「ねえティアナ」 「なんですか、なのはさん?」 「やっぱりさ、文章の始まりにはインパクトが必要だと思うんだよね」 「はあ」 「だからさ、こんなのどうかな?」 このSSは、あぶり出しで書かれています。 「何を言ってんですかーー!」 ティアナ、渾身のツッコミ。 「いや、だからインパクトをだね」 なのは、澄ました顔で。 「インパクトも何をありませんから!明らかに嘘でしょ!」 「いやいや、100人に1人くらいは騙される人がいてもおかしくないんじゃないかなぁ?ほら、ライター近付けてる人とかいるかも」 「誰も騙されませんよ!」 「じゃあ」 このSSは、水に浸すと文字が浮き出て来ます。 「とかは? なのは、澄ました顔で。 「そんな訳がないでしょぉーー!」 ティアナ、全力で。 「連続ですか!連続なんですか!」 「けど、これって結構大変そうだよね」 「誰もやりませんって!」 「あ、みんな力持ち?」 「そういう問題じゃないですよ!」 「携帯電話なら簡単だね!」 「まず濡らさないで下さい!」 「あ、ホースっていう手があったか」 このSSは、機動六課の運動会!自由で愉快なやりたい放題!の完結編です。 「そんな訳が!」 「これは本当だよ」 「………………」 ティアナ、敗北。 「はい、では本当に始まりまーす」 「さて、運動会もいよいよ大詰め!最後の種目は一体何なんですか実況のユーノさん!」 「分かりません」 「それは大丈夫なのか?」 「心配無い。手は既に打ってあるよ」 ユーノの不敵な笑みに、不安を隠せないクロノ。 「まぁいい。それよりもいい加減に帰りたくなって来た」 「さり気無く本音言ってますね」 呑気な司会陣が会話を続けるその後ろで、ヴィヴィオがクレヨンでぐりぐりとスケッチブックに何かを書いている。 「で、何か嫌な予感がするんですけど、後ろのヴィヴィオは一体何を描いてるんでしょうかね?実況のユーノさん」 「あれはですね、次の競技種目を描いてるんですよ」 「だがあれは明らかに絵を描いているぞ。種目を決めるだけならわざわざ絵を描かせなくてもいいだろう」 「いいや、あれでいいんだ。運動会最後の種目は!」 ユーノが声と共にヴィヴィオを指差す。 「あれだー!」 ヴィヴィオはユーノの行動を合図にするかの様にスケッチブックを天高く掲げる。 「み、見えません!」 それを見て、スバルが声を挙げる。 ヴィヴィオはユーノ達の後ろでスケッチブックを掲げているので、そのままの位置ではユーノ達が壁になって見えないのだ。 「ユーノさん!肩車!」 「はーい、肩車ねー」 ヴィヴィオの提案によしよし、といった風にユーノが応える。ヒョイッとヴィヴィオがユーノの肩に乗り、再びスケッチブックを掲げる。 「…………それ、馬か?」 ヴィータのその一言で、最終競技の種目が決まった。 「今のヴィータの発言により!種目は騎馬戦に決定しましたー!」 ヴィヴィオが描いた絵は馬、らしい。 このまま競技はスムーズに決まるかに見えた。だが、この後の一言で問題が発生した。 「でも、今のままだと馬が上ですよね」 通常の騎馬戦は、馬役が土台となる部分を作り、その上に一人が乗り、互いに帽子などの目印になるものを身に着け、それを奪い合うものだ。 だが、今のヴィヴィオの絵、というよりはヴィヴィオと絵の位置を見るとそれはちょっと違った。 一番下にユーノが居て、その上にヴィヴィオが居て、その上に馬の絵がある。 「今回の騎馬戦は!馬!人!そしてまた馬!三段重ねの変則的態勢で行います!今決めました!」 誰かが、地雷を踏んだ様です。 「ちょっと待て!今言ったの誰だー!」 「スバルー!あんたでしょー!」 「ち、違うよ〜」 トンデモな競技内容に周囲が大混乱に陥る中、隅でそっとほくそ笑むギンガの姿があった。 しばらくして大混乱が落ち着きつつある。全員が諦めて変則的な騎馬戦をやっちまおうと考えた頃、その騒ぎに対して徹底的に無視を決め込んでいたクロノが呟いた。 「変だな」 彼はちょっとした違和感を感じていた。それは運動会が始まってからすぐにあったものだけど、今になってとても強く感じる様になったものだ。 「はっ!そうか、分かったぞ!この違和感の正体が!」 クロノがその答えに辿り着いた時、シャーリーが言った。 「解説のクロノさん、独り言が怖いですよ」 「誰も攻撃魔法を使っていないんだ!」 シャーリーの発言を無視してクロノが声を大にして叫んだ。辿り付いた答えは別に競技内容とは全く関係が無いことだったが。確かに違和感を覚えてもおかしくは無かった。この運動会は魔法の使用が全面的に認められている。だというのに、何故か最初の競技以外は誰も魔法を使っていない。その事に気付いたクロノの言葉が全員の耳に行き渡った時、やっちまったか、という空気が流れた。 「あかんてクロノ君!それ自爆スイッチ同然や!」 「え、何、いいの?みんな全然使わないから遠慮してたんだけど」 はやての制止も虚しく、なのはにスイッチが入りました。 「じゃあ、騎馬戦だけど砲撃とかでやっちゃっていいの?」 だがそのなのはを止めるべくユーノが立ち上がった。 「なのは、君は罰ゲームでデバイス使用禁止だよ」 ドスッ。 「ぐふっ」 ガクリ。 「何か言った、ユーノ君?」 「いえ……なんにも」 最早独壇場である。 かくして、運動会最後の種目。騎馬戦が始まった。 騎馬その一。 下から順にザフィーラ、シャマル、ヴィータ。 騎馬その二。 下から順にシグナム、はやて、リインフォースU。 騎馬その三。 下から順にフェイト、なのは。 騎馬その四。 下から順にスバル、ティアナ、ギンガ。 騎馬その五。 下から順にフリード、エリオ、キャロ。 各々が臨戦態勢を取る為に準備をする。人数の都合上、肩車に肩車を重ねた状態を騎馬という事にした。一番下の人にだけやたらと負荷が掛る状態だ。というかもうそれは可能なのかと問いたくなる態勢だが、人数の都合上の問題なので仕方が無い。 騎馬で一番上になっている者がハチマキをして、それを奪われたら負けとなる。 「って、これ私達が圧倒的に不利なんですけど!」 「いや、そもそもなのはさんとフェイトさんのコンビだけずるくないですか!」 圧倒的に不利な状況に抗議するティアナとエリオ。 だが。 「人数の都合上仕方が無いんです。抗議は受け付けません」 司会のシャーリー、冷静に却下。 よくよく考えれば一番上にリインがいようとも重量的にもバランスを取る分にも全く問題が無く、実質二人でやっている場合と同じである。だがもうそれはともかく無視してしまい、フェイトが真・ソニックで移動してなのはが砲撃を撃って来るという一種の拷問じみた地獄状態だけはどうにかしようと必死だった。 だが、主張は通らない。 誰もが諦めかけ、もうこのまま地獄状態突入かと思われたその時、その場に居ない筈の人物の声が聞こえた。 「待って!」 声は機動六課の宿舎の屋根から聞こえ、そちらを見れば紫の髪色をした少女が立っていた。 「その運動会、私も参加さ……」 ズルッ。 ヒュー……ゴンッ。 グキッ。 「っ〜〜〜!」 ジタバタジタバタ。 格好良く登場しようとしたルーテシアは誤って屋根から転落。その際に足首を捻り、速攻で病院送りになった。 後にルーテシアは語る。「普通に歩いて出て行けば良かった」と。 ティアナ達の味方となる筈だったルーテシアが退場し、彼女達は再びピンチに陥った。 だがその時、またもや居る筈の無い人物の声が響いた。 「待て!その運動会!」 その声に振り替えれば、丁度はやての目線の高さ辺りに赤い色の髪をした小さな少女が浮かんでいた。 「私も参加……」 「わん!」 パクッ。 モグモグ。 「出せー!」 ペッ。 ベチャ。 勢い込んで登場しようとしたアギトは、わんこ蕎麦対決で登場した子犬のソバ(まだ居た)に食べられかけたがなんとか脱出。だが、唾でべとべとになったアギトはやる気を失い帰っていった。 後にアギトは語る。「犬なんて嫌いだ」と。 「待った!」 もうそろそろ説明不要。とにかく声がしたのでそちらを向けば、この場に居る筈の無い人達。なのは、フェイト、はやてにとっての昔からの友人の姿があった。 「私達も!」 「その運動会に!」 だが、二人の声は各々が手に持つデバイスを見た途端に小さくなった。 「「やっぱ怖いんで帰ります」」 アリサとすずかは後に語る。「もっと普通の運動会だと思っていた」「運動能力より生存能力が大事」と。 「待ちなさい!」 やれるだけやってみる。 大人数の騒ぐ声が聞こえたその方向を見れば、もうこれでもかってくらいやる気なナンバーズが居た。 タッタッタッ。 「待てぇー!」 「うわ!何か来た!」 ナンバーズはクロノに追い掛けられて逃げ出した。 後にディエチは語る。「なんだか楽しそうだったから、つい」と。 「なのはー!頑張れー!」 聞き慣れた声になのはが振り返れば、何時の間にか観客席に高町家一同の姿があった。どうやら運動会と聞いて応援に駆け付けた様だ。 「いやー、ここ広くて迷っちゃって。もう終わり際みたいだけどその分頑張って応援するから許してね」 なんとも呑気な母桃子は、ビデオ片手ににっこりと微笑んでいる。 と、それとは全く関係無く、なんとなく気になった方向を見ると。 「ティアナ!俺に任せな!」 ヴァイスが居た。 「お帰りはあちらです」 「酷っ!」 ヴァイス、強制退去。 「で、いい加減に始めへん?」 はやてのこの言葉で、騎馬戦が始まった。 「さて、解説のクロノさんがナンバーズを追い掛けて何処かへ行ってしまったのでここからは二人で進めて行きます」 「ところで、機動六課の人達は追い掛け無くて良かったんですか?」 「実況のユーノさん、いきなり冷静になるなんて卑怯ですよ」 司会進行と実況を無視してヴィヴィオが騎馬戦開始の合図をする。 「始め!」 もう凝った演出も派手な開戦の合図もいらない。騎馬戦に参加する人間は三種類に分かれていて、誰もその目的以外に興味が無かったからだ。 分けられる三種類の人間、それは。 「ディバインバスター撃つよ!」 狩る者と。 「スバル!ウイングロードで逃げて!」 「分かった!」 狩られる者。 そして。 「隙ありや!なのはちゃん!」 裏切る者。 「はやて!」 フェイトなのは組を背後から攻撃しようとしたはやてにフェイトがいち早く気付き、回避の態勢を取る。なのはが狙いを定めているディバインバスターの照準が外れる事も厭わずに全力でダッシュし、はやての放つ魔力の塊を避けて行く。 「流石やな、フェイトちゃん」 「はやて、何を……」 攻撃を中断し、不敵な笑みを浮かべるはやて。それを、周囲の誰もが緊張した面持ちで見つめていた。 「おぉーーっと!はやて選手がご乱心だー!一体何がもう、ご乱心だー!とにかくこれは、ご乱心だー!」 「落ち付いて下さい!ユーノさんの言葉がご乱心ですよ!」 盛り上がる司会席を毎回無視して、なのははじっとはやてを睨み付ける。 「はやてちゃん、何が目的なの?」 「そんなもの、私の出番が極端に少ないから出番増やしたい目的に決まってるやろー!こうでもしないと目立たないやん、この人数!」 「…………」 開いた口が塞がらない一同。 「そうなの」 そんな中で、なのはだけが口を開いた。 「確かにそうなの!私もご乱心する!」 なのは、はやてに共感。 「フェイトちゃん!いいよね!」 「え……うん。別にいいんじゃないかな」フェイト、投げやり。 「いやいやいやいや!そこでなのはちゃんまでやったら被るやろ!ご乱心は私だけや」 「駄目なの!私もご乱心する!もうした!」 「ず、ずるっ!言ったもん勝ちか!じゃあどっちがよりご乱心か勝負や!」 「いいよ。何で勝負する?」 「ここで暴れて体力使うんは良くない。ジャンケンで勝負や!」 「よし!いくよ!」 なのはの了承を得たはやてが音頭を取る。 「最初はグー!」 「ジャンケン!」 「「ポン!」」 ガキィン。 ジャンケンをしている時にはする筈の無い音がしたと思えば、なのははレイジングハートを、はやてはシュベルトクロイツを相手に向かって振り抜いていた。金属質な音は二つのデバイスがぶつかり合った音だ。 「流石はご乱心中の二人!ジャンケンと言いつつも相手を直接攻撃するその乱心振りは半端じゃない!」 「単に卑怯なだけですよね」 「なのはちゃん!卑怯やで!」 「はやてちゃんこそ!」 なのはとはやてが睨み合い、両手に力を込める。そうすると鍔迫り合いの様な状態になっているデバイスがギリギリと音をたてて、それが周囲の者に恐怖を与える。とても異様な迫力が、今の二人にはあった。 このまま勝負は長引くかと思われたが、ある人の行動がこの勝負に終止符を打った。 「ハチマキ取ーった」 ギンガが、リイン、なのは、ヴィータといった赤組みの騎馬が身に付けているハチマキ全てを手にして宣言した。 「皆さん、油断し過ぎですよ」 こうして運動会はギンガの唯一で、唯一な、唯一の活躍で白組の勝利で終わるかに見えた。 だが。 「ちょっと待って」 そこに怪我をして退場した筈のルーテシアの声がした。全員がその声の方を向くと、ルーテシアの後ろにはアギト、アリサ、すずか、ナンバーズ、ヴァイスの姿がある。何故か、クロノまで仲間に加わっていた。そしてその全員が頭にハチマキを巻いている。 「あたし達も混ぜろーーー!」 運動会はあれよあれよという間に大混乱。最早騎馬戦のルールなど関係無く、互いの頭に巻かれたハチマキを奪い合うだけの乱戦状態。砲撃魔法が飛び交い悲鳴が木霊して敵も味方も無くただ暴れ回るだけ。熱かったり痺れたり寒かったり、多種多様な魔法が乱舞する阿鼻叫喚の地獄状態。 「実況のユーノさん。これは、もう何なんでしょうね?」 「良く分かりませんけど、ストレス発散と考えれば思い切り暴れるものありなんじゃないですか?」 観客席の方を見れば、誰が持って来たのか大量の酒瓶まで転がっている。あちらも、大層楽しそうだ。 「ま、一つだけ言える事は」 「言える事は?」 「後始末が怖いんで逃げましょう」 「…………ソウデスネ」 こうして、機動六課の運動会は訳の分からないまま幕を閉じた。 |