俺の名は……、職業は雑誌編集者かな。今日は

時空管理局のイベント会場から去った俺は週間星光オフィスに向かった。
帰ってみるとベントレーが苦虫をつぶした様な顔をしてデスクに座っていた。
「どうしたベントレー」
「……か、取材の首尾はどうだ」
「上々だ」
「本当か管理局のイベントなんぞで」
「おいおい、そのイベントなんぞに行かせたのはお前だぞ。それよりどうした機嫌ななめだな」
「次号で予定したネタがボツになってな。埋め草を思案していた所だ」
「なるほどね」
「良い絵は撮れたのか?」
「まあな。ちょっと見てくれ」俺はカメラに手をやりモニターを投影した。
「こりゃ良いじゃねえか。どこの事務所の娘だ」と眼を見張るベントレー
「本物だよ。IDカードも見せてもらった」
「本当か?どこかのサクラじゃないのか?」
「警備担当だと言ってロクに話もさせてくれなかったぜ」
「ん...確かにこの娘はサクラじゃないな。階級が高すぎる」
「良く知らんのだが何なんだ」
「三等空尉だ。こりゃ下っ端じゃないぞ。れっきとした士官だ。しかも陸士でも海士でもない。珍しいな」
「そうなのか?」
「よし決めた。これを次号に使うそ」
「そういうと思った。売れたらボーナスはずんでくれよ」
「おう任せておけ。一週間晩飯奢ってやる」
「飯だけかよ」
「見出しを考えないとな」
「おいボーナスはどうなった。俺はこのネタには自信があるんだ」
「うるさい!そうだ『時空管理局の花!』にしよう」
「月並みだな」
「うちの読者にはちょうど良いのさ」
「そんなもんかね」

データーをベントレーに渡し、ギャラを受け取った俺はオフィスをはなれた。
自宅に帰るとシャワーを浴び一杯やったあとベッドに入った俺は眉間を押さえながら今日出合った彼女の事を思い出した。
「まっ、もう逢うこともないだろうな」と思いつつ眠りについた。





翌日モーニングコーヒーを自宅近所のカフェで飲みながら新聞を読んでいると
昨日の管理局イベントの記事が意外と出ていた。どちらかというと不評な記事が多いようだ。

「そりゃそうだろうな」とつぷやく俺。

仕事柄数種類の新聞に眼を通しているが経費の無駄遣いだと管理局を叩く記事もあったり
中にはモデル事務所を使った偽局員コンパニオンが多くいた事をすっぱ抜いた記事もあった。

「まあ悪い評判でも雑誌が売れりゃボーナス出るかもな」





一週間後、俺が週間星光オフィスに顔を出すと
「おお……か良く来たな」
「ずいぶん上機嫌じゃないか」
「お前の写真が好評で売れ行き上々でな。増刷もあるかもしれん」
「そうか、じゃボーナスたのむぜ」
「また今度な」
「ケチな事言うんじゃないよ。ツキが逃げるぜ」
とその時オフィスの電話がなり受話器をとるベントレー。みるみる激しいやり取りをし始めて数分後たたきつける様に受話器を置く。
「時空管理局の広報からだ。高町なのはの写真掲載の抗議だ」
「何か問題があるのか?」
「事前にお伺いをたてなかったからな。しかし奴らに検閲する権限はない」
「何がそんなに不都合なんだろうな」
「さあ分からん」
「女の子の写真だけで...クラナガンは平和そのものだな」
「それより次のネタを仕込まないとならん」
「どうするんだ」
「インタビューだよ。高町なのはに」
「管理局が許可するか?」
「まあ見てろ」





俺が自宅で過ごしていると突然電話が鳴り出した。受話器をとるとベントレーからだった。
『なんだベントレー』
『仕事だ。……』
『今度は何をするんだ』
『高町なのはのインタビューだ』
『良くアポが取れたな。それにしても俺がやるのか?』
『こういう物は縁の物だからな。お前さんに頼みたいのさ』
『OK俺も彼女には興味がある。ちょっと臭うしな』
『何が?』
『ただ可愛いだけのお姉ちゃんじゃないような気がする』
『そりゃ時空管理局の士官だからな。それにいろいろ秘密が有った方がネタとしても面白いぜ』
『それにしても良く管理局がOK出したものだな』
『この間のイベントの件で奴らも少し焦っているのさ。高町なのはを使ってイメージを回復させたいのだろう』





時空管理局広報部の責任者ロイス一佐は自分のオフィスで来訪者を待っていた。
インターフォンから秘書の声が来訪者が来た事を告げた。

「通したまえ」

しばらくするとドアをノックする音が聞こえ、一人の少女が入ってきた。
少女はロイス一佐の前に立つと「高町三等空尉参りました」と敬礼する。

「良く来た高町三等空尉。本日呼び出したのは他でもない。例の雑誌の件だ」
なのはは、その言葉を聞くと体を強張らせ
「はい申し訳ありません。ロイス一佐自分の不注意であります」

深い溜息をつくとロイス一佐は「確かに君なら撮影自体に気づいていただろうし君の能力を持ってすればカメラの破壊やデーターの消去は可能だったであろうな」

「恐縮です」

「しかし監視カメラは元より一般客のカメラもある様な状況で件の記者のカメラだけ問題視するわけには行かない」
「はい.....」と消え入るような返事をするなのは
「今日は君を責めるために呼んだのではない。新たな任務を命ずるためだ」
「はっ!」
「高町なのは三等空尉○月○日1030時に『週間星光』のインタビューに赴く事を命ずる」
「はぁぁぁぁぁ?」
「この事は既に君の直属の上官であるモーガン二佐も了承ずみである。また時空管理局の最優先命令でもある」
「はいぃぃぃ!?」
「この任務は時空管理局の運命を左右する。心して当たるように」
「はっ!」
「当然君の詳しい出自や能力などは特秘事項である。決して漏らさぬよう細心の注意を払う様に」
「はっ!」
「後ほど命令書と想定問答集を送付するので熟読しておくように、では帰ってよろしい」
「はっ!失礼します」

ロイス一佐のオフィスを出たなのはは深い溜息をついた。
「はぁぁぁぁ〜何でこんな事になっちゃたんだろう?」
元々なのは局内では知られた人間であるが、あの雑誌が出たあとは局内はもとより休日に街を歩いていても奇異の眼に晒されている様な気がする。
たまに若い男の子からサインの要求を受ける事すらあるのだ。
また掲載された雑誌のイメージがあまり良くないせいもあって特に女性の眼が厳しかった。
管理局の広報部にはクレームの電話が結構あったらしい。

「こんな事するために管理局に入った訳じゃないのにぃぃぃ...」





その夜なのはは寮に自室でくつろいでいると、電話がかかってきた。

『こんばんわ、なのはちゃん?うちや』
『はやてちゃん...こんばんわ』
『見たで雑誌』
『うん』
『なかなか可愛く写ってるで。もちろん実物にはかなわんけどな』
『ありがとう。でも恥ずかしいよ』
『眼の付け所がエエわ。なかなか良いセンスのカメラマンさんやったんやなぁ』
『うう、外出すると人目が気になって...』
『そんなん気にせんでエエやん』
『でも時々男の子に突然サイン求められたりするんだよ』
『ちょっとしたタレントさんやな。これで管理局のイメージもウナギの滝のぼりや』
『本当にそうだったら良いのだけど...』
『心配いらんよ』
『年配のおばさんから変な目で見られる事もあるんだよ』
『うん、載ってた雑誌がアレやったからな』
『今度、週間星光のインタビューがあってね』
『そんなんよう引き受けたね』
『上からの命令...』
『そうかー、上もなのはちゃんの事本気で利用する気やな』
『ええっー勘弁してほしいな』
『高町三等空尉、時空管理局の未来は君の双肩にかかっている。奮励努力せよ』
『人の事だと思って...』
『あははは、そんな気にせんでエエよ。まあ芸能人になったつもりで楽しまんとアカンで』
『うん...』
電話を切るとなのはは深いため息をつくのだった。





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