しかしなかった灯藍はリインフォースの追撃を諦め、ヴィヴィオの方へと近付いて行く。

「初めまして、ヴィヴィオ。もう知ってるみたいだけど、私は灯藍っていうの。私もお祝いしていいかな?」

 灯藍の発言に応えるヴィヴィオは、勿論満面の笑みだ。

「うん。お祝いしてくれてありがと。えーと、アイちゃん!」

 ヴィヴィオは自分をお祝いしてくれる人が増えて、嬉しくなって、灯藍の手を握る。灯藍もそれに応えて、手を握り返す。

「はやてさん達に聞いてた通りの子だね、ヴィヴィオは」

「え、はやてさん達私の事何か言ってた?」

「うん。でも教えない」

 からかう様に灯藍は手を離し、ヴィヴィオから一歩距離を取る。「えー、いじわる」というセリフも聞こえない振りで、まだリインフォースの追撃を諦めていなかった秋を促す。

「ヴィヴィオ、初めまして。一応自己紹介をするなら、さっきの灯藍の兄だ。俺も祝っていいかな?」

 初対面の相手を祝う上手い言葉なんて持ち合わせていない秋は、特に面白みも無く、無難に言葉を選んだ。そのつもりだったんだが、ヴィヴィオは何故か迷った様な表情をした。

「んー…………」

 まさか不味ったか?そんな考えを秋の頭が過ぎり、やっちまったか?という空気が周囲に流れた。

「名前の漢字ってどうやって書くの?」

 突然の質問に少々面食らいながらも、ひとまず応える秋。

「春夏秋冬の秋って書くけど」

「なら、アキ兄!」

「お?」

「呼び方、アキ兄でいい?」

「お、おう。いいぞ」

 どうやらヴィヴィオは呼び方で悩んでいたらしい。灯藍の方はエイミィの呼び方をマネたみたいだが、秋の場合は迷ったみたいだ。名前の秋を季節の秋と同じ読み方にして“アキ”、灯藍の兄なのでそのまま“兄”と付けた。実に単純だが、それだけに分かりやすい。

「よろしくね」

「よろしく」

灯藍に続き、ヴィヴィオの握手に応える秋。嬉しいのか、手をぶんぶん振っている。

「けどさ、なんで俺だけそんな呼び方なんだ?他のみんなは名前で呼んでるだろ?」

「何かお兄さんみたいだから。駄目?それならやめるけど」

 ヴィヴィオの周りには、兄と呼べるくらいの年齢の人間が居ない。クロノや恭也では年齢が離れ過ぎているし、ユーノはなのはママの恋人なので兄とは呼べない。ザフィーラも、少なくともユーノより年下という事はないだろうから除外。エリオではなんだか年齢が近過ぎる気もするし、何よりも友達だというイメージが先にある。

 頼れる人達ではあるし、一緒に居て楽しい友達でもある。姉と呼べるくらいの年頃の人なら、スバルやティアナやギンガなど、より取り見取りなのだが、兄は居なかった。そこに狙ったかのようなタイミングで現われた秋。

「ま、作戦は失敗したけど、これはこれでありやな」

「そうだね。話を聞いていたとは言っても初対面には変わらないし、人見知りするなんてのは、やっぱりはやての考え過ぎだったんだね」

「そやな。でも」

ヴィヴィオが初対面の人と難なく友達となる光景を見て、安心するはやてとフェイト。だが、その左前方、嫉妬の炎を燃え滾らせる灯藍が居た。

「あれなんなん?」

「んー、自分以外に妹が出来たから悔しいんじゃない?」

「おお、普段からややブラコン気味やとは思っとったけど、そこまでとは。侮りがたしやな」







「みんな、遅くなってごめん」

パーティーの準備も大方終わろうという頃、ユーノが翠屋へとやって来た。何でも大学のスカリエッティ教授との打ち合わせがあるという理由で遅れていたらしいのだが、パーティー本番に間に合ったのなら幸いだ。

「遅いよ、ユーノパパ」

「ごめんごめん。でもパーティーにはちゃんと間にあったし、なのはママと一緒にプレゼントも用意したから、それで許してくれないかな?」

「許すも何も、パーティーには間に合ったんだから怒って無いよ。けど、次からはちゃんーんと早く来てね。一緒に準備とかしたいから」

「うん。そうするよ」

ユーノの登場でパーティーに参加する人間がほぼ揃った事になる。今現在パーティー会場に居ないのは、身なりを整えているだろうクロノと、急用が入ったので到着はギリギリになると言っていたティアナ。そして、普段は大学や稽古事の忙しさの所為で余り一緒に過ごす事の無くなったアリサとすずか。そしてなのはの五人だ。

カランカラン。

「ご、ごっめーん!遅くなったわ!」

「ごめんなさい。道が混んでて車がなかなか進まなくて。途中で降りて来ちゃいました」

 突然のドアを開く音と共に現われたのはアリサとすずか。二人共息を切らせている所を見ると、走って来たのだろう。ちなみに、アリサはかなり疲れた様子でぜーぜー言ってるのだが、すずかはとても余裕な様子だ。

「大丈夫よ、まだパーティーは始まって無いし。それに、二人より後に来る人もいるしね」

 辛そうなアリサに水を運んで来たシャマルがまだ余裕がある事を教える。アリサの次にすずかも水を受け取り、口にする。

「後に来るって、もうそろそろ時間ですよね?」

「兄さんはもう家を出たみたい。10分くらいで着くって」

携帯電話を片手にフェイトがクロノの事を伝える。どうやら寝坊する事無く仮眠から復帰したらしい。徹夜明けだというのに、大した体力だ。

「ティアってまだ来てないよね。どうしちゃったんだろ」

「ティアナなら、ウサギで発汗ダイエットして来ますって言ってたわよ」

「ウサギ?」

 スバルの疑問に答えるギンガだが、スバルはその意味を理解出来ない様だ。最も、ウサギで発汗ダイエットなんて言われて意味が通じるのは事前に理由を知っている人間くらいである。準備で混雑するパーティー会場の中、たまたまスバルの携帯電話の着信に気付いたギンガが忙しそうなスバルの代理で出たのだが、そこでティアナから聞かされたのはまさに先にギンガが発した言葉と、急用が入ったのでギリギリになるかも、という旨だけだった。

「ああ、ティアナなら多分ヴァイス店長のところだろう」

 と、ここで事情に心当たりのある人物が一人。

「シグナムさん、知ってるんですか?」

「ああ、ヴァイス店長とは偶々知り合ったんだが、おもちゃ屋の店長をしているんだ。それで、ティアナは良く手伝わされると嘆いていたよ」

 シグナムが不貞腐れた顔をしながらも結局は手伝いに行くティアナの姿を思い出し、喉の奥で笑う。

「でもおもちゃ屋の店長さんとシグナムさんって接点なさそうですけど、どうやって知り合ったんですか?」

「そ、それは……」

「それはやな」

 スバルの質問に戸惑うシグナムに代わり、はやてがお答え致します。

「実はシグナムはぬいぐるみとか可愛いものが大好きでな。実はシグナムの部屋には数十ものぬいぐるみが居るんや。で、そんな可愛いもの好きのシグナムが開店記念セールをやっていたその店にふらっと立ち寄ったみたいなんや」

 いきなりの内部事情暴露に興味を引かれる一同。黙って聞く態勢に入る。

「開店記念って事は出来たばかりの店、知り合いにはまず会わないと思ったんやろ。ただでさえ知り合いは女ばかりでおもちゃ屋とかは行きそうにない。そして、おもちゃ屋には少量ながらぬいぐるみの類も置いてある。シグナムは可愛いもの好きがばれるのが恥ずかしゅうてこっそりと買いに行ったんや」

 はやての、まるでシグナムの行動をストーキングしていたかの様な流暢な解説にシグナムが慌てて止めようとするが、音も無く忍び寄ったシャマルに羽交い絞めにされる。

「シグナム、はやてちゃんの話の邪魔はさせないわよ」

「な、何が目的だー!」

「目的というか、面白そうだからね」

「お前は最低だ」

 シャマルのナイスアシストに無言で親指を立て、称えるはやて。そして容赦無く続きを話し始める。

「で、開店記念セールをやっているおもちゃ屋、トイ・ヴァイスへと入ったシグナム。意気揚々とぬいぐるみ等を物色しようとしたものの、店で最初に出迎えたのはティアナやった。そしてティアナは言った。“シグナム…………さん?”」

 シグナムがはやての暴露話を止めようともがくが、シャマルだけで無くリインフォースまで加わって抑えにかかる。

「お前まで!」

「私も興味が湧いてきました」

 ふっふっふっふと不敵な笑みを浮かべてはやてが話を続ける。

「じゃあリインの期待に応えよか。ティアナのちょっと不思議そうな顔を見たシグナムは焦った。不味い、このままでは私のイメージが!逃げなければ、そう思い咄嗟に身を翻すシグナム。だがそこには、数少ない客を逃がすまいとサッカーのゴールキーパーの様に両手を広げて立ち塞がるヴァイス店長が!そしてシグナムは同様のあまり近くにあったモップで店長を!」

「は、はやて!何故そこまで詳細に知っているんだ!」

 シャマルとリインフォースの二人掛かりのロックからは逃げられないと悟ったのか、シグナムが抗議を始める。もう何を言っても止まらないはやてを制止する事は諦め、どうしてそんな事を知っているのかを聞き出そうとする。

「裏で荷物運びのバイトをしてた、S・A少年に聞いた」

「お前かぁー!」

 シグナムの叫び声と共にロックを解いたシャマルとリインフォース。自由になったシグナムは掃除用のモップを掴んで準備の締めに取り掛かっていたS・A少年に切り掛った。

「ぎゃー!何事ー!!」

 当然モップで切れたりはしないが、殴られれば痛い。まぁ、この場合は自業自得である。

 結局、ティアナはヴァイスに頼まれてウサギのきぐるみを着込み、風船配りのバイトをする羽目になったらしい。おもちゃ屋で風船配りってどうよとか思うかも知れないが、開店記念セールに人が来ないのでヴァイス店長も必死なのだ。トイ・ヴァイスは翠屋から割と近くにあるらしいので、ティアナは最悪の場合直接行って引っ張ってくればいいという少々乱暴な結論に達し、シグナムも一暴れしてすっきりしたのだろう、事態は収まった。

 余談だが、途中から完全に蚊帳の外になってしまったナカジマ姉妹はいじけてパーティーの料理をつまみ食いしに行き、桃子に成敗された。

「ああ、そういえば来る途中におもちゃ屋の前でウサギが風船配ってたけど、あれの中ってティアナだったんだ」

 思い出したようにアリサが言う。これはいいものを見た、後でネタにでもして空かってやろう、と瞳の奥が燃えている。

「それでユーノ、なのははどうしたの?」

「え、先に来てないの?」

はやて達の騒ぎなど露知らず、フェイトは未だ来ないなのはの居場所を知っていそうな人物に声を掛けた。ところが、なのはが何処に居るか一番知っていそうなユーノから帰ってきた返事は予想外のものだった。

「僕が家を出る時にはまだ寝てたけど、もしかしてまだ寝てるのかな?」

「まさか、それは無いよ」

 現在の時刻は午後6時。幾らなんでも寝てるという事は無いだろう。何にせよここであれこれ考えていてもしょうがない。ひとまずは電話でも掛けて、本人に直接聞くのが一番だろう。

 ピッピッピッ。電話のボタンをプッシュする音の次にコール音が鳴り響く。数回のコールの後、フェイトの握る電話の向こうからなのはの声が聞こえた。

「ごめん。13時間寝てた」

 第一声がそれだった。話を聞けば、ヴィヴィオにプレゼントする絵本が原因らしい。ユーノが書く物語の方は既に完成していたのだが、なのはの絵の方は前日でも予断を許さない状況だった様だ。なのはとユーノの二人で作業し、パーティー当日の深夜にようやく完成の目処が立ったので、約束のあるユーノには寝て貰い、最後の詰めをなのはがやった。絵本は午前5時には完成したのだそうだ。で、その後爆睡し、今に至るという訳である。

「しょうがない。僕が迎えに行くよ。なのはって寝起きだとふらふらして危なっかしいから」

「いや、あたしが行く」

「ヴィータ?」

ユーノの代わりになのはを迎えに行くと言い出したのはヴィータだった。翠屋からなのはの住むアパートまでは大した距離も無いし、まだ明るいし途中の道には顔見知りばかりなので、確かにヴィータ一人でも問題無いだろう。

「どうしたんだい、急に」

 けどわざわざ自分から言い出す理由が分からない。考えるまでも無く、ユーノはヴィータに聞いてみた。

「あたしだけパーティーの準備何も出来てないからな。それぐらいする」

 どうやらヴィータはパーティーの準備をほとんど手伝えなかった事が不満らしい。飾り付けは高い場所まで手が届くシグナムやザフィーラがしていたし、料理の方は専門の人間が居る。ヴィータの主な手伝いと言えば、皿を並べたり暇そうなヴィヴィオ達と話したりくらい。余り準備をしているという実感が沸かなかったんだろう。

「そっか、そういう事ならお願いしようかな」

「おう。頑張るぞ」

「道路の方はまだ車が多いかも知れないから、気を付けてね」

「大丈夫だって」

 無邪気にガッツポーズをするヴィータを微笑ましく見守るユーノとフェイト。こうしてヴィータは、ネボスケなのはのお迎えに出たのだった。





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