俺の名は……。職業は今日はカメラマンだ。

時空管理局イベントの取材にやってきた俺はファインダー越しに会場を観察する。
会場は地上本部の大ホールをはじめ、いくつかの施設に分散して開催されている。
管理局の各部隊ごとの模擬店や出し物があり、さしずめ学園祭の趣。
また舞台のある施設では有名タレントを使ったショウの様な催しもやっている様だ。
ロビーの壁にかけてある管理局の歴史や実績を宣伝するパネルを見ていると
あまりの宣伝臭に辟易する俺。しばらく歩くと大ホールの喧騒が耳に入ってきた。
大ホールでは魔法兵器の展示や模擬戦の実演をやっていたり、ひときわ目立つ場所に
アインヘリアルとかいう新装備の開発計画の説明映像を流すブースがあった。

「しかし何だな」とため息の様に漏らした俺はファインダーから眼を離す。
来場者の応対に当たっている女性局員は、ほとんどプロのコンパニオンらしい娘が多く
その方面にもコネのある俺には興ざめな事に顔見知りすらチラホラ見かけている始末である。

「もっと言葉遣いとか身のこなしとか事前に仕込んでおけよ。管理局員に見えないぜ」
と吐き捨てた俺はイマイチ撮影意欲の湧く対象に出会えないでいた。
「いちおう仕事したフリはしておかないとな。ベントレーに合わす顔がないな」
と思い直した俺はコンパニオン丸出しの娘の写真を撮る事にした。

いまいちモチベーションが上がらない上、具合の悪い事に今日同伴するはずだったライターも急病で休んでやがる。

「記事も頼むよ」
今朝ベントレーに告げられた俺はしっかり二人分のギャラを要求したがな。
レンズを向けられたその(偽)局員はしっかりカメラ目線をくれた。
「これが水着撮影だったらなぁ」と思いつつシャッターを切る俺。
改めて周りを見渡してみるとそこそこ客は入っている。子供づれが多いかな?
カップルも結構いる様だ。俺は大ホールを一回りして取材内容を頭の中で
組み立てていたが気まぐれに腹ごしらえをする事にした。

「ミッドチルダは今日も平和って事で飯でも食うか」
何件かある模擬店を適当に選び空きテーブルに座った俺はメニューを探すが
見当たらないので、ちょうど俺のテーブルの横を通り過ぎようとしていたウェイトレスを
呼び止めようした時小さいな男の子が店に走りこんでウェイトレスに衝突した。

「きゃああああっ!」という悲鳴をあげてウェイトレスが俺の方に倒れこんで来た。
「やべっ」と心の中で叫んだ俺。
しかし時既に遅くウェイトレスがもっているトレイが俺めがけて吹っ飛んで来た。

ガシッ

トレイが俺の眉間をクリーンヒット。
「痛てっっっ」と声にならない悲鳴をあげる俺。
「あっっっすみません。すみません」と男の子の母親らしい女性が駆け寄ってくる。
「すみません。大丈夫ですか?」とウェイトレスの娘が俺に声をかける。
「お姉さんとおじさんにごめんなさいしなさい」と母親の声
「ごめんなさぁ〜い」と謝る男の子
「私は大丈夫ですから」とウェイトレス「お客様は大丈夫ですか?」
なんとか顔を上げた俺は「いや大丈夫ですよ」と何とか返答する。
「私が治療しましょう」とウェイトレスの娘が右手を俺の眉間に当てる。
桜色のオーラがその娘の手から溢れ出しみるみる痛みが引いていくのが分かる。

「いや、ありがとう。もう大丈夫だよ」というと。
「本当に申し訳ありませんでした」と母親と男の子は去っていった。
「私も申し訳ありませんでした」とその娘。
「まあトレイだけで運が良かった事にしておくさ」と俺は答え、その娘を見やった。
その娘は制服の上にエプロンをしていたが時空管理局の予備知識が無い俺には見たことの無い制服を着ていた。

「私はそろそろ任務に戻らないとならないので、よろしければ失礼します」
「ああ、どうもありがとう」
「いえ、こちらこそ申し訳ありませんでした」と敬礼するとエプロンを外し店の外に出て行った。
その娘を見送った後改めて食事を頼んだ俺はしばらく放心状態に。
「なんか、ついてねぇな今日は....」
「そういえば、さっきの娘ヒーリングを使ったな。局の魔導士って事か?」
食事を終えた俺はプレス向けに発行された食事パスを店の係員に見せつつ何の気もなくその係員に聞いてみた。
「この店をやっているのは、どの部署なんだい?」
「はい本局武装隊です」
「そうなのか」
「ええ模擬店と会場警備を交代でしているんですよ」
「そうか、ありがとう」

店を出た俺は取材を続けるため歩きだした。取材内容を考えつつ写真を撮っていたが
元々納得のいくネタに出会えていないので、もっと何かないかと各所を物色していたが
残り時間が二時間を切った頃、一人の女性局員が眼に入って来た。俺は彼女に歩み寄り
声をかけた。

「先ほどはありがとう」
「はぁ?」
と振り向いた彼女はサイトテールに長めの茶色の髪をまとめた珍しい髪型だ。
素面な上、地味な姿をしているせいで気がつかなかったがモデルを見慣れた俺も
ちょっと見たことない位可愛い娘だ。一瞬その娘の周りに桜色のオーラを見た様な錯覚に襲われる俺。

「ああ、お店で...こちらこそ失礼しました」
「ちょっとお話良いですか?」 「ええ良いですよ」
その娘の名札には〔TAKAMACHI.NANOHA〕と書いてあった。階級章を見ると結構階級が高そうだ。

「た・か・ま・ちぃ.... 」
「高町三等空尉であります」
「はじめまして珍しいお名前ですね。高町三等空尉。私は……と申します。週間星光の記者です」
週間星光と聞いて少し顔をしかめたその娘は直ぐに笑顔を取り戻した。
「不躾な質問ですが高町さんは本物の管理局員なんですか?」
「はぁ?」と眼を点にしたその娘はIDカード見せてくれた。
「本物です」
「大変失礼しました。あなたの様な方が局員とは思えませんでしたので、でもさっきヒーリングを使われましたね」
「どういう意味でしょうか?」
「すごく可愛くて綺麗な魔導士さんと思いまして...」
「それはありがとうございます。でも私なんかより他にも綺麗な方いっぱいいますよ」
「それが本当なら時空管理局はこの世の天国ですね」
「はあ...それでご用件はなんでしょうか?」
「いやあ高町さんの様な方を週間星光で紹介したら管理局のイメージもアップするだろうと思いまして」
「それは困ります。私は会場警備担当なので、そういうお話は広報担当にお願いします」
「まあ、そうおっしゃらずに」と俺が写真を撮ろうとすると、その娘は「困ります」と顔を背ける。
「ご用件がそれだけでしたら失礼させていただきます」とその娘は俺に告げ去っていった。
「あっ、ちょっと」と引き止める間もなくその娘の後姿を見送る俺。
「せっかくの上ネタ逃がす手はないな」

俺はその娘を尾行する事にした。
たしかに、その娘は警備担当の様で用心深い様で会場を巡り歩いていた。
その娘を見失わないように気をつけながらカメラを飛ばした俺は色々なアングルから写真を撮りまくった。

「商売柄とはいえストーカーだな。こりや」とモニターを見ながら自嘲気味に呟く俺。

それが俺と高町なのはの出会いだった。





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